戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~   作:兵頭アキラ

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VSネフィリム・ノヴァ!(通称:ゼットン)


宝物庫、開門

 七十億の絶唱を受けて粉々に砕け散ったネフィリムを見て、ウェルが膝をついた。

 

「何……だと……?」

「ウェル博士!」

「はっ?!」

 

 薄暗いジェネレータールームに弦十郎と緒川がやって来た。ここよりほかに逃げ場はなく、お縄に着く以外に道はない。

 彼らは歩を進めながら、ウェルを追い詰めていく。

 

「お前の手に世界は大きすぎたようだな!」

 

 手段を選んでいる暇はないウェルは、弦十郎たちを排除すべくネフィリムと同じ力を持つ左腕を制御盤に向ける。だがそれを見逃すような彼らではない。緒川は拳銃を振りぬくように発砲し、放たれた弾丸の軌道は弧を描くようにして伸びた左腕の影に突き刺さる。

 

       『影縫い』

 

 影が固定されたことによって左腕も固定され、どんなに力を入れようともびくともしない。

 

「あなたの好きにはさせません!」

「奇跡が一生懸命の報酬なら……!」

 

 固定された左腕に力を籠める。そのあまりの力に血管が浮き上がっては破裂し、計り知れない圧力によって目から血の涙が流れている。

 

「僕にこそぉぉぉッ!」

 

 尋常ではない欲望と歪み切った信念で緒川の影縫いを突破し、遂に制御盤に触れる。触れた先から幾何学模様が流れていく。

 弦十郎は思わず、

 

「何をしたッ?!」

「ただ一言……。ネフィリムの心臓を切り離せと命じただけぇッ……!」

「なッ?!」

 

 背後のモニターでは、装者たちによって粉砕されたはずのネフィリムの心臓がまがまがしい輝きを放ち始めた。

 

「こちらの制御から離れたネフィリムの心臓はフロンティアの船体を喰らいッ!糧として暴走を開始する!そこから放たれるエネルギ-は……!一兆度だぁぁぁッ!」

 

 ウェルは両手を広げ、高笑いを響かせる。

 

「僕が英雄になれない世界なんて、蒸発してしまえば……うわぁぁッ?!」

 

 いつの間にか目の前に来ていた弦十郎の拳によって、制御盤が粉々に破壊される。命令を出している物を破壊すれば暴走は止まると考えたが、暴走は止まらない。もう完全に切り離されていた。弦十郎は悔し気に歯を食いしばる。

 

「壊してどうにかなる状況じゃ、なさそうですね……」

 

 遺跡の外では装者たちの目の前で心臓が更に輝きはじめ、ジェネレーターの残骸を強引に再建しながら暴走によって発生した余剰エネルギーを放出していた。だんだんとその鼓動は大きくなっていくが、臨界には達していないようだ。

 リーダー格である翼が弦十郎からの指示を受ける。

 

「分かりました。臨界に達する前に対処します……っ?!」

 

 まだ臨界には程遠い、誰もがそう思っていた。しかし、ここで予想外の出来事が発生してしまう。ネフィリムの鼓動が、フォニックゲインの集積していた遺跡の先端に到達してしまったのだ。

 

 ウェルは電子手錠と足枷をはめられ、緒川の操縦するジープで二課に犯罪者として連行されていた。

 彼はうなだれながら、

 

「確保だなんて悠長なことを……。僕を殺せば簡単なこと……ハッ?!」

 

 彼らの頭上を影が覆う。ネフィリムの暴走によって遺跡の一部が吹き飛ばされ、それが巨大な落石となって隕石のように押しつぶそうとしていた。普通ならここでブレーキを掛けたりハンドルを切ったりするのだが、緒川は気にせずアクセルを踏み続ける。なぜならば……、

 

「あぁぁぁッ!」

 

 弦十郎の拳が彼の何十倍の質量はあろう落石をたやすく粉砕する。そして、宣言した。

 

「殺しはしない……。お前を、世界を滅ぼした悪魔にも……、理想に殉じた英雄にもさせはしない……!どこにでもいる、ただの人間として裁いてやるッ!」

 

 その言葉は、英雄を夢と見るウェルにとって何よりも聞きたくない言葉だった。彼は狂乱したように暴れ、喚きたてる。

 

「畜生ッ!僕を殺せぇッ!英雄にしてくれぇッ!英雄にしてくれよぉぉオォォッ!」

 

 彼の嘆きは聞き入れられることなく、潜水艦に収容された。

 

 七十億の絶唱のエネルギーを吸収し、遂に枷を全て解き放たれたネフィリムが目を覚ます。遺跡を破壊し、熱で抉り溶かしながら大熱量によって発生した暴風と共に姿を現した。

 あまりの衝撃にエクスドライブとなった装者たちも防御に専念せざるを得ない。

 

 ウェルを独房に叩きこんだ弦十郎は直ぐに指令室へとやって来た。そして開口一番に、

 

「藤尭!出番だ!」

「忙しすぎですよ!」

「ぼやかないで!」

 

 オペレーター陣の迅速な行動と計算によって、正確に位置情報をプログラミングされたミサイルが潜水艦の後方から打ち上げられる。それは潜水艦に周囲に寸分たがわず着弾し、爆発。フロンティアの端のほうだったことも幸いし、下へ、即ち海へと落下する。

 ここからは先は、装者たちの戦いだ。

 暴走したネフィリムはフロンティアの根幹を全て取り込み、禍々しく巨大化していく。

 

「あれを見ろ……!あれが、指令の言っていた……!」

 

 段々と形を取り戻していく。まるで、胎児が形を成していくようだった。

 そして完全に形を成したそれは、地球を背に、立ちはだかるようにして装者たちの前に再誕した。

 

「再生する……ネフィリムの心臓……!」

 

 真っ先に調と切歌が動いた。

 調の腕部装甲と脚部装甲、ツインテールのバインダーがパージされ、変形し、一つの巨大なロボットとなってそれに乗り込む。

 

       『終Ω式・ディストピア』

 

 切歌は三本の刃となった鎌を取り出し、高速回転させながら突撃を掛けた。

 

       『終虐・Ne破aア乱怒』

 

 鎌と鋸、二人の息の合った攻撃がネフィリムにダメージを与える……はずだった。

 ネフィリムの特性はフロンティアを取り込んだことで更に強化され、聖遺物そのものだけでなくそのエネルギーまでも喰らうようになってしまった。彼女たちの攻撃は一切通らず、逆にダメージを負ってしまう。

 

「聖遺物どころか、そのエネルギーまでも喰らっているのかッ?!」

「しらちゃん!切ちゃん!」

 

 雷が電光を迸らせながらエネルギーを吸われ、ギアにも少なくないダメージを負ってしまった二人を回収する。

 先行した三人を後から追いかける。

 翼が焦りながらも冷静に、

 

「臨界に達したら、地上は……!」

「蒸発しちゃうッ!」

「バビロニアァ……フルオープンだぁぁッ!」

 

 翼と響を追い抜き、クリスがソロモンの杖を構えて緑色の光線を照射した。フルオープンの宣言に違わず、これまでのどれよりも大きな門を開く。だが、エネルギーが足りないのか、完全に開き切っていない。

 

「バビロニアの宝物庫?!」

「エクスドライブの出力で、ソロモンの杖を機能拡張したのかッ?!」

「ンぐうぅぅッ!」

 

 それでもかなりの精神力と集中力を使うのだろう。クリスの口からうめき声が聞こえてくる。

 装者たちとネフィリムは地球の引力に惹かれるようにゆっくりと降下しながら、

 

「ゲートの向こう、バビロニアの宝物庫にネフィリムを格納できればッ!」

「臨界を超えたエネルギーから地球を守れるうえに、ノイズの群れを殲滅できるッ!」

 

 渾身の力を込めて、クリスが叫んだ。

 

「人を殺すだけじゃないってぇッ!やって見せろよ!ソロモォォンッ!」

 

 彼女の願いにこたえるように出力が上がり、完全に門が開き切る。だが、それに足掻くようにネフィリムが剛腕をふるった。

 

「避けろッ!雪音ッ!」

 

 翼が叫ぶが一寸遅く、クリスはもろに直撃を受けてしまい、杖を手放してしまう。

 

「ぜいッ!」

 

       『超電磁アンカー』

 

 宇宙の彼方へと弾き飛ばされそうになっていた杖を雷が放ったアンカーがとらえ、

 

「マリア!」

 

 巻き取って回収していては間に合わないという判断から腕を振るってマリアへと投げ渡す。

 雷から杖を受け取ったマリアはそれを正面に構え、

 

「明日をぉぉぉッ!」

 

 叫びと共に放った光線は開いた門の大きさをさらに拡張する。

 ネフィリムが鳴き声と共に腕を伸ばす。それを距離をとって避けるマリアだったが、先端から伸びた触手にからめとられ、引きずり込まれてしまう。

 

「「「マリア?!」」」

「格納後、私が内部よりゲートを閉じるッ!ネフィリムは私がッ!」

 

 切歌と調が叫ぶ。

 

「自分を犠牲にする気デスか?!」

「マリアーッ!」

 

 マリアは引きずり込まれながら、目を閉じ、覚悟を決める。

 

「こんなことで、私の罪が償えるはずがない……。だけど、全ての命は私が守って見せる……!」

 

 だが少女たちの絆は、そんな簡単に断ち切れるほど安っぽいものではない。横から声が聞こえてきた。思わず目を開け、声のした方を見る。

 

「せっかく再会できたのに、すぐいなくなるとか許さないよ?マリア」

「それじゃ、マリアさんの命は、私達が守って見せますね」

 

 頬を軽く膨らませた雷と、優しい笑みを浮かべた響がマリアに寄り添って飛んでいた。二人だけではない。調に切歌は言わずもがな、翼とクリスまでもが彼女の周りに集まってきた。全員が全員、口角を軽く上げ、やる気満々の表情を浮かべている。

 

「あなた達……」

「英雄でない私に、世界なんて守れやしない」

「どれだけ頑張っても手の届く範囲だけしか守れない」

「でも、私達。私達は……」

 

 雷と響の声が重なる。

 

「「一人じゃないんだ……!」」

 

 マリアが優しく微笑みを浮かべ、ネフィリムと共にバビロニアの宝物庫へと突入する。そして門が揺らぎ始め、完全に格納される。その光景を見て、未来が叫んだ。

 

「響ぃ―ッ!雷ぁ―ッ!」

「衝撃に備えてッ!」

 

 友里の声が響き、それと同時に潜水艦の艦橋部分が射出される。宇宙を漂うフロンティアの制御室ではナスターシャが、

 

「フォニックゲインの照射継続……!……っ?!」

 

 血を吐き出してしまう。彼女の体に限界が近づいてきていた。それでも、彼女は諦めることはない。娘のように想う少女たちと、彼女の友が遺した少女の約束を守るために。幼き日の、たった一つの我が儘を叶えるために……。

 

「月遺跡……、バラルの呪詛……。管制装置の再起動を確認……!月軌道、アジャスト開始……!」

 

 フォニックゲインの漂う、今は遠き青の星を見上げる。

 

「星が……音楽となって……!」

 

 自らの戦いを完遂し、少女たちの為した奇跡を満足げに見上げながらナスターシャは逝った。

 戦いは最終局面へと突入する。




マジでこの改変が違和感ないか不安になる。
次回、最終決戦!


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