戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~   作:兵頭アキラ

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心の闇のシーンは一人称で行きましょう!


ダインスレイフの闇

 生身でもシンフォギアを防ぐほどの力を持つキャロルが錬金術師のシンフォギア、ファウストローブを纏ってしまえばどれほどの戦闘能力を持つのか。そんな事言うまでもないだろう。

 急成長させた体に不具合はないかを確認するために自らの胸を揉みしだき、

 

「これくらいあれば不足はなかろう?……らぁッ!」

 

 指先からハープの弦のようなものを伸長させ、翼とクリスを切り裂きにかかった。彼女たちは跳躍して避けるが、先ほどまで自分たちのいた地面がまるでゼリーのようにたやすく切断されるのを目撃した。

 次いで翼めがけて横薙ぎに払われた弦を彼女は伏せることで回避する。切り裂いた所が燃料タンクであったために爆発が発生した。爆炎の中、翼は立ち上がり、

 

「大きくなったところでッ!」

 

 刀を携えてキャロルに突進し、

 

「張り合うのは望むところだッ!」

 

 アームドギアでガトリング砲を形作ることで弾幕を展開した。

 だがキャロルは二人の攻撃の芽をつぶすべくファウストローブの背部ユニットを展開し、そこに張られた弦を爪弾くことで水と炎の錬金陣を展開した。錬金陣から特大の火柱と水柱が二人に放たれ、光線の様に一直線に打ち込まれる。

 何のデメリットもなくこれほどのエネルギーを扱るわけがない。そのことに疑問を持った藤尭が言葉をこぼした。

 

「歌うわけでもなく、こんなにも膨大なエネルギー……一体どこから……?」

「思い出の焼却です」

「思い出の?」

 

 答えは直ぐに出た。キャロルの生み出したホムンクルスであり、彼女と同じ錬金術師であるエルフナインが応える。

 

「キャロルやルシフを除いたオートスコアラーの力は、思い出と言う脳内の電気信号を変換錬成したモノ。作られて日の浅いものには力に変えるだけの思い出が無いので、他者から奪う必要があるのですが、数百年を長らえて、相応の思い出が蓄えられたキャロルは……」

「それだけ強大な力を秘めている……!」

 

 戦闘状態でなければ今すぐにでも雷のもとへと向かいたいマリアが結論を先回りした。だが、一つ疑問が残る。それを弦十郎はエルフナインに問う。

 

「力へと変えた思い出はどうなる?」

「燃え尽きて失われます。……キャロルは、この戦いで結果を出すつもりです……!」

 

 キャロルの指先から延ばされる弦が縦横無尽に駆け回り、戦場を切り裂いていく。誘爆によって発生した爆風に巻き込まれ、翼が地面に叩きつけられた。キャロルはその隙を見逃さず、錬金陣からエーテルの光を放った。全弾が命中し、翼の体が炎に包まれる。

 

「センパイッ!」

「その程度の歌でオレを満たせるなどとッ!」

 

 クリスのいた場所に弦を放つ。クリスは跳躍して避け、空中で反転してアームドギアから巨大な二本の矢を放つ。

 

       『GIGA ZEPPELIN』

 

 放たれた矢はクラスター弾のように空中で分散し、キャロルに向かって雨のように降りかかる。キャロルはそれを弦を高速回転させることですべて切り刻み、そのままドリルのようにしてから風の錬金術を纏わせてクリスに突き放った。

 指向性を持った竜巻は地面をえぐりながらクリスへと襲い掛かる。回転する竜巻の中心は無風。故に拘束されてしまったクリスは回転する弦の突きを喰らい、竜巻に巻き込まれながら上空へと巻き上げられ、自由落下にて地面に叩きつけられた。同様に巻き上げられた瓦礫が翼とクリスに降りかかる。

 二人はキャロルの前に膝をついていた。激痛を思考の外に押しやり、翼は立ち上がろうとする。

 

「まだよ!まだ立ち上がれるはずよ!」

「イグナイトモジュールの可能性はこれからです」

「イグナイト……」

 

 『点火』をイメージさせるその単語に、響は言葉をこぼした。

 翼とクリスは呼吸を荒げながら立ち上がる。追い詰められながらでも、クリスは悪態をつくことを忘れない。

 

「くそったれがぁ……!」

「大丈夫か……?雪音……!」

「あれを試すくらいにゃぁ、ギリギリ大丈夫ってとこかな……!」

 

 翼はクリスの身を案じるが、帰ってきたのはやれるという言葉。そんな二人をキャロルは見下しながら、

 

「フン。弾を隠しているなら見せて見ろ。俺はお前らの全ての希望をぶち砕いてやる!」

「付き合ってくれるよな?」

「無論、一人で行かせるものかッ!」

 

 クリスはキャロルを正面で見据え、翼は彼女に応え、不敵に笑う。そして声を合わせ、叫んだ。

 

「「イグナイトモジュールッ!抜剣ッ!」」

 

 二人は胸のモジュールのウイングスイッチを押し込み、取り外した。無機質な『ダインスレイブ』という音声が鳴り響き、取り外されたモジュールは空中で形を変え、モジュールから光の剣が展開される。それらは二人の胸を刺し貫き、ダインスレイフの漆黒の憎悪と呪いを彼女たちに注ぎ込んだ。痛みと悪意、恐怖が二人の(なか)を暴れまわる。

 

「……ッ、腸を掻きまわすようなッ……、これがッ……この力がッ……」

 

 翼の脳裏にこの呪いの力を知った日のことが蘇る。

 エルフナインがProject IGNITEの概要を話し始めた。

 

「ご存じの通り、シンフォギア・システムにはいくつかの決戦機能が搭載されています」

「絶唱と……」

「エクスドライブモードか……」

 

 『雷帝顕現』も決戦機能ではあるが、ケラウノスにしか搭載されていない為例外とみていいだろう。

 

「とはいえ、絶唱は相打ち前提の肉弾。使用局面が限られてきます」

「そんときゃあエクスドライブで……!」

 

 クリスがならばと続けるが、それは緒川によってすげなく否定される。

 

「いえ、それには相当量のフォニックゲインが必要となります。奇跡を戦略に組み込むわけには……」

「役立たずみたく言ってくれるな!」

 

 自分の意見が否定されたため、クリスが緒川にかみついた。そんな彼女たちを無視してエルフナインが第三の選択肢を提示する。

 

「シンフォギアにはもう一つの決戦機能があるのをお忘れですか?」

 

 ケラウノスの『雷帝顕現』でないとすれば何か?残る選択肢は一つ。だが、それを認めるわけにはいかない。

 

「立花の『暴走』は、搭載機能などではないッ!」

「トンチキなこと考えてないだろうなッ?!」

 

 クリスが感情のままにエルフナインの胸ぐらをつかみ上げる。だが、エルフナインは表情を崩すことなく、流石に息苦しさから声が震えていたが、冷静に答えを出した。

 

「暴走を制御することで、純粋な戦闘力へと変換錬成し、キャロルへの対抗手段とする……。これが、Project IGNITEの目指すところです……!」

 

 本部モニターに呪いによって体が掻き毟られるような痛みに耐える二人が映し出される。

 

「モジュールのコアとなるダインスレイフは、伝承にある殺戮の魔剣。その呪いは、誰もが心の奥に眠らせる闇を増幅し、人為的に暴走状態を引き起こします」

「それでも、人の心と叡智が、破壊衝動をねじ伏せることが出来れば……!」

「シンフォギアは、キャロルの錬金術に打ち勝てます……!」

「心と……叡智で……!」

 

 心を覆いつくさんとする黒き闇と呪いをねじ伏せようと二人は踏ん張り続ける。

 

(あのバカはずっとこんな衝動にさらされてきたのかぁッ?!)

(気を抜けば、まるでッ……深い闇の底に……)

 

 翼の心の闇。

 大好きな歌を歌うステージ、だが、私を歌を聞くのは観客ではない。客席を覆うノイズの群れ。私の歌を聞いてくれるのは敵しかいない。本当は歌いたいのに、肉親である父親に認められたいがため、使命に追われ、その身を剣と鍛えたために夢を見ることすら許されない自分……。誰かを抱きしめることすら許されない自分……。

 そんな自らの闇をまざまざと見せつけられ、急速にバイタルが乱れ始める。

 

「システムから逆流する負荷に、二人の精神が耐えられませんッ!」

「このままでは、翼さんとクリスちゃんがッ!」

「暴走……!」

 

 弦十郎が苦虫を噛み潰したような顔をする。

 

「やはり、ぶっつけ本番では……」

 

 雷によってあらかじめ予測されていたとはいえ、エルフナインを通して完成時期は傍受されているのだ。どれだけ計画を前倒ししようとこの結果は避けれれなかっただろう。だが、それでも、もしもを考えてしまう。

 

「だとしても信じてあげてください。翼さんと……クリスさんを……」

 

 クリスの心の闇。

 リディアンに通い、心の底から安心できる場所を見つけた筈なのに、違和感を感じてしまうアタシ。そんな場所に新しく後輩が入ってきて、先輩らしく胸を張ろうとした筈なのに、何一つ先輩らしいことが出来ないアタシ。残酷な現実がみんなを殺してしまう。それを呼び寄せるこんな自分が幸せを享受しちゃいけなかった。

 嫌だ。一人ぼっちになんてなりたくない。そんな思いを抱えて逃げ出そうとするも、誰かがアタシの手を掴んだ。

 

「すまないな……。雪音の手でも握ってないと、底なしの縁に、飲み込まれてしまいそうなのだ……」

「フン……。おかげでこっちもいい気付けになったみたいだ……。危うくあの夢に溶けてしまいそうで……!」

 

 二人を光が包み込むが、ギアは変貌していない。息も絶え絶えになった彼女たちをキャロルは見降ろした。

 

「不発……?」

 

 本部ブリッジにアラートが鳴り響く。

 

「不味いッ!」

「装者、モジュールの使用に失敗!」

「僕の錬金術では、キャロルを止めることは出来ない……」

 

 落ち込むエルフナインに未来が歩み寄り、

 

「大丈夫……。可能性がすべて尽きたわけじゃないから」

 

 未来はそう言って、握りしめた手のひらを優しく包んだ。響が歩み寄り、確認すると、手の中にはペンダントが握られていた。

 

「それって?」

 

 答えを確信している響がエルフナインに問う。

 

「改修したガングニール……」

「ギアも可能性も、二度と壊させやしないから!」

 

 響はエルフナインを見つめ、笑みを浮かべて力強く言い切った。




雷ちゃんがダインスレイフったらどうなるのか?
愉悦部の皆様ー!楽しみですねー!

さて、かなりヤバい闇をお持ちな雷ちゃんは確実に暴走しますので、暴走状態のアンケートを取りましょう。(分かり難ければ書き直します)
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