戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~ 作:兵頭アキラ
もってけダブルだぁ!(まだ早い)
二分遅かったぜ畜生!
ギアを纏った翼の刃がノイズを切り捨てる。響は逃げまどいながら時折攻撃を喰らって吹っ飛ばされる。雷はそんな響を無視しながら、稲妻でノイズをチリへと変える。モニターに映された三人の様子を見て、弦十郎がつぶやく。
「ひと月立っても、噛み合わんか・・・」
○○○
自室にて未来は、今度三人で見に行くこと座流星群の情報や、お弁当に丁度いいメニューなどを調べ、雷がベットで寝転がりながら読書をしている中、響は学校のレポートと格闘していた。響はノイズのことについて追試回避のためにペンで書き記している。ふいに未来が顔を上げると、響が目をつぶり、うつらうつらと舟を漕いでいるのを目にとめる。
「ん・・・ん・・・」
「響、寝たら間に合わないよ?」
「・・・」
未来の言葉で響が目を覚ます。響と異なり、雷は装者として動きながら学業をおろそかにすることはなく、点数も中間ぐらいを維持していた。
「そのレポートさえ提出すれば、追試免除なんだからさ」
「・・・」
響は消しゴムで舟を漕いでいる間に崩れたところを消そうとするが、レポートごと破いてしまい、そのまま机の上でうつ伏せになる。
「だから、寝ちゃダメなんだって」
「・・・寝てないよぉ、起きてるよ。ちょっと目をつぶってるだけ・・・」
「・・・」
未来がもう一度聞かせるように響に言うが、響はそれをあしらう。雷は響と顔を合わせようともしない。
「最近なんか疲れてるみたいだけど・・・」
うつぶせたまま響が返す。
「平気・・・へっちゃら・・・」
「・・・」
そうしているうちに、響の顔が何かに悩み始めた。未来は、その原因と思われる雷に話しかける。
「・・・雷、どうしたの?一か月前から響と目すら合わさないで。喧嘩でもしたの?響、かなりストレスになってると思うよ?」
「・・・何でもない」
ぶっきらぼうにそういうと、本をたたんで未来や響に背を向けて眠り始めた。一か月ほど前から雷は響のことを無視している。今まで二段ベットの上側で三人一緒に寝ていたのが、雷一人だけ下側で眠るようになったのだ。
そんな親友二人の状況に、未来はため息をついた。
○○○
・・・一か月前・・・。
息を整えた雷の横で、翼が響に向けて刃を向ける。指令室では翼の突然の行動に、弦十郎が驚愕する。
「な?!何をやっているんだ!あいつらは!」
「青春真っ盛りって感じね」
こんな状況でも自由な了子は軽口をたたく。無言で弦十郎はエレベーターに乗り込む。オペレーターの一人が問いかける。
「指令、どちらへ?」
「誰かが、あの馬鹿者どもを止めなきゃいかんだろうよ!」
ドアが閉じ、エレベーターが上昇を始める。
「こっちも青春してるなぁ。・・・でも、確かに気になる子達よねぇ・・・。放っておけないタイプかも?」
オペレーターたちは刃を向けられている響以外の、雷も含んだ「達」という表現に内心疑問に思ったが、すぐに自身の業務へと戻っていく。
響は、刃を向けるという意味不明な行動をとる翼に対して、意味を説明する。
「そ、そう意味じゃありません。私たちは、翼さんと力を合わせて・・・」
「分かっているわ!私はそんなこと・・・」
響の言葉を、語気を強めた翼が遮る。その答えに、さらに響が当惑する。いまいち状況が読み込めていない雷は、二人の間でオロオロすることしか出来ない。
「だったらどうしてぇ・・・」
「私があなたと戦いたいからよ」
「ちょ、何でそんなことになってるんですかぁ?!」
ついに状況が理解できなくなった雷は叫ぶが、その声は誰にも聞き取られることはない。雷のほうを一瞥もせず、翼は刃を向けたまま言葉を続ける。
「私はあなたを受け入れられない。力を合わせ、あなたと共に戦うことなど、風鳴翼が許せるはずがない。あなたもアームドギアを構えなさい。それは、常在戦場の意思の体現。あなたが、何物おも貫き通す無双の一振り、ガングニールのシンフォギアを纏うのであれば、胸の覚悟を構えてごらんなさい!」
翼は響の事、さらに言えばガングニールのシンフォギアを持つ響のことしか見えていないことを雷は理解する。相対する響の声が震える。
「か、覚悟とか、そんな・・・。私、アームドギアなんてわかりません・・・。わかってないのに構えろなんて、それこそ、全然わかりません!」
その言葉を聞いた翼は刃を下し、二人に背を向けて、歩き出す。
「覚悟を持たずに、ノコノコと遊び半分に戦場に立つあなたが、奏の・・・奏の何を受け継いでいるというの!」
そう叫び、空高くジャンプする。最大高度にまで到達した翼は、手に持つ刀を雷に当たらぬよう響に投擲する。投擲した刀は、壁と身がまうようなひと振りの巨大な剣となり、足のスラスターで加速した翼がその剣を蹴り込む。
『天ノ逆鱗』
「響下がって!」
「雷?!」
嬉々として自分を痛めつけようとするときと同じような目をした雷は、響のギアの首根っこを掴んで放り投げて位置を入れ替わると、右腕と右腰のユニットを即座に展開する。右腕を腰だめに構え、腰のユニットからは空間がゆがむほどのエネルギーを持った稲妻が右腕にまとわりつき、腕のユニットからは肘から後ろに電光が迸り斥力力場を形成する。
「でやあぁぁ!」
『雷刃抜拳・桜花』
膨大なエネルギーと速度は雷の拳は、腕がギアを纏ってなお、ちぎれ飛ぶような痛みを伴いながら翼の技を迎え撃つ。その直前だった。
「おうらぁぁ!」
「おじさまッ?!」
「ッ?!」
「はあぁぁぁ!・・・たぁッ!」
弦十郎が両者の間に介入にはいる。衝撃波が技を相殺し、地面が広範囲にわたってえぐれ飛ぶ。
バランスを崩した翼は背中から落下し、雷はそのままの体勢で響とそろって自分たちの技を受け止めた弦十郎に目を丸くする。水道管が衝撃で破裂し周囲に雨のように降り注ぐ。雷と響、翼のギアが解除され、制服姿に戻る。
「あ~あ、こんなふうにしちまって。何やってるんだお前たちは・・・。・・・この靴、高かったんだぞぉ」
「す、すいませんでした」
「一杯何本の映画を借りられると思ってるんだぁ・・・?」
弦十郎が翼に歩み寄る。
「らしくないな、翼。ロクに狙いも付けずにぶっ放したのか、それとも。おぉ?お前泣いている・・・」
「泣いてなんかいません!涙なんて・・・流していませんッ」
弦十郎の目には、翼が涙を流しているように見えたが、翼は泣いてなどいないと気丈にふるまう。
「風鳴翼は、その身を剣と鍛えた戦士です!だから・・・」
「翼さん・・・」
弦十郎が翼を抱え、立ち上がらせる。響が声を震わせながら言葉を口にする。
「私、自分が全然ダメダメなのはわかってます。これから一生懸命頑張って、奏さんの代わりになってみせま・・・ッ?!」
翼が振り向くよりも前に、『パァンッ』という音が響いた。響がすべてを言い切る前に、雷が響の頬を濡れた包帯まみれの手で叩いていたのだ。怒りの表情を浮かべ、その目は涙で溢れている。雷が叫んだ。
「君が・・・君がそれを言うのか!立花響!」
「・・・へ?!」
雷が肩を震わせながら、響に訴えかけるように話し始める。かつて、響に自殺をしかけたところを見られた光景がフラッシュバックする。
「私に・・・『ほかの人は雷の代わりにはなれないんだよ!』って泣きながら言ってくれたのは嘘だったのか?!誰よりも理解しているはずの響が、響がそれを言うのか?!」
最後のほうは響の肩を掴みながら、すがるように泣きついた。響は呆然と立ち尽くすことしか出来ない。その日以来、雷は響と会話はおろか、目を合わせることすらしなくなった。
雷刃抜拳
同じような原理を用いた技の総称。現在三種類ほど存在する。原理は、腰のユニットから放出された稲妻を纏いながら、四肢のユニットで斥力を発生させ、その反発で膨大なエネルギーと速度を誇る一撃を喰らわせる。
高い威力と速度を持つ引き換えに、すべての技においてギアを纏っていても感じるほどの激痛が走る。雷が耐えられるのは、痛みに慣れた特殊性ゆえにである(要は、めっちゃ痛いのを気合で耐えている)。
種類としては、片腕で発動するエネルギー総量と威力、速度共に汎用性の高い『桜花』。両腕で発動する一発当たりのエネルギー総量を減らし、数と速度を増した『神風』。片足のユニットを展開し、最大級のエネルギー総量と威力、速度の代わりにバックファイアによるダメージが上昇する回し蹴り『滅神』
四話で発動したのは『桜花』の未完成版。ダメ―ジのわりに腰のユニットを使っていないため、威力が低い
元ネタは『装甲悪鬼村正』の蒐窮一刀と、『アカツキ電光戦記』の某特攻技官から(なお、『滅神』のみUNIの桜花発動時のセリフから)