戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~   作:兵頭アキラ

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ほんの少しの平和な時間。


嵐の前の静けさ

 朝、リディアンに通う生徒たちが課題がどうとか、新しいカフェがオープンしたとか、そんな他愛のないおしゃべりをしながら歩いて行く。そんな彼女たちの中に『S.O.N.G.』所属のシンフォギア装者、雪音クリスがいた。

 しかし、彼女の平穏ももうすぐに崩れ去る。何故なら、彼女の背後に忍び寄る影があるからだ。その影は背後から、

 

「クぅリスちゃぁぁぁぁん!フガァっ?!」

 

 が、このような簡単な奇襲にかかるようなクリスではない。カバンを振り回し、とびかかってきた影、響の脳天に思いっきり叩きつける。丁度そこには彼女の親友である未来と雷。そして雷を調と切歌が挟む形でそばを歩いていた。

 彼女たちはS.O.N.G.内で『F.I.S.三姉妹』と称されて―仲の良さをからかわれて―おり、とくに調と切歌の二人はこの呼び名にまんざらでもない反応を返している。因みに雷は「合ってるんだけどなんか違う!」と最初はこの呼び名に不満があったのだが、調と切歌の喜びようを見て受け入れている。

 響の頭を叩いたカバンを肩越しに背負い、

 

「アタシは年上で、学校では先輩!こいつらの前で示しがつかないだろ!」

 

 すぐ近くにいた調と切歌を見やった。

 彼女たちと一緒にいた雷が苦笑いを浮かべながら、

 

「せめて二人の前ではしっかりとしようよ、響」

「おはよう雷。調ちゃん。切歌ちゃん」

 

 クリスに怒られた響の後ろから未来がやって来て二人に挨拶し、

 

「おはよ、未来」

「おはよう……ございます」

「ごきげんようデース!」

「暑いのに相変わらずね」

 

 雷は普段のように、調は少しぎこちなく、切歌はバッグを振り上げるほど元気いっぱいに返事をした。未来が切歌の元気っぷりに感嘆していると、響とそろって三人のつないでる手に視線が集中する。それは恋人繋ぎと言えるものだった。

 響が三人に近づき、

 

「いやぁ~暑いのに相変わらずだねぇ~……」

「いや~それがデスね~……」

 

 切歌は照れながら、

 

「姉ちゃんと今まで会えなかった分の振り戻しと言いますか……」

「そのおかげで私は全身の包帯と相まって滅茶苦茶暑いです」

 

 しらちゃんの手がひんやりしているのが救いかな。と付け加えた雷の頬を汗がつうっと流れた。しかし両腕を塞がれているため汗がぬぐえないことには変わらない。そんな彼女を見かねて、しかし手は離そうとせずに調が、

 

「姉さん」

「何?しらちゃん」

「切ちゃんのぷにっとした二の腕も、ひんやりして癖になるよ」

「それ、本当なの?!」

「ちょっと離していい?切ちゃん」

「だめデス!」

「しらちゃ「姉さんの頼みでも、これは聞けない」……さいですか」

 

 いいこと聞いたと思った雷は直ぐに行動に移そうとするが、切歌が離す気配を全く見せない。調のほうにも頼むが、食い気味の拒否の返答を聞いてがっくりと肩を落とした。

 雷がすさまじく羨ましそうな視線を向ける中、未来は響の二の腕をつまんだ。響はくすぐったそうに、

 

「いやぁ~!やめて止めてやめて止めてあぁぁ~!」

 

 そんな彼女たちに顔を赤くしたクリスは再び響の頭をカバンで叩き、

 

「そういうことは家でやれ……」

「家ならいいのか……」

 

 と小声で言ったが雷に突っ込まれてしまった。響が叩かれた頭を抑えながら雷のほうを向いて、

 

「そういや雷って今翼さんのところで剣術習ってるんだよね?どんなことしてるの?」

「居合いだよ。翼さんが『轟の戦闘スタイルにもあってるだろう』って」

 

 現在、雷は翼の指南を受けて剣術を習っていた。それは体を鍛えるというよりは、どちらかと言えば以前のように簡単に折れないために心を中心に鍛えているのだ。当然、戦闘にも使える様にしているのだが。

 

「はかま姿の姉さん。かなりカッコよかったよ」

「何と言うかこう……、サムライみたいな感じだったデス!」

「え、見に来てたの……?」

 

 雷は首を傾げた。如何やら黙って見に来ていたらしい。あっけにとられている彼女の横で、調と切歌の二人はぽわぽわと当時の光景を目を閉じて思い返している。

 そんな二人を見て響は頭を抱え、

 

「あぁー!私も見に行きたかったぁ!」

「行こうって言ってたのに課題をしてなかったのが悪いんでしょ。私も行きたかったのに……」

 

 未来が拗ねるように言った。未来も行きたかったようだが、響の課題を手伝わされたらしい。因みに雷にも学校を休んでいた分の課題、つまり響以上の量があったのだが、スパイ容疑で独房にいる間に頼み込んで取り寄せ、その中で済ませていたのだ。

 雷が落ち込む二人を励ますように、

 

「まあまあ二人とも、また別の日に来ればいいよ。見られて恥ずかしいものでもないしさ」

 

 と言った瞬間、予鈴のチャイムが鳴った。流石の調と切歌も雷の手を離し、それぞれの教室へと向かって行った。

 

○○○

 

 雷たちのクラスの授業は水泳だった。といっても授業内容はほとんど終わっており、今は自由時間なのだが。

 響と未来が創世たちとプールサイドに腰掛けながら三者面談について話し合っている。雷は過去の虐待のトラウマから―温水は何とか克服した―顔を水につけることが出来ず、体操服を着て少し離れた場所で話に交じっていた。

 詩織が、

 

「進路についての三者面談、もうすぐですわね~」

「憂鬱。成績についてのあれこれは、ママよりもパパに聞いてもらいたいよぉ~」

「ビッキーとライライのとこは、誰が来るの?」

 

 響は「うーん」と少し考え、雷は即座に、

 

「私のところはおじいちゃんが来る」

「雷はいいよぉ。学年トップだもん。怒られる要素がないよ」

「あはは……」

 

 弓美が唇を尖らせ、雷が苦笑いを浮かべた。

 そんな時に響が、

 

「うちは……おばあちゃんかな?お父さんいないし、お母さん日曜日も働いてるし……」

「そういうのよくあるみたいだよ?どこも忙しいって」

 

 沈みかけた空気に未来が即座にフォローを入れる。

 三人は、

 

「そっか」

「優しいおばあさまなのではないかしら?」

「じゃないとビッキーの成績じゃ……」

「とうっ!」

「「「うわぁっ?!」」」

 

 創世の言葉を遮って響が勢いよく飛び込んだ。三人に飛沫がかかったが、幸いにも雷のところまでは届いていない。

 少し潜ってから響は水面から顔を出し、

 

「そんなことより泳ごうよ!今日の夜更かしに備えてお昼寝するなら、ちょっと疲れたくらいがよくないかなぁ?!わお!自分で言ってて驚きのアイデアだね~!」

「ちょっとビッキー!もう少しでライライに水、かかりかけたよ!」

 

 そう言いながら創世たちはゆっくりと水の中に入る。

 

「あ、ごめん……。大丈夫だった?」

 

 申し訳なさそうに眉をハの字にした響を見て目を細め、

 

「大丈夫。届いてないよ!」

「よかったぁ~」

 

 にへっと表情を崩して泳ぎ始めた。未来はそんな響を見て、

 

「カラ元気の癖に……」

 

 と呟いた。

 

○○○

 

 まあ、そんなこんなで陸上よりもはるかに体力を使う水中で体を動かしたのだ。昼寝のためにと言っていた響がどうなったのか、想像に難くない。彼女は机に突っ伏し、よだれを口から垂らしながらいびきをかいて爆睡していた。

 

「響!起きて!響!先生きちゃうってばぁ!」

「zzz……」

 

 隣に座る雷が何度も体を揺すったり叩いたりしているがまったく反応が返ってこない。創世たちには先生の様子をうかがいながら、まったく目を覚ます気配のない響を必死に起こそうとする雷の姿が少しかわいそうに見えていた。

 結局、彼女の必死の努力は水泡に帰した。先生が響の目の前で鬼の形相で立っているのだ。

 

「なるほど……」

「あぁ……」

 

 雷は諦めた。そんな彼女を未来が優しく慰めている。

 

「今夜夜更かしするために、私の授業を昼寝に当てると……。そういうことなのですね?!立花さん?!」

 

 響に本日三度目の雷が落ちた。




雷が居合いを習うのは某しゃべるタンポポの所為。
彼女は水、と言うか冷たい液体を顔からかぶるとパニック状態になります。おや?なんか青いオートスコアラーがこっちを見ているぞ?

???「おいゴルァ!こいつはボクの獲物DA☆!」

トラウマの原因は一話参照。

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