戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~   作:兵頭アキラ

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この時の響を作者は戦うこと=傷つけることにしかならない子なんだなぁ……と思っていました。
なお、雷は身内を傷つけるものを躊躇いなく殺る模様。


胸の中から消えた歌

 ブリッジのメインモニターにエルフナインの身体情報が表示されている。響たちがそれを見上げているとドアが開き、雷と弦十郎が速足で入ってきた。六人は一声に振り向くが、またすぐにモニターへと視線を戻した。

 雷は頬を上気させながら、

 

「すいません!遅れました!」

「すまない。説明を頼む」

 

 弦十郎の指示に頷き、藤尭と友里が説明を始めた。

 

「エルフナインちゃんの検査結果です」

「念のために彼女の……ええ、彼女のメディカルチェックを行ったところ……」

「身体機能や健康面に異常はなく、また、インプラントや高催眠と言った、怪しいところは見られなかったのですが……」

 

 二人は言葉を濁す。

 その原因はモニターを見れば明らかだ。何故ならエルフナインのメインデータには名前以外の何も、例えば性別や血液型と言った情報が存在していないのだ。

 また、弦十郎は友里の言葉に顔を顰めた。雷によって彼女の見たものがキャロルのもとへと通じている―少なくともその可能性がある―のが発覚したが、こちらの技術では影も形もつかめない。改めて敵対する錬金術の力を痛感する。

 先の続かない二人に響が、

 

「ですが……?」

「彼女……エルフナインちゃんに性別はなく、本人曰く、自分はただのホムンクルスであり、決して怪しくはないと……」

「「「あ、怪しすぎる」デース……」」」

 

 何人かの声が重なった。

 

○○○

 

 陽気な太陽がリディアンに下校する雷たちを照らす。

 すると未来が不意に口を開いた。

 

「私的には、付いてるとかついてないとかはあまり関係ないと思うんだけど……」

「えぇぇええぇぇ?!」

 

 突然響が顔を赤らめ、驚きの声を上げた。エルフナインの性別の事と勘違いしたのだ。

 当然そのことを知らない創世が、

 

「ビッキー何をそんなに?」

「へ?!だ、だって、ナニがどこについてるのかな。なんてそんな……」

「ツイてるツイてない確率のお話です。今日の授業の」

「まーたぼんやりしてたんでしょ?」

 

 ろれつが回っておらず、しどろもどろになりながら答えた響だったが、当然ながらまったく見当違いだったようだ。詩織や弓美の言葉に我に返る。

 

「あ、あっははは。そうだったよね……」

「響って初心いね。そんなことであたふたするなんて」

 

 悪戯っぽいニヤニヤとした笑みを浮かべながら雷が響の顔を覗き込んだ。響は顔を赤らめながらむっとして、

 

「な?!雷だっておんなじ位でしょ?!」

「いっしょにされちゃこまるな~」

 

 雷は口元に手を当て、くるくると回りながら響をからかっていく。そんな彼女を見て、年頃の女子高生である創世たちは興味津々だ。未来は表情を曇らせているが、彼女たちは雷に詰め寄り、

 

「え?!雷って彼氏いたの?!いつ?!」

「え?聞きたい~?」

 

 創世たちは興奮気味に頷いた。雷の口からどのような恋物語が紡がれるのか、全く予想できないからこそ余計に耳を傾けたくなる。ワクワクとドキドキの入り混じった少女特有の感情で胸を躍らせるが、未来が何を言おうとしているのかに気づいた。彼女は底冷えするような冷たい声で笑顔を浮かべ、

 

「雷、冗談でそんなことを言うのなら……分かるよね?」

「ヒッ……。ご、ごめんなさい……」

「もう、雷の冗談は冗談にならないっていつも言ってるでしょ?」

 

 未来の剣幕に雷は完全にしっぽを丸めてしまった。そして未来の反応で雷が何を言おうとしていたのかを理解した創世たちは「そりゃ怒られるよね~」と苦笑いを浮かべた。正直なところ彼女の場合冗談じゃ済まされないのだが、最近未来の前では『明るい雷』で居れたため、少し調子に乗っていた。

 雷としては過去を取り戻し、元々よく言っていたブラックジョーク―彼女が人を揶揄うのはここからきていると言っていい―を今言っているだけなのだが、彼女の周りが過剰反応してそれを許さないのだ。

 内心では、そのことを彼女は昔のようにジョークが言えなくなったのを悲しむと同時に、自分を大切に思ってくれることにうれしく思っている。

 未来は流れを切り替えるようにパンっと手を叩き、

 

「この話はここでおしまい!でも、最近響ってずっとそんな感じ」

「いやぁ、いろいろあってさ……」

 

 少し前、装者たちで集まって話し合いをしていた時の事。

 雷は壁に背中を預け、どうすればキャロルたちを出し抜けるのか、彼女たちの目的は何なのか。様々なことに思考を回し、翼が自身の天羽々斬を破壊したアルカ・ノイズ、武者型ノイズの絵をクリスに見せていた。

 

「コイツが、ロンドンで天羽々斬を壊したアルカ・ノイズ……」

「我ながらうまく描けたと思う」

 

 そこに描かれていたのは、ノイズの特徴が武者であるというところしか合っていない、ただのサムライの絵だった。そして絵も大して上手くはない。

 当然クリスは、

 

「なッ……。アバンギャルドが過ぎるだろ?!現代美術の方面でも世界進出するつもりかぁ?!」

「問題は、アルカ・ノイズと戦えるシンフォギア装者が二人だけという事実よ」

 

 翼とクリスの掛け合いを制し、マリアが最年長としてこの場を仕切る。彼女の言葉に響は眉を顰め、

 

「戦わずに分かり合うことは……出来ないのでしょうか……」

「逃げているの?」

「逃げているつもりじゃありません!だけど、適合して、ガングニールを自分の力だと実感して以来、この人助けの力で誰かを傷つけることが……すごく嫌なんです……!」

 

 響は表情を苦悶にゆがめるが、マリアは一拍置き、

 

「それは……力を持つ者の傲慢だ!」

 

 響の主張を両断した。

 マリアからしてみれば今の自分では扱えぬ力、戦う力を持ちながらそれを振るわぬ響は傲慢に見えただろう。

 

(私は……そんなつもりじゃないのに……)

 

 響の表情は暗い。未来もそれを見て眉を落とす。

 すると詩織が悲鳴を上げた。それにつられて前を歩いた雷たちは慌てて振り返る。するとそこには、生気を吸い取られ、ミイラのようになった複数の死体が転がっていた。

 彼女たちの左側、即ち今まで正面を向いていた方向から嫌な気配が流れ込んでくる。戦う者である雷と響はすぐさまその気配と未来たちの間に遮るようにして並び立った。

 そこには、

 

「聖杯に思い出は満たされて……いけにえの少女が現れる……」

 

 青いワンピースを着たオートスコアラー。ガリィが木陰に立ち、目を瞑ったまま呟いた。

 雷は鋭い視線で彼女の姿をみとめ、攻略のために思考を回し、胸元のペンダントを握る。臨戦態勢は整った。だが、響は彼女とは異なり、

 

「キャロルちゃんの仲間……だよね?」

「そしてあなたの戦うべき敵……」

「違うよ!私は人助けがしたいんだ!だから、戦いたくなんかない……」

 

 オートスコアラーの名の通り、人形のように体を動かさず首だけを向けた。それを響は即座に否定する。そもそもの前提条件を戦うこととしているガリィは舌打ちを入れ、アルカ・ノイズを召喚するジェムを取り出す。そしてそれをカラコロと可愛らしい音を鳴らしながら地面へとばら撒いた。

 地面とぶつかった際の衝撃でジェムが割れ、中から赤い発光体が錬金陣を展開する。陣の放つ輝きからアルカ・ノイズが召喚された。

 ガリィはいやらしい笑みを浮かべ、

 

「あなたみたいなめんどくさいのを戦わせる方法はよく知ってるの」

「こいつ、性格悪っ!」

「アタシらの状況もよくないって!」

「このままじゃ……」

 

 創世たちの混乱を背後に、雷はこの状況を打破するために思考を回す。

 

(私達の状況は最悪。未来たちを守りながらアルカ・ノイズを撃破し、どう動くかわからないオートスコアラーを警戒しなくちゃならない……。でも、一番の問題は……)

 

 横目でチラリと響のほうを見る。感情とは別に動く彼女の研究者然とした合理的な頭脳は、即座に響を足手まといだと断定した。今の彼女は覚悟が決まっておらず、最悪の結果も予想される。

 しかもアルカ・ノイズの発光器官に触れればギアは即座に分解される。それだけでなくオートスコアラーの口ぶりからして狙いは未来たち。彼女たちを守らなくては意味がない。舌打ちを一発入れた。

 ガリィは、

 

「頭の中のお花畑を踏みにじってあげる」

 

 歌うように言いながら指をパチンと弾いた。それを合図にアルカ・ノイズの群れは雷たちに向かって進行し始める。

 

「Voltaters Kelaunus Tron」

 

 雷が聖詠を歌い、稲妻と共にケラウノスを纏う。響も彼女に続いてペンダントを取り出し、ガングニールを起動させようとするが、

 

「……ッ?!……」

「響?」

「響?!早く!」

「歌えない……」

 

 数回せき込んだ後、響がこぼした。ガリィはいら立ちを隠そうとせず、

 

「いい加減観念しなよ……」

「聖詠が……胸に浮かばない……」

「最悪だ……」

 

 自身の思う最悪の展開に陥ってしまったことに雷は歯噛みする。一層鋭くアルカ・ノイズの群れを見据えた。

 

「ガングニールが、応えてくれないんだ……!」

 

 最悪の結果である、状況でも響がギアを纏わない。……響がギアを纏えない状況に陥ってしまった。




雷ちゃん、調子に乗っていたら393に雷を落とされるの巻。そりゃ昔のノリで自虐的ブラックジョークを言えばこうもなろう。

戦場においての有能は生者と死者、無能は怪我人と病人である。

同族:了子さん・フィーネ・ナスターシャ教授・両親・雷

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