戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~   作:兵頭アキラ

99 / 209
オリジナルで一話分作ると言うね。
9話との整合性もとれたし、やっていきましょうか。


自身の闇に、屈服し

「では、これよりオートスコアラーの対策会議を始めます」

 

 本部ブリッジにタブレットを持ったエルフナインの声が響く。

 現在、S.O.N.G.が撃破した敵勢力は首魁たる―復活が予測されているとはいえ―キャロル、マリアが撃破したガリィ、そして調と切歌が撃破したミカの一人と二機。残存勢力はファラとレイア、ルシフの三機。前の二機はともかくとして、最後のルシフの対策が今回の主な議題だ。

 風や水は正面からでも比較的なんとかなるが、エーテルの特性が強力すぎる。正面からだけでなく、搦手すらも封じる彼女の力が圧倒的なのだ。現にルシフにダメージらしいダメージを負わせたのが、雷が彼女の攻撃を流し、逆に彼女に命中させた時しかないというのだから手に負えない。

 

「僕たちはキャロル、ガリィ、ミカを撃破し、相手の勢力は残すところファラとレイア、ルシフの三機となりました。そこで、未だ攻略の目途が立っていないルシフの対策を、今回の議題とします」

 

 そう言ってエルフナインは、モニターにルシフとの交戦記録を投影した。まず一つは初戦である響との戦闘だ。この戦いで、ルシフの姿と能力が明らかになっている。

 映像では、当時の響の最大威力と思われる拳が、ルシフの無造作に挙げられた右足に受け止められているところが写っていた。その時のことを思い出したのだろう。響がつばを飲み込んだ後、口を開いた。

 

「この時、凄く不気味だったんだ……。どれだけ力を入れても、全然前に進まない……。力が全部吸い取られたみたいな……、そんな感覚だった……」

「それがルシフの錬金術、エーテルです」

「なぁ……。前から思ってたんだけどよ、エーテルってなんだ?」

「ええ、それ私も聞きたかったわ。炎や水は分かるんだけど、エーテルとは何なの?初めて聞いたわ」

 

 クリス、マリア両名の疑問に、エルフナインが頷く。

 確かに炎や水などの他の四大元素と比べて、エーテルが何なのかと聞かれればすぐに答えられるものは少ないだろう。

 エルフナインがタブレットをスライドし、ルシフのデータが、彼女の知る限り記録されたページが映し出される。画面いっぱいに紫色の道化師のような恰好をしたルシフが表示された。

 

「まずはエーテルについてお答えします。エーテルとは、かつてアリストテレスの提唱した元素のひとつ。主に星の天体運航を司り、その性質上、無限に回転し続ける存在です」

「星の天体運航とは……月が地球の周りをまわるようなアレか?また壮大な……」翼があごに手を当て、呟いた。

 エルフナインは頷き、

 

「そう思ってもらって問題ありません。して、彼女が最も厄介な所以は、彼女の操るエーテルが、無限に回転し続けるという特性です」

「回転……デスか……?」

「はい。相手の攻撃で発生する威力をエーテルの回転に引きずり込み、それを体内で加速して逆に放出する……。これが彼女の基本戦術です。その特性上、遠隔で発動する。ということが出来ない弱点がありますが、それを補って余ります」

 

 静寂がブリッジを包み込む。当初こそアルカ・ノイズを装者が請け負い、弦十郎がルシフを相手取る。という案もありはしたのだが、容易く砕け散ってしまった。

 クリスが小さく手を上げ、

 

「なあ、光線系で攻撃したらどうなるんだ?物理はそうかもしれねぇけど、イチイバルならいけるんじゃないか?」彼女の問いに、隣に立っていた雷が首を振ってこたえる。

「私のケラウノスが無理だったから、多分駄目だと思う。斬撃も、恐らく……」

「振る力が奪われるわけだからな、天羽々斬でも駄目だろう」

 

 彼女たちの言葉に、再び全員が黙り込んだ。

 天羽々斬が駄目なら、同じ斬撃特性のアガートラームやイガリマも駄目だろう。シュルシャガナは例外かもしれないが、そもそも鋸で押し切れるだけの猶予があるのか?という問題が発生してくる。敵は待ってはくれないのだ。

 

「むぅ……。どうすれば……」弦十郎が唸る。

「一つだけ、策はあります」エルフナインが人差し指を立てて言った。ブリッジにざわめきが広がる。

「その策とは……?」

「イグナイトモジュールの発動による、七重奏の絶唱です」

「イグナイトモジュールを使った……」

「七重奏の絶唱……だと」

 

 即ち、現状の最大出力。

 響、雷の力でフォニックゲインを束ねて重ねることで増幅させ、アガートラームで制御、再配置することで放つS2CA・へピタコントラクト。それをぶつけるというのだ。雷の絶唱特性によって、本来では手を繋がなければ発動できないS2CAを離れていても発動できるのが強みだ。

 この特性こそが、ルシフ攻略のためのキーだ。

 

「雷さんの絶唱特性を利用して、同時に多方向から放たれる大出力のフォニックゲイン。これによって彼女の体内にある回転するエーテルと逆回転の力をぶつけることで相殺する……。これが、ルシフ突破の方法です」

「そしてイグナイトモジュールを使用することで……」

「絶唱の負荷を軽減しながら威力を高めるって事デスね!」

 

 ようやく見えた光明。調と切歌は向き合って喜んだが、すぐに表情を暗くする。

 イグナイトモジュールの起動。それは“彼女”を知るものに深い闇をもたらした。そう、雷である。彼女の過去を聞いたものは知っている。それだけでなく、憚られて言っていないもの、記憶の奥底に封印したものもあるだろう。故に、雷が本当はどれほどのものを抱えているのか、雷を含め誰も知らないのだ。

 それほどの闇を抱えた彼女を、響たちが見つめた。そして、不安気な顔をしながら、響が口を開こうとしたが、それよりも雷が先に言った。彼女は笑顔を湛え、

 

「大丈夫大丈夫!今までだって何とかして来たんだから、今回も大丈夫だって!」

「雷……」

 

 全然大丈夫ではなかった。

 冷静に、客観的に状況を把握し、感情論や精神論を可能性の範疇にしかとどめないほどの彼女が、それらに頼り切っている。この事実だけで相当無理していると判断できる。更に、膝が笑っているのだ。誰がどう見ても普段の雷とは言えなかった。

 響は彼女の手に手を伸ばすが、途中で引っ込めてしまう。触れると壊れてしまう、そんな気がした。

 そんな時だった、ブリッジにアラートが響き渡る。

 藤尭が、

 

「アルカ・ノイズの反応を検知!」

「場所はッ?!」

「湾岸区域、石油コンビナートですッ!」

 

 石油コンビナートを攻撃することで、さらに要所を絞るという魂胆だろう。その報告を聞いて、装者全員が一斉に動き出す。

 本部である潜水艦も、コンビナートへ向けて舵を切った。

 

○○○

 

 石油コンビナートで、ルシフによって召喚された暴力的ともいえる数のアルカ・ノイズが、蹂躙の限りを尽くしていた。この攻撃から逃れた者もいるにはいるが、数は少ないだろう。所々で黒煙が上がり、ごうごうと炎が燃えていた。

 地獄と形容できるこの場所に、装者たちが並び立つ。

 ルシフが片足で大玉の上に乗りながら、

 

「O☆?漸く来たのKA☆!遅くて遅くてもう少しで帰ろうとしたところだったZO☆」

 

 からからと笑いながらボールをどこからともなく取り出し、ジャグリングし始めた。完全になめてかかっている。これが彼女の性格だと全員が聞いているため、誰も感情を荒立てたりはしない。

 雷が、ケラウノスの起動詠唱を歌う。

 

「Voltaters Kelaunus Tron」

 

 灰と黄金のシンフォギア、ケラウノスを身に纏ったう。まずは雷がはじめに起動し、その後、様子を見て他の装者も起動する手はずになっている。長期戦になればなるほど不利になってく。故に、最初から全開だ。

 

「イグナイトモジュールッ!抜剣ッ……!」

 

 雷がコンバーターのウイングスイッチを入れ、モジュールを取り外して掲げた。起動した証拠に、無機質な『ダインスレイフ』の音声が鳴り響く。

 雷の頬を冷や汗が伝い、彼女はつばを飲み込んだ。

 空中でモジュールが変形し、光の刃を形作る。そしてその刃は、雷の胸に突き刺さった。ここからが本番だ。

 流れ込む魔剣の呪いが、彼女の心を蹂躙する。

 

「あッ……」

 

 一瞬。一瞬だけだった。小さな叫び声が漏れる。

 雷の心は耐えることも抗うこともできず、魔剣の呪い……いや、自身の闇に押しつぶされ、ねじ伏せられ、へし折られ、飲み込まれ、そして……屈した。屈服したのだ。負けたのだ。

 雷を闇が、包み込む。




愉悦開始ぃッ!
さて、次回は一話よりも濃い胸糞、生理的嫌悪感を抱かせるでしょうから注意。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。