戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~ 作:兵頭アキラ
少し肌寒さの残る山をキャロルとその父親、イザークが登っていく。
山々の間にある平原には黄色い花が咲き乱れ、すんだ青い泉が大空を反射している。それらが自然の美しさと荘厳さを体現していた。
体に見合わぬ黒いとんがり帽子をかぶったキャロルが隣を歩くイザークに問うた。
「パパ、どこまで行くの?」
「この先にある、アルニムと言う薬草には高い薬効があるらしい。その成分を調べて、はやり病を治す薬を作るんだ」
イザークは心の優しい男だった。
普通の錬金術師であれば金を錬成し、巨万の富を得るようなところを、彼は錬金術を人々の幸福のために惜しみなく使っていた。
それには確固とした理由がある。
イザークはその目的を娘であるキャロルに聞かせるために、口を開いた。
「見てごらん」
「わあぁぁぁ……!」
父親に促され、キャロルは大自然に直面し、感嘆の声を上げた。
そんな彼女を微笑ましく思いながら、
「パパはね、世界の全てが知りたいんだ。人が人と分かり合うためには、とても大切なことなんだよ。さあ、もう少しだ。行こう」
人と分かり合うためには、相手を知らなければならない。世界中の人と分かり合うならば、当然それ相応に知らなければならない。イザークはそれを知っていたのだ。
キャロルは世界を知るために、記憶の海から、自身の鎮座する玉座から立ち上がる。
「ああ行くとも。思い出を力と変えて……!万象黙示録の完成のために……!」
○○○
雷、調、切歌たちの奮戦もむなしく発電施設は破壊されてしまったものの、強化型シンフォギアの改修が間一髪で完了した。だが、それとトレードするように彼女たちのギアは破壊、分解されている。しかも彼女たち自身も傷ついている。雷は気を失い、調と切歌もリンカーの副作用もあるだろうが疲労困憊だ。
倒した雷から興味を無くしたルシフはミカと合流し、調と切歌との間に割って入っている翼とクリスの二人に興味を見せていた。
二体から調を庇うようににらみながらクリスが、
「さて、どうしてくれるセンパイ……!」
「反撃……程度では生ぬるいな。逆襲するぞッ!」
ミカは楽し気に、ルシフは品定めするように二人を見下ろした。
本部では一糸まとわぬ柔肌を晒している調が戦闘管制用カメラの範囲内に入ってしまっているため、ブリッジのモニターにでかでかと映し出されていた。
マリアは女性代表として叫ぶ。
「男どもは見るなッ!」
「ぬ」
「んぐっ」
「なっ?!なな何で私までぇ?!」
「わ、ゴメン!つい勢いで……」
彼女の言葉に弦十郎と藤尭が正直に目を背け、何故か響の目を未来が塞いでいた。
大人として、男として言われるままに目を背けた藤尭だが、戦闘管制を担当している以上たまったものではない。職務遂行のため、恥を忍んで進言する。
「モニターから目を離したままでは、戦闘管制が出来ません……!」
「なに?!その必死すぎるボヤキは!」
「調と切歌、雷が撤退するまでの間よ……。それに、今の翼とクリスなら、それくらい問題ないはず」
彼の進言は友里とマリアにすげなく両断されてしまう。マリアには今の二人に戦闘管制などなくても大丈夫だという確信があった。その確信を胸に、黙ってモニターを見つめた。
ミカとルシフがアルカ・ノイズを召喚し、翼とクリスに差し向ける。
改修したシンフォギアにの前に、アルカ・ノイズなどおそるるに足らず。と言うように翼が剣を構えた。
「慣らし運転がてら片づけるぞッ!」
「綺麗に平らげてやるッ!」
二人はアルカ・ノイズの群れに突撃していく。
ギアは攻撃力をそのままに、アルカ・ノイズの解剖器官でも分解されないように防御力が高められていた。故に翼は分解を恐れることなく斬り進み、クリスは躊躇うことなく矢をばら撒いた。
召喚された無数のアルカ・ノイズだったが、二人の重ねた歌による爆発的な出力により瞬く間に数を減らしていった。
無事な調と切歌に運ばれる形で気を失っていた雷が撤退し、戦闘管制に戻った藤尭が翼たちの状況を報告する。
「天羽々斬、イチイバル共に、各部コンディショングリーン!」
「これが……強化型シンフォギア……?」
改修の大半を担当したエルフナインが友里の隣に歩みを進め、計画の詳細を解説し始めた。
「Project IGNITEは、破損したシンフォギア・システムの修復に留まるものではありません。出力を引き上げると同時に、解剖器官の分解効果を減衰するよう、バリアフィールドの調整を施しています」
彼女の言う通り、翼がアルカ・ノイズの解剖器官による攻撃を刀で受け止めたが分解されていない。それどころか逆に切り裂いている。計画は完全に成功していた。
「ここは二人に任せるデス!」
「私達が足手まといだから……!」
上からジャケットだけはおり、調と切歌が気を失った雷を二人がかりで抱えて階段を駆け上がる。調の中に無念が募る。もしも自分たちがもっと強ければ、姉さんは敗れることなく、ギリギリの状態だったかもしれないがルシフを引きつけたままで居れたかもしれない。
もしも、たらればの話ではあるが、そう思えばそう思うほど自分たちが弱いという現実を突きつけられてしまう。
そんな彼女の思いを体現している翼たちはアルカ・ノイズを遂に殲滅し、二人はミカとルシフへとターゲットを変えた。
翼が跳躍し、刀を大剣へと変形させる。クリスはガトリングの砲口をミカ達に向けた。さらに翼は大剣の中から太刀を抜刀し、十文字状に斬撃を放つ。
『蒼刃罰光斬』
放たれた斬撃を見てルシフは建物が受けきれないと判断して跳躍して避け、ミカもそれに追随する。二人の着地地点を読んでいたクリスは二本の大型ロケットを発射した。
『MEGA DETH FUGA』
「ふん。ちょせぇ……!」
二体が爆炎に包まれるのを見てクリスは笑みを浮かべるが、緊張を崩しはしない。ルシフの戦闘力は目に見て理解している。この爆発のダメージを負うどころか力へと変えているだろう。
爆発で発生した煙が晴れる。
そこにいたのはミカとルシフだけではなかった。見慣れぬ錬金陣によって障壁が張られている。
「いや、待て……!」
「何……?」
そこにいたのはキャロルだった。彼女が二体の前に立ち、クリスの攻撃を防いだのだ。
ルシフたちはキャロルの影から出てきて、
「面目ないゾ」
「ボク達だけで十分だったのNI……☆」
「いや、手ずから凌いで分かった……。オレの出番だ」
変わらずキャロルがルシフたちの前に立ち、結論付けた。
クリスが不敵に笑い、翼が僥倖と言わんばかりに気を引き締める。
「ラスボスのお出ましとはなぁ……」
「だが、決着を望むのはこちらも同じこと……!」
経験を積み、適合係数も高い二人を前にしても冷静に、淡々と二体に命令を告げる。
「すべてに優先されるのは計画の遂行……。ここはオレに任せてお前たちは戻れ……」
「分かったゾ!」
「了解でっSU☆!」
ミカは飛び跳ねて空中でテレポートジェムを割り、ルシフは地面にポイッと投げ捨ててジェムを割った。二体が瞬時にシャトーへ転送される。
クリスは敵前逃亡した二体に苛立ちを募らせる。
「取んずらする気かよッ?!」
「案ずるな、この身一つでお前ら二人を相手するぐらい、造作もないこと」
「その風体でぬけぬけと吠える」
敵ではないと言われて噛みつくような翼ではない。刀を構え、戯言と受け流した上で挑発した。
だが、キャロルはその挑発にあえて乗り、
「なるほど。なりを理由に本気が出せなかったなどと言い訳されるわけにはいかないなぁ……ならば刮目せよッ!」
キャロルは自身の真横に錬金陣を構築し、そこから紫色のハープのようなものを取り出した。彼女の取り出した武器らしきものに翼とクリスが身構える。相手は錬金術師、どこからどうやって攻撃が来るかなど想像もつかないからだ。
キャロルは特に変わったこともせずハープを構え、その言をつま弾いた。美しい音色が鳴る。
この瞬間、本部ブリッジではある反応を捉えていた。
「アウフヴァッヘン?!いえ、違います!ですが非常に近いエネルギーパターンです!」
「まさか……聖遺物起動?!」
「ダウルダブラのファウストローブ……!」
ファウストローブ。
シンフォギアとは似て非なる、いうなれば錬金術師のシンフォギアをキャロルは身に纏う。しかも、体を成長させることによって翼の挑発に真っ向から向かい合った。
キャロルと翼、クリスが激突する。
雷に対して姉の期待を乗せて見る調ちゃん。自分たちが重荷となって彼女が負けたのを結構深刻にとらえています。頑張って強くなろうね!