戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~   作:兵頭アキラ

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ガリィの登場シーンにうちの子の名前を出そうかな?っと思いましたけどやめました。


力の名は錬金術

 キャロルの放った竜巻は響に直撃することはなかったが、彼女の足元に命中した。その威力に地面がめくりあがり、響を吹き飛ばす。巻き上がった土煙が消え、その中から抉り壊された地面、そこに響が倒れ込んでいた。響はボロボロになりながらも顔を上げ、キャロルを見上げる。

 

「何故シンフォギアを纏わない……、戦おうとしない……」

 

 キャロルが疑問をこぼした。

 攻撃し、明確なダメージを与えた以上、自分は響の敵だ。少なくとも自分はそう認識する。しかし、彼女は戦うための武器であり、身を守るための鎧であるシンフォギアを纏うそぶりすらも見せない。

 響は体を起こしながら、

 

「戦う……よりも、世界を壊したい理由を教えてよ!」

「っ」

 

 キャロルは煩わしそうな瞳を響に向け、ゆっくりと、物理法則を無視した速度で飛び下りた。響の眼前にある大きな瓦礫の上に錬金陣を展開し、ゆっくりと着地する。

 

「理由を言えば受け入れるのか……?」

「私は……戦いたくない……!」

 

 響の叫びにキャロルは歯噛みする。

 

「お前と違い……、戦ってでも欲しい真実がオレにはあるッ!」

 

 キャロルの瞳に憎悪と嫌悪の焔が宿っていた。

 

○○○

 

 家主であるクリスが任務に出て行ってしまったため、お泊り会はお開きとなり、未来たちは帰路についていた。調や切歌もはじめのほうは雷の言葉に納得がいかないと頬を膨らませていたが、今では笑顔を浮かべている。

 

「あーあ、せっかくみんなでお泊りだと思ったのに―……」

「立花さん達が頑張っているのに、私達だけ遊ぶわけにはいきませんから」

「ひながキネクリ先輩の家の合鍵を持ってたからよかったけど……。でも、どおして持ってたの?」

 

 追及されるとは思っていなかった未来は答えに詰まるが、

 

「え、そうだよね……。どうしてだろう?前に響から預かってたんだったかな?」

 

 当たり障りのない回答でこの場を濁すと、切歌たちが前に出てきた。

 

「じゃあじゃあ先輩方ー。あたしらはこっちなのデース!」

「さそってくれてありがとう。姉さんにもよろしく」

 

 切歌は元気よく、調は静かに別れの挨拶を言いった。そして切歌は調の手を取り、

 

「失礼するデース」

「あぁ……?!切ちゃん!」

 

 仲のいい二人に思わず微笑みがこぼれる。

 

「バイバーイ」

「気を付けてねー!……さて、コンビニでおむすびでも買っておこうかな?」

 

 二人の後姿が遠くなってきたタイミングで未来が言った言葉に三人が振り向く。

 

「あらあら」

「まあまあ」

「てっきり心配してるのかと思ってたら……」

「響の趣味に人助けだから平気だよ。むしろ、お腹空かせて変える方が心配かもね」

 

 そういう未来に創世は悪戯っぽい笑みを浮かべ、

 

「おんや~?そんなことをすればライライが嫉妬するんじゃなーい?」

「雷は食べ物よりも、抱きしめた方が喜ぶから」

 

 三人がこりゃ敵わないや、と呆れた表情を浮かべた。

 調と切歌は自分たちの家に帰るべく横断歩道の前にいた。二人の表情は沈んでいる。明るく振舞ってはいたが、雷の言葉が耳に残っているのだ。言われた時の光景がよみがえった。

 調が言葉をこぼす。

 

「考えてみれば、当たり前の事……」

「ああ見えて、底抜けにお人よしぞろいデスからね」

 

 少し前、自分たちをドーナツをもって迎えに来てくれた響たちの笑顔が蘇る。因みに雷はF.I.S.でもあるので迎えられた側だ。

 

「フロンティア事件の後、拘束された私達の身柄を引き取ってくれたのは、敵として戦ってきたはずの人たちデス……」

「それが保護観察なのかもしれないけれど……学校にも通わせてくれて……」

 

 初めて見た学校の前で立ち止まっていた二人の間を通って姉として雷が手を取り、

 

「行くよ!二人とも!」

「おい!なにビビってんだよ!」

 

 クリスが先輩として背中を押した。

 二人が前を向くと、響たちが手を振り、温かく迎えてくれていた。そんな光景に放心してしまう。そして、それを思い返すたびに何かしたい、恩返しがしたい。という思いが強くなっていく。

 

「F.I.S.の研究施設にいたころには想像もできないくらい、毎日笑って過ごせているデスよ」

 

 赤かった信号が青に変わるが、二人は脚を進めない。

 

「何とか、力になれないのかな……」

「何とか、力になりたいデスよ……」

 

 切歌は胸のペンダントを取り出し、握りしめる。

 

「力は、間違いなくここにあるんデスけどね……」

「でも、それだけじゃ何も変えられなかったのが、昨日までの私達だよ。切ちゃん……」

 

 力を持っていても力になれない。そんな焦燥感が少女達の身を焦がしていく。そんな時だった。不意に、切歌の携帯に電話の着信音が鳴る。

 

「誰デスかね……?」

「切ちゃん、忘れ物でもしちゃったの?」

「そ、そんなわけないデスよ……」

 

 さっきまでの陰気な空気が霧散し、調の言葉に苦笑いを浮かべながら携帯を確認する。そこに書かれていた名前は、

 

「ね、姉ちゃん?!」

「嘘?!」

「ちょ、ちょっと待つデスよ……」

 

 書かれていた雷の名前に取り乱し、大慌てになりながらスピーカーボタンを押す。そろって食い入るように画面を見つめた。

 

『切ちゃん?!しらちゃん?!聞こえてる?!』

「き、聞こえてるデスよ!」

 

 スピーカー越しに雷の声が聞こえてきた。しかし、如何やらただ事ではないらしい。彼女の声色に焦りが見て取れる。

 

「姉さんどうしたの?!」

『今どこにいるの?!ニュースが見れるものがあったら見てくれない?!」

 

 雷はヘッドギアの通信機能で切歌の携帯に電話をかけていた。ビルの上を走って煙の上がっている港に向かっている。少し前にヘリが撃墜されたのだ。

 如何やらニュースを確認できるところに来たらしい。切歌が、

 

『姉ちゃんたちが向かった火災のニュースが出てるデスよ!』

「ならその奥に、煙が上がってるの見えない?!」

『煙……?」

 

 調たちがモニターを見上げる。注意深く確認していると、奥のほうでS.O.N.G.所属の装者輸送ヘリが撃墜されるのが見えた。

 

「今の……?!」

「空中で爆発したデス!」

『見えた?!」

 

 雷の声に慌てて答える。

 

『見えたデスよ!って、もしかして姉ちゃんが電話を掛けたのって……』

 

 ビルを跳び越えながら雷は歯噛みする。自分と違って彼女たちがギアを纏うにはリンカーが必要だ。なくても纏えるかもしれないが、そうした場合負担は大きくなる。これから戦うのは未知なる敵。装者の中でも高い戦闘力を持つクリスが苦戦するような敵だ。

 それらをすべて勘定に加えたうえで、彼女たちの姉としてではなく、戦うものとして、

 

「ヘリの墜落した港に向かって!ギアを纏ってもいい!」

『了解デス!』

『わかった』

 

 通話が切れる。電話越しだが、彼女たちの声が輝いている気がした。こんな言葉を出せる自分が嫌になる。

 

「何かあったら……私の所為だな……」

 

 小さく呟き、クリスと合流するために加速した。

 

○○○

 

 ディーラー風の女の戦闘をしていたクリスだったが、船を落としてくるという常識はずれな攻撃を避け、これからの戦法を考えるために草むらに避難していた。

 

「ハチャメチャしやがる……」

「大丈夫ですか……?」

「あぁ……。ってぇ?!」

 

 背後から声をかけられ、返事しながら振り向く。しかし、少女の恰好を見て赤面し、思わず尻もちをついてしまった。少女の服装は体をすっぽりと隠す大きさのローブに下着が一枚だけ、あまりにも破廉恥な服装だった。クリスの反応をも無理もない。

 

「おまっ、その恰好……」

「あなたは……」

 

 慌ててクリスは顔を隠し、

 

「わ、私はぁ、快傑☆うたずきん!国連とも、日本政府とも全然関係なく、日夜無償で世直しを……」

「イチイバルのシンフォギア装者、雪音クリスさんですよね」

「その声、さっきアタシを助けた……」

 

 まったく言い訳にも何にもなっていないクリスの言葉に、少女が口をはさんだ。少女の声はクリスが少し前に助けてもらった少女のものだ。

 少女はフードをまくり、素顔を晒した。

 

「ボクの名前はエルフナイン。キャロルの錬金術から世界を守るため、皆さんを探していました」

「錬金術……だと……」

 

 新たなワードにクリスは息をのんだ。

 海中を航行する潜水艦、S.O.N.G.の本部ではローブの少女、エルフナインの錬金術の意味を解析していた。

 

「錬金術……。科学と魔術が分化する以前の、オーバーテクノロジーだった、あの錬金術の事なのでしょうか……」

「だとしたら、シンフォギアとは別系統の異端技術が挑んできているということ……」

「新たな敵……、錬金術師……」

 

 弦十郎は腕を組み、言葉をこぼした。

 

○○○

 

 錬金術師、キャロルの姿をスマホで撮影する青年がいた。うまく撮影された映像を満足げに見ながら。

 

「こういう映像ってどうやってテレビ局に売ればいいんだっけぇ?」

「断りもなく撮るなんて……」

「ッ?!」

 

 青年の横にはいつの間にか青いワンピースを着た少女が壁にもたれかかっていた。青年は反射的に飛びのく。だが少女は歩み寄り、

 

「しつけの程度がうかがえちゃうわね」

 

 青年の顎に手を添え、口づけ強引に交わす。すると髪の毛が白髪化した。少女は舌なめずりをし、小悪魔的に笑った。

 響はキャロルを見上げながら、

 

「戦ってでも欲しい真実……?」

「そうだ。お前にだってあるだろう?だからその歌で月の破壊を食い止めて見せた……。その歌で!シンフォギアで!戦ってみせたッ!」

「違うッ!そうするしか、無かっただけで……。そうしたかったわけじゃない……。私は、戦いたかったんじゃない!シンフォギアで、守りたかったんだ!」

 

 響は訴えるが、キャロルは表情を歪め、

 

「それでも戦え……!」

 

 彼女の足元に橙色の錬成陣が展開される。

 

「お前に出来ることをやって見せろ!」

「人助けの力で……、戦うのは嫌だよ……」

「ッ……。お前も人助けして殺される口なのかッ!」

 

 キャロルは両腕を掲げ、頭上にも足元と同じ錬成陣を展開する。その様子をS.O.N.G.は捉えていた。

 

「高出量のエネルギー反応!敵を前にしてどおして戦わないんだ!」

 

 藤尭の疑念はもっともだ。しかし、命の危機を前にしても戦えないのが響が響たるゆえんなのだ。我慢の限界が来ていた弦十郎は立ち上がり、

 

「救援を回せ!いや……相手がノイズで無いならオレが出張るッ!本部を現場に向かわせろッ!」

「いけません!指令がいないと指揮系統がマヒします!」

 

 弦十郎の行動に友里が反対意見を出す。至極まっとうな反論に歯噛みしてしまう。

 響は攻撃が来ることを理解していてもギアを纏わない。

 

「だって……さっきのキャロルちゃん……、泣いてた……」

「ッ?!」

「だったら、戦うよりも、そのわけを聞かないと!」

 

 キャロルの顔が怒りに歪む。それは響に対してか、自分に対してかもわからない。

 

「見られた……!知られた……!踏み込まれた……!世界ごとッ!」

 

 叫びと共に指をパチンと弾く。すると紋章が浮かび上がり、錬成陣に刻印される。それと同時に錬金術が完成し、

 

「ぶっとべぇぇぇッ!」

 

 周囲一帯の地面をえぐり、壊し、破壊した。響の体があまりの威力に吹き飛び、悲鳴は破壊音にかき消される。

 S.O.N.G.では予想を遥かにこえる出来事に混乱し、情報収集と響の安否を大急ぎで行っている状態だ。響は何とか無事だった。近くにあった瓦礫に手をかけ、何とか体を支える。キャロルも怒りのままに錬金術を使ったからだろう。肩で息をしている状態だ。

 響は、

 

「どうして……世界を……」

「父親に託された命題だ……。お前にだってあるはずだ……」

「え……。おとう、さんに……」

 

 父親と言うワードが心の傷口に引っかかる。そんな二人を、さっきの青いワンピースの少女が、上にある渡り廊下から、

 

「めんどくさいやつですねぇ~」

「ん……。見ていたのか……。性根の腐ったガリィらしい……」

 

 如何やらキャロルの仲間のようだ。ガリィと呼ばれた少女はひょいっとためらうことなく飛び下りた。明らかに人間であれば足を痛めたりするような高さなのだが、彼女も人間ではないらしい。バレエのように音もなく着地した。カラコロと可愛らしい音を鳴らしながらその場で回転し、

 

「やめてくださいよぉ。そういうふうにしたのはぁ、マスターじゃないですかぁ……」

 

 心外だというような顔をしている。如何やら仲間内でも言われるほど性根が腐っているらしい。

 

「思い出の採集はどうなってる」

「順調ですよぉ。でもミカちゃん~、大喰いなので足りてませぇん!」

 

 明らかにわざとらしくウソ泣きをしている。彼女たちが口づけをして集めていたのは思い出らしい。キャロルは分かっているためまったく反応せず、

 

「なら急げ、こちらも出直しだ」

「りょうかぁ~い!ガリィ頑張りまぁ~す」

 

 そう言って中に液体の入ったアンプルのようなもの―テレポートジェム―を取り出し、地面に投げつけた。するとそれは砕け、その場所を中心に波紋が広がると錬成陣が輝いた。そこにガリィは立ち、

 

「さよならぁ~」

 

 と場違いなほど明るく、手を振りながらその場から消失した。次いでキャロルもテレポートジェムを取り出し、

 

「次は戦え……。でないと、お前のなにもかもをぶち砕けないからな……」

 

 ガリィと同じようにしてキャロルも姿を消した。残された響はへたり込み、

 

「託された……?私には、お父さんからもらった物なんて……、なに、も……」

 

 体に限界が訪れる。響は気を失い、地面に倒れ伏した。




このシーンを見るたびに戦わなくても身を守るために纏えばいいのにって思う。まぁ、それが出来ないのが響なんですけどね。

雷と響はホントに違うのに似ていて、似ているのに違いますね。

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