戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~   作:兵頭アキラ

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作者の大好きなキャラ、キャロル登場!


事は同時に、複数に

 ケラウノスとガングニールを身に纏い、雷と響が火災現場であるマンションの屋根を蹴り破って内部に突入する。その瞬間に雷が増設されたヘッドギアの機能を利用して電磁波を飛ばし、周囲の被害状況を瞬時に把握する。

 彼女のヘッドギア、その中央の角は斥力や電磁波、磁力などの彼女の発する稲妻の副産物をより正確にコントロールすることが出来る。煙などの火災そのものによる被害は甚大だが壁は脆くなってはいないようだ。これならば壁を破壊しての救助作業も問題ないだろう。

 確信と同時に友里から通信が入ってきた。

 

『響ちゃんの反応座標までの誘導、開始します!』

 

 ガングニールにはこのような機能は搭載されていない。その為、友里からの通信を頼りにしなければならない。名指しで彼女が呼んだのはそれが理由だ。二人は頷き合い、それぞれ別の方向へと走り出した。

 電磁波を発しながら要救助者の捜索に当たる。しばらく駆け回っていると、複数の壁越しに複数の反応を検知した。電磁波の反響具合を確認する。如何やら防火シャッターが小さいが瓦礫によって完全に閉じ切っておらず、その隙間から煙が流れ込んでいるようだ。しかもその通路は完全に瓦礫によって塞がれており、脱出することもできなくなっている。

 雷は拳を振り抜き、壁を一枚破壊した。

 

 要救助者たちは煙を吸い込むまいとハンカチなどで鼻と口を抑えていたが、すでに限界が近づいてきていた。一部の物は体の末端部分が痙攣しているようだ。そこにいる全員に死という言葉が脳裏をよぎる。その時だった。少し遠くではあるが、何かを破壊する音と共に歌が聞こえてきたのだった。

 

「歌が……聞こえてくる……?」

 

 青年はそう呟いた。最初は死に瀕した際の走馬灯や幻聴か何かかと思っていたが、破壊音がするたびに歌が近づいてくるのだ。否が応でもそれが現実のものであると受け止める。勇ましさの中にどこか優しさのある歌。生きることへの気概が生まれてくる歌だった。その歌声にほかの人々も感化され、今まで漂っていた市の気配が遠くへと消え去っていく。

 そんな時だった。防火シャッターが赤熱化し、熱した飴のようにどろりと溶けだしたのだ。そしてそこから現れたのは、稲妻を迸らせた右腕を正面にのばした少女、雷だった。

 

「避難経路を作りました!光の点滅する方に落ち着いて向かってください!」

 

 光、と言うより電光なのだが、それが等間隔に点在している。このような精密な操作も新たにつかされたギアの機能の一つだ。

 歩くことが困難な者を背負い、最後の要救助者が歩いて行ったのを確認すると、再び電磁波を放った。もう周囲にはいないようだ。響の向かった方向に残りは集中している。それを確認すると、避難経路を真っ直ぐ駆け出していった。

 マンションの外に脱出し、救助者だった人々が生存の喜びを分かち合っている。その中をギアを解除した雷が重症者に肩を貸して救急車のほうに向かっていると、ガラガラとストレッチャーが移動する音が聞こえてきた。如何やら誰かが呼んできてくれたのだろう。後は救急隊に任せ、次の任務である被害状況の確認のため四時の方向を向く。すると突然マンションから天高く、響が飛び出してきた。

 雷は腰に手を当て、呆れたように彼女を見上げる。

 

「やっぱカッコイイなぁ、響は。人助けしてるときは特に」

 

 聞こえたのかはわからないが、少年を抱えた響が笑った気がした。 

 

○○○

 

 フラメンコドレスのような服を着た女性が落下するマリアに向けて剣を突き上げる。いかにしてこの窮地を脱しようかと思考を回すが、重力に従って彼女の体は落下する。もう少しで体が貫かれる。だが、女とマリアの間に蒼のシンフォギアを纏った翼が滑り込み、携えた刀で受け流しながら距離をとる。

 マリアは思わず、

 

「翼ッ?!」

 

 翼は着地してマリアを下ろし、刀を正面に構える。

 

「友の危難を前にして、鞘走らずいられようかッ!」

「待ち焦がれていましたわ……」

「貴様は何者だッ?!」

 

 女は翼の問いにスカートのすそを掴み、フラメンコのようなポーズをとって答えた。

 

「オートスコアラー……」

「オートスコアラー……?」

 

 翼自身初めて聞く単語だ。様々な書物を読んでいる雷であらば何か気付くだろうが今ここに居ない。それに倒してしまえば問題はないと翼は即座に思考を切り替える。

 女は切っ先を翼に向け、

 

「あなたの歌を聞きに来ましたのよ……?」

 

 そう言って女は一気に加速して突きかかってきた。鍛えれば人間にも可能な動きだが、それに対して明らかに女の体格は華奢すぎる。予想外の加速に面食らったが歴戦の防人たる翼は即座に行動に移した。正面から女の剣を受け止める。先に奪われた拍子を自らのものとするため、再度距離をとる。そして左のバインダーからもう一刀を射出し、二刀流となって攻勢を開始する。二刀の柄を連結し、双刀となすと同時に火遁の術で点火することで焔の刃へと変えた。脚部のブースターで一気に距離を詰め、女が着地する瞬間を狙う。印を結びながら刃を高速回転させ、

 

(風鳴る刃、和を結び、寡欲をもって切そぐう……」

 

 刃の焔の温度が上昇し、蒼き焔へと変化した。

 

「月よ煌めけッ!」

 

 回転の勢いをそのままに、振り下ろした。

 

      『風輪火斬・月煌』

 

 女の体は勢い良く吹き飛ばされ、重い荷物の塊へと突っ込んでいった。

 

○○○

 

 抱えていた少年を救急車に運んだ響に雷が笑顔で声をかけた。

 

「お疲れ様、響」

「お疲れ、雷。って雷は次があるんだったよね」

 

 如何やら忘れていたようだ。苦笑いを浮かべながらどこか恥ずかしそうに頭をかいている。雷はため息をつき、

 

「そうなんだよねぇ……。じゃ、クリスが頑張ってるのにサボるわけにはいかないからね。行ってくる」

「行ってらっしゃい。今日は帰ってくるんだよね?」

 

 フロンティア事変以降、雷は今までの分を補填するように調や切歌たちのところで寝泊まりすることが多くなっていた。仕方ないと響たちもそれは容認しているが、やはり彼女がいた方が安心するのは確かなことだ。

 雷は頷き、

 

「今日は響たちのところに帰るよ。未来も待ってるだろうしね」

「うん!じゃ、頑張ってね!」

「頑張るよ!」

 

 そう言って再びギアを纏い、四時の方向に稲妻の輝きと共に跳躍しながら向かって行った。

 

「雷はすごいなぁ……。何でもこなしちゃうんだもん」

 

 目を細め、彼女の背中を追って見上げる。その時だった。視界の端にとんがり帽子をかぶった小さな少女の姿が見えた。

 

 炎を見つめる少女の脳裏に遠き過去の出来事が蘇る。成したことを全て『奇跡』と一括りにされ、あまつさえそれを悪魔の力だと父を罵る者たちの姿。悪魔を浄化するという名目で火刑に処された父の姿。そして泣き叫ぶことしか出来ない無力な自分の姿。そして思い返すのは父の残した『世界を知るんだ」という言葉。自然と炎を写す目に涙がたまり、こぼれた。

 

「パパ……」

 

 少女はか細くこぼす。

 

「消えてしまえばいい思い出……」

「そんなところにいたら危ないよ!」

 

 少女の思考は突然聞こえてきた響によって現実に引き戻される。少女は思わず振り向いた。下では響が、

 

「パパとママとははぐれちゃったのかな?そこは危ないから、お姉ちゃんが行くまで待っ……」

「黙れ!」

「うわぁ?!」

 

 少女の鋭い声が響きの言葉を遮る。そして右手で空中に円を描くようにすると緑色の紋章のようなものが現れた。するとその門所を中心に竜巻が発生し、響に向かってそれを放った。響は飛びのいて避けるが、さっきまでいた場所がえぐられている。それだけでこの竜巻がどれほどの威力を持っているのかが理解できた。

 通信機から、

 

『敵だ!敵の襲撃だ!そっちはどうなってる?!』

『こっちはいない!急いでクリスのほうに向かう!』

「敵……?」

 

 クリスからの通信に雷が割り込んだ。声色から両方とも切羽詰まってるのが見て取れる。響は二人の敵と言うワードをさっき攻撃を加えてきた少女に当てはめることが出来なかった。響を見下ろす少女は、緑色の科学の構造図とも取れる紋章を叩く掲げた。

 

○○○

 

 勢いよく女を切り飛ばした翼に向けてマリアが叱責する。

 

「やりすぎだ!人を相手に……」

「やりすぎなものか……!手合わせして分かった……!」

 

 確かにこの威力は人間には過剰だろう。但し、それは相手が人間であればの話だ。翼は気を緩ませることなく女の吹き飛んだ方向を見据える。

 

「こいつは、どうしようもなく……化物だッ!」

 

 すると荷物が暴風で巻き上げられ、傷一つない女の姿が現れる。

 

「聞いてたよりずっとしょぼい歌ね。確かにこんなのじゃ、やられてあげるわけにはいきませんわ」

 

 響と相対する少女が掲げた紋章から、複数の陣が展開される。

 

「キャロル・マールス・ディーンハイムの錬金術が……」

 

 キャロルと名乗った少女が響に陣を向けた。四層の陣はそれぞれ独立して回転している。

 

「世界を壊し、万象黙示録を完成させる……!」

「世界を壊す……?」

 

 響の疑問は当然だ。キャロルはさも当然のように、

 

「オレが奇跡を殺すと言っている!」

 

 右手で生み出した陣の中に、左手で生み出した紋章を投げ入れた。それは四層全てに転写され、それらすべてが一つへと集約される。そして紋章陣は輝き、さっきとは比べ物にならない数と威力の竜巻を響に向けて撃ち込んだ。




彼女との対比がGⅩ編でのテーマです!雷はどのような選択をするのか注目です!

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