戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~   作:兵頭アキラ

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ルシフが遂に姿を現します!さて、彼女はどんな錬金術絵を使うのでしょう?気になりますね!


ルシフの力

 雨が降りしきる中、響と未来は傘を一つ差し、相合傘で帰宅していた。

 普段ならここに雷が居るのだが、今回は調と切歌に連れられてナスターシャの墓参りに行っていたため今回はいない。

 雨が傘に当たるときや、水たまりを踏んだ時の音しかないほどの静寂が二人を包んでいたが、昨日から悩み続けている響に対し、未来が切り出した。

 

「やっぱりまだ……歌うのは怖いの……?」

「え……うん……。雷はああ言ってくれたけど、誰かを傷つけちゃうんじゃないかって思うと……ね」

 

 ずっと悩み続けて上の空だったようだ。響の返事が少し遅れて帰ってくる。

 実は昨日の夜に雷が響の疑問に対する答えを言っていたのだが、彼女が寝ぼけていたことと、あまりにも纏っている雰囲気が異なっていたために呆気にとられてしまい、響に引っかかって入るものの呑み込み切れていない。

 

「響は、初めてシンフォギアを身に纏った時って、覚えてる?」

「どうだったかな……。無我夢中だったし……」

「その時の響は、誰かを傷つけたいと思って、歌を歌ったのかな……」

「え……」

 

 そんなわけない。そんなことあるはずがない。

 自分の中では思ってるのに、ただそう思い込みたいだけなんじゃないか?という自己疑念が渦巻く。結局、響はこの質問に答えることが出来なかった。

 

○○○

 

 本部ブリッジでは、エルフナインによるProjectIGNITEの説明が行われていた。モニターにはこの計画の概要が表示されている。

 すでにキャロルの計画内のこの計画だが、今は躍らせられるしかない。天羽々斬とイチイバルを失った今、現状打破を目論むには必要なことだ。うまくいけば、マリアの所有するアガートラームも復元できるかもしれない。その期待を背負ってるがゆえに翼とクリスは食い入るようにモニターを見つめている。

 

「イグナイトモジュール……。こんなことが、本当に可能なのですか?」

「錬金術を応用することで、理論上不可能ではありません」

 

 緒川の問いにエルフナインは答えた。そして一呼吸おいて、

 

「リスクを背負うことで対価を勝ち取る……。その為の魔剣・ダインスレイフです」

 

 エルフナインが二の句を紡いだ瞬間、ブリッジ内にアラートが響き渡る。即ちアルカ・ノイズが現れたことを意味していた。

 藤尭達オペレーターチームが即座に状況の確認を行う。

 

「アルカ・ノイズの反応を検知!」

「位置特定!モニターに出します!」

 

 アルカ・ノイズの反応パターン、周囲の拡大された地図と共にリアルタイムのカメラ映像が表示された。赤い髪のオートスコアラーが響と未来を追いかけている映像が映る。

 

「ッ?!」

「んな?!」

「ついに……ミカまでも……」

 

 エルフナインがモニターを見ながら呟いた。

 

○○○ 

 

 工事現場の周囲を響と未来が走り抜ける。

 その後ろを自らが召喚したアルカ・ノイズを引き連れながらキャロルの率いるオートスコアラーが一体、ミカが追いかけていた。彼女の人の手をしていない、凶悪な両手を見れば、無知であろうと彼女がどのような目的で作られたかが一目でわかるだろう。

 

「逃げないで歌って欲しいゾ~!あ、それとも、歌いやすいところに誘ってるのか~?う~ん……、おぉう!それならそうと言って欲しいゾ!それ~!」

 

 右手を左手に打ち付け、一人合点すると無邪気にアルカ・ノイズを二人に向けて先行させた。

 ヒルのような個体が道路を分解し、人型がその後を追う。明らかにコースを誘導しているが、ズレてしまえば即座に分解されてしまうだろう。どうすることもできず、響たちは工事現場の中へと駆けこんだ。

 アルカ・ノイズ出現の報告はマリア達にも行われていた。

 

「敵の襲撃?!」

「でも、ここからでは……」

「間に合わないデス!」

「大丈夫!私が間に合わせる!」

 

 マリアの声を聞いて雷は即座に行動に移した。位置的に反対側にあったが、機動力に優れるケラウノスなら間に合うと確信していたからだ。

 雷がそう宣言すると同時にマリアが頷き、自身も頷き返す。

 報告はこちらでするから早く迎え。そう意味が込められた頷きに違わぬように、威力を増していく雨の中を全力疾走しながらギアを纏う。灰色のシンフォギアを纏った雷は、金色の稲妻を放ちながら霊園を囲う林を一息で飛び越していった。

 

○○○

 

 工事現場に駆け込んだ響たちであったが、それは追い込まれていることを意味していた。立場上一般人である未来を先に逃がし、その後を響が走る。

 響が階段を駆け上がり、上の階へと足を掛けようとした瞬間、アルカ・ノイズが階段を分解した。当然、上り切っていない響は下の階へと落下してしまう。

 

「響ッ―!」

「がッ?!」

 

 落下の勢いは強く、端につけられていた手すりを破壊して地面に叩きつけられる。

 強かに背中を打ち付けた響はぼやける視界で未来の姿を捕らえた。

 

「未来……!」

 

 そんな響の視界にミカが割り込み、覗き込んできた。彼女は見降ろしながら、未来を異形の鋭い指で指さし、

 

「いい加減戦ってくれないと、君の大切なモノ解剖しちゃうゾ?トモダチバラバラでも戦わなければ、この町のニンゲンを、イヌをネコをみ~んな解剖だゾ~?!」

 

 実に楽しそうに、実に無邪気に狂喜的で残忍なことを口走った。

 そんなことはさせないと背中の痛みをこらえながら立ち上がり、響は彼女と対峙する。そしてペンダントを取り出し、ギアを纏おうとするが歌を歌うことが出来ない。戦う覚悟が決まり切っていないのだ。

 ミカは拍子抜けした、失望したような表情で、

 

「ふ~ん……。本気にしてもらえないなら……」

 

 ニヤリと笑ってアルカ・ノイズに未来を襲わせる指示を出した。彼女の一つ下の階にアルカ・ノイズが集まってくる。未来はすくみ上りそうな恐怖を押し殺し、未だ歌うことが出来ない響に向けて声を張る。雷が答えを出してくれたのだ、ならばあとの一押しは私しかいないと勇気を振り絞る。

 

「あのね、響ッ!響の歌は誰かを傷つける歌じゃないよ!伸ばしたその手も、誰かを傷つける手じゃないって私達は知ってる!私だから知ってる!だって私は響と戦って、救われたんだよ?!」

 

 響の胸の奥に昨夜の雷の言葉、未来の言葉がしみ込んでいく。まだ言い足りないと未来は響に訴え続ける。

 

「私だけじゃないよ?!響の歌に救われて、今日に繋がってる人はたくさんいるよ?!だから怖がらないでッ!」

「ばいなら~!」

 

 未来の言葉を遮るようにミカが指示を出し、アルカ・ノイズが飛び掛かる。そして彼女の足場を壊し、空中に身を投げ出されてしまった。

 

「うおぉぉぉぉッ!」

 

 響は叫ぶ。魂の限り。

 

「Balwisyall Nescell Gungnir Tronッ!」

 

 彼女の魂の叫びにガングニールは、応えた。

 落下し、響との思い出が描かれた走馬灯を見るが、それは背中に受けた優しい衝撃に酔て吹き飛ばされる。そしてガングニールを纏った少女は、未来を傷つけぬように衝撃を可能な限り殺して着地した。衝撃を逃がした先であるビルの天井が衝撃によって崩れ落ち、溜まっていた雨水が一気に落ちてくる。既に雨はやみ、太陽の光を反射していた。

 

「ゴメン……私、この力と責任から逃げ出してた……。だけどもう迷わない。だから聞いて、私の歌をッ!」

 

 ガングニールの復活は本部のモニターにも映されていた。クリスは腰に手を当て、

 

「どうしようもねえバカだ」

 

 不敵に微笑んだ。当然ビルを跳び越えている雷にも伝えられ、

 

「やった!」

 

 と小さくガッツポーズをして、そして彼女と合流するために急いで急行した。

 ミカと相対する響は未来を下ろし、

 

「行ってくる!」

「待ってる」

 

 短く会話してから一気に踏み込み、歌った。その表情にさっきまでの迷いは見られない。完全に戦う目的を取り戻していた。

 

「うおりゃぁ~!」

 

 ミカは両手いっぱいのジェムをばら撒き、無数のアルカ・ノイズをまとめて召喚する。響はさらにブースターで距離を詰め、懐に入ってからの格闘術で文字通り蹴散らしていく。バンカーユニットを伸長し、地面に叩きつけることで衝撃波を地面に伝導させることで拡散、周囲一帯を吹き飛ばす。

 アルカ・ノイズを殲滅し、残るはミカただ一体。彼女に向けて一気に拳を振りぬくがそこは戦闘特化型、手のひらから射出した赤熱化しているカーボンロッドでたやすく受け止められてしまう。火花が散り、勢いで押し通そうとするが、

 

「コイツ、へし折りがいがあるゾ~!」

 

 ミカは余裕を崩さない。

 本部ではエルフナインがモニターを見据えながら、

 

「これが、戦闘特化したオートスコアラーのスペック……!」

「それがどうした。相手が戦闘特化だとしても、立花が後れを取るなどありえない!」

 

 翼が一蹴する。

 響の拳を受け止めたミカは髪の毛をブースターのようにして押し返し、響を後退させる。が、彼女は直ぐ様アンカージャッキで反動を受け止めつつ力にし、弾き返りながら鳩尾に回転を加えた肘鉄を叩きこんだ。流石のミカも耐え切れなかったようだ、一気に後ろに弾き飛ばされてしまう。

 響はさらに追撃のために加速し、拳を振りぬいた。が、その拳が貫いたのはミカではなく、ミカのように形作られた水の塊だった。当然、拳の威力によって吹き飛ばされた水が宙を舞う。

 

「なッ?!」

 

 驚愕が響を襲う。

 揺れる視界。スローモーションで飛沫が舞う中、奥の柱に人影が見えた。水の錬金術を操るオートスコアラー、ガリィだ。彼女はバレエのようなポーズをとりながら呟いた。

 

「ざぁんねん。それは水に移った幻……」

 

 幸か不幸か彼女によって、響の止まりかけていた思考が回りはじめる。ミカは何処にいるのか?損答は直ぐに出た。自身の下に凶悪な手のひらをこちらに向けて、満面の笑みを浮かべている。

 その笑みのまま、ミカは響のギアのコンバーターユニットに向けてカーボンロッドを打ち込んだ。

 思わず目を瞑ってしまうが、いつまでたっても衝撃が来ない。ゆっくりと目を開けると、雷によってロッドが半分に叩き折られていた。

 

「間に、あったぁッ!」

「嘘でしょ?!」

 

 ガリィは驚愕する。

 雷はスライディングのようにして滑り込み、稲妻を纏った右足でコンバーターユニットに吸い込まれていくロッドを蹴り折る。そしてそのまま蹴った反動で立ち上がった。

 そんな彼女に響は受け止められ、

 

「雷ッ?!」

「歌!取り戻したんだって?!」

「う、うん!」

 

 響の答えを聞いて雷は一層強く抱きしめ、

 

「よし!今は未来の安全が最優先だ。響、彼女を任せていい?」

「分かった。相手は水を使ってくるから、気を付けて」

「大丈夫!雨に濡れてるから気づかないよ」

 

 防御能力を持つ雷がしんがりを務め、響に未来を任せる。

 この作戦を了承した響はガリィの錬金術を警告したが、さっきまで雨が降っていたのが幸いして当たっても気づかないようになっていた。少なくと直撃を受けない限り大丈夫だろう。

 雷は響を下ろし、背中合わせになりながらミカとガリィに向き合う。

 そして、

 

「Ready?」

「何をたくらんでるのか分からないけどやらせないゾ!」

 

 ミカが雷に向けてカーボンロッドを勢いよく撃ち込んだ。それを彼女は真正面から、斥力を纏った右腕一本で受け止め、

 

「GOッ!」

「ッ!」

 

 受け止めると同時に合図を出し、響が駆け出した。

 流れるように雷は『Assault・Force』を起動した。強大な斥力フィールドが彼女を包み込み、襟のユニットからはマフラーのようにはためく稲妻が放出される。そしてその圧倒的な防御能力と高まった破壊力でロッドを完全に受け止め、握りつぶした。

 ガリィはこの光景を見て、

 

「ちょっと!どこが切れ者よ!冴えてるどころか脳筋の極みじゃない!」

「これは燃えるゾ~!」

「ちょっとミカちゃん。アイツの相手はしちゃだめよ」

「えぇ~」

 

 露骨に肩を落とすミカだったが、

 

「まあ、先にやられたから仕返し……ぐらいならいいかもね?」

「おぉ~流石ガリィ。頭がいいゾ~」

「それに、近くまで来てるんだし」

 

 うって変わって満面の笑みを浮かべたミカはロッドを取り出し、ブースターを吹かせて雷に一撃を叩きこんだ。

 

○○○

 

 雷の作戦通り未来を離脱させることに成功した響だったが、予想外の事態に見舞われていた。

 

「何処へ行くんですKA☆?お嬢さんがTA☆」

「全力で行く……!」

 

 道化師のような恰好をしたオートスコアラーが、ジャグリングをしながら響の前に立ちふさがっていた。

 本部でも未確認のオートスコアラーの究明を急いでいた。唯一彼女たちを知るエルフナインが、

 

「駄目です響さん!ルシフとは戦わずに逃げて下さいッ!」

 

 だが時はすでに遅い。既に響はバンカーユニットを全開にして拳を叩きこもうとしていた。ルシフは微笑みを絶やさず、ジャグリングをしながら右足をゆっくりと持ち上げた。

 

「どういうことだ?!」

「ルシフには絶対に勝てません……。何故なら……」

 

 響の拳とルシフの持ち上げた右足が衝突する。だが、

 

「え……?」

 

 響は愕然とした。

 ルシフは何事もなかったかのようにジャグリングしながらそこに立っていた。戦闘特化であるはずのミカを吹き飛ばした一撃をその身で受けながら、平然としている。しかも拳が受け止められている地点からピクリとも前に進まない。

 愕然とする響をよそにボールを投げだしてにたぁっと笑い、

 

「撃った者は撃たれる……てNA☆」

 

 ひょいとその場で空中前転し、響に踵落としを叩きこんだ。それは素人目から見ても威力のある踵落としには見えない。だが、それは響の反応によって一変する。

 

「がはッ?!」

「響ッ?!」

 

 喰らった響だからこそ分かる。この威力は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。響の体は地面に叩きつけられてしまう。そしてルシフは倒れ込んだ響を蹴り転がし、胸のコンバーターを踏み壊した。ギアが崩壊し始め、一糸まとわぬ姿となってしまう。

 未来が悲鳴を上げた。

 

「響ぃぃぃッ!」

 

 目を疑うような光景がモニターに映される中、エルフナインは歯噛みしながら呟いた。

 

「ルシフの司る錬金術はエーテル……。彼女に対する攻撃は、全て彼女の力となるからです……!」

 

 オートスコアラー最後の一体、ルシフ。最強の堕天使の名を冠す通り、その力は、圧倒的だ。




ルシフの戦闘スタイルはX‐MENのセバスチャン・ショウをイメージすると分かりやすいです。彼女は波打ったりしませんが。

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