戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~   作:兵頭アキラ

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アルカ・ノイズ登場!
そして最後のほうに……?


歌の鎧は崩れ落ち

 倒れ伏した響を救出するため、S.O.N.G.は早急に対応していた。他の装者たちにもその事実を通達する。。弦十郎の頬を汗が伝う。

 

(なんだ……?この拭えない違和感は……!)

 

 彼の疑念をよそに、事態は進展し続ける。

 

○○○

 

 一方、ロンドンでは翼とマリアがオートスコアーと名乗った女から逃走すべく車へと向かっていた。火急の事態故、アイドル衣装から着替えてすらいない。途中で黒服の一人が、

 

「エージェントマリア!あなたの行動は保護プログラムにて制限されているはず!」

「今は有事よ」

 

 マリアはにべもなく一蹴し、

 

「車両を借り受ける」

 

 車のそばに立っていたタクシーの運転手に断らせぬ勢いで告げた。黒服たちが一斉にピストルを向け、警告する。

 

「そんな勝手は許されない!」

「ッ」

 

 ピストルを向けられ、マリアは歯噛みするが、彼らの後方から三回の発砲音が聞こえてきた。

 

「なんだ?!」

「体が、動かない?!」

 

 マリアにピストルを向けたまま、黒服たちの体が固定されている。よく見ると彼らの影に弾丸が突き刺さっていた。緒川だ。

 

       『影縫い』

 

「緒川さん?!」

 

 緒川は黙ってうなずいた。如何やら何をしようとしているか理解しているようだ。翼は助手席に乗り、マリアは運転席に乗りながら、

 

「悪いが翼は好きにさせてもらう!」

 

 マリアはエンジンを点火し、一気にアクセルを踏み入れた。速度を上げていく車の後ろを見ながら、

 

「一体何が……」

 

 と緒川はつぶやいた。

 響が倒れたという連絡がエルフナインを連れたクリスの耳に入る。彼女は目を見開き、

 

「何だってぇ?!あのバカがやられた?!襲撃者に?!」

『翼さん達も撤退しつつ、体勢を立て直してるみたい何だけど……』

 

 連絡係の友里の言葉にクリスが腹立たし気に歯を食いしばった。さっきまで交戦していたディーラー風の女の姿、バケモノじみた戦闘力を持つ錬金術師の姿が蘇る。

 

(錬金術ってのは、シンフォギアよりも強ええのかッ?!)

 

 だが今はそれよりも優先すべきことがある。チラリとエルフナインのほうを向き、

 

「こっちにも252がいるんだ!ランデブーの指定を……ッ?!」

 

 背筋に来るような攻撃の気配。クリスは咄嗟にエルフナインを抱えて飛び退いた。さっきまでいた場所が爆発する。よく見ると爆心地の縁が赤く発光し、そのあたりから同じく赤い粒子が漂っている。

 

「何だ……?コイツ……」

 

 他の装者、当然雷にも響が倒れたという連絡が届いている。彼女は危うく取り乱しそうになるも気をしっかりと持ち、

 

「響は……無事なんですか……?」

『ええ。バイタルは安定しているわ……』

「ッ……わかりました。クリスの援護に向かいます」

 

 自分がもう少し待っていれば響は傷つかなかったかもしれない。

 雷は唇をかみながら「フーッ!フーッ!」と自分への苛立ちから荒く息を漏らしていた。恐らく通信で友里も聞こえていただろう。すぐに駆け付けたい衝動にかられたが、今戻っても彼女を傷つけた敵がいるわけではない。ならばと気持ちを何とか切り替え、さらに深く足を踏み込んだ。

 

○○○

 

 翼たちはロンドンの街を車で逃走していた。電話越しに聞こえるかなり焦った声をした緒川が、

 

『翼さん!いったい何が起きているんですか?!』

「すみません。マリアに何か考えがあるようなので、そちらはお任せします」

 

 隣でハンドルを握るマリアはさっきから黙ったままだ。翼は通話を切り、

 

「いい加減説明してもらいたいところだ」

「思い返してみなさい」

「?」

 

 マリアに言われた通り、さっきの女との戦闘を思いかえす。明らかに誘うような戦い方、待ち焦がれていたと言った彼女の言動。その全てを勘定に入れ、マリアは断言する。

 

「奴の狙いは他でもない、翼自身とみて間違いない」

「っ」

「この状況で被害を抑えるには、翼を人混みから引き離すのが最善手よ」

「ならばこそ、皆の協力を取り付けて……」

 

 翼は反論するが、

 

「ままならない不自由を抱えている身だからね……」

 

 マリアの脳裏に死刑を回避した日、その条件を提示されて日のことが蘇る。

 自身の高い知名度を生かし、事態を穏便に収束させるため、国連所属のエージェントとして聖遺物を悪用する組織に潜入捜査をしていた。というカバーストーリー。実は正義の味方だったアイドルがチャリティーコンサートを行うというプロパガンダ。

 そんな提案を自分たちと行動してきた、一時的とはいえ協力した仲間たちの将来を人質に取られ、彼女は強制的にそれを受け入れさせられた。

 マリアは悔しさに歯を食いしばりながら、

 

(それでも、そんなことが私の戦いであるものか……!)

 

 表情を歪ませるマリアの横顔を翼が見つめる。そしてふと前を向くと、振り切ったはずのフラメンコドレスを着た女が目の前で剣を携えて待ち構えていた。

 

「マリアッ!」

「っ」

 

 マリアはブレーキを踏むことなく、アクセルをさらに踏み入れた。車は加速するが、女は避けるようなそぶりを全く見せず、剣を勢い良く振りぬいた。

 それは車の上半分を真っ二つに切り裂いた。二人は咄嗟にリクライニングレバーを引き、その斬撃を回避する。まさに紙一重のタイミングと位置だった。

 運動エネルギーに従って走り続ける車の中で起き上がる。翼がペンダントを取り出し、聖詠を歌う。

 

「Imyuteus Amenohabakiri Tron」

 

 青き剣のシンフォギア、天羽々斬を身に纏う。爆発する車からマリアを救出し、月をバックに跳躍した。そして着地後、マリアから手を離し、刀を大剣へと変形させて斬りかかる。女も剣で受け止めた。彼女は落ち着き払った声色で、

 

「剣は剣でも私の剣は剣殺し、『ソードブレイカー』……」

 

 剣殺しの名の通り翼の大剣が粉々に砕け散る。大剣へと変形させる前の刀を構えたままバックステップで距離をとる。

 すると女は赤い発光体の入った結晶を取り出し、自身の周囲にばらまいた。道路に当たって結晶が砕け、中の発光体が露出する。そしてその発光体は化学式のような陣を作り出し、そこから無数のノイズが召喚された。

 

「ああ、そんな……ノイズ?!どうして……?!」

 

 ネフィリムの炎で焼かれたはずのノイズが目の前によみがえったのだ。マリアがうろたえるのも無理もない。

 それは日本。クリスの前にも表れていた。

 

『クリスちゃん!』

「分かってるって。こっちも旧友と鉢合わせ中だ」

 

 S.O.N.G.での解析の結果、やはり過去に出現したノイズと反応波形が一致する。藤尭には昨夜に検知した反応と今回のノイズ反応が一本線に繋がる。

 

「昨夜の未確認パターンはやはり……!」

「ソロモンの杖も、バビロニアの宝物庫も一兆度の熱量に蒸発したのではなかったのかッ?!」

 

 弦十郎は自らの手に拳を打ち付ける。

 そんな会話を雷はビルの上を駆けながら耳にしていた。

 

(一兆度で蒸発しない?!太陽よりも熱いのに?!まさか……でも……それがホントだとしたら……)

「情報が少なすぎる!」

 

 思考を回すが、新たに現れたノイズを見ていない以上確証を掴めない。一つ舌打ちを入れた。

 翼がノイズに刃をふるう。斬断されたノイズの残骸が赤い粒子へと姿を変える。

 

「あなたの剣、おとなしく殺されてもらえると助かります」

「そのような叶え出を、未だ私に求めているとはッ!」

 

 次々に襲い掛かってくるノイズを切り裂いていく。再び刀を構え、

 

「防人の剣は可愛くないと、友が語って聞かせてくれた!」

「こ、こんなところで言うことか……!」

 

 場違いだが翼は笑みを浮かべ、彼女の物言いにマリアは赤面する。雪崩かかってくるノイズの群れを一息に切り崩し、脚部のブレードを展開して逆立ちのままコマのように切り裂いていく。

 

       『逆羅刹』

 

 場所は違えどクリスも翼と同じくノイズの群れを一掃していく。そこには余裕が見て取れた。アームドギアをガトリングに変形させ、

 

「どんだけ来ようが今更ノイズ!負けるかよッ!」

 

 ノイズを赤い粒子へと変えていった。

 

「間に合ったッ!」

 

 そんな時、雷がようやくクリスのもとへと到着した。ビルの屋上から飛び出し、上空から再び現れたというノイズの姿を視認する。雷は息を呑んだ。姿形は確かにノイズ。しかし、一部が異なっていた。個体によって場所は違えど必ず一つはある発光器官……。

 嫌な予感がする。雷の背筋に寒気が走った。

 

「クリスッ!受けちゃだめだ、避けてッ!」

「ッ?!」

 

 雷の叫びを耳にしたクリスだったがもう遅い。すでにノイズはクリスのアームドギアに触れていた。

 時を同じくして翼の振るった刃の切っ先が武者のようなノイズの発光器官に触れる。すると本来はノイズに分解されないはずのシンフォギアが触れた場所から崩れ始め、赤い粒子へと変換されていく。

 

(剣がッ?!)

 

 ノイズはされに接近し、その発光器官がギアの心臓部、コンバーターユニットを傷つけた。そしてそこからひび割れていく。

 

「何……だと……?!」

「嘘……」

 

 それはクリスも同じだった。予想を遥かに上回る出来事に思わず言葉をこぼした。

 街灯の上でディーラー風の女がポーズを決めながら、

 

「ノイズだと、括った高がそうさせる……」

 

 ノイズに対抗するために存在するはずのシンフォギアが、ノイズによって分解されていく。

 

「敗北で済まされるなんて、思わないことね」

 

 S.O.N.G.では彼女たちと同じ、いや、それ以上に混乱に落ちていた。

 

「どういうことだ?!」

「二人のギアが分解されています!」

 

 突然雷からの通信が入る。

 

『あれはノイズなんかじゃありませんッ!ノイズの皮をかぶった別物ですッ!』

「ノイズでは……ない……?!」

 

 別位相に存在する居城、チフォージュ・シャトー。その玉座にキャロルは鎮座していた。

 

「アルカ・ノイズ……。何するものぞッ!シンフォギアァァァァァァッ!」

 

 彼女の絶叫がシャトー内部に響き渡る。新たに現れたノイズの名はアルカ・ノイズ。台座には目覚める前の、ガリィにミカと呼ばれた赤いオートスコアラー。

 そして地下奥深くにあるチフォージュ・シャトーの心臓部。キャロルの計画に必要なこの城の動力源。

 その中心部。紫の道化師のような恰好をしたオートスコアラーが、片手で逆立ちをしてポーズを決めながら、目覚めの時を待っていた。




さて、彼女はどんな名前で、どんな性格で、どんな錬金術を使うのでしょう?
皆さんも考えてみてはいかが?

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