大空は夜空を求めて繰り返す 作:秩序の夜空
謎の匣に飲み込まれた俺は空に浮かんでいた。それはXグローブで飛んでいる時とは違い、重力がないような、そんな浮遊感を感じながら、下を見た。
「これより自警団ボンゴレの10周年を記念して、パーティーを行う」
「と言っても、貴族サマみたいな上品なもんじゃないがな」
「バーベキューだなんて、楽しいではないでござるかG」
そこには初代ボンゴレのボスと守護者たちがバーベキューをしていた。それぞれが楽しそうに笑い、自由に話していた。
「究極に肉が焼けたぞ」
「俺様が調達した肉だものね」
神父らしき男性が肉を焼き、ランボに似た男が肉を食べている。そんな光景を見ていたら、とても温かくて、懐かしい気分になった。
『ここは初代ボンゴレファミリーの記憶です』
「え?」
そこに俺の隣へ音も無く一人の女性が姿を現した。神織によく似ているけど、聖母のような優しい微笑みを常に浮かべている。
『私は初代コスモスファミリーのボスにして、ボンゴレⅠ世の妻である、ユリアと申します』
Ⅰ世の奥さん……それでこの人から懐かしい感覚がするのか。それと同時に物凄く深い憎しみが溢れてくる。それは彼女に対してではなく……彼女を殺した者への憎しみだ。
『少し、昔話をさせてください』
「……はい、どうぞ」
『昔、まだ戦争が絶えず起こり、平和の世から程遠かった時代に一人の少年がいました。その人は心優しくて、正義感が高くて、誰よりも争いが嫌いでした』
目の前の風景が変わり、Ⅰ世の少年時代の姿が見えた。一人でいながら、困っている人を助けたり、人を襲っている犯罪者を倒して、周りから感謝されていた。
『そこで、少年は自警団を建てました。その名前はボンゴレ。最初は友人のGと共に少年は始めた自警団でしたが、同じ志を持つ者たちが現れ、輪は大きくなりました。そしてとうとう一つの組織と呼べるくらいにまで成長しました』
また風景が変わり、今度はⅠ世が先ほどバーベキューを一緒にしていた仲間たちに囲まれて、笑い合っていた。それがとても嬉しそうで、まさに平和に近付いている感じだ。
『ところが……その平和も長くは続きませんでした』
パリン、と硝子が割れるような音をたてて周りのものがバラバラになった。そして最後は砕け散り、消えてしまった。
次の瞬間には肌を焼き付けるような炎が城に広まっていた。ここは多分ボンゴレの本部だ。何人もの焼死した死体が見えるし、絶叫が聞こえる。
『何者かによって、本部に火を放たれ、更には混乱に乗じてファミリーのボスと守護者の妻子は殺されてしまいました』
「そんな……」
城の前には全身に槍、矢、銃などが大量に突き刺さり、もはや人間の原型を留めていないながらも、門を守るように立ちふさがっている女性の死体があった。
城の奥には五体を斬られて、バラバラになった女性の死体があったが、周りの敵らしき者たちも全員食い殺されていた。
城内の地下には拷問をされて、鎖で宙吊りにされ、全身にあらゆる拷問の痕を残しながら絶命していた女性がいた。恐らくボスの居場所を聞き出されそうになったのに、口を割らなかったのだろう。
城の廊下には二人の女剣士が相討ちで死んでいる姿があった。お互いの目にはうっすらと涙の痕が残されていた。
城の裏口には変死した敵がたくさんいたが、一ヶ所だけ血の海になっている場所があり、そこに人の姿はないが、多分そこに一人の女性が死んでいる。
そして森の中を見て絶句した。
数万、数十万、数百万以上の敵が殺されていて、血塗れの女性は死んでいるのに、今もなお体を動かして、なにもない場所を靴の刃で蹴って、ボスの追っ手を倒そうとしていた。
最後にⅠ世が暮らしていた家には腹を切り裂かれ、そこにいたであろう赤ん坊を取り出され、絶命していたのは……俺の隣にいる女性だった。
『今見てきたのは、私の守護者たちです。私のために命をかけて守ってくれました。しかし、私はとある人物によって』
「そう、だったんですか」
『そしてここからが本題ですが、貴方は何度も死んではループしています』
「は?」
ユリアさんは自分の死について話した後、そんなことを言ってきた。俺が何度も死んでループしているなんて、にわかには信じがたい。
だけど、超直感は彼女が嘘をついていないことを示していた。
『貴方には分かるはずです。もう答えを持っている人に出会っている』
「……神織、唯那」
『そうです。彼女は私の唯一の後継者にして、コスモスファミリー二代目ボスです』
「コスモスファミリーの二代目ボスが……神織」
『そうです。そして貴方は無限ループの最中にいる。今記憶を戻しますが、ショックで死なないように少しずつ流しますから』
そう言って、ユリアさんは掌を俺に触れようとした時、何かが弾いた。俺のリングに炎が灯り、そこからはⅠ世……つまりプリーモが出てきたのだ。
プリーモは厳しい表情をして、俺を抱き寄せてマントで隠した。なんだか雰囲気も怖いし、何があったのだろうか。
『ユーリャ、まだ運命の試練はⅩ世(デーチモ)には早過ぎる。彼はまだ子供であり、純粋な心が負うショックは計り知れない』
そう言って、ユリアさんのことを愛称で呼びながら、プリーモが彼女のことを諭している。運命の試練とか、気になることは山積みだけど、ここは様子を見守ることにしよう。
『復讐心に囚われていた貴方がよく言いますね。確かに先に旅立った私が悪いのですが、甘さが過ぎますよ。一刻の猶予も今は無いのです』
プリーモに反論するようにユリアさんが言うと、彼は痛いところを突かれたように押し黙った。そしてユリアさんは俺の方に顔を覗かせた。
『ボンゴレファミリー十代目ボス・沢田綱吉。邪魔が入りましたが、これから今まで蓄積された記憶を少しずつ流します』
そして今度こそユリアさんは俺の頭に掌を乗せて、そこから青黒い色の炎が伝わってきた。すると、頭の中に少しずつ流れてきた。
──私、綱吉君が好きなんです!
──きゃー! 綱吉君が私のことを襲った!!
俺が並盛中学の屋上で誰かに告白されて、それを断ったら彼女が自分自身をナイフで斬って叫んだ。そして屋上にたくさんの生徒たちがやって来る。
彼女が泣きながら嘘をつけば、何の疑いも無く彼女を信じて、俺は女を襲った最低な野郎として、ボコボコにされた。
殴られ、蹴られ、ナイフで斬られ、焼かれて、とにかくあらゆる暴力が襲ってきた。それだけではない。
──十代目がそんな野郎だったとは、この裏切り者が。
──ツナ、いや沢田お前最低なのな。
親友だと思っていた獄寺君と山本にも信じて貰えず、俺は彼らからも暴力を受けた。他にも風紀を乱したということで雲雀さんに殺されかけ、家ではリボーン以外の母さん、ビアンキ、フウ太、ランボ、イーピンにも信じて貰えなかった。
他にも了平さん、黒曜中の骸とクローム、コロネロ、ボンゴレ、とにかくたくさんの人たちに裏切られていた。
「おぇ、おえぇぇぇっ!!」
それだけで、びちゃびちゃ、と俺は地面を這って嘔吐した。俺よりも、あんな数日だけ会ったような女の方を信じた全員が信じられなかった。
いや、信じたくなかった。あんな暴力振るわれて、あの優しい母さんにさえ、食事を与えらて貰えない虐待を受けて、弱りきっていく自分を見たくなかった。
それでも流れ込んでくる。
──ランボさんはツナのこと大嫌い!!
──極限に貴様には失望したぞ沢田!!
慕ってくれたランボと俺のことを好いてくれた了平さんからの拒絶の言葉。彼らから電撃や拳の暴力を受けて、傷ついていく自分。
──クフフ、所詮は貴方もクズでしたね。
──ボス、最低。
霧の二人からも幻術で苦しめられ、眠れない日々が続いて目の光が失われていく自分。
──風紀を乱す君は咬み殺す。
なんか雲雀さんだけは平常運転な気もするけど、それでも大して調べもせず、決めつけて殺されかけた自分。
そして、俺が守ろうとしてきた女の子たち。この非日常に巻き込むまいと、必死に庇ってきた彼女たちにも。
──ツナ君、本当に最低、貴方のこと嫌い。
──ツナさん、さよならです。
それを見せられた瞬間、俺の中にナニカが壊れた。自然と超死ぬ気モードになり、いつもとは違う真っ黒な炎が溢れ出す。
「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
俺は暴れた。ここが空想の世界であることも気にせずに炎で森を焼き払い、地面を拳で切り裂いて、蹴りで空を真っ二つにした。
『落ち着けデーチモ!! これは過去の話だ!! 今は起きていない!!』
「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
俺はプリーモに羽織り絞めにあおうが、暴れた。とにかく感情のままに破壊衝動のまま数時間暴れた。