戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~   作:兵頭アキラ

72 / 209
作者の一番のお気に入りであるGⅩ編開始!ここから三編は張られた伏線を回収したり新しく撒いたりします。

……新章一話なのに雷が独房なので今回ほとんど登場しないのは内緒だ!


GⅩ編
新たなる戦いの影


 月から帰還するために大気圏に突入したシャトルだったが、ブースターを損傷し、コントロールを失ったことで適切な突入角を維持することが出来ず、空の藻屑になろうとしていた。

 彼らと彼らの持ち帰ってきたものを救出すべく、二課が全力で動き始める。

 解析を続ける藤尭が墜落予想地点を伝える。

 

「現在の墜落予想地点、ウランバートル周辺。人口密集地です!」

「安保理からの回答はまだか!」

 

 弦十郎の問いに友里が素早く、

 

「外務省、内閣府を通じて再三打診していますが、未だありません!」

 

 表情は冷静そのものだが、その声には焦りが含まれていた。

 モニターに通常ではありえない角度で大気圏に突入するシャトルの姿が映し出される。断熱圧縮された空気が船体を加熱し、限界が近づいてきているのが目に見えて分かる。

 藤尭が、

 

「まさか、見捨てるつもりでは……」

 

 三度の打診をも黙殺されたのだ。そう思うのも当然と言えた。

 

「ラグランジュ点に漂うフロンティアの一区画から、国連調査団が回収した異端技術と、ナスターシャ教授の遺体……」

「それが、帰還時のシステムトラブルなんて……!」

 

 緒川がそう口にした直後、友里のモニターに安保理からのメッセージが送信された。彼女は振り返り、

 

「承認下りました!安保理の規定範囲で、我々の国外活動。行けます!」

 

 報告を聞いた弦十郎は拳を手のひらに打ち付け、宣言した。

 

「よぉおしッ!お役所仕事に見せてやれ!藤尭ぁ!」

「軌道計算なんてとっくにですよ!」

 

 高速でキーボードをタイプしながら弦十郎に言われる前に後は承認が下りるのを待つだけだったと言外に含ませながら最終段階に入る。

 彼の管制でミサイルが発射され、海中から空中へ、そして空へと飛翔した。

 そのころ、シャトルでは二人の宇宙飛行士が全力で軌道修正に当たっていた。しかし、すでに大気圏に突入したうえ、その損傷が船体の外であることから復旧は絶望的と言えた。

 しかし、それでも彼らは諦めない。これは宇宙飛行士としての意地とプライドだ。

 

「システムの再チェック!軌道を修正し、せめて人のいないところに……!」

「そんなの分かってますよッ!」

 

 経験を重ねたパイロットは修正を試みるが、いくら舵を切ってもシャトルは動かない。若いパイロットは焦りから言葉尻が強くなる。ここで更にエンジンが爆発したことで最悪の結末が彼らの脳裏に過る。しかも、背後からミサイルが迫っていることがその予想を強くした。

 

「ミサイル……?!俺たちを撃墜するために……?!」

「致し方なしか……!」

 

 年上のパイロットが覚悟を決めるが、

 

『へいき、へっちゃらです!』

 

 突然聞こえた少女の声に目を見開く。

 彼らの驚きをよそに、少女は続ける。

 

『だから、生きるのを諦めないで!』

 

 ミサイルの後部が切り離され、外装がパージされた。そしてそこからシンフォギアを纏い、歌った響、翼、クリスの三人が星の海へと飛び出して行く。

 クリスが大型ロケットを二本展開し、翼、続いて響がこれに飛び乗る。そしてミサイルを点火し、クリスも新たに生み出して飛び乗ることでシャトルとの距離を詰めていく。

 翼はサーフボードの様に乗りながら、

 

「まるで、雪音のようなじゃじゃ馬っぷり!」

「だったら乗りこなしてくださいよ。センパイ」

 

 クリスが仁王立ちしながら言葉を返す。

 三人はシャトルへと飛び乗り、船体を支えながらブースターを点火することで減速、軌道修正を敢行する。

 二課ではその光景をモニターに捉えていた。

 

「装者取り付きました!減速を確認!」

「墜落地点再計測!依然、カラコルム山渓への激突コースにあります!」

 

 独房のモニターで囚人服を着たマリアたち元F.I.S.所属メンバーがナスターシャを乗せたシャトルの安否を見守る。雷も彼女たちの中に含まれていた。

 

「マムを……」

「お願いするデス……」

 

 調と切歌の二人が祈るように言い、雷が心配そうな彼女たちを落ち着かせるために後ろから抱きしめる。マリアが静かに目を瞑った。

 シャトルに取り付いた装者たちは三者三様の方法で減速をかける。クリスがミサイルをブースター代わりにし、響がアンカージャッキで体を固定、バンカーユニットを展開。翼は剣を船体に突き刺し、脚部ブレードを巨大化させてスラスターに火を付けた。

 彼女たちによって大気圏は無事に突破することは出来たが、カラコルムを超えるには高さが圧倒的に足りない。

 緒川が、

 

「何とか船内に飛び込んで、操縦士だけでも……!」

 

 彼の声を聞いた調は、

 

「それじゃマムが……」

「帰れないじゃないデスか!」

 

 悔しさにマリアが目を背けるが、モニターから目を離さず、正面から見つめ続けている雷が迷いのない声色で口を開いた。

 

「このくらいじゃ諦めない……。そうでしょ?」

『よーくわかってるじゃねえか!』

 

 クリスからの通信に雷は不敵に笑い、マリアは驚きに目を見開いた。彼女の言葉に翼たちが続く。

 

「人命と等しく、人の尊厳は守らなければならないもの」

「ナスターシャ教授が世界をも持ってくれたんですよ?なのに、帰ってこれないなんておかしいです!」

 

 切歌と調は涙を目にため、彼女たちを抱く雷は嬉しそうに口角を上げる。

 

「何処までも……」

「欲張りデスよ……」

「畜生……。敵わないわけだ……」

「お?」

 

 悔しそうにしながら、マリアは雷の後ろに回って四人でひと塊となる。「いつかマリアもなれるよ」そんな思いを込めて、彼女の胸に雷は頭を預けた。

 何とか大気圏は超えたが、今度は助からないと若いパイロットは操縦桿を手放そうとしていた。だが、

 

「もう……」

「燃え尽きそうな空に、歌が聞こえてくるんだ!諦めるな!」

 

 しかし、依然コースは変わらない。

 

「K2への激突コース、避けられません!」

「直撃まで一キロを切りました!」

 

 目の前に山脈が迫って来ていた。コース変更は不可能。ならば、

 

「行くぞバカァァァッ!」

 

 クリスが響に向かって叫びながら走りだした。彼女に体に跳びつき、体を固定して腰部装甲を変形させる。

 

       『MEGA DETH SYMPHONY』

 

 六つの大型ミサイルに火を入れ、発射。それは空中で分解し、散弾のようになってK2の山肌に突き刺さり、大爆発を引き起こした。

 

「ぶん殴れェェェッ!」

「えぇぇぇっ?!」

 

 クリスが離脱し、なんだかよくわからないままクリスの言葉通りに響は拳を構え、フルパワーで脆くなった山脈を殴り抜いた。一瞬だけ山頂が宙に浮き、その間をシャトルが滑り込む。

 この結果を藤尭は冷静に、

 

「K2の標高、世界三位に下方修正!」

 

 この報告に弦十郎は満足げに笑みを浮かべ、緒川は呆れる。

 

「不時着を強行します!」

 

 第一、第二と難所を超え、最終段階である不時着を開始する。

 シャトルの船底が山肌の上を滑走し、加速しながら一気に滑り落ちていく。目の前の森林群に対し、翼が正面に立ち剣を構える。その剣の長さは瞬く間に伸び、同時に幅広く巨大な両刃の大剣となる。シャトルの滑る勢いと刃の切れ味が合わさり、容易く森林を切り開いていく。森を抜けると、目の前には渓谷が広がっていた。今度は響が前に出て拳をぶち当てることで強引にコースを変更する。

 

「次は左だ!立花ッ!」

 

 翼の声に反応して素早く振り抜き、粉砕しながらもコースを変える。目の前にあった小山をクリスがミサイルで破壊した。彼女は体を固定する能力がギアにないため、翼に支えてもらっている状態だ。彼女たちの表情に余裕が見て取れるが、

 

「この調子でふもとまで行ければ!」

「ッ?!ヤバい!」

「へ?」

 

 切羽詰まったクリスの声を聞いて気の抜けた声を出しながら響が前を向く。

 

「村がッ?!」

 

 響が船体から飛び下る。

 

「馬鹿?!」

「なにを?!」

 

 響は地面に着地し、足を踏ん張ってシャトルを止めにかかる。幸いなことにシャトルの進行方向にあったのが村の大通りだった。ブースターを点火し、最後の踏ん張りをかけた。

 

「立花ぁぁッ!」

 

 これにはさすがの弦十郎も落ち着いてはいられず、

 

「南無三?!」

 

 と思わず言った。

 もう少しで公会堂に直撃する。その寸前にバンカーユニットを地面に打ち放ち強引に体を固定、スープレックスの要領でシャトルをぶん投げた。その巨大な船体が屋根を超えるが、まだ飛距離が足りない。若いパイロットが最後の力を振り絞ってジェット噴射をかけ、公会堂のすぐ後ろで直立した。

 

「ったは~……」

「任務、完了しました」

 

 翼が剣を突き刺して固定し、逆の手でクリスの手を握る。この報告に二課では安堵の声が漏れる。切歌と調がハイタッチし、雷が上を向き、マリアが下を向くことで顔を見合わせ、お互いに笑顔を浮かべた。

 現場では響が地面に寝そべり、空を見上げていた。

 翼とクリスが彼女にそばにやって来て、

 

「無事か?!立花」

 

 翼の問いには答えず、響は嬉しそうに笑う。

 クリスが戸惑いながら、

 

「おかしなところでもぶつけたか……?」

「私、シンフォギアを纏える奇跡がうれしいんです!」

 

 心底嬉しそうに言う彼女にクリスが苦笑いを浮かべる。

 

「お前、本当の馬鹿だな!」

 

 少しうれしそうにクリスが言った。

 

○○○

 

 先のシャトルに関する出来事で二課は解体され、国連所属の超常災害対策機動部タスクフォース『S.O.N.G.』として再編されることとなった。幸いなことに扱うものの特殊性ゆえか人事の再編は起きていない。

 藤尭はシャトルの一件の情報整理を行っていると、後ろから友里が、

 

「はい。温かいものどうぞ」

「温かいものどうも」

 

 差し出されたコーヒーを受け取りながら答えた。

 

「珍しいね」

「一言余計よ」

 

 そう言いながらコーヒーを口にする。友里が彼のまとめた情報を見て、

 

「シャトルの救出任務から、三か月になるのね……」

「あの事件の後、二かは国連直轄の『S.O.N.G.』として再編され、今は世界各国の災害救助が主だった任務……。このまま大きな事件もなく、定年まで給料もらえたら万々歳なんだけど……」

 

 人それをフラグと言う。彼がそう言った瞬間、アラートが鳴り響いた。友里が自身のモニターを見て、

 

「横浜港付近に未確認の反応を検知!」

 

 だが検知したのもつかの間、すぐにその反応は消失した。

 

「消失……?!急ぎ、指令に連絡を!」

「了解!」

 

 夜の横浜港。そこを走る一人のローブを纏い、フードをかぶった少女の姿があった。足元に銃弾のようなものを打ち込まれ、足をつんのめらせて地面に倒れ込んでしまう。公衆電話の影に隠れ、

 

(ドヴェルグ=ダインの遺産……。すべてが手遅れになる前に、この遺産を届けることが僕の償い……)

 

 ドヴェルグ=ダインの遺産が封じられているルーン文字の刻まれた箱を抱えながら少女が走る。そんな彼女を、月をバックにポーズを決めたディーラー風の女性がとらえていた。

 

「私に地味は似合わない……。だから次は、派手にやる……」

 

 次の戦いは、すぐそばまで近づいていた……。




GⅩ編はキャロルVS雷の頭脳戦が繰り広げられるかも? 
あとがきでちょこっと登場したオリジナルオートスコアラーがどんな子なのかも注目です。出てくるのはミカ並みに遅いんだけどな!

因みにG編での使用楽曲。

『想い抱いて駆けろよ乙女』
 ネフィリム戦で使用。G編における彼女のメインテーマ。過去を取り戻したことでこれまでの曲よりアップテンポになっている。元ネタは「命短し恋せよ乙女」

『本音を隠して』
 F.I.S.との初戦闘時に使用。重低音の旋律が特徴。恐怖と怯えを隠すために歌詞の内容はかなり物騒。だが旋律の節々に隠した本音が見え隠れしている。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。