戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~   作:兵頭アキラ

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ルシフが目を覚まします。キャラ的に気に入らない人もいるかも?


オートスコアラー全機起動

 翼とマリアは日本へ帰国すべく専用のジェット機に乗っていた。天羽々斬がノイズに破壊されてしまうという本来なら在り得ない事態に直面したうえ、襲撃者、ファラの実力が自分よりも強いという事実が翼の表情を暗くさせる。

 彼女の中でロンドンを発つ直前のトニー・グレイザーとの会話が蘇る。

 

「日本に戻ると?」

「世界を舞台に歌うことは、私の夢でした。ですが……」

 

 胸の前で拳を握り、決意する。それを見てトニーは、

 

「それが君の意思なら尊重したい。だが、いつかもう一度自分の夢を追いかけると、約束してもらえないだろうか?」

「それは……」

 

 この先の戦い、どうなるか翼自身もよくわからない。勝つことが出来れば御の字だが、負けてしまうかもしれない。もしそうなれば自分の命などありはしないだろう。というよりもすでに命をとして戦うなど承知の上、覚悟の上だ。結局、彼に返答することが出来ず、あいまいな返事でロンドンを出立した。

 そんな彼女をマリアが見つめていると、ジェット機のアナウンスが鳴った。もうそろそろ日本へと到着する。戦いは避けられない。

 緒川に荷物を預け、暗い表情のまま空港内を歩いて行くと、

 

「翼さーん!マリアさーん!」

 

 と、響の元気な声が聞こえてきた。相も変わらず元気そうに腕をぶんぶんと振っている。彼女を見ていると、翼のこわばった頬も自然とほころんだ。

 

○○○

 

 雷たち装者全員がS.O.N.G.基地である潜水艦にそろっていた。彼女たちお前で弦十郎は腕を組み、

 

「シンフォギア装者勢ぞろい……とは、言い難いのかもしれないな」

 

 モニターに破壊されたギア二基のコンバーター、その詳細が表示される。

 

「これは……?」

「新型ノイズに破壊された、天羽々斬とイチイバルです」

「ひどい……」

 

 実物を見なければさらに細かいことは分からないが、一目見ただけでかなりの損壊があることが見て取れた。思わず雷がつぶやいてしまう。

 藤尭が補足する。

 

「コアとなる聖遺物の欠片は無事なのですが……」

「エネルギーをプロテクターとして固着させる機能が、損なわれている状態です」

 

 マリアがフロンティア事変で完全に損傷したアガートラームを取り出し、

 

「セレナのギアと同じ……」

「もちろん治るんだよな?」

 

 クリスが腰に手を当てて言うが、彼女の横で真っ先に雷が首を振る。

 

「櫻井理論は世界に開示されてるし、そうでなくても私が覚えているから理論上では可能だよ。でも私には了子さんやお母さんみたいな腕がない……。技術的に不可能なんだ……」

 

 彼女の両親はシンフォギアであるケラウノスを開発した人物だが、彼らは得意分野で仕事を分担していた。母親である瞳がギアそのものを構築する技術者として、父親である斗真が理論を構築した科学者として夫婦でタッグを組んで活動していたのだ。

 雷自身は何方かと言えば父親である斗真似で理論の構築―戦闘の際にも役立てている―は得意だが、それなりの技術はあるものの瞳の域、即ちギアの開発が出来るほどの技術に至っていない。

 彼女の言葉で更に空気が重くなる。

 

「現状、動ける装者は響君と雷君の二人のみ……」

「私達だけ……」

 

 だが、それに反論する者がいた。切歌と調だ。

 

「そんなことないデスよ!」

「私達だって……!」

「駄目だ!」

「ッ」

「雷……」

 

 弦十郎が水を差す。雷は歯を食いしばって俯き、両の拳を握りしめた。あまりに力みすぎているため腕が小刻みに震え、手のひらから赤い血がにじみ出てきている。彼女たちにこんな自信をつけさせてしまったのは自分だと言わんばかりに自分を責める。そんな彼女の肩に響がそっと手を置く。 

 

「どうしてデスか?!」

「リンカーで適合値の不足値を補わないシンフォギアの運用が、どれほど体の負荷になっているのか……」

「君たちに合わせて調整したリンカーがない以上、無理を強いることは出来ないよ……」

 

 実際、昨夜の戦闘データを確認すると、二人の体に少なくない負荷がかかっているのは見て取れた。情もあるだろうが、合理的にも間違っていない。

 

「何処までも私達は、役に立たないお子様なのね……」

「メディカルチェックの結果が思った以上に良くないのは知っているデスよ……。どれでも……」

 

 自分たちの不甲斐なさが情けなく感じる。だが、

 

「こんなことで仲間を失うのは、二度とごめんだからな」

「その気持ちだけで十分だ」

 

 先輩たちがフォローをいれた。

 

○○○

 

 キャロルの居城、チフォージュ・シャトーの玉座の前。そこに起動する前のミカと、シャトーの最奥にある動力部からこちらも起動前のルシフが運び込まれていた。

 まずミカの前にガリィが立ち、

 

「いきまぁ~す」

 

 彼女はミカに口づけを交わし、自分たちオートスコアラーのエネルギーである思い出を譲渡する。エネルギーを入れたミカは古いブリキのロボットのようにぎこちない動きでその場にへたり込んでしまった。まだ完全に馴染んではいないらしい。

 

「最大戦力となるミカを動かすだけの思い出を集めるのは、存外時間がかかったようだな」

「嫌ですよぉ。これでも頑張ったんですよぉ?なるべく目立たずにぃ、事を進めるのは大変だったんですからぁ~ん」

 

 目立たずにと言っているが、人通りの少ない夜中とは言え町中で暴走族の思い出すべてを吸い取るのはその後かなり目立つだろう。

 だが、

 

「まあ問題なかろう……」

 

 と区切りをつけ、中央で片手で逆立ちをして機能を停止しているルシフに向けて、

 

「ルシフ!起きろ、目覚めの時間だ!」

 

 叫んだ。本来、機能停止したオートスコアラーを動かすにはミカにやった通り思い出を摂取させねばならない。だが、彼女は違う。ルシフの行使する錬金術の特性により、彼女は思い出を必要としていないのだ。その為、彼女はキャロルの声ですぐに目を覚まし、

 

「O☆?ボクを呼びましたかマスター☆?出番ですKA☆?」

 

 片手逆立ちの状態から腕だけでぴょんと飛び起き、キャロルの前で仰々しくお辞儀をする。彼女の道化師のような恰好も相まってサーカスのピエロのようだ。

 キャロルは立ち上がり、

 

「これで、オートスコアラーは全機起動。計画を次の階梯に進めることが出来る……」

「ふぁぁぁ……、ぁぁぁぁ……」

 

 満足に腕を上げることすらできないミカが気の抜けるような声を上げた。そんな彼女にルシフははじけるようなステップを踏みながら近寄り、

 

「どうしたんですかミカちゃ~NN☆?おなかでも空いたんですKA☆?ボクと違って思い出がないと満足に動けないなんて不便ですNE☆」

 

 あざ笑うようにミカに顔を近づけた。当然それで不機嫌になったミカはクマのような腕を振るいルシフに攻撃するが、彼女はひょいと体をのけぞらせて回避する。

 そんな彼女たちの間にキャロルが割って入った。

 

「不必要に優等性を主張するなルシフ。それでミカ、どうした?」

「悔しいけどコイツの言った通り、お腹が空いて動けないゾ……」

 

 ミカの言葉を聞いて彼女から距離をとっていたルシフがニヤニヤと笑みを深くする。そんな彼女を無視してキャロルはガリィに命令した。

 

「ガリィ……」

「ハイハイ……。ガリィのお仕事ですよねぇ……」

「ついでにもう一仕事、こなしてくるといい……」

 

 するとガリィは振り向き、

 

「そう言えばマスター、エルフナインは連中に保護されたみたいですよ?」

「把握している……」

 

 キャロルは片目を閉じて言った。そしてしばらくすると彼女はニヤリと笑みを浮かべ、

 

「ほう……?鋭いやつがいるじゃないか。言ってくれる……」

 

 と一人、楽しげにつぶやいた。




ルシフのキャラ付けにはしっかりとした理由がありますので不快に思わないで上げて!
さて、なぜ彼女は思い出を使わずに起動できるのか?彼女の行使する錬金術とは何なのか?こう、ご期待!

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