戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~ 作:兵頭アキラ
三つの戦いのうち、一つに決着がつこうとしていた。クリスの『MEGA DETH PARTY』と、翼の『千ノ落涙』が空中でぶつかり合い、大爆発を引き起こす。その爆炎の中に、二人は飲まれていった。
高みの見物を決め込んでいたウェルは杖を片手に咆哮し、
「願ったり叶ったりぃ~。してやったりぃ~!」
遂には飛び跳ねてどす黒い自分の内面を吐露する。
ジープに乗っていた弦十郎と緒川の二人は友里から報告を聞いた。
『天羽々斬とイチイバルの反応……。見失いました……』
「翼……。クリス君……」
二人の名を口にし、静かに目を閉じた。
○○○
調が空中からアームに繋がれた巨大な鋸を切歌に差し向けるが、彼女は鎌の外側を使ってそれを受け止める。自分の間合いを維持するため調は下がるが、そうはさせじと肩のネイルを自由自在に動かして間合いを詰めていく。距離を詰めたいならこっちからと言うように二本のアームに繋がった鋸を組み合わせ、タイヤの内側に調の体が入ったようになって逆に突撃を駆ける。
『非常Σ式・禁月輪』
調の突撃に対して切歌は一対の鎌を組み合わせ、高枝切りばさみのように形作った。
『双斬・死nデRぇラ』
それと同時に肩のアーマーをアンカーのように射出して調のコースを限定、彼女の突撃をまさしく真っ向から受け止める。高速回転する鋸の刃と、はさみのようにした鎌の刃が火花を散らす。決め手にならないと判断した調は禁月輪を解除し、バインダーから無数の小型鋸を発射する。同じく切歌も死nデRぇラを元の一対の鎌に分解し、面で放たれる鋸のうち、自分に当たりそうなものだけを破壊する。
彼女たちの実力、歌、全てが重なり合う。故に、全てにおいて決め手に欠いていた。二人は向かい合い、
「切ちゃん……。どうしても引けないの……?」
「引かせたいのなら、力ずくでやってみせると言いデスよ……!」
「……ッ。リンカー……」
どこからともなくリンカーを取り出し、調の足元に投げやる。勝負の決め手は、もはやこれしか残っていない……。
切歌は自分の頸に押し当て、
「ままならない思いは、力づくで押し通すしかないじゃないデスか……」
一思いにトリガーを引き、中の薬液を一気に注入する。そして……。
「「Gatrandis Babel Ziggurat Edenal」」
調も同じくリンカーを打ち込み、二人の絶唱が一つとなる。
「「Emustolronzen Fine El Baral Zizzl……」」
フォニックゲインが高まり、切歌が告げる。
「絶唱にて繰り出されるイガリマは、相手の魂を刈り取る刃ッ!」
鎌の先端を地面に突き刺し、柄の部分が長く伸長していく。それと同時に刃も巨大化し、ブースターの推力をもって上昇する。
「分からず屋の調から、ほんの少し負けん気を削ればッ!」
調のギアの装甲が延長、巨大化し、鋸を四肢とした巨人のようになる。
「分からず屋はどっちッ……!私の望む世界は、切ちゃんもいなくちゃダメッ……!寂しさを押し付ける世界なんて、欲しくないよッ……!」
切歌が突撃し、その攻撃を調が右腕のアーマーで払う。
「あたしが、調を守るんデス……!たとえフィーネの魂に、あたしが塗りつぶされることになってもッ!」
切歌の思いに呼応するようにイガリマのジェネレーターが高速回転し、緑色の炎を纏いながら円盤のように再び突撃する。
「ドクターのやり方で助かる人たちも……私と同じように、大切な人を失ってしまうんだよッ?!」
切歌の思いを受け止めようとするが、あまりの威力にアーマーが砕け散る。調は目じりに涙を貯めながら、
「そんな世界に残ったって、私は二度と歌えないッ……!」
「でも、それしかないデス!そうするしか無いですッ!……例え、私が調に……嫌われてもぉぉッ!」
叫びと共に振り下ろされる刃が調のギアの腕部装甲を破壊する。
「切ちゃん、もう戦わないでッ……!私から大好きな切ちゃんを奪わないでッ……!」
その声は届くことなく、切歌の一刀が調に振り下ろされる。その瞬間、調が両手をかざした場所に、フィーネのバリアが張られた。それはイガリマを容易く弾き飛ばし、切歌に驚愕を突きつけた。
「え……?」
「何……これ……」
自分でもどうやったのか、何なのかが理解できていないのか、調は両手を見て困惑の色を浮かべる。切歌は肩を落とし、
「まさか……、調、デスか……?フィーネの器になったのは調なのに……、私は、調を……」
「切ちゃん……?」
「調に悲しい思いをしてほしくなかったのに、出来たのは調を泣かすことだけデス……」
切歌が涙ながらに手を横に差し向けると、彼女の思いをくみ取るようにイガリマが発光し、上空へと回転しながら飛翔した。
調は思わずそれを見上げてしまう。
「あたし、ホントにヤな子だね……。消えてなくなりたいデス……」
切歌の言葉、空高く飛翔した絶唱状態のイガリマ……。調はその意味をすぐに察した。
脚部のローラーを全力で回し、
「駄目!切ちゃんッ!」
切歌の真正面から突飛ばそうとするが、間に合わなかった。調の背中に鎌の先端が突き刺さる。
「調……?調ぇぇぇぇッ!」
切歌の叫びが虚空に響いた。
○○○
マリアの歌によってフロンティアが輝き始めるが、月を何とかするにはまだ足りない。そんな輝きを放つ遺跡に、息を切らせながら走ってきた響が、ついに到着した。
ブリッジでマリアの歌うが、歌い終えた瞬間にその光が消滅した。
制御室ではナスターシャが、
「月の遺跡は依然沈黙……」
無情にも結果を呟いた。
この結果にマリアは膝をつき手をつき項垂れる。情けなさから涙がこぼれた。
「私の歌は、誰の命も救えないの……?セレナッ……。雷ッ……」
日本でマリアの事を見ていた創世たちは、
「この人、ビッキーたちと同じだね……」
「うん、誰かを助けるために……」
「歌を歌うなんて……」
○○○
翼とクリスの戦闘で発生した爆発によって穿たれた穴にウェルがやって来ていた。彼女たちを確実に始末するためだ。
「シンフォギア装者は僕の統治する未来には不要……!」
ゆっくりと慎重に下りてきた彼だが、足を滑らせ、情けない悲鳴を上げながら滑っていく。
「その手始め目にぶつけ合わせたのですがぁ……!こうも、そうこうするとは……。チョロすぎるぅ~……はぁ?!」
クリスが傷だらけのイチイバルを纏ったまま、ウェルの目の前に現れた。彼女の足元にはギアが解除された翼が横たわっている。
クリスは振り返り、
「約束通り、二課所属の装者は片づけた……。だから、ソロモンの杖をアタシに……」
ウェルに向けて右手を突き出す。だが、彼は約束を反故にする。その姿には英雄らしさのかけらもない。
「こんな飯事みたいな取引に、どこまで応じる必要があるんですかねぇ?」
ポケットから『ギアス』の爆破スイッチを取り出し、それを押すがうんともすんとも言わない。何度も何度も押すが結果は同じだ。
「何で爆発しないッ?!」
クリスが首に巻かれた小型爆弾『ギアス』を破壊し、
「壊れてんだよ。約束の反故とは悪党のやりそうなことだ……」
クリスがウェルに詰め寄るが、腰を抜けた彼は恐怖のあまり声にならない悲鳴を上げながら杖を掲げる。杖は己の役割としてはめ込まれた紫色の宝石から緑色の光線と共にノイズを召喚し、クリスを包囲する。
「今更ノイズッ!……ッあ?!」
アームドギアを展開しようとするが激痛が走る。
「アンチリンカーは、忘れたころにやってくる……」
下卑た笑いを浮かべるウェルの思い通りにはならないと、クリスが叫んだ。
「ならッ……!ぶっ飛べッ……!アーマーパージだッ!」
イチイバルの装甲そのものを弾丸とした放つ。全方位に放たれるそれは、ノイズの群れを問答無用で撃砕した。
何とか免れたウェルがほとぼりが冷めたと思って顔を出すが、緊急的な対処のため一糸まとわぬ姿となったクリスに距離を詰められ、悲鳴を上げながらソロモンの杖を手放してしまう。
「杖をッ?!」
だが、ノイズはすべて消え切ってはいなかった。杖が手元を離れ、制御の利かなくなったノイズはプログラムに従って人間、即ちクリス達に群がっていく。
「先輩ッ……!」
先輩と啖呵を切っておいて後輩の助けを聞かぬものがいようか。少なくとも彼女は応える。翼は天羽々斬をアーリーシルエットにダウングレードして身に纏い、残存していたノイズを『千ノ落涙』で薙ぎ払った。
この事実にウェルが驚愕する。
「そのギアは……!馬鹿な。アンチリンカーを抑えるため、あえてフォニックゲインを高めず、出力の低いギアを纏うだと……?!そんなことが出来るのかッ……!」
「できんだよ……。そういう先輩だ……!」
クリスは確信を持っているようだった。
出力は落ちている。体も限界が近い……。だが、後輩が見ているのだ、先輩である翼が倒れるわけにはいかないと刃をふるう。
なぜ確信できたのか。それは奇跡でも偶然でも何でもない。これまで翼とクリスが積み上げてきた信頼と修練、目を瞑っていても可能なほどに練り上げられたコンビネーションだからこそ起きた必然だった。
翼の一振りがノイズを斬滅する。
「付き合えるかッ!」
ウェルが逃走を図る。
そんな彼には目もくれず、クリスの周囲を囲っていたノイズの群れを炎を纏った刃で焼き払った。それと同時に分解されていたクリスの制服が形を取り戻す。彼女の手のひらにはペンダントに戻ったイチイバルが握られていた。
翼も同様にギアを解除し、ライダージャケットを元った姿へと戻る。そしてクリスの前まで歩を進め、
「回収完了。これで一安心だな」
ソロモンの杖をクリスに手渡した。照れからか頬が赤く染まる。
「一人で飛び出して、ごめんなさい……」
「気に病むな。私も一人は何も出来ないことを思い出せた。何より……」
翼は一息溜め、
「こんな殊勝な雪音を知ることが出来たのは僥倖だ」
さらに頬が赤くなる。フイとそっぽを向きながら、
「それにしたってよぉ……なんで、アタシの言葉を信じてくれたんだ?」
彼女の問いに翼はさも当然のように、しかし嬉しそうに、
「雪音が先輩と呼んでくれたのだ。続く言葉を斜めに聞き流すわけにはいかぬだろう」
「それだけか?」
「それだけだ。さ、立花たちと合流するぞ」
簡潔に言い切り、スタスタとその場を後にする。その背中を見ながら、
(まったくどうかしていやがる。だからこいつらのそばはどうしようもなく、アタシの帰る場所なんだな)
そんな先輩の後を、満足げにクリスはついて行った。
全力で踏ん張っている雷さん。そろそろ遺跡に向かって全速で駆け出している頃でしょう。