戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~   作:兵頭アキラ

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長い割に雷が出ない!ルシフは出るけども!




責任を背負うとは

 響と未来の悲壮な雰囲気に耐えきれず、比較的軽傷だった調と切歌はそろってメディカルルームを退室した。長く姉妹のように行動していた影響で、仲たがいしていても同じタイミングで動いてしまう。それを証明するように二人は同時に向き合い、また、同時に顔をそむけた。

 そんな二人の後を、銃のような形をした圧力式注射器を二丁抱えたエルフナインが追ってきた。注射器には緑色の薬液が充填されている。

 

「これを、調さんと切歌さんに……」

 

 調は「model_K……?」と呟きながら切歌と同時に一丁ずつ受け取る。これで二人は戦うための力を得たのだが、彼女たちの表情は暗い。

 

「オートスコアラーの再襲撃が予想されます。投与はくれぐれも慎重に。体への負担もそうですが、ここに残されたリンカーにも、限りがありますので」

 

 二人は注射器の中のリンカーを、黙ったまま見つめた。

 本部シャワー室。そこで共同溝の調査から帰投した翼、クリス、マリアの三人がシャワーを浴びていた。話題は荒れている響の様子の事だ。

 シャワーを顔から浴びながらマリアが、

 

「やはり父親の一件だったのね」

「こういう時は、どんなふうにすればいいんだ……?」

 

 クリスがこの中で最も一般家庭に近しいであろう翼に答えを求める。が、

 

「どうしていいのかわからないのは、私も同じだ。一般的な家庭のあり方を知らぬまま、今日に至る私だからな……」

 

 家族を持たぬもの、家族を失ったもの、家族を知らぬもの。

 装者たちは、響を除いて全員が家族という物を良く分かっていない。故に、誰もが響の問題解決を手伝ってやりたいと思っていながら、誰も手を貸すことが出来ない。響が自力で解決するのを、見ることしか出来ないのだ。

 一方、ブリッジでは、緒川からの調査報告を弦十郎が聞いていた。

 

「敵の狙いは電気経路の調査だとぉ?」

『はい!発電施設の破壊によって、電力総量が低下した現在、政府の拠点には、優先的に電力が供給されています。ここをたどることにより……』

「表から見えない首都構造を探ることが、可能となるか……」

 

 雷君の計画を早める必要があるかもしれないな……。と、弦十郎は小さく呟いた。

 

○○○

 

 チフォージュ・シャトー玉座の間。玉座に設置された洋服ダンスのような箱に、パイプオルガンのような装置から光が流れ込んでいる。

 台座に立つミカが大きく腕を振り合上げ、「これで~!どや~!」と掛け声をかけて床一面に共同溝から奪取してきた電機経路図を大きく映し出した。自慢の大きな爪で自慢げに鼻をこすり、ミカは台座柄ぴょんと飛び下りる。

 ルシフとレイアがミカの戦果を称賛した。

 

「やるじゃんミKA☆~」

「派手にひん剥いたなぁ……ん?」

「どこへ行くの?ミカ。まもなく思い出のインストールは完了するというのに……」

 

 蟹股で玉座の間から出ていこうとするミカの行く先を、ファラが尋ねる。ミカは苛立ちで声を荒げながら答えた。

 

「自分の任務くらいわかってる!きちんと遂行してやるから、後は好きにさせてほしいゾ……!」

 

 まるで子供のような反論ではあるが、きちんと任務は完遂しているため、誰も文句は言わない。静かになった玉座の間に、ルシフのジャグリング玉のポムポムと言うかわいらしい音だけが響いていた。

 

○○○

 

 日が傾き、ミンミンゼミが鳴く頃、少し小さめの広場の歩道を切歌たちが歩いていた。いつもなら並んで帰っているのだが、今日は切歌が前、調が後ろだ。セミの鳴き声が聞こえてくるばかりで、彼女たちの間に会話はない。

 調が「私に言いたいこと、あるんでしょ……」と口を開いた。

 切歌は脚を止め、調の目を見ながら言い返す。

 

「それは調のほうデス!」

「私は……」

 

 調が目をそらした。そんな反応に切歌も二の句を告げることが出来ず、お互いに黙り込んでしまう。

 そんな二人の横で、爆発が発生した。距離はそれなりにあるだろう。音のした方を向くと、空から赤く熱されたカーボンロッドが雨のように降り注いでいた。逃げ惑う人々の悲鳴が耳に入る。

 

「これは……」

 

 唐突すぎる凄惨な状況に一瞬の見込めなくなるが、彼女たちの背後に落下したカーボンロッドの爆発がこの攻撃に何の意図があるのかを理解させる。

 

「あたし達を焚きつけるつもりデス!」

 

 歪な気配を感じて見上げると、壊された鳥居の上にミカが立っていた。

「足手まといと……軽く見ているのならッ!」頬の絆創膏を引きはがしながら、自身に渇を入れ、シュルシャガナの起動詠唱を歌う。

 

「Various Shul Shagana Tron」

 

 ピンク色のツインテールバインダーが特徴的なシンフォギア、シュルシャガナを身に纏う。そしてすぐにバインダーを展開し、そこから高速回転する無数の小型鋸を乱れ放つ。

 

       『α式・百輪廻』

 

 ミカはそれを避けることなく手のひらから普段の二倍ほどのロッドを取り出し、手首ごと回転させてすべて弾き飛ばした。すべて弾き飛ばすと、ミカはお気に入りの切歌に向かってロッドを射出した。調と同じくイガリマを構えた切歌がミカを自身の戦闘射程に入れるために距離を詰める。

 ブリッジで状況を把握した弦十郎が指示を出す。

 

「今から応援をよこす!それまで持ちこたえ……ぬぅッ?!」

 

 突然、本部潜水艦を衝撃が襲った。こんなところに岩礁はなく、ぶつけるような操舵はしていないはずだ。何があったのか?その答えは本部前方を映すモニターにあった。

 

「海底に巨大な人影だとぉ?!」

 

 その言葉の通り、海底にいた巨大な人影が正面から本部を掴んでいたのだ。けたたましくアラートが響き渡る。

 「私と妹が地味に支援してやる……だから存分に暴れろ、ミカ」海上にはオートスコアラー、レイアがいた。彼女は腕を組み、海底の巨人こと妹と共に、他の装者がミカの戦闘に介入するのを妨害していた。

 そのことを知ってか知らずかミカは調と切歌の二人を相手にして存分に暴れまわっている。手のひらの噴出孔からロッドを打ち放った。調は左右の、切歌は上下の移動で回避しながら距離を詰めていく。そして調は高く跳躍し、体をスピンさせ、スカートそのものを鋸へと変える。

 

 

 

       『Δ式・艶殺アクセル』

 

 スカートの刃をロッドで受け止めたまま殴り飛ばし、追撃を掛けに来た切歌の鎌を回避して背後に回り、蹴り飛ばした。

 調は絵馬掛所の屋根に着地し、切歌は鎌を振り回して強引に制動をとって着地する。ミカは鳥居から飛び下り、長いロッドを首にかけて両手を乗せ、つまらなそうに口を開いた。

 

「コレっぽっちぃ~?これじゃギアを強化する前のほうがましだったゾ……」

「そんなこと、あるもんかデスッ!」

「駄目ッ!」

 

 調の静止も聞かず、ミカの挑発に乗った切歌は彼女に斬りかかる。ミカは跳躍して避けると、切歌もその後を追う。

 空中で鎌を振りかぶり、刃を分裂させて振るときの勢いを利用してブーメランのように投擲した。

 

       『切・呪りeッTぉ』

 

 ミカがそれをロッドで受け止めるが、空中で爆発した。それを見て切歌が「どんなもんデス!」と歓声を上げたが、爆煙でよく見えない。

 煙が晴れると、紙のロールをブースターにして空中に停滞しているミカが、錬金術で展開した無数のロッドを「こんなもんだゾー!」と言いながら放った。ロッドが切歌の逃げ道を奪うように地面に突き刺さる。

 

「連携しないと無理だぞぉ~?」

「躱せないなら……受け止めるだけデスッ!」

 

 先の戦闘で発生したいざこざにまだ意固地になっているようだ。かたくなに調と連携しようとはせず、切歌は自分一人の力でこの窮地を脱しようとしている。まだまだロッドは残っていた。切歌のイガリマでは到底防げるようなものではない。

 それらが直撃する寸前、調が切歌の前に割って入った。バインダーをアームに変形させ、四つの大型鋸で防御壁を形作る。

 

「何でッ?!後先考えずに庇うデスかッ?!」

 

 また助けられた。あたしが調を守ら居ないといけないのに……。そんな思いが感謝よりも先行し、思わず調を突き飛ばしてしまう。

 調はむっとして、

 

「やっぱり、私を足手まといと……!」

「違うデス!調が大好きだからデスッ!」

「え……?」

 

 ミカを刈るために駆け出していった切歌の背中を、調が見つめる。

 鎌とロッドがぶつかり合い、火花が散る。ミカの至近距離で放たれたアンカーアームを躱し、後ろ回し蹴りを延髄に叩きこんだ。

 

「大好きな調だからッ……!傷だらけになることが許せなかったんデスッ!」

「じゃあ……私は……」

 

 ミカのロッドを鎌の柄で受け止め、

 

「あたしがそう思えるのは……!あの時調に庇ってもらったからデス!みんながわたし達を怒るのは……、私達を大切に思ってくれているからなんデス!」

「私達を……大切に思ってくれる……優しい人たちが……」

 

 拮抗を保っていた切歌とミカの鍔迫り合いだったが、ミカの放った炎に吹き飛ばされてしまう。吹き飛ばされた切歌を調が受け止める。

 ミカは手首を回転させ、おどけるように「なんとなくで勝てる相手じゃないゾ!」とさらに焚きつける。

 

「マムが遺してくれたこの世界で……カッコ悪いまま終わりたくない!」二人の脳裏に無責任でカッコ悪い父親を見たと言った響の姿が浮かぶ。

「だったら、カッコよくなるしかないデス!」

「自分のしたことに向き合う強さを……!イグナイトモジュールッ!」

「「抜剣ッ!」デースッ!」

 

 二人はコンバーターのウイングスイッチを入れ、モジュールを起動して掲げた。起動した証として、『ダインスレイフ』と無機質な音声が鳴る。モジュールは宙を舞い、空中で変形して光の刃を形成、二人の胸に突き刺さった。調と切歌、彼女たちの中をダインスレイフの呪いが駆け巡る。

 強くなり、自分を満足させてくれる彼女たちにミカは昂りを覚える。

 

「底知れず、天井知らずに高まる力ぁ!」

 

 昂り高まったミカの体を炎が包み込む。思い出の燃焼効率を最大まで引き上げ、全てを燃焼しきるまで四分間全能力をブーストするミカの決戦機能『バーニングハート・メカニクス』が起動した。

 呪いに包まれる自分を律するため、調は切歌の、切歌は調の手を取った。

 

「ごめんね……!切ちゃん……!」

「いいデスよ……!それよりもみんなに……」

「そうだ……。みんなに謝らないとッ……!そのために強くなるんだッ!」

 

 二人の思いが魔剣の呪いをねじ伏せた。彼女たちは魔剣の呪いを自らの力と変え、身に纏う。漆黒となったギアを纏った二人は、燐光を放ちながら全開出力のミカとの決戦を行う。

 切歌がミカに斬りかかる。ミカはそれを弾き飛ばし、次いで放たれた調のヨーヨーによる切断攻撃を受け止め、力任せにぶん投げて逆にその勢いで調を投げ飛ばした。

 

「調ッ!」

「サイキョーのあたしには響かないゾ!もっと強く激しく歌うんだゾ!」

 

 空中から切歌に向けてロッドを乱出した。切歌はそれらを全て斬り飛ばすが、目の前に着地したミカ本体の攻撃まで捌くことが出来ず、アンカーアームによる打撃を喰らってしまう。神社の外壁に背中を打ち付けた。ミカは追撃の手を休めることなくロッドで切歌を拘束し、目の前で手のひらの噴出孔を開いた。あの炎を喰らってしまえば防御手段のない切歌は跡形もなくなってしまうだろう。

 そんなことは調が許さない。

 

「向き合うんだ!出ないと乗り越えられないッ!」

 

 通常の何倍もの小型鋸をミカに向けてばら撒く。ミカはそれを髪を自在に操って叩き落すと、空中に立って指を立てた手で頭上に大きな円を書き、炎の巨大な錬金陣を展開する。そしてそこから巨大なカーボンロッドをあめのように降らしていった。その間を縫うように切歌が離脱する。

 

「闇雲に逃げてたらじり貧だゾ!」今までで一番大きなロッドを放った。

「知ってるデスッ!」

 

 走るのをやめようとしない。背後からミカが襲い掛かっているのを察すると、鎌を大きく振ってロッドに一つに引っ掛けて強襲を回避する。

 

「ぞなもし?!」

 

 ロッドから鎌を外し、肩のアーマーをアンカーのように発射。それはミカを通り過ぎ、彼女の背後にいた調のバインダーと接続される。さらに残りのアンカーがミカの体をからめとって地面に突き刺さり、完全に拘束された。

 切歌の鎌が、調の鋸が挟み込むようにミカに襲い掛かる。

 

       『禁殺邪輪 Zあ破刃エクLィプssSS』

 

「足りない出力をかけ合わせてぇッ?!」

 

 刈られる間際、撃破されるにもかかわらず、ミカは満面の笑みを浮かべて斬断される。戦闘特化型ゆえの大出力が大爆発を引き起こした。

 

○○○

 

「こっちの気も知らないで!」

 

 オートスコアラーを撃破したにもかかわらず、クリスに叱られて調と切歌は小さくなっていた。弦十郎は腕を組み、彼の隣でクリスは腰に手を当てている。

 

「たまには指示に従ったらどうだ?」

「独断が過ぎました……」

「これからは気を付けるデス……」

「んぉ?」

「お、おぉ……。珍しくしおらしいな……」

 

 予想外の謝罪の言葉に、弦十郎たちも動揺を隠せない。

 

「私達が背伸びしないでできるのは、受け止めて、受け入れること……」

「だから、ごめんなさいデス……」

「う、うむ……。わかれば、それでいい」

 

 弦十郎の言葉を聞いて、とぼとぼとその場を後にした。弦十郎は顎に手を当てる。

 

「全く……」

「センパイが手を引かなくたって、いっちょ前に歩いて行きやがる……」

(アタシとは、違うんだな……)

 

 クリスは彼女たちの背中を静かに見つめた。

 ゆっくりとした足取りで帰り路を歩いて行く。

 

「足手まといにならないこと……。それは強くなることだけじゃない……。自分の行動に責任を伴わせることだったんだ」

「せきにん……。自らの義に正しくあること……」切歌が自身のタブレットで『責任』の意味を調べ、読み上げる。

「でも、それを正義と言ったら、調の嫌いな偽善っぽいデスか?」

 

 かつての調が響に言い放った言葉が蘇る。『それこそが偽善……!』という言葉。

 

「ずっと謝りたかった。薄っぺらい言葉で、響さんを傷つけてしまっったこと……」

「ごめんなさいの勇気を出すのは、調一人じゃないデスよ……」

 

 切歌は調の肩に手を置き、額を彼女の額に当てる。

 

「調を守るのはあたしの役目デス!」そう言ってにっこりと笑う。

「切ちゃん……。ありがとう……いつも、全部本当だよ……」調もほんのり微笑んだ。

 

○○○

 

 ミカが撃破されたことで、彼女の頭上に会った布にも炎の錬金式が刻印される。それと同時に、玉座の洋服ダンスのような箱の扉が開いた。中から新しい躯体に前の体の記憶をインストールしたキャロルが現れる。彼女の前にファラ、レイア、ルシフの三機がひざまずく。

 

「お目覚めになられましたか」

「そうか……ガリィとミカが……」

「派手に散りました」

「これからどうしますKA☆?マスタLA☆?」

 

 迷いなくキャロルは断言する。

 

「言うまでもない。万象黙示録を完成させる……。この手で奇跡を皆殺すことこそ、数百年来の大願……」

 

 故に……。

 

「ルシフ」

「了解でSU☆マスタLA☆総てを砕いて壊して皆壊して、あなたの力となりましょU☆……」

 

 そう言って大袈裟なまでに恭しく頭を下げる。金の光が渦巻くルシフの紫の瞳が、怪しくきらめいた。




愉悦部のみんなー!ついにお待ちかねの雷いぢめ祭りの開催だよー!
想定では三部構成でお送りします。
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