戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~ 作:兵頭アキラ
未来が部屋に響が帰ってきていないことを確認すると、彼女から電話がかかってくる。すぐに通話ボタンを押して通話に出る。
「響!あなた・・・」
『ごめん・・・。急な用事が入っちゃった、今晩の流れ星、一緒に見られないかも・・・』
「えっ・・・?また・・・大事な用・・・なの?」
『うん・・・』
「わかった、なら、仕方ないよ。部屋の鍵開けとくから、あまり遅くならないで」
『ありがとう。ごめんね』
未来は落ち込んだ顔をしながら、響との通話を切る。何か嫌な予感がして、電話帳から雷の電話をコールする。一回もならないうちに、雷が通話に出た。如何やら向こうも掛けるつもりだったらしい。申し訳なさそうに、どもるような声が聞こえてくる。
『み、未来、ゴメン。星、み、見れなくなっちゃった・・・。きゅ、急な用事が入っちゃって、響と二人で行ってきて・・・』
「ううん、響もね、いけないんだって」
『?!・・・わ、私が原因、だよね。私が、み、未来と一緒に見に行くからい、いかなくなっちゃったんじゃぁ・・・』
如何やら雷は自分が未来と星を見に行くから、自分がいるから響がいかないと思っているらしい。彼女の頭は動転して、同じ装者として戦っていることなどすっぱりなくなっているようだった。
「響に限ってそれはないよ。あの時一緒にいたときに響、とっても嬉しそうだったじゃない。あ、そうそう。部屋の鍵開けとくから、あまり遅くならないようにね?」
『う、うん。ごめん・・・なさい』
雷との通話を切る。未来はそのまま床に座り込み、膝に頭を沈めた。
○○○
未来との通話を終えた雷は、頭の中を申し訳なさでいっぱいにしながら地下鉄の中に密集しているノイズへと視線を向け、聖詠を口ずさむ。
「Voltaters Kelaunus Tron」
着ていた制服と包帯が分解され、グレーと金のシンフォギア、ケラウノスを纏う。ノイズに向けて両腕のユニットで生成した稲妻を矢のように形成し、ギアから流れる音楽に合わせて歌い、叫びながら乱射する。
「私のせいだ!私のせいだ!私のせいだァッ!」
『雷乱神楽』
ケラウノスのアームドギアに形はなく、雷そのもの。故に、装者たる雷のイメージによってさまざまな形へと変化するのだ。乱射される稲妻の矢にノイズは串刺しとなり、チリへと姿を変えた。戦いながらも雷の心と頭の中には響や未来のことで頭がいっぱいになっている。それを振り切るように今度は両足のユニットを展開し、電光が迸る。まさしく稲妻がごとき速度で地下鉄内を駆けまわりながら走った際に発生するプラズマと膨大な熱量でノイズを破壊していく。
『電光刹那』
それでも雷の中にある思いが消えることはない。減少するどころか、だんだんと思いが増えてくる。ついに雷の足が止まった。体力がなくなって来たというのもあるが、それ以上に精神的に追い詰められているのだ。瞳孔は開き切り、ぶつぶつと呟き始める。ノイズが群がってくるが、気にしている余裕は雷にはない。
本部はその様子をしっかりとモニターしていた。
○○○
オペレーターが声を上げる。
「轟雷!行動を停止しました!」
モニターに表示される雷の様子を見て、弦十郎が指示を出す。
「藤尭!友里!雷君のバイタルとギアのチェックだ!」
「「とっくにやってます!」」
指示が飛ぶよりも前にオペレーター、藤尭の前にはバイタルが、友里の前にはギアの状態がモニタリングされている。了子が雷の様子を見て通信機の収音機能を最大にし、ノイズの声だけを取り除く。指令室に雷の声が響き渡る。
『私のせいだ・・・私のせいだ・・・私がいるからこうなったんだ・・・。自分は守れないくせに響が約束を破ったら怒って、一か月も無視して・・・未来はああ言ってくれたけど、心の中では私の事を煩わしく思ってるに決まってる・・・。嫌われちゃったかな・・・?い、嫌だ!二人に嫌われたくない!き、嫌われたら私、立ち直れなくなる・・・。怖いよ、お願いだから私を一人にしないで・・・。怖い・・・怖い・・・怖い怖い怖い怖いぃッ!!』
ついに叫び声をあげた雷に対して、弦十郎が叫ぶ。
「落ち着くんだ雷君!心を乱すな!」
『だ、誰?!怒らないで・・・』
今までとは異なる取り乱し方に唸り声をあげることしか弦十郎は出来ない。藤尭が慌てて声を上げる。
「轟雷のバイタル、急激に低下!このままではギアが解除されます!」
「ぬぐぅ・・・」
もたらされた情報に、二課内で衝撃が走る。このままでは、装者が一人失われるという組織としての痛手だけでなく、少女の尊い命まで失うことになるのだから。しかし、その状況はもう一人のオペレーター、友里の発言で一変する。
「なに・・・これ。指令!ギアの出力、装者のバイタルと反比例してものすごい速度で上昇していきます!」
「なんだとぉ?!」
今まで灰色だった部分が黄金に輝くと、両手足や腰のユニットのように電光を放ち始め、全身を覆うように斥力フィールドが展開。それによって周囲を取り囲んでいたノイズが弾き飛ばされ、放出され続ける稲妻によって貫かれる。
『雷帝顕現』
その状況を見て、了子が何とか冷静さを保ちながら解析したデータを弦十郎に説明する。
「これはケラウノスのアームドギアである雷のエネルギーが臨界を超えた状態になっているわ。識別コード的には『雷臨状態』と言ったらいいのかしら?数値的には適合係数にもよるけど、絶唱と変わらないエネルギーを纏っているわ」
「すると、つまり・・・」
「ええ。シンフォギアシステムではない、ケラウノスが固有で持つ決戦機構・・・こうなるわね。ただ、エネルギーが臨界を超えているから、今のギアは地獄の釜、とてつもない熱量で雷ちゃんの体を焼き続けているはずよ」
それを証明するかのように雷のバイタルに火傷によるダメージが表示される。その状態のまま雷は一歩目を地下鉄の線路上で踏み込む。
「駄目だ!その先には響君が!」
弦十郎の声は届くことなく、雷の姿は消失した。
○○○
暴走した響は、目の前で追いかけていたブドウ型ノイズが稲妻の槍で地上へと吹き飛ばされるのを目にし、それを行った張本人、雷が電光を放ちながらゆっくりと響のほうに歩いてくる。
暴走した響と、自身に恐怖を与えるものを粉砕していく雷は一触即発状態に陥るが、シンフォギアが雷の体に限界を感じたのか強制的にギアが解除される。元の制服姿に戻った雷を認識した響は暴走前の状態に戻り、気絶した雷を抱きかかえて雷が開けた穴を通って地上へと戻っていく。打ち上げられたノイズを蒼ノ一閃で斬り裂いた翼が少し離れたところで着地した。
気絶した雷を抱きかかえながら、響が声を上げる。
「私だって、守りたいものがあるんです!だから・・・!」
翼は聞いているのか聞いていないのか、よくわからない表情で沈黙している。
「だからぁ?んでどうすんだよぉ」
どこからか少女の声が響いてくる。月を覆っていた雲が晴れ、少女の姿を照らす。その少女は銀の鎧を身に纏っていた。
「ネフシュタンの・・・鎧?!」
ただの鎧ではない。それはかつて、ライブ会場の惨劇を引き起こした完全聖遺物、ネフシュタンだった。
雷乱神楽
両腕のユニットを展開し、生成した稲妻を矢のように形成して発射する。主に牽制や攪乱に使用されるが、それなりに威力があるためノイズに対しては殲滅手段としてとることが可能。
電光刹那
移動ついでに攻撃が可能な技。両足のユニットを展開し、稲妻を纏うことで圧倒的な加速を行う。雷が持つ技の中では最速で、通った後には空気が過熱されてプラズマが発生し、このプラズマによってノイズを撃破する。ただし、雷の体力が非常に少ないためこの技を使うと現状、すぐに体力切れを起こす。
雷帝顕現
この物語のキー、ほとんどが謎に包まれている。
灰色の部分が金色に変化してユニットと同じ性質を持ち、これまでの比ではない稲妻と斥力フィールドを全身に展開するケラウノスにのみ搭載された決戦機構と思われる物。櫻井理論と轟理論は根幹が同じため、シンフォギアシステム由来ではない力。起動には自我を失うほどの負の感情が必要、と思われる。ギアがカバーしきれないほどの熱量を放ち、三分間の使用で雷の体を守るためにギアが強制解除され、高い出力と熱、自我を失っているのも相まって気絶する。強制解除の時点でなら、二課の技術ですぐに直せる程度の火傷で済む。・・・了子の解析データより・・・