戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~   作:兵頭アキラ

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アガートラームの復活と暴走!
うーん、マリアでこれなら雷はどうなってしまうのか?


白銀の左腕は漆黒に染まる

 コンビニへ買い出しに来ていた翼たち三人は、両手に好きなお菓子を詰め込んだレジ袋と、なぜか置いてあったスイカを抱えて退店した。

 調はちゃんと雷のリストに書かれていたものを中心に買っていたのだが、それ以外の切歌が買ったものがそれらを覆いつくし、見えなくなってしまっている。

 

「切ちゃん自分の好きなのばっかり……」

「こういうのを役得と言うのデース!ちゃんとリストの物は買いましたし、姉ちゃんも許してくれるはずデース!」

「もう……」

 

 調は思った。切ちゃんは姉さんに一度叱られるべきなのではないかと。

 翼はそんな二人のかわいらしいやり取りに頬を緩める。

 しばらく歩いていると、ぐちゃぐちゃに壊された社が見えてきた。近隣住民が言うには恐らく機能の台風が原因。とのことだ。

 しかし、三人には破壊された社が不自然に見えた。何故なら所々に氷の塊が突き刺さっているのだ。すぐに水や氷の錬金術を行使するオートスコアラーの一体、ガリィの姿が頭をよぎる。

 雷と響、未来の三人は並んで青い海を見渡す。

 

「みんなと一緒に海に来るなんて、思ってもみなかった」

 

 そんな彼女たちのそばにエルフナインが心配そうな顔で歩み寄ってきた。さっきから遊んでばかりで特訓をしていないことを懸念しているのだ。

 

「皆さん、特訓しなくて平気なんですか?」

「真面目だなぁ、エルフナインちゃんは」

「私の計画も今は『待ち』だしね」

 

 響は大丈夫だと笑顔で答え、雷は自分の計画は順調に進んでいると答えた。だが、エルフナインの不安は止まらない。

 

「暴走のメカニズムを応用したイグナイトモジュールは、三段階のセーフティにて制御される、危険な機能でもあります!だから、自我を保つ特訓を……!」

 

 エルフナインが言い切る前に、海面が急激に盛り上がり、勢いよく水柱がそびえたった。その頂点でガリィがバレエのようなポーズをとっている。

 

「ガリィ?!」

「っ」

 

 即座に雷がジャケットの中からペンダントを取り出し、構える。彼女の顔色は悪い。水に恐怖心を持つ雷にとってガリィとの相性は最悪だ。

 

「夏の思い出作りは十分かしらぁ?」

「んなわけねえだろッ!」

 

 クリスが走り込んで雷たちとガリィの間に入り込み、起動聖詠を歌った。

 

「Killter Ichaival Tron」

 

 ギアを装着してすぐにアームドギアを展開、ガリィに向けて赤い光の矢を連射するが、彼女は意に返すことなくクリスに飛び掛かった。何発かが命中するが矢は彼女の体を通り抜け、水風船のように破裂した。

 既にガリィはデコイとすり替わっており、本物の彼女が装者三人の背後にいきなり現れる。

 

「ぐあッ?!」

「ぐうッ!」

「ッあ?!マリア!」

「二人をお願いしますッ!」

 

 未来とエルフナインをマリアに任せ、雷と響、クリスの三人が行かせまいとガリィの前に立ちはだかった。

 

「キャロルちゃんの命令で動いてるのッ?!」

「さ~ね~?」

 

 そう言ってガリィはアルカ・ノイズの召喚ジェムをばら撒いた。響の問いかけには答えず、あくまで白を切るつもりだ。

 ジェムは砂浜にぶつかって割れ、錬金陣が展開されると同時にアルカ・ノイズが出現する。

 響は突進して乱打で打ち倒し、クリスが矢をまき散らしながら回転することで全周囲の敵に対して効力射を与える。更にアームドギアのボウガンをガトリング砲に変形させて手数と威力を増やし、腰部アーマーから小型ミサイルを発射して航空型も吹き飛ばしていった。雷は稲妻を拳に纏わせながら放電し、目の前のアルカ・ノイズと周囲のアルカ・ノイズを同時に撃破していく。

 海岸から発せられた雷光とミサイルの爆発を見て近隣住民がざわめき、コンビニに行っていた翼たちもそれを目撃していた。

 翼がサングラスを外しながら、

 

「あれは?!」

「もしかすると、もしかするデスか?!」

「行かなきゃ!」

「ここは危険です!子供たちを誘導して、安全なところにまでッ!」

 

 調と切歌を先に向かわせ、翼は近くにいた大人に避難誘導の協力を要請する。が、

 

「冗談じゃない!どうして俺がそんなことを!」

 

 そう言ってこの場にいた唯一の大人が我先にと逃げ出してしまった。翼は不快さを覚えたが顔には出さず、すぐに切り替えて子供たちと向き合った。

 

「大丈夫!慌てなければ危険はない!」

 

 彼女の言葉に従って不安そうな顔を浮かべながら子供たちが指示通りに避難する。避難誘導し終え、調達の後を追って海に向かっていた翼はあの我先にと逃げ出した大人に既視感を覚えていた。

 雷がアルカ・ノイズを殴り抜き、周囲を見渡すとガリィの姿がない。

 

「不味い!オートスコアラーがいない!」

「何ィ?!」

「マリアのほうに行ったんだ!多分!」

「なら急がないとッ!」

 

 マリアのもとには未来とエルフナインがいるのだ。悠長なことしていられない。雷は響と共に前衛を務め、クリスの援護射撃を受けながらマリアのほうへ走り出した。

 マリアと未来、エルフナインの目の前にガリィが着地した。彼女たちの前にマリアが躍り出る。

 

「見つけたよ……ハズレ装者!」

「っ」

「さあ、何時までも逃げ回ってないで!」

 

 錬金術で氷の刃を生み出し、マリアに突き立てようとする。彼女の事を前までと同じと甘く見てはいけない。それを見せるようにマリアがアガートラームの起動聖詠を歌った。

 

「Seilien Coffin Airget-Lamh Tron」

 

 そして冷気を放つガリィの手刀を紙一重で避け、

 

「ッ?!」

 

 ガリィの顔面を勢いよく殴り抜いた。かなり強く拳を入れたため、彼女の体が吹っ飛んだ。そして突き出した拳から全身に向かって新生したアガートラームのギアが展開され、これを身に纏う。

 

(銀の……左腕……)

「マリアさん!それは……!」

「新生アガートラームです!」

 

 顔面を殴り抜かれたにもかかわらず涼しい顔で体勢を立て直し、ギアを纏ったマリアとガリィは相対する。

 

「あの時みたく失望させないでよ?」

 

 あくどい顔をして、ガリィは召喚ジェムをばら撒いた。即座に錬成陣からアルカ・ノイズが召喚される。

 マリアは慌てることなく左腕のアーマーから無数の短剣を取り出し、手に持つ一本を除いてすべて射出した。

 

       『INFINITE†CRIME』

 

 それぞれがアルカ・ノイズへと突き刺さり、赤い塵へと姿を変える。そしてマリアは短剣を逆手持ちにして突撃し、真正面から切り捨てていく。その動きは長きにわたる鍛錬によって体にしみこんだ無駄のない動きであった。

 

(特訓用のリンカーは聞いている……!今のうちに!)

 

 シンフォギアを纏えるとは言え、彼女が纏うにはリンカーが必要だった。効果が切れる前にガリィを倒すため、短期決戦へと持ち込む。

 本部では弦十郎が緒川の報告に驚愕していた。

 

「オートスコアラーの強襲だとぉッ?!」

『はい!装者は分断され、マリアさん一人でガリィに対応しています!』

「慣らしもなしにかッ……!イグナイトは諸刃の剣、あまり無茶をしてくれるなよッ……!」

 

 弦十郎の心配をよそにマリアは戦闘を続ける。

 マリアは周囲を囲うように現れたアルカ・ノイズに対して、短剣を蛇腹状に変化させ、多角的な斬撃で斬り裂いた。

 

       『EMPRESS†REBELLION』

 

「ウワーアタシマケチャウカモー」

 

 ガリィはあまりにも棒読みで行った後、体をのけぞらせて高笑いした。そんな隙だらけな彼女にマリアは斬りかかるが、ガリィは踊るようにそれを避けた。

 

「なんてね」

「ッ?!」

 

 そしてガリィの展開した氷の柱で横から顔面を殴られ、地面を転がされてしまう。手から離れた短剣が地面に突き刺さる。

 

「強い……!だけど……!」

「聞かせてもらうわぁ……」

 

 胸のコンバーターを握りしめ、立ち上がる。

 

「この力で決めて見せる!……イグナイトモジュールッ!抜剣ッ!」

 

 コンバーターのウイングスイッチを入れ、モジュールを起動して取り外し、天高く掲げた。起動したことを証明するように無機質な『ダインスレイフ』の音声が鳴る。そしてモジュールは宙を舞いながら変形し、光の刃をマリアに突き立てた。

 呪いがマリアの心を襲う。

 

「弱い自分をッ……!殺すんだぁッ!」

 

 だが、マリアの心は呪いに耐えきれず、漆黒の破壊衝動にのまれてしまう。

 

「あれれ」

 

 堕ちたマリアは衝動と本能を赴くままに、獣のようにその牙をむいて襲い掛かるがガリィはそれを難なく避ける。

 

「獣と落ちやがった……!」

 

 ガリィが吐き捨てるように言う。

 丁度そのタイミングで雷たちが到着した。

 

「マリア!」

「暴走……?」

「魔剣の呪いに飲み込まれてッ……!」

 

 暴走したマリアはガリィに爪を突き立てようとするが、こともなげに避ける。まったく相手にされていないようだ。ガリィは面倒くさそうな顔をしながら、

 

「いやいや、こんな無理くりなんかでなく……歌ってみせなよ!アイドル大統領ッ!」

 

 クロスカウンターの形で顔面を鷲掴みにし、振り上げて思いっきり地面に叩きつけた。あまりの衝撃で砂煙が舞い上がる。砂煙の中から光の柱が立ち上り、煙が晴れるとそこにはギアが解除され、水着のまま横たわるマリアの姿があった。

 

「ガリィッ!」

 

 身内であり仲間であるマリアがやられるのを見て、じっとしていられるような雷ではなかった。雷光を纏いながら勢いを乗せてガリィに回し蹴りを喰らわせるべく接近する。が、彼女は木の上に飛び退いて回避すると、ポケットからハンカチを取り出してマリアを掴んだ手を拭き始めた。

 

「やけっぱちで強くなれるなどとのぼせるなッ!」

 

 雷に次いでクリスが矢を放つがそれを手で打ち払い、

 

「ハズレ装者にはがっかりだ……」

 

 ハンカチをしまって今度はテレポートジェムを取り出し、地面に放り投げる。ジェムが割れて錬成陣が展開され、ガリィがため息とともに姿を消した。

 雷は舌打ちを打ち、大急ぎで倒れたマリアのもとに駆け寄る。

 

「マリア!大丈夫?!マリアッ!」

「おい!しっかりしろ!」

「マリアさん!……マリアさん!」

 

 彼女のもとにクリスとエルフナインも駆け寄る。

 するとマリアがゆっくりと目を開いた。

 

「勝てなかった……。私は何に負けたのだ……?」

 

 うわごとのように、そう呟いた。




身内に手を出されるとブチ切れる雷ちゃん。
直接の身内がいないからね、仕方ないね。因みにエルフナインと一緒にいる理由は彼女の外見年齢と雷の家族を見れば大体わかったりします。

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