戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~ 作:兵頭アキラ
「雷が主人公ってより、雷が物語に加わった主人公は響のままのシンフォギアだよな」
ってなる。
クリスと翼によってソロモンの杖を失ったウェルは、遺跡のエレベーターに乗りながら悪態をついていた。
「クソッ!ソロモンの杖を手放すとはッ……!こうなったらマリアをぶつけてやるッ!」
○○○
調は絶唱状態のイガリマの一撃から切歌を庇い、生死の境をさまよっていた。傷口はそこまで深くはないのだが、当たった場所とイガリマの絶唱特性―魂を刈り取る刃―によって見た目以上に深刻なダメージを受けていた。そんな彼女に切歌が涙を流しながら声をかける。
「調ぇ……。目を開けて……!調ぇ……!」
切歌の声に反して、調の意識は深い闇へと沈んでいっていた。だが、闇の中でも切歌の声は届き、調は目を開け、
「切ちゃん……じゃない……。だとすると、あなたが……」
と呟いた。そして彼女のそばに、黒い霞がかったような影が形を持つように集まり始める。まるで人のようになると、白いローブを纏った女性。フィーネが現れた。
「どうだっていいじゃない、そんなこと」
「どうでもよくない。私の友達が泣いている……」
フィーネは閉じていた目を開き、
「そうね……。誰の魂も塗りつぶすことなく、このまま大人しくしているつもりだったけれど……。そうもいかないものね……。魂を両断する一撃を受けて、あまり長くは持ちそうもないか……」
フィーネの体が光を反射する粒子のようなものに変わっていく。彼女の魂が消滅しようとしているのだ。
「私を庇って……?でも、どうして……」
「あの子に伝えてほしいの」
「あの子……?」
調の中であの子が誰なのかが浮かばない。だが、フィーネは懐かしそうに眼を閉じ、
「だって、数千年も悪者やって来たのよ?いつかの時代、どこかの場所で、今更正義の味方を気取ることは出来ないって……」
彼女の言葉を聞いて、調は誰が『あの子』なのかを理解した。段々フィーネの体が透けていく。彼女は少し申し訳なさそうになってから笑顔を浮かべ、
「あと、轟の娘にも伝えておいてくれないかしら?あなたの幸せを、ご両親と同じくらい願ってるって」
今度は誰に言っているのか、調はすぐに理解できた。
その言葉を言い終えた後、彼女の姿は深い闇の中に霧散していくその直前、
「今日を生きるあなた達で何とかなさい……。いつか未来に、人が繋がれるなんてことは、亡霊が語れるものではないわ……」
そう激励し、フィーネの魂は完全に消滅した。
一向に目を覚まさない調に、切歌は大粒の涙を流しながら、縛りだすようにして、
「目を開けてよ、調ぇ……」
「……あいているよ、切ちゃん……」
返ってこないはずの返答が返ってきたことに切歌は戸惑いを隠せない。さっきまで気付かなかったが、彼女の体から出ている金色の粒子のようなものがさらに戸惑いを加速させていた。そんな切歌とは反対に、調が静かに起き上がる。
「体の怪我が……」
切歌が驚いた理由はもう一つ。イガリマが刺さったはずの背中の怪我が無くなっていたのだ。それもきれいさっぱり、魔法のように。
「ジー―……」
三重の戸惑いで動きを止めた切歌の目を、調が真っ直ぐ見つめる。
「調ぇ!でも、どうして……」
切歌はうれしさのあまり涙を流しながら飛びつき、抱きしめた。しかし、なぜ彼女が目を覚ましたのか、切歌にはトンと理解できないでいる。
しっかりとは分からないが、一番の可能性を口にする。
「多分、フィーネの魂に助けられた……」
「フィーネに、デスか……?」
切歌は調から体を離し、正面から彼女を見据える。が、今度は逆に調が切歌に抱き着いた。彼女は目を瞑りながらしみじみと、
「みんなが私を助けてくれている……。だから切ちゃんの力も貸してほしい……。一緒にマリアを救おう?」
「ぁ……。うん……。今度こそ調と一緒に、みんなを……助けるデスよ……」
抱きしめている切歌には見えなかったが、調は微笑みながら、
「それにね、切ちゃん……。一緒なのは、私だけじゃないんだよ……」
「調だけじゃない……?」
切歌は困惑を隠せない。調の他にも誰かいるのだろうか。二課の装者はともかくとして、調がはぐらかすということは、自分もよく知る人物であるということを推測するが、誰なのかが分からない。すると突然、調が体を離した。珍しく満面の笑みを浮かべている彼女を見てようやく理解した。
「まさか、姉ちゃん……デスか?」
「うん……!姉さんも手伝ってくれるの……!」
「やったデス!あず姉ちゃんに会えるデース!」
実は何回もあってるのだけど……。飛び跳ねて喜ぶ切歌に、調は少し悪戯っぽい笑みを浮かべた。
○○○
自分の歌では人類を救うことが出来ない。その事実を突きつけられたマリアはブリッジで涙を流していた。そんな彼女にナスターシャが制御室から、
『マリア、もう一度月遺跡の再起動を……!』
「無理よ……!私の歌で世界を救うなんて……!」
『マリア……!月の落下を食い止める、最後のチャンスなのですよ……!』
マリアが駄々をこねているうちに、ウェルが苛立ちの形相を浮かべたままブリッジに戻ってきた。彼は謎の叫びを上げながらマリアの頬を裏拳で張り飛ばした。不意の一撃をまともに喰らってしまい、倒れ込んだ。
「月が落ちなきゃ、好き勝手出来ないだろうがッ!」
そう吐き捨て、機能の大半を割いているネフィリムの本体が雷とやり合っているため、ほとんど操作できなくなっている操作用の球体に向かう。
『マリアッ!』
「あぁんッ?!」
マリアを気遣うナスターシャの声が耳障りだったのか、ウェルが声を荒げる。
「やっぱりオバハンか」
ネフィリムの力を持った左腕を球体にかざす。すると球体が輝きはじめ、操作可能になった。ナスターシャが焦ったように言うが、彼は耳を貸さない。
『よしなさいドクターウェル!フロンティアの機能を使って、収束したフォニックゲインを月へと照射し、バラルの呪詛を司どる遺跡を再起動できれば、月を元の起動に戻せるのですッ!』
不測の事態が積もりに積もり、自分の思い通りにいかなくなったことにいら立ちが頂点へと達したウェルは怒気を多分に含んだ声をあげ、
「そんなに遺跡を動かしたいのなら!あんたが月に行ってくればいいだろッ!」
球体からフロンティアの遺跡に指示を出すと、ナスターシャのいた制御室のあった区画が煙を巻き上げながら月へと向かって上昇し始めた。
「マムッ!」
「有史以来、数多の英雄が人類支配をなし得なかったのは、人の数がその手に余るからだッ!」
彼は腕を組みながら、ご高説を垂れる。
「だったら支配可能なまでに減らせばいい!ボクだからこそ気付いた必勝法!英雄にあこがれる僕が英雄を超えて見せる……!フハハハ!」
ウェルは気づいていない。そのことを分かっていても英雄だからこそ、その手段を最後まで なかったということに。英雄が英雄たりえる、その理由に。
「よくもマムをッ!」
ガングニールのアームドギアである槍を形作り、構える。だが、ウェルは不遜な態度を崩さず、
「手に掛けるのか?!この僕を殺すことは、全人類を殺すことだぞッ!」
「殺すッ!」
槍を振り上げ、ウェルに襲い掛かろうとする。彼はさっきの態度とは打って変わってな開けない声を上げた。そんな二人の間に響が手を広げて介入する。マリアの動きが止まった。
「そこをどけッ!融合症例第一号!」
「違うッ!」
響は胸の前で握りこぶしを作る。
「私は立花響十六歳!融合症例なんかじゃないッ!ただの立花響が、マリアさんとお話ししたくてここにきてるッ!」
「お前と話す必要はないッ!マムがこの男に殺されたのだッ!ならば私もこいつを殺すッ!世界が守れないのなら、私も生きる意味はないッ!」
響を無視して腰が抜けて動けないウェルに向かって槍を突き出すが、その途中で響がその槍の刃を手で握り、受け止めた。痛みは歯を食いしばり、気合で耐えている。
「お前……!」
「意味なんて、後から探せばいいじゃないですか。だから、生きるのを諦めないでッ!」
その叫びに、マリアの動きが止まる。そして響は歌った。あるはずのない、消滅したガングニールの聖詠を……。
「Balwisyall Nescell Gungnir Tron」
最後のほうは彼女の叫びが混じっている。そしてその魂の叫びに、マリアのガングニールが応えた。ガングニールは光の粒子へと還元され、ブリッジを満たしていく。その輝きは、外からでも観察できた。
「あれは……」
「マリアを助けるデス!」
調と切歌が、
「あのバカの仕業だな」
「ああ。だけど立花らしい」
翼とクリスが、
「やったね響!これで後はマリアだけ……!」
(セレナ……。マリアに力を貸してあげて……!)
そして、雷がネフィリムの攻撃を回避し、受け流しながら言葉をこぼした。
それだけではない。この奇跡に、世界中の人々が息をのんだ。
輝きの渦の中でマリアが、
「何が起きているの……。こんな事ってありえない……!融合者は適合者ではないはず!これは貴女の歌、胸の歌がして見せたこと……!あなたの歌って何ッ?!なんなのッ?!」
マリアが叫ぶ。
遠く離れた場所、二課の潜水艦の指令室とフロンティアの上で響の親友たちが同時に叫んだ。
「「行っちゃえ響ッ!ハートの全部でッ!」」
光の粒子が響のもとへと集まっていく。そしてそれは形を成し、響の体を包みこんでシンフォギアとなる。
そして、『胸の歌』を魂に乗せて叫んだ。
「撃槍ッ!ガングニールだぁぁぁッ!」
ガングニール遂に復活!
多分雷がこのマリアを見たら顔面パンチの後に一緒にどうするかの方法を考えてる。