戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~ 作:兵頭アキラ
「あ!ここデース!」
共同溝のエントランス前で、切歌が手を振っている。右側から雷が飛び出した。
雷はどうやら植林地を突っ切ってきたようだ。軽く息を荒げ、彼女の長い髪のことろどころに葉っぱが引っ付いている。雷の意外な行動に調と切歌は目を丸くしている。葉っぱを払い取っている彼女に調が取るのを手伝いながら、
「姉さんには珍しい大胆な行動……」
「いやぁ、しらちゃん達の救援だからね。急いできたんだ」
「あ、ありがと……」
何時も優しく自分たちのことを考えてくれる雷の答えに、調は胸の奥が温かくなるのを感じる。
ついで響もこちらに正面から向かってきていた。
だが、響の様子がどう見ても様子がおかしい。涙をぬぐいながら三人の間を通り過ぎる。一瞬だけ見えたが、普段のようなみんなを照らすような笑顔ではなく、怒りや悲しみが入り混じった複雑な表情をしていた。
調が思わず「何かあったの?」と聞くと、響は肩を震わせながら「何でもない……」と声を震わせながら言った。何でもないことはないだろうと、切歌が、
「とてもそうは見えないデス……」
「三人には関係のないことだからッ!」
「ひッ?!」
響の怒鳴り声に完全に不意を突かれたため、雷が小さな悲鳴を上げた。肩を震わせながら身を縮めている。だんだんとマシになってきたとはいえ、未だに不意を突かれると委縮してしまうのだ。調は雷の肩や背中を撫でて「大丈夫だから」と声をかけることで安心させ、彼女を落ち着かせながら、
「確かに、私達では力になれないかもしれない。だけど……それでも……」
「ごめん……。どうかしてた……」
「怒って……ない……?」
「うん……。もう、大丈夫……」
雷がたどたどしく響に聞くと、彼女はひどく落ち込んだような、不安げな声色で答えた。雷がよかったと呟きながらぎこちない笑みを浮かべる。そんな雷に申し訳なさそうな笑みを浮かべながら、響はエントランスの中へ入っていった。その後を雷たちもついていく。彼女は今、調と切歌と手を繋ぎながら歩いていた。
三人に背を向けながら、響は自分の握りこぶしを見つめる。
(拳でどうにかなることって、実は簡単な問題ばかりかもしれない……。だから、さっさと片づけちゃおうッ!)
進んでいくうちに、地下へと続く巨大な穴へと到達した。地上から底まで三本の太いケーブルが伝っている。あれの中に都市を運営するためのエネルギーが通っているのだ。あまりの大きさに、段々と元の調子に戻ってきた雷が「ほわー……」っと謎の声を上げている。
響が振り返り、
「行くよー三人とも!……Balwisyall Nescell Gungnir Tron」
ガングニール、ケラウノス、イガリマ、シュルシャガナを纏った装者たちは溝道内に飛び下りた。重力に従いながら、アルカ・ノイズの反応が検出された場所へと向かう。
調のシュルシャガナがローラースケートのように展開された小型鋸の地面を削る音を響かせ、切歌が鎌を構え、響がマフラーを、雷が腰のマントをはためかせながら溝道内を駆ける。するとすぐに、アルカ・ノイズを召喚する錬金陣特有の赤い輝きが溝道内を照らし、そこからアルカ・ノイズが現れた。四人を取り囲むように召喚されている。
梯子を上った上の作業台に錬金術でケーブルに記入しているミカがいた。彼女は右手をそのままケーブルに添えたまま、響たちのほうを向いた。
「来たなぁ。だけど、今日はお前たちの相手をしてる場合じゃ……」
ミカが言い切る前に、響が跳び出して殴り掛かる。彼女の拳が外壁を貫く。ミカは間一髪で回避していた。尻もちをついた彼女は起き上がりながら苛立ちを隠そうともせずに、
「まだ全部言い終わってないんだゾッ!」
右手いっぱいに召喚ジェムを取り出し、ばら撒きながら後ろに飛び退いた。通路いっぱいにアルカ・ノイズが召喚されるが、響は腰のブースターを点火して正面からなぎ倒していく。彼女の目から煌めくものが見えた。
「泣いてる……?」
「やっぱり様子がおかしいデス!」
「響!いったん落ち着いて!」
雷の声は響に届かなかったようだ。
単騎でミカに挑みかかった響は動きが荒く、自身の拳や蹴撃を力任せに振るうばっかりにミカよりも共同溝内に被害をもたらしている。
一方、三人は息の合った抜群の連携で周囲を囲っていたアルカ・ノイズを倒していく。前衛、中衛、後衛をスイッチしながら、各々の戦闘スタイルが最大限の力を発揮できるよう絶妙に噛み合うようにそれぞれが動いていた。
洸との会話を引きずっている響は目に涙を貯めながら、
(なんでそんな簡単にやり直したいとか言えるんだッ?!壊したのはお父さんの癖に!お父さんの癖に!)
「突っかかりすぎデス!」
切歌の指摘も今の響には届かない。
響は数体のアルカ・ノイズを天井に叩きつけ、バンカーユニットを引き出して外壁ごと殴り抜いた。
(お父さんの癖にぃーッ!……違う。壊したのはきっと、私も同じだ……)
響の動きが止まる。自分の不幸をお父さんに押し付けているだけで、こうなってしまったすべての元凶は自分なのだというところに行きついてしまったのだ。
「しょんぼりだゾぉ!」
戦闘特化型オートスコアラーであるミカが見逃すわけがない。彼女は髪のロール部分をブースターにして飛行しながら、響の動きが一瞬遅れた隙にカーボンロッドを手のひらから射出して叩きつけた。一瞬の隙を突かれてしまった響は防御や受け身をとることすらできず、溝道内を転がり、背後にあった足場に背中からぶつかってしまう。
「言わんこっちゃないデス!」
響のもとに切歌が駆け寄り、防御能力を持つ雷と調が前に立ってアルカ・ノイズを鋸と電撃で撃破した。振り向くと、切歌が響を抱きかかえ、
「大丈夫デスか……?」
心配そうに声をかけるが返事がない。気を失っているようだ。
ミカは手のひらを響たちに向け、
「歌わないのかぁ?歌わないと……死んじゃうゾぉ?!」
彼女の手のひらにある噴出孔から、猛烈な勢いの炎が放射された。迫りくる炎に切歌が目を瞑るが、熱は届くものの炎そのものが到達することはなかった。
切歌が目を開けると、調が大型化した鋸で物理的な障壁を作り、彼女の背後で雷が斥力フィールドと電磁バリアを同時に鋸の前に展開することで炎の進行を防御していた。だが熱は防ぎ切れず、熱で意識をもうろうとさせた調は膝をつく。さらに常に威力の高い部分を観察し、バリアとフィールドをあてがう高速思考を繰り替えしていた雷も熱にやられてオーバーヒートし、鼻血を流していた。地面に赤い染みを作っては炎の圧倒的な熱量によって蒸発していく。
二人の背中を呆然と切歌が見つめていると、
「切ちゃん……大丈夫……?」
「……」
「なわけないデス……!」
意識をもうろうとさせながらも自分たちの盾になっている二人に我慢がならず、眉を顰めながらきつく当たってしまう。
「切……ちゃん……?」
「大丈夫なわけ……無いデスッ……!」
調を守ろうといつも戦っているのに守られて、何時も優しくしてくれる姉ちゃんに恩返しするために戦っているのに守られている。不甲斐ない!情けない!そんな彼女の思いが、初めてオートスコアラーと戦ったあの日の夜、クリス言ったの言葉の意味を理解する。
自然と胸のコンバーターに手が動いた。
「こうなったらイグナイトでッ……!」
「駄目ッ……!無茶をするのは、私が足手まといだから……?」
「二人ッ……ともッ……」
二人の溝が深くなっていく。それに気づいた雷だったが、バリアとフィールドの演算に熱で浮かされている思考力のほとんどを回しているため、上手く言葉に出来ない。
笑みを深めるミカだったが、彼女の脳内にファラが割り込んできた。
『道草は良くないわ』
「正論かもだけど……鼻につくゾッ!」
ミカはさらに火力を上げた。
遂に防ぎ切れなくなり、調、雷、切歌、響が吹き飛ばされ、外壁に叩きつけられる。そしてそのまま落下し、地面に倒れ伏した。
切歌が立ち上がろうとするが、ミカはけだるげに肩を落としながら、
「預けるゾー。だから、次は歌うんだゾー」
無造作に腕を持ち上げて振り下ろし、地面にテレポートジェムをぶつけ割る。まばゆい光が彼女を包み込み、光が収まると、すでにそこにミカの姿はなかった。
「待つデス……よ……」
「切……ちゃん……」
装者全員が気を失ってしまった。
○○○
翼たちが到着したころにはすでに事が終わっており、四人は直ちに医療班によって搬送され、溝道は複数の黒服によって調査されていた。
「押っ取り刀で駆け付けたのだが……」
「間に合わなければ意味がねえ……」
「人形は何を企てていたのか……」
マリアのほうを翼が向く。
彼女の言いたいことは分かっていた。ここの襲撃は雷の予測するキャロルの計画にはないことだ。当然、予測である以上確定ではないのだが、キャロルたちの技術力を前提に考えてもここに来る意味が見当たらなかった。それ故に対応が遅れてしまったのだ。
緒川がタブレットを持って周囲を見渡しながら、最初にミカがいた作業用の足場の上を歩いて行く。
「大きく破損した個所は、いずれも響さん達の攻撃ばかり……」
それはつまり、ミカはここの破壊活動を目的としていないことを意味していた。周りの観察を続けていると、ケーブルの操作パネルが起動していることに気づいた。
緒川の目が鋭くなる。
「これは……、オートスコアラーの狙いは、まさかッ!急ぎ、指令に連絡を!」
「ハッ!」
黒服の一人を呼び出し、気付いたことを弦十郎に伝えるべく指示を飛ばした。
○○○
雷と響は並んで本部医務室のベッドに寝かされていた。二つのベッドの間に未来が座っている。エルフナインがカルテを持ちながら近づいてきた。
「検査の結果、響さんに大きなけがは見られませんでした。雷さんは脳細胞に異常はなく、主にミカの錬金術による熱で血管内に圧力がかかり、鼻から出血したものとみられます。二人とも大したけがはありませんでしたが、安静は必要です」
「良かった……」
「うん……」
「しらちゃん……切ちゃん……」
雷の目線は正面を向いていた。当然見ていてくれていた未来に感謝しているが、目の前で妹分が喧嘩していては気が気でない。切歌が「調が悪いんデス!」と言ってそっぽを向いた。
「切ちゃんが無茶するからでしょ!」
「調が後先考えずに飛び出すからデス!」
「そんなこと言ったら姉さんだってそうでしょ!それに、切ちゃんが私の事を足手まといに思ってるからでしょ!」そう言って調もそっぽを向く。
「姉ちゃんを引き合いに出すのはずるいデスよ!あたしは調のことを言ってるデス!」
ケンカしている二人を始めてみた未来が目を丸くし、
「二人がケンカだなんて……」
「昔は結構よくあったんだよ。最近じゃ私が二人と再会してから初めてかな……。それに、こんな剣呑なケンカ、はじめて……」
彼女たちを良く知る雷が心配そうに二人を見つめながら答えた。彼女からしてもここまでこじれたのを見るのは初めてらしい。マリアならばそうでもないかもしれないが、今ここにはいないため聞く方法がない。響はこのケンカの原因は自分だと理解しているのか、表情を曇らせる。
ケンカしている二人の間にエルフナインが割って入る。
「傷に触るからやめてください!そんな精神状態では、イグナイトモジュールを制御できませんよ?!」
その言葉を聞いて落ち込むが、お互いの顔が視界に入った瞬間、またそろって「ふん!」とそっぽを向いた。二人とも同じタイミングだったため、心の底にある仲の良さが隠しきれていない。それを見て雷が「これなら二人で解決できるかな……」と呟いた。
気付くと響が二人の間に立ち、二人の手を取って重ねた。
「ごめん三人とも……。最初にペースを乱したのは、私だ……」
「さっきはどうしたデスか……?」
「うん……」
「上手く……行かなかったの……?」
切歌が聞いていいものかと不安げに切り出した。何があったかを知っている雷も聞く。
「うん……。あれからまた、お父さんに会ったんだ……。ずっと昔の記憶だと、優しくてカッコよかったのにね。すごく嫌な姿を見ちゃったんだ」
「嫌な姿……?」
響は目に涙をため、
「自分のしたことが分かってないお父さん……。無責任でカッコ悪かった……。見たくなかった……こんな思いをするなら……。二度と会いたくなかった……」
「私が悪いの……、私が……」
「違うよ……未来は悪く無い……。悪いのはお父さんだ……」
「でも……」
響は未来に歩み寄り、肩に手を置いて儚げに笑った。
「平気へっちゃら。だから泣かないで、未来」
「うん……」
父親を知らない調と切歌、父親を失った雷は、言葉をかけることすらできなかった。
ナチュラルにとんでもないことしてる雷ちゃん。
久々に不安定な面が出ましたね。(|)雷は可愛いですね。