ДаとСпасибоとХорошоとДо свиданияしか話せません。しかも性別も前世と違います。俺はこの先、どうすれば?? 作:B・R
「今日から私もプラウダの生徒だべ」
「もちろん戦車道やるよね!」
「うんうん! プラウダって言ったら戦車道!って感じだよね!」
浮き足立った様子でこれからの学校生活に思いを馳せるJK達。
その中に混ざるに混ざれず、あまつさえ、どういう訳か一歩引かれた状態から遠巻きに見られる異物こと俺、ラウラ。
「あの人⋯⋯」
「⋯⋯ねえ」
「⋯⋯近寄り難い⋯⋯」
はい、やって参りましたプラウダ高校入学式。
一昨日くらいに学園艦に着き、いろいろと準備をして臨んだ今日という日。まあ、案の定、入学式特有の友達作りで、本場ロシアからこの学校に来た俺は目立った。そして、浮いた。
何せ、一言も話せない。名前を聞かれたら、辛うじて『⋯⋯ラウラ⋯⋯』みたいな感じで応答は出来る。しかし、それがJKの友達作りとして及第点であるかは別だ。というか駄目だ。
そして、俺は現状孤立してしまっている。
いやあ、ミスったなぁ。対策考えとけば良かった。まあ、今更言っても後の祭り。俺、日本語分かるけど話せないし。
「新入生代表挨拶。首席入学者カチューシャ! 前へ!」
堂々とした態度で壇上へと進み行くその姿は、正しく未来の暴君、地吹雪のカチューシャ。あんだけ人から噂されてるのに、微動だにしないなんて。こ、これが凡人と偉大な人間との差か⋯⋯!?
それにしても、実際に見られるとは感慨深いものがある。
あ、でも、お隣で苛立ちオーラを出してるショートヘアーノンナさんはちょっと⋯⋯。そう言えば、まだこの段階だと心酔してないんだよなぁ。
彼女と仲良くなり過ぎず、でも良好な関係を築かなくてはならない。それは、カチューシャも同じだ。俺は、二年生の全国大会という絶対に勝つ、必勝が約束されている戦いに勝って適当にノンカチュでも眺めて高校を卒業出来れば良いのだから。
「以上で新入生代表挨拶を終わります」
おっと、挨拶が終わったらしい。
さてさて、俺も自分の教室に向かうとしよう。
◇
「⋯⋯」
案の定クラスでも浮いた俺は、気分転換と称してとある場所を訪れていた。
決して、ハブられた悲しみに負けたわけではない。それでも、無口で無表情ともなれば気味悪がられるものなのだろう。空気が悪くなるのを元社会人の感覚でいち早く察した俺は、すぐさま教室から退避したのである。流石、できる社会人は違うな。戦いはおつむだ。
⋯⋯お、いたいた。
「そ、そっちがぶつかってきたんでしょ!?」
「はあ? うるさいよチビ!」
原作の場面に遭遇。ノンナがカチューシャに興味を抱くシーンだ。
野次馬などでは決してない。俺としても、彼女、カチューシャがどのようにしてあのチンピラJK三人組を退けたのか、事細かに気になったのだ。断じて野次馬ではないぞ。
遠くから観察しているノンナを見て、彼女にバレないような位置から眺めようと移動する。変な正義感で原作介入してノンナが彼女をただのガリ勉だと思ったままになってしまったら、笑い話にもならない。
それにしても⋯⋯。
「私はそういう連中をこの学校から消し去るために来たのよ」
ああ、確かに惹かれるな。俺が転生者じゃなかったら、ウラーって叫んでたかもしれない。
圧倒的不利な状況でお前らなんか眼中に無いって自信満々に言える精神と、彼女ならって思わせるカリスマ。これは、プラウダ高校戦車道部員が彼女を慕うわけだ。
「ぐあっ!?」
お、始まった。
JK達が殴り合うなんて、いったい何処の昭和の漫画だって思わなくもないが、レディース的なあれだろう。いや、なんでもない。
取り敢えず、追いかけよう。
「うぁっ!? こいつ!」
「当たらないわよ!」
うおー、凄い。獅子奮迅。
あんなに体格差があるのに全く苦にしてない。寧ろ、連携の隙とか積極的に狙いに行ってる。え、てか、普通に強くない?単純な身体能力とか戦闘的な強さじゃない、頭の良い強さ、みたいな。まあ、それもそうか。
「このぉ!」
「ぐっ! まだまだ!」
「いっ!?」
JK三人衆の一撃が入った。それでもカチューシャは怯みすらせずカウンターを決める。
手に汗握る戦いだ。それに、一箇所に固まらずすぐに動く。多分、止まったら囲まれるからだろう。俺も置いてかれないようについて行かないと。
「⋯⋯っ!?」
しかし、どうにも変なところで鈍臭いらしい俺は、それなりに大きな石を蹴り飛ばしてしまった。
その石は、物の見事に絡んでいるチンピラ三人のリーダーの腰に直撃した。幸い、怪我とかはしていないようだ。怪我人とか出して退学は義母さんに申し訳が立たない。
⋯⋯てか、え?あれ?
「いった!? 誰だ、石を当ててきやがったやつは!?」
「あいつだ!」
まずいなぁ、目を付けられてしまった。
ああいうのには関わらないのが一番なのに⋯⋯。どうしよう、説明とか出来ないし、出来てもさせてくれるような感じじゃないよなぁ。
俺のバカぁ⋯⋯。マジで、馬鹿。こんなんなら野次馬しなきゃ良かったよ!
「⋯⋯」
「てめえ、何とか言いやがれ!」
「あ、あんた、逃げなさい! このっ!」
「ぐぇっ!?」
カチューシャに手を引かれて、俺は訳も分からぬままに駆け出した。
彼女達も追ってきている。
「もう、本当に何考えてるのよ!」
「⋯⋯」
「う⋯⋯た、助けようとしてくれたんでしょ? あんまり助かってないけど⋯⋯あ、ありがと」
いやいやいや、そんな感謝されるようなことは何もしてないんだけど。首を振って否定しようとするも、彼女はどういう風に受け取ったのか、恥ずかしそうにして礼を言ったきり、俺の手を引っ掴んだまま走りっぱなしだ。
「いたぞー!」
「ああ、もう! 仕方ないから、さっさと終わらせてあげるわッ!」
そこからは凄かった。
正しく、カチューシャ無双。体躯と人数のハンデをものともしない戦いぶりで彼女たちを撃退してしまった。多少、カチューシャ自身もダメージを受けているとはいえ、あちらと比べれば大戦果だろう。何故か原作よりも少ない被害で相手を原作以上にボコボコにしたが、実はカチューシャはあの時もあまり本気を出してなかったのかもしれない。自らもあえてボコボコになることで彼女達の闘志をおらないようにした、とか?⋯⋯そんなことないか。
「思ったよりも手こずっちゃったわね。大丈夫? 怪我はない?」
「Спасибо、カチューシャ」
「す、スパ? あ、あんたってもしかして日本語話せない?」
頷く。それでカチューシャも理解してくれたらしい。聡明で助かるよ。さっきのスパシーバについても、礼を伝えているくらいは分かってくれたらしいし。
「日本語は理解出来る?」
「Да」
「そ、分かったわ。私の方こそ、あんまり助かってないけど、手助けしてくれてありがとうね」
いや、本当に申し訳ない。ただの野次馬のはずが、迷惑をかけてしまった。それに、ノンナとの出会いイベントまで潰してしまうとは⋯⋯。
取り敢えず、それでも彼女が怪我をしているのは事実なので、カチューシャを伴って保健室へと向かう。あれ?保健室って何処だっけ?まあ、歩いていればそのうち地図とかあるだろ。
「貴方達⋯⋯無事だったの?」
「あら? あなたは?」
そして、ショートカットの長身の少女と鉢合わせた。
彼女、ノンナは驚いてこそいたが、俺とカチューシャを見比べて何か納得したような顔をすると、付いてくるように促した。
「保健室はこっちよ、付いてきて」
「ありがと。私はカチューシャ、こっちがラウラ。あなたは?」
「カチューシャとラウラね。私はノンナ。よろしく」
握手して笑い合う二人を見て、歴史の修正力というものの恐ろしさを思い知った。
多分、俺が活躍してもしなくても歴史は変わらないんだろう。気が楽だ。
「それで? どうやって勝ったの? 相手が三人とは言え、ラウラ一人で三人を相手取ったわけじゃないんでしょ?」
「そうね、1796年8月5日⋯⋯とは言っても、ラウラが囮になってくれたからやりやすかったけど」
「なるほどね⋯⋯って、え? ラウラが囮になったの?」
なんでか知らないけど、俺が狙われたのはそれだったのか。いやまあ、立ち回りが下手すぎて、逆に囮っぽく見えたのかな?い、いや、仕方ないだろ。前世でも喧嘩とは無縁だったんだから!
疑念を孕んだ眼で問い掛けてくるノンナに首肯する。すると、彼女は驚きに目を丸くした後、鋭い眼でカチューシャを見つめた。
「ま、カチューシャ様にかかればそんなものね」
「Хорошо、カチューシャ」
「ふふん、もっと褒め讃えなさい!」
ぱちぱち。拍手するとカチューシャは得意げに胸を逸らした。⋯⋯少しの差だが、そんなカチューシャよりも俺の方が胸があるってどういう⋯⋯男としては嬉しくない。
ノンナに手当てを受けるカチューシャを見ながら、俺は自分の看護スキルの無さに涙した。単純に、中身いい歳こいたおっさんが幼女体系の少女の手当てなんていう烏滸がましいことをするのは気が引けたとも言う。自然体でカチューシャの手当てを始めるノンナと、それを受けるカチューシャの姿からは未来の完璧な主従の姿を思い起こさせた。
「そう」
「あなたにも借りが出来たわね」
「こんなの借りでもなんでもないわ」
ああ、この後はプラウダ戦記のあれか。
さてと、邪魔者は退散しようかな。俺なんか居ても邪魔なだけだろうし。
◇
そして翌日、俺達は、否、戦車道新入部員達は驚愕の渦に晒されていた。
「は、話が違うじゃん!?」
「ガチの全力で来てるよ!?」
錚々たる戦車群だ。性能的には、新入部員とセンパイの車輌はほとんど同じ戦力とはいえ、練度がまるで違う。カチューシャがダメ出ししていたが、それでも紛いなりにも、全国大会二位の実力はある。
絶望的だなぁ。
「ラウラ、余裕そうね」
「⋯⋯」
「ノンナもあんまり悲観的にならない方が良いわ」
「でも、この戦力差よ? 私達のような烏合の衆じゃ、勝ち目なんて万に一つも⋯⋯」
そう言って自嘲げに笑うノンナの肩に手を置く。そして、カチューシャを指し示した。これで、カチューシャに頼れば何とかなるって伝わるだろ。
「⋯⋯!」
「そう、私達には出来ることがあるわ。その出来ることさえやり遂げれば、先輩達に勝つことだって不可能じゃない」
さすカチュ。もう、徹頭徹尾負けることなんて微塵も考えてない。
いやぁ、やるしかないよなぁ。これで簡単に脱落したら、俺見放されちゃうかもしれないし。
⋯⋯よし、全力で運転するか。俺が活躍しなくてもどうせ勝てるとかは無しだ。こういう時に誠意を見せないと、どこでしっぺ返しが来るか分かったもんじゃない。
「他の奴らに出来なくても、私達でやるのよ、ノンナ、ラウラ」
「Да」
「⋯⋯分かったわ」
頷いて、早速俺は同じ戦車に乗る搭乗員を集めることにした。
カチューシャ「あんな戦力差がある中、私を助けようとするなんて見所あるじゃない」
ノンナ「カチューシャに心酔してる? なんで? いや、その理由はこの目で確かめる」
主人公「Да(取り敢えず、カチューシャとノンナの栄光に隠れるいぶし銀の操縦手を目指そう)」
この小説に勘違い要素は必要か?
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いる。視点変更も有り。
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いる。視点変更は駄目。
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いらない。