戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~ 作:兵頭アキラ
雷とマリア、二人の歌が重なる。
彼女たちは敵対したことはあっても、二人だけで共闘したことはなかった。だが、二人の間には確固たる信頼関係がある。雷と響との組み合わせほどの爆発力はないが、圧倒的な安定性が雷たちを支えている。
雷がマリアの道を切り開くべく電光を纏いながら先行する。マリアの担当はガリィだが前で戦う彼女を無視すようなことはせず、適合係数の不足による負荷を考慮したうえで援護を入れた。
『HORIZON†SPEAR』
(戦える……!この力さえあれば……!)
無力な現状を打破できるかもしれない……。そんな思いと共にガングニールの変形した穂先からエネルギーが放出され、先頭にいた無数のアルカ・ノイズが直撃を受け、爆散する。その爆炎の中から雷が速度を落とさず躍り出る。マリアの力量を理解していないとできない芸当だろう。
マリアのギアを見て響がつぶやいた。
「黒い……ガングニール……」
「でりゃぁぁッ!」
鞭のようにしなる後続のアルカ・ノイズの解剖器官を流れるように回避し、その勢いのまま後ろ回し蹴りを放った。斥力によって空間から弾かれた左足。そこから迸る稲妻が三日月のような軌跡を描き、アルカ・ノイズの脇腹を切り裂いた。
『雷刃抜拳・滅神』
さらにその回し蹴りを放った足を踏み込みに利用し、目の前にいる複数のアルカ・ノイズに高速の乱打を叩きこんだ。あまりの速さに放たれた衝撃が遅れて直撃する。
『雷刃抜拳・神風』
彼女たちの戦闘をブリッジは捉えていた。
「緒川さん、マリアさん到着!」
「ケラウノス、ガングニールエンゲージ!」
「雷君ッ!マリア君ッ!発光する攻撃部位こそ解剖器官ッ!気を付けて立ち回れッ!』
弦十郎の通信を受けながら雷はマリアが接近するための道を切り開いていく。時には格闘で、時には雷撃で、見る見るうちにアルカ・ノイズを惨滅していった。
ガリィが余裕の表情で召喚ジェムを取り出しばら撒き、新たなアルカ・ノイズを召喚するが片っ端から撃破する。彼女との距離が縮まって来たからか、マリアも雷と共に前衛へと並んだ。それでも二人の連携、呼吸は崩れない。
「想定外に次ぐ想定外……。捨てておいたポンコツが、意外なくらいにやってくれるなんて」
ガリィは余裕を保ったまま言った。
マリアが槍を投擲し、アルカ・ノイズを貫くと同時に雷がそこに電撃を流し込んだ。槍を媒介として周囲に拡散した電流が放たれ、アルカ・ノイズを貫いていく。
『DIFFUSION†LIGHTNIN』
そして電撃を放ちアルカ・ノイズを撃破しながら槍へと雷が接近し、アルカ・ノイズもろとも柄の部分を蹴ることで槍は回転しながら彼女の手元に吸い込まれ、頭上に放り投げる。
「受け取ってッ!」
「ッ!」
そしてそれを高く跳躍したマリアが空中で受け取った。
「私のガングニールで……マリアさんが戦っている……」
マリアが纏えて自分は纏えていない。その事実、現実が響に自分に問題があるのだと痛烈に突きつけてくる。
空中で槍を受け取ったマリアは落下する勢いを利用して穂先をガリィに向け、突き下ろした。だが、その息の合った連携はガリィの錬金術、水の力を変質させた氷の障壁によって阻まれてしまう。周囲に氷の塵が舞った。
「「ッ?!」」
冷気を放つ氷の壁は小さい。彼女の両手よりも少し大きいくらいだ。しかも薄く、紙一枚分ほどしかないだろう。しかし、その小ささ、薄さにもかかわらず突破することが出来ない。
「それでもッ!」
マリアは咄嗟に槍を三つに分解し、先端の二つを使って強引に割り開いた。壁、と言うより盾は両手で構築されているため、この方法でなら突破可能なのだ。大槍の中から小さな槍が出現し、それでガリィの胸元に突き刺した。
彼女はうなだれ、誰もが勝利を確信した。だが、マリアによって突き立てられたはずの槍は、その直前で阻まれていたのだ。
ガリィはにたぁっと笑みを浮かべ、
「あたまでも冷しやぁ!」
「マリアッ?!」
胸の障壁を基点に錬金術が展開され、彼女の操る水の奔流がマリアを弾き飛ばした。何とか地面に着地し、槍を地面に突き立ててブレーキを掛けた。ダメージはあまりなかったものの、ギアに限界が訪れていた。ギアのかける負荷にマリアの体も耐え切れなくなっている。立つのでさえもうギリギリだ。
「っ」
「決めた。ガリィの相手はあんたよ」
彼女は深くお辞儀をし、
「いただきまぁ~す!」
「不味いッ!」
地面を凍らせ、鋭角に滑って高速で接近する。雷が間に入ろうと動くが不意を突かれてしまったことで一歩目が出遅れてしまった。必死に手を伸ばすが間に合わない。マリアも負荷が限界で反応が遅れた。
ガリィが右腕を凍らせて氷の刃を作り、コンバーターの破壊を狙う。だが、ついに限界が来た。ギアが砕け、マリアが膝をつく。顔から倒れかけるが、あわやと言うところで手をついた。呼吸は荒く、血涙と喀血が彼女の身にかかっていた負荷の高さを示していた。
雷の跳び蹴りをバックステップで回避し、氷の刃を解除しながら雷を指さし、
「それでもこの程度……。なによこれぇ、まともに歌える奴がコイツしかいないなんて!聞いてないんだけどぉ?」
悪態をつき、舌打ちを打ちながら取り出したテレポートジェムを地面に叩きつけた。
「クッソ面白くない」
捨て台詞を吐きながら、心底くだらないという表情でその場から姿を消した。
「空間移動……あれもまた、錬金術の……」
ブリッジでその一部始終を観測していた藤尭が思わずこぼした。丁度そのタイミングでエルフナインとほかの装者たちがやって来た。
エルフナインが、
「現代に新型ノイズを完成させるとは、位相空間に干渉する技術を備えているということです」
藤尭の疑問に簡潔に答えた。服装は出会った時とは異なり日常的な恰好になっている。キャロルと自分がつながっている事実も受け止め、平静のまま行動していた。
クリスが友里に詰め寄り、
「んなことより、無事なのか?!」
「駆け付けたマリアさんが、ガングニールを纏って雷ちゃんと共に敵を退けてくれたわ」
切歌がそれに真っ先に反応する。
「二人がデスか?!」
「それってつまり……マリアは私達のように……」
調は目を下に向ける。声のトーンも落ちていた。彼女が言わんとしていることを翼は理解した。
「シンフォギアからのバックファイアに、自分をいじめながらか……。無茶をしてくれる……」
血で汚れた顔を拭こうともせず、マリアはペンダントに戻ったガングニールを見つめている。
(もし私が……ガングニールを手放していなければ……!……いや、それは未練だな……)
「マリア……、肩、貸すよ」
「ありがとう。でも、大丈夫よ」
「無理しちゃだめだよ?」
ギアを解除し、心配そうな顔をしながら肩を貸そうとする雷に礼を言い、ふらつきながら彼女は一人で立つ。歩くのがおぼつかないほど体は限界だった。思わず体が動いた雷に軽く支えられながら響のほうへと歩みより、
「怪我はない……?」
どこからどう見てもマリアのほうが重症だが、それでも民間人である創世たちの心配をしている。
「はい。だけど、マリアさんが傷だらけで……」
「歌って戦ってボロボロになって……大丈夫なんですか?」
マリアは一度目を伏せ、
「君のガングニール……」
「私のガングニールですッ!」
「「響ッ?!」」
響が叫びながらマリアの手からペンダントを強引奪い取る。
「これは!誰かを助けるために使う力!私がもらった!私のガングニールなんですッ!」
マリアと響、両者の間にしばしの沈黙が訪れた。先に口を開いたのは響だった。彼女は小さな声で俯きがちに、
「……ごめんなさい」
だが、言葉とは裏腹に彼女の表情は納得していない。不満や憤りを示していた。それを見てマリアは昨夜の会話を思い出した。そしてマリアは一歩踏み出し、
「そうだ。ガングニールはお前の力だ。だから……目を背けるな!」
「目を……背けるな……」
自分にガングニールを託そうとしている彼女を見つめること―自分が背負わなければならないこと―に耐えきれなくなり、響は目をそらした。
・今を共に
雷とマリアのデュエットソング。
年上であるマリアがベースを歌い、雷が引っ張るように歌う曲。二人の共にあり、かつて描いた前へ進みたいという思いが込められた歌。
『DIFFUSION†LIGHTNING』
二人の合体技。マリアが投げた槍に雷が雷撃を当て、拡散させた稲妻の槍で複数の対象を刺し貫く技。稲妻は地面を伝導して狙った対象を下から突き上げるように攻撃する。