戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~   作:兵頭アキラ

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どうも、好きな映画をPRすると言う英語の授業で『時計仕掛けのオレンジ』を発表したせいでALTに目をつけられてしまった私です。

マリアVSガリィ!


強さとは、自分らしくある事

 チフォージュ・シャトー内、オートスコアラーの並ぶ玉座の間。

 ルシフを除いた彼女たちの定位置たる台座。その空いた一つから赤く淡い光が輝き、テレポートジェムで帰還したガリィが現れた。例によって彼女はバレリーナのようなポーズをとっている。

 そんな彼女にレイアが、

 

「派手に立ち回ったな……」

「目的ついでにちょっと寄り道よ」

「自分だけペンダントを壊せなかったのを引きずってるみたいだゾ」

「うっさい!だからあのハズレ装者から一番にむしり取るって決めたのよッ!」

 

 レイアの皮肉気な問いに素っ気なく返したガリィだったが、ミカの核心をついた煽りに声を荒げてしまう。自分が戦ってて一番気持ちがいい相手だからという理由でマリアを狙うのは、流石性根の腐っているガリィと言えた。

 自分の任務を全力でこなそうとする彼女に、ファラは微笑ましさを感じる。

 

「ホント、頑張り屋さんなんだから……。私もそろそろ動かないとね」

「結果出さないと頑張りなんて無意味なんだからNE☆」

「分かってるつうの!」

 

 結果が無ければ意味がない。と、承認欲求がどのオートスコアラーよりも高いルシフが揶揄い交じりで言い、分かってることを追撃で言われてしまったガリィが怒鳴る。ルシフは、おぉ怖、とあからさまに怯えたようなそぶりを見せるが、顔はニタニタと笑っていた。それを見てガリィは舌打ちを打ちながら自分の頭上にある四色の布を見上げた。

 

(一番乗りは譲れない……!)

 

○○○

 

 日が海に沈みはじめ、青かった空がオレンジ色に変わっていく。ヒグラシが鳴き始めたころ、マリアを除いた装者全員が研究機構の一室に集まっていた。話題はオートスコアラーの行動と雷の計画との照らし合わせ、イグナイトモジュールの暴走によるマリアの変貌だ。

 

「轟、オートスコアラーの行動は計画通りなのか?」

「はい、問題ありません。ただ……」

「イグナイトの制御、だね……」

 

 雷の計画もキャロルの計画も、必ずイグナイトモジュールの使用によるオートスコアラーの撃破がトリガーとなっている。そもそも、雷の計画はキャロルのカウンターなのだ。ある程度同じ道筋を行く必要があるのだ。

 

「そう言えば、マリアさんの様子も……」

「力の暴走に飲み込まれると、頭の中まで黒く塗りつぶされて、何もかも分からなくなってしまうんだ……」

 

 イグナイトモジュールの呪いを経験した響、翼、クリスの三人はその通りだと言うように目を閉じ、まだ起動していない雷、調、切歌の三人の表情が暗くなる。特にこの中でも最も深いトラウマを負っているであろう雷の顔色は芳しくない。そんな彼女を心配して、未来が雷の手に優しく手を乗せる。未来の微笑みに雷は不安の残る、ぎこちない笑みで答えた。

 頭に包帯を巻き、負傷したマリアが一人浜辺に出て、施設の外壁にもたれかかって立っていた。因みにこの包帯は捲きなれている雷が捲いたものである。この時、慣れてるから!と率先してマリアの手当てを担当した雷を、未来と響が何とも言えない表情で見ていたのは別の話。

 マリアはぼんやりと正面を見据えながら、

 

(人形に救われるとは情けない……。私が弱いばかりに、魔剣の呪いに抗えないなんて……)

 

 自分の無力さをひしひしと感じ、握りしめたこぶしを見つめる。力むあまり、拳が震えていた。

 

(強くなりたい……!……っ?」

 

 そうやって悩む彼女の前を、黄色いバレーボールが転がってきた。そしてその後を追ってエルフナインがゆっくりと走ってくる。彼女はマリアの前で立ち止まり、申し訳なさそうに謝ってくる。

 

「ごめんなさい……。皆さんの邪魔をしないよう持ってたのに……」

「邪魔だなんて……。練習、私も付き合うわ」

「はい」

 

 如何やら昼間のビーチバレーの練習をしているようだった。マリアはエルフナインに向き合う。今の自分の暗い気持ちを切り替えるためにも丁度良いと思ったからだ。

 ぱんっとボールと手が当たる音が聞こえてくる。お世辞にもうまいとは言えないが、彼女なりに頑張っているのが見て取れた。

 なかなか上手くならないとエルフナインは肩を落とし、

 

「それ……!……おかしいなぁ、上手くいかないなぁ。やっぱり……」

「いろいろな知識に通じてるエルフナインなら、分かるのかな……」

「ん……?」

 

 ボールを両手で持ったまま、エルフナインはマリアのほうに振り返る。

 

「だとしたら教えてほしい。強いって、どういうことかしら……?」

「それは……、マリアさんが僕に教えてくれたじゃないですか」

「え?」

 

 エルフナインが言った意味がてんで見当もつかず、聞き返そうとしたその時、マリアの背後で突然巨大な水柱が吹きあがった。こんなことが出来るのは現状、水の錬金術を操るガリィしかいない。

 彼女は水柱の上で、

 

「お待たせ、ハズレ装者ぁ~」

「マリアさん……」

 

 マリアはすぐさまエルフナインを庇うように立つ。そして彼女のすがるような声を背に受けながら、頭に捲かれた包帯をほどき、投げ捨てた。包帯が風に流されていく。

 

「今度こそ歌ってもらえるんでしょうね?」

「大丈夫です!マリアさんならできます!」

 

 エルフナインの励ましを背負い、ペンダントを構えて起動聖詠を歌う。

 

「Seilien Coffin Airget-Lamh Tron」

「ハズレでないのなら!戦いの中で示して見せてよッ!」

 

 白銀のシンフォギア、アガートラームを身に纏ったマリアはアームドギアの左腕から短剣を抜き取り、逆手持ちで構える。そんな彼女の前に、ガリィによってアルカ・ノイズが召喚される。

 先手はマリアがとった。目の前のアルカ・ノイズを切り裂き、次いで短剣を蛇腹状に変形させて複数を一気に仕留める。

 彼女たちの戦いを口に赤いバラを銜えたファラが見下ろしていたが、風の錬金術による光学迷彩で姿を消した。

 そしてオートスコアラーの召喚したアルカ・ノイズの反応を藤尭がとらえる。

 

「アルカ・ノイズの反応を検知!」

「マリア達がピンチデス!」

 

 装者たちがすぐさまマリアを援護するために部屋を飛び出して行くが、雷だけが残っていた。最後に響が部屋を飛び出すと同時に、わずかながら弱い風が部屋に吹き込んでくる。

 その瞬間、雷はほくそ笑み、

 

「緒川さん、藤高さん」

「分かりました」

「既に完了してますよ!」

 

 満足げに頷き、遅れて彼女もマリアの援護に飛び出して行った。

 マリアは短剣を投擲し、狙いを違わすことなくアルカ・ノイズに命中させる。道は開かれた。真正面からガリィに突撃する。だが、容易く間合いを詰めらせるようなガリィではない。錬金術で巨大な水の塊を生成し、マリアに打ち放った。

 マリアは短剣を三本放って逆三角形のバリアを構築し、直撃を防ぐ。が、ガリィは水の塊を自身の正面に移動させ、さらに高出力にした水の奔流を叩きつける。マリアも反応してバリアを移動させるが到底受けきれるような大きさではなく、防ぎ切れない末端から凍結し始めた。

 

(強く……!強くならねば……!)

「マリアさん!」

「強くッ……!」

 

 何とか氷を弾き飛ばすが、すでに満身創痍、膝を地面についてしまう。

 

「てんで弱すぎるッ!」

 

 力を得るため、イグナイトモジュールを起動しようとするが、

 

「その力。弱いアンタに使えるの?」

「ッ?!……私はまだ弱いまま……どうしたら強くッ……!」

 

 ガリィの言葉が胸に突き刺さる。

 そんな時、マリアが強さを教えてくれたという、エルフナインの言ってくれた言葉を思い出した。

 

「私が……?」

「マリアさん!」

「?!」

 

 ガリィを恐れず、エルフナインがマリアに思いを届けるために声を張る。マリアが自分に教えてくれたことを伝えるために。

 

「大事なのは!自分らしくあることです!」

 

 その言葉を聞いて、ビーチバレーをしていた時に彼女に自身が言った言葉で思い出す。そうだ。確かに私が言ったのだ。ならば、自分で実行せねばならないと言うように、力強く立ち上がる。

 

「弱い……そうだ」

「ん?」

「強くなれない私に、エルフナインが気付かせてくれた。弱くても、自分らしくある事。それが……強さッ!エルフナインは戦えない身でありながら、危険を顧みず勇気を持って行動を起こし、私達に希望を届けてくれた!」

「ふーん……」

「エルフナインッ!そこで聞いていてほしいッ!君の勇気に応える歌だッ!……イグナイトモジュールッ!抜剣ッ!」

 

 コンバーターのウイングスイッチを入れ、モジュールを起動させる。それを証明するように無機質な『ダインスレイフ』の音声が鳴り、宙を舞った。そして大きく形を変え、光の刃を展開。マリアの体を刺し貫いた。彼女の中を魔剣の呪いが駆け回る。

 

(うろたえるたび、偽りにすがってきた昨日までの私……。そうだ!らしくある事が強さであるならッ!」

「マリアさーんッ!」

「私は弱いままッ!この呪いに反逆して見せるッ!」

 

 遂に、マリアの強い意志が魔剣の呪いをねじ伏せた。白銀が反転し、漆黒に染まる。

 イグナイトモジュールをものにしたマリアにガリィは向かい合う。彼女は手のひらから召喚ジェムを取り出し、

 

「弱さが強さだなんて、頓智を聞かせすぎだってぇッ!」

 

 悪態をつきながらばら撒いた。ジェムが砕け、アルカ・ノイズが召喚される。それに対し、マリアは短剣をアームドギアのガントレットの前方に連結させ、光の刃を弾丸のように連射、アルカ・ノイズを一掃する。

 ガリィはスケートのように砂浜を滑走し、

 

「いいねいいねぇ!」

 

 短剣で胴体を両断されるが泡に変化して分裂する。マリアは再び光の刃を連射し、一気に泡を破裂させた。全部破裂させると、マリアの背後にひときわ大きな泡が現れ、割れると同時に中からガリィが出てきた。

 

「アタシが一番乗りなんだからッ!」

 

 すぐさま距離を詰めてきたマリアの一撃を防壁を展開することで防ぐが、彼女の持つ短剣が光り輝き、強引に防壁を打ち破った。ガリィの顔が驚愕の色に染まる。そしてマリアは短剣をふるった反動を利用してガリィの顎にアッパーを叩きこむ。空中にガリィの体が吹き飛ぶや否や自身も跳躍し、短剣をガントレットの後部に連結させ、刃を巨大化させた。

 腰のブースター、さらにはガントレットのブースターも点火し、勢いを乗せた斬撃ですれ違いざまに両断した。

 ガリィは、

 

「一番乗りなんだからぁ~ッ!」

 

 と言い残し、爆散した。

 

       『SERE†NADE』

 

「マリアさん!」

 

 マリアは一息つくと、走ってくる響たちのほうを向いた。膝をつくと同時にギアが解除される。そんな彼女の前に装者たちはやってくると、翼が口を開いた。

 

「オートスコアラーを倒したのか?」

「どうにかこうにかね……」

「これがマリアさんの強さ……」

 

 エルフナインは強さだというが、

 

「弱さかもしれない……」

「え?」

 

 マリアはそれを否定する。だが、彼女の手にした本当の強さとは、

 

「私らしくある力だ。教えてくれてありがとう」

「はい!」

 

 自分だけの強さを手に入れたマリアは、その強さを教え、教えられたエルフナインに感謝を述べる。そして彼女も、それを満面の笑みで受け止めた。

 施設の屋上に、錬金術による光学迷彩を解除したファラが現れる。

 

「お疲れ様、ガリィ。無事に私は目的を果たせました……」

 

 彼女の長い舌には、ある情報が記録されたカードが張り付いていた。目的を果たしたファラは自らの居城に帰還する。

 彼女の手にした情報に、トラップが仕掛けられているとも知らずに……。

 

○○○

 

 チフォージュ・シャトー、ガリィの台座から青い光が放たれ、彼女の頭上にあった青い布に水の錬金術の化学式が記録される。

 夜。装者たちは浜辺で花火に興じていた。

 クリスが銃型の花火でロケット花火に点火したり、雷が起き型の噴射花火を倒してしまったせいでなんとも虚しい花火になってしまったりと、にぎやかに楽しんでいた。

 調と切歌、雷は線香花火を見つめながら、

 

「マリアが元気になって、本当に良かった……」

「マリアは元気だと安心するもんねぇ……」

「おかげで気持ちよく東京に帰れそうデスよ!……ありゃ」

 

 切歌の火の玉が砂浜に落下した。

 クリスが手持ち花火を束にして両手に持っていると、翼が清々しい晴れやかな顔で腰に手を当て、

 

「うむ。充実した特訓であったな!」

「それ本気で言ってるんスか……?」

「充実も充実ぅ!おかげでお腹もすいてきたと思いません?!」

「いつもお腹空いてるんですね……」

「だとすれば……やることは一つ!」

 

 響の言い様にエルフナインが苦笑いを浮かべた。

 マリアの音頭で全員が円陣を組み、

 

「「「「「「「「「コンビニ買い出しジャンケンポンッ!」」」」」」」」」

 

 響と雷がパーを出し、それ以外の全員がチョキを出した。翼は例によってあの(自称)かっこいいチョキである。

 

「パートは実にお前らしいなぁ」

「拳の可能性を疑ったばっかりに……」

「姉ちゃんがジャンケンで負けるなんて珍しいデス!」

「うん。姉さんが負けるなんて珍しい……」

「やったッ!漸く雷に勝ったわッ!」

「そこまで喜ばなくても……」

 

 涙目の響はクリスに煽られ、並外れた観察眼を持つためジャンケンでほぼ負けなしの雷が負けたことで、ほとんど勝てなかったらしいマリアがあまりにも大袈裟なガッツポーズを決めていた。完全にガリィを撃破した時よりも喜んでいる。

 

「しょうがない。付き合ってあげる」

「ええ!いいのぉ?!」

「買い込むのも大変でしょ?」

 

 未来が二人の同伴を名乗り出た。非力な雷とだと、あまり多く買い込めないだろう、という判断である。未来が二人の間に入り、手を取った。

 コンビニまで歩いて行くと、未来は入り口に入ろうとしたが響と雷は外の自販機にくぎ付けになっていた。

 

「もう何やってるのー!」

「すごいよ未来!東京じゃお目にかかれないキノコのジュースがある!へ?!こっちはネギ塩納豆味?!鮟鱇汁ドリンクって?!」

「響!こっちには蒲焼ジュースがあるよ!わ?!ナニコレ……、さ、サルミアッキ味ぃ?!誰が買ってるんだろう……?」

 

 未来は真剣に奇妙なドリンクを眺めている―決して買おうとはしない―二人を呆れながらも眺めていると、いきなり声をかけられた。

 目の前には冴えない男性が立っている。しかも、その顔にはうっすらと見覚えがあった。

 

「あれぇ?確か君は……」

「?」

「未来ちゃん……。じゃなかったっけ?」

「へ?」

「ほら、昔うちの子と遊んでくれていた……」

「どうしたの?未来……」

 

 横から響の声が聞こえてきた。チラリと横を見ると、すぐそばで男性のほうを向いていた。一方、雷はいまだに自販機のところにいたが、何かあったのかと顔をこちらに向けている。

 男性は一度目を瞑った後、見開いて響のほうを向いた。

 未来の中で確信に至る。彼は……。

 

「響……」

「おとう……さん……」

 

 声が震えていた。

 そして少しの間が空き、響は夜の闇に逃げ出していった。

 

「響ッー!」

「どうしたの響ッ!」

 

 親友たちの叫び声が闇へと吸い込まれていく。




ファラの入手したデータには何が仕掛けられていたのでしょう?

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