戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~   作:兵頭アキラ

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うーん、泣きながらのセリフがうまくいってるかが心配。


癖と本音

 夜、翼は自らの屋敷で火を灯した蝋燭に囲まれながら瞑想していた。しかし、今までにも何度も出てきた自身の弱さが引き起こした奏の事、そして一か月前に起きた、ある少女のことが頭から離れない。

 

(あの子・・・轟とか言ったか?私の技は立花を狙っていた。にもかかわらず彼女は立花の代わりに、あろうことか私を迎え撃とうとした・・・。あの時、おじ様が間に合ってくれたからよかったものの、もしも彼女の技が私の技よりも弱かった場合、よくて腕、最悪命を落としていたかもしれない。ついこの間まで日常に身を置いていた少女がなぜ、臆することなく即座に行動できたのか・・・)

 

 翼の技、天ノ逆鱗は攻撃が当たるまでに若干のタイムラグがある反面、巨大かつ強力だ。しかし、その巨大な剣に今まで日常を過ごしていた雷がそれを恐れることなく、その隙をついて響を守ることが出来たのか。その僅かな違和感が翼を悩ませていた。

 

(そして立花の「代わりになる」という言葉に反応した轟の表情・・・私と同じようなものを背負っていたのだろうか・・・)

 

 迷いを振り切るようにそばに置いていた刀を抜き、目の前の蝋燭の火を切ろうとする。しかし、剣先がぶれ、火にあたる直前に翼は刀を止める。迷いを認識した翼は刀を鞘に納め、部屋を静かに後にする。蝋燭の火は、翼の迷いを表すかのように静かに揺らめいた。

 

○○○

 

 三人の寮室にて雷、響の携帯のアラームが鳴る。その音を聞いて雷がゆっくりと目を覚まし、響はどう言い訳しようかと顔を歪める。気になった未来が二人に声をかける。

 

「何?まさか、二人とも朝と夜を間違えてアラームセットしたとか?」

 

 伸びをして、まだ少し眠そうな目をこすりながら雷が口を開く。

 

「ん~・・・ふぅ。私は、この時間に予約してた新しく発売される本を受け取りに行くだけ・・・」

「雷、本好きだもんね。気を付けて行ってらっしゃい。門限とかはこっちで何とかする」

「うん。行ってきます」

 

 軽く洗面所で顔を洗って制服に着替え、靴を履いて二課へと向かった。

 まだ答えを出していない響のほうに未来は体の向きなおす。響が頭に手を当てながら言い訳を考える。

 

「いやぁ、えっと・・・」

「こんな時間に用事?」

「あっははは・・・」

 

 響は力なく笑うことしか出来ない。

 

「夜間外出とか、門限とかは雷みたいに私で何とかするけど」

「うん・・・。ゴメンね・・・」

 

 未来は流れ星の動画を映したパソコンの画面を響に向け、ニコニコしながら口を開く。

 

「こっちの方は、何とかしてよね」

「あっ・・・」

「三人で流れ星を見ようって約束したの、覚えてる?山みたいにレポート抱えてちゃあ、それもできないでしょ?」

「うん!何とかするから!だからごめん・・・」

「もう・・・。それまでに雷とも仲直りしてよ?何があったのかは聞かないけど、私も二人がぎくしゃくしてるのは限界なんだから」

 

 服を脱ぐのにもたついている響に歩み寄る。

 

「・・・ほら、万歳して」

「・・・私って駄目だよねぇ・・・。しっかりしないといけないよね・・・今よりも。ずっときっともっと」

 

○○○

 

「遅くなりました!」

 

 ドアが開いて響が入室する。弦十郎に了子、翼、そして雷が既に部屋に集まっていた。響が了子に頭を下げる。

 

「すみません」

 

 それを咎めず、頷いて了子が説明を始める。

 

「それじゃあ、全員揃ったところで、仲良しミーティングを始めましょ」

 

 その言葉を聞いて、響の顔が雷と翼のほうを向く。雷は本から目を上げず、翼は目をつむってドリンクを飲んでいる。モニターにノイズの発生地点がマーキングされたマップが表示される。弦十郎が響に質問する。

 

「どう思う?」

 

 響がモニターに目を向ける。

 

「いっぱいですね!」

 

 弦十郎が笑い、雷は本で顔を隠しているが肩が震えているので笑っているのを耐えているのがまるわかりだ。

 

「ははは!まったくその通りだ。コレは、ここ一か月にわたるノイズの発生地点だ。ノイズについて二人が知っていることは?」

 

 弦十郎は雷と響の二人に話すを振るが、二人はそろって授業やニュースで聞いたところを伝える。それを聞いて、了子がノイズについて特別講義を始めた。ノイズははるか大昔から存在していたこと、ノイズの発生件数はそんなに多くなく、今の状態が異常だということ。つまり、ノイズの発生には何らかの作意が入っていることを説明する。

 

「作為?・・・ノイズって操れるの?」

「中心点はここ、私立リディアン音楽院高等科。我々の真上です。サクリストⅮ、デュランダルを狙って、何らかの意思がこの地に向けられている証左となります」

「あの、デュランダルっていったい?」

 

 オペレーターが口を開く。

 

「デュランダルはここよりもさらに下層、アビスと呼ばれる最深部に保管され、日本政府の管理下にて我々が研究しているほぼ完全状態の聖遺物。それがデュランダルよ」

「翼さんの天羽々斬や、雷ちゃんのケラウノス、響ちゃんの胸のガングニールのような欠片は、装者が歌って、シンフォギアとして再構築させないとその力を発揮できないけれど、完全状態の聖遺物は、一度起動した後は百パーセントの力を常時発揮し、さらには装者以外の人間も使用できるであろうと、研究の結果が出ているんだ」

 

 そこで了子が振り返り、自信満々に声を上げる。

 

「それがぁ↑私の提唱した櫻井理論!だけど完全聖遺物の起動には、相応のフォニックゲイン値が必要なのよねん」

 

 雷は両親のノートを記憶していたおかげでついていくことが出来たが、響は理解できていないようだった。

 弦十郎が口を開く。

 

「あれから二年・・・今の翼の歌であれば、あるいは・・・」

 

 翼の表情が曇る。オペレーターたちが起動実験の話を後ろでしている間、雷は本を壁にしながら、響は横眼で翼を見つめる。翼がカップを握りつぶした。響が俯き、雷が慌てて本に目を戻す。

 

「風鳴指令」

「そうか、そろそろか」

 デュランダルや、米国政府の話をしている中に緒川が割って入る。

 

「今晩は、これからアルバムの打ち合わせが入っています」

「んぇ?」

 

 響が素っ頓狂な声を上げる。緒川が外していた眼鏡をかけ、響に話しかける。

 

「表の顔では、アーティスト風鳴翼のマネージャーをやってます」

 

 雷と響の二人に名刺を差し出し、二人は目を輝かせて受け取る。

 

「ふおぉぉ!名刺をもらったのなんて初めてなんです!」

「私もです!コレはまた結構なものをどうも」

 

 翼と緒川が退室する。その日は二課の敵がノイズだけでなく、人間であることも確認した日だった。

 

○○○

 

 響が学校を歩く翼に目を奪われて先生に怒られ、それを未来が心配し、昼食をとっている間も「私は呪われている!」と、叫ぶ何時もの日常が送られる。ただ、一つ違うのは響に対して雷が無視を決め込んでいることだ。

 

 放課後、レポートを提出した響の様子を見に、未来が職員室の前で待機する。未来の制服の袖が軽く、後ろに引っ張られる。後ろを確認すると、グレーの長髪をした女の子が俯いて、両手で未来の袖をつまみながら立っていた。雷だ。

 

「わかった、あとで話を聞くね?」

「・・・」

 

 雷は何も言わず、こくんと頷く。いまいち距離感を掴むことが苦手な雷が誰か一人だけに話を聞いてほしいときにする癖なのだ。扉が開き、響が姿を現す。如何やら時間を過ぎていたがレポートは許してもらえたようだ。響と未来は喜び合い、雷は未来の背中に隠れる。

 

「雷も心配してきてくれたんだ!」

「・・・」

 

 響がのぞき込み、雷がフイっと顔を横に向ける。響が雷がとっている行動を見て、未来に声をかける。

 

「未来、雷の話、聞いてあげてね」

「うん。わかってる。ここで待ってて!響のカバン、取ってくるから!」

 

 未来は雷の手を取って響のカバンを取りに行く。その時に雷の話を聞くつもりなのだ。二人は教室に入ると、未来がドアの鍵を閉める。誰も入ることは出来ない。窓から入る夕日が二人を照らす。未来が優しく抱きしめながら聞き出す。

 

「どうしたの?」

 

 頭を撫でていると雷がしゃくり声を上げながら言葉をこぼす。

 

「わ、私、やっぱり壊れてるよ・・・。響と未来に、い、いっつも心配かけて、何回、ちゅ、注意されても自傷とか、じ、自殺衝動とか収まらなくて、も、申し訳ないと思うたびに、自殺したくなって。で、でも響が私と約束したことをや、破ったら怒って、ほ、ホントは怒りたいのは二人だって同じはずなのに、きょ、境遇のせいで躊躇させちゃって、・・・ホントに最低だよね、私」

「ううん。そんなことないよ。雷は響が約束を破ったから一か月も怒ってたの?」

 

 こくんと頷く。

 

「さ、最初は、自分が収まったらす、すぐに謝ろうと思ってたんだ・・・。で、でも一日無視してたら、じ、自分でも収拾がつかなくなって、響がこっちを見たり、話しかけてくれるたびに無視して、こ、心がいたくなって、美味しそうに私の食べれない量を食べてたり、友達と笑うのを見るたびに、そ、それを共有できないことがつらくて・・・。未来ぅ、私・・・どうしたらいいかなぁ・・・?」

 

 未来に抱きしめられながら涙を滝のように流す。「大丈夫、大丈夫」と、頭を撫でながら背中をポンポンと叩く。

 

「だったら今日、一緒に流れ星を見ながら仲直りをしようよ。私が星にお祈りをするからさ、ごめんなさい、しよ?」

「うん・・・うん」

 

 未来の提案に、泣きながらうなずく。

 

「もう、大丈夫?」

「だ、大丈夫!」

 

 未来が雷から体を離し、ポケットから取り出したハンカチで顔を拭いてあげる。その時、携帯が鳴った。着信音は二課からだ。雷は悲しそうな顔で携帯を見ると、響のカバンを持った未来に申し訳なさそうに話しかける。

 

「ごめん。先、行っといて・・・」

「うん。わかった」

 

 響のカバンを持った未来を、教室から見送る。雷は携帯を強く握りしめ、通話ボタンを押した。




次回、曇に曇った雷の心はどうなってしまうのか?!

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