戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~ 作:兵頭アキラ
本部ブリッジにアルカ・ノイズ出現のアラートが鳴り響く。
事前に予測出来ていたためにそこまでの混乱はなく、各スタッフが迅速に行動に着いた。
「アルカ・ノイズの反応を検知!」
「座標、絞り込みます!」
爆発による衝撃がブリッジを揺らす。
モニターに襲撃座標であるここの発電所が表示された。アルカ・ノイズの攻撃によって発電施設が分解されていく。
「やはり、敵の狙いは、我々が補給を受けている、この基地の発電施設……!」
「何が起きてるデスか?!」
調と切歌がブリッジに駆け込んできた。ケラウノスを除けば稼働できるギアはシュルシャガナとイガリマのみ。それを分かっている彼女たちは力になるべく情報収集に来たのだ。
「アルカ・ノイズに、このドックの発電所が襲われてるの!」
「ここだけではありません!都内複数個所にて、同様の被害を確認!各地の電力供給率、大幅に低下しています!」
モニターには別の発電施設まで攻撃を受けている様子が映し出された。本部が停泊しているこの基地でさえ、稼働率の問題でシンフォギアで守ることが守ることが難しいというのに、他の施設の防衛は不可能と言っていいだろう。
ともかく、何よりもギアの改修が最優先。翼が直近の懸念を口にする。
「本部への電力供給が断たれると、ギアの改修への影響は免れない!」
「内臓電源も、そう長くは持ちませんからね……」
「それじゃぁ、メディカルルームも……」
『私が行きますッ!』
突然、雷から通信が入ってきた。
如何やら走っているらしく、廊下を蹴る靴の音や、声も少しばかり上気している。現状、問題なく稼働できるのは彼女の持つケラウノスのみ。迷うことはないだろう。
弦十郎は冷静に指示を出した
「雷君、知っての通り、今はギアの改修が最優先だ!よって、発電施設の防衛を最優先とする!」
『了解しました!』
少し走る速度を上げたようだ。廊下を蹴る音が少し大きくなってから通信が切れる。
雷の行動を聞いて、調がどこからともなく眼鏡を取り出す。かつてリディアンに潜入した際にかけていたものだ。再びそれを掛ける。
唐突な彼女の行動に切歌が思わず、
「ど、どうしたデス調……!」
「シー……」
「?」
二人は黙って気付かれないようにブリッジを抜け出した。
少し遠いが外から稲妻の音が聞こえてくる。雷が交戦を開始したのだろう。調は急がないとと思いながら走る速度を上げた。彼女の後ろを調がついてきている。彼女も眼鏡をかけていた。
「潜入美人捜査官メガネで飛び出して、いったい何をするつもりデスか?!」
「時間稼ぎ……!」
「何デスと?!」
「今大切なのは、強化型シンフォギアの完成に必要な時間と、エネルギーを確保すること!」
「確かに姉ちゃんも言ってたデスが、まったくの無策じゃ何も……」
調の後をついていきついた先は、メディカルルームだった。彼女はそこへ至る廊下の前で立ち止まり、
「まったくの無策じゃないよ、切ちゃん」
「メディカルルーム……?こんなところでギア改修までに時間稼ぎデスか……?」
二人は響の眠っているメディカルルームに飛び込んだ。如何やら調はここにある何かを探しているらしい。辺りをキョロキョロ見回している。
「このままだと、メディカルル-ムの維持もできなくなる」
そう言って彼女は静かに響の顔を覗き込んだ。そんな調の様子に切歌は微笑ましさを感じる。
「だったらだったで、助けたい人がいると言えばいいデスよ」
「ね、姉さんの大切な人だから助けたいだけ……」
「正直に言えばいいデスのに」
「恥ずかしい……。切ちゃん以外に私の恥ずかしい所見せたくないもの……」
「調~!」
切歌は調の言葉に感激し、抱き着こうとするが、その直前に調は何か見つけたようだ。切歌の抱き着きは無情にも回避され、床に激突する。
切歌を鼻を抑えながら、
「全くなんデスか、もう……」
「見つけた……!」
調はかがみこんで何かのロックを解除していた。目当ての物だったようで、顔に笑顔を浮かべている。彼女たちはこれを二本取り出して使用し、本部の外へと駆け出していった。
○○○
雷は基地の隊員たちと連携をとりながらアルカ・ノイズを迎撃していたが、いかんせん数が多く、救える隊員の命を救っているために戦況はなかなか好転していない。
位相差障壁は従来のノイズよりは弱まっているとはいえ、分解能力は凶悪になっており、さらに言えば今までであれば一対一のダメージレースだったのに対してアルカ・ノイズは分解後も平然と襲い掛かってくるようになっていた。
ダメージを与えられるようになったとはいえ、こちらの被害は増え行くばかり。こんな状況に雷は歯噛みしながら全周囲に稲妻を放射して数を減らしていく。彼女も一応の防御手段があるとは言え、少しでも気を抜けば分解一直線であり、簡単に攻撃が通せるだけで彼らと状況は変わりない。
額の汗をぬぐっていると、
「行くデス!」
「Various Shul Shagana Tron」
「Zeios Igalima Raizen Tron」
「二人ともッ?!」
施設の屋根の上から、調と切歌のギアの起動聖詠が聞こえてきた。流石に予想外だったようで雷が驚きの声を上げる。
シュルシャガナを纏った調は、跳躍して展開したツインテール状のバインダーから無数の小型鋸を投射した。
『α式・百輪廻』
無数の小型鋸はアルカ・ノイズを切り裂いていく。イチイバルほどではないが多数の敵を殲滅するのに向いているギアだ。と雷は常々思う。調は落下と同時に蹴りを見舞うと新たに追加されたヨーヨーを振り回して突撃する。
同じくギアを纏った切歌は鎌の刃を三枚に分裂させ、振り回すことでブーメランのように刃を投擲した。
『切・呪りeッTぉ』
二人の抜群のコンビネーションでアルカ・ノイズが次々に倒されていく。
彼女たちはアルカ・ノイズを殴り抜いていく雷のもとへと駆け寄り、背中合わせに構えた。
「姉ちゃん!待たせたデス!」
「ちょ、二人とも……」
『お前達!何をやっているのかわかってるのかッ?!』
雷が叱る前に弦十郎が通信を入れた。声色からして結構怒っているようだ。
だが、切歌は明るい声で、
「もちろんデスとも!」
「今のうちに、強化型シンフォギアの完成をお願いします……!」
「ッ……!弦十郎さん!今は……!」
清濁かませ呑むしかない。今はこれしか手段がないため、弦十郎は何とか納得する。
とりあえず今はお叱りをしのいだ三人はそれぞれの手段でアルカ・ノイズ殲滅のために動き始めた。雷は稲妻で、切歌は鎌で、調は鋸で。彼女たちは三者三様の方法で攻撃し、アルカ・ノイズはその数を減らし続けている。
切歌が跳躍し、鎌を振り下ろすが遠距離攻撃能力を持つアルカ・ノイズが上空にいる彼女に攻撃する。
「当たらなければぁッ!」
だが、切歌は鎌を振り回すことによって落下する軌道を変え、一気に切り裂いた。
調は脚部の小型鋸をローラーのようにしてアルカ・ノイズの群れの中に入り込み、スケートの要領で体を高速回転させ、スカートを変化させた鋸で切り裂いた。
『Δ式・艶殺アクセル』
雷も妹分に負けじと全身のユニットを展開し、放出した雷をヘッドギアの角に集め、圧縮して出力を引き上げた稲妻を放射した。
『天雷白毫』
雷を中心に稲妻の光線は薙ぎ払うように放たれ、解剖器官で受け止められようともそれ以上の攻撃範囲でもって強引に突破する。
そんな彼女たちを見下ろす二体のオートスコアラーの影があった。
そのうちの一体、ミカは発電施設のパネルの上から身を乗り出し、
「ニコイチでもギリギリ?これはお先真っ暗だゾ」
「ミカの相手くらいそれぐらいで十分ってやつなんじゃな~Ⅰ☆?」
「ルシフの言うことはいちいち腹立たしいゾ……」
にやにやとした笑みを浮かべ、ジャグリング―今回はボールではなくクラブ―をしながら煽った。彼女は思い出を採集、使用する能力を錬金術の特性上持っていないため、自身をオートスコアラーとして劣った存在であると思っていた。
そして感情のベースとなっているキャロルの感情は『劣等感と優等感』。それ故に他のオートスコアラーに対して反動から自らの優等性を示すために煽るような言動をするのだ。
○○○
メディカルルームに眠っていた響は、うっすらと涙を流しながら目を覚ました。現実の世界で、夢の世界ですら手を繋げなかった父親の姿を思い出し、自分の手のひらを見つめる。
(大切なモノを壊してばかりの私……。でも未来は、そんな私に救われたって励ましてくれた……)
気落ちしたまま行くりと起き上がる。
「未来の気持ちに応えなきゃ」
胸に手を当てるがペンダントがない。ルシフによって拳が受け止められ、踏み壊されてしまった時の事を思い出す。
不甲斐なさに、体が震えた。
『天雷白毫』
全身のユニットを展開して発動する、彼女の持つ技の中で最大級の威力を持つ技。アルカ・ノイズの解剖器官を力押しで突破できます。光線は頭(ヘッドギア)から出る!
この作品におけるのちの裏設定ですが、この技を見てマリアはマリア荷電粒子砲を思いつきました。流石に頭は嫌だったようだ。
イメージモチーフはグレンダイザーの『スペースサンダー』