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「ふう、これで全部か?」
数十人と居たヴィランも今では全員蹴散らされ、無造作に転がっている。
ビームソードを使うまでもなく勝てたのはありがたい話だった。武器の耐久性も、個性のエネルギー量も多く食うため使わないに越したことはない。
汗だくになったヒーロースーツの上半身を脱ぎ、腰に括り付ける。とりあえず、状況の整理をしよう。
おそらく霧の個性持ちに全員が分散されたのだろう。そして、俺と同じ様に災害エリアにランダムに飛ばされた。俺の行うべき行動としては、1つ目に『外に出て助けを呼びに行く』。2つ目に『他エリアの奴らを助けに行く』。最後に『広場に戻る』。だが、一番危険が高いのは広場に戻ることだろうな。手の男に霧の男。そして、チラリとしか見ることが出来なかったが明らかに人ならざるものがいた。あれがオールマイト対策だというのなら、相澤先生一人では勝てないのではないか?
…いや、考えても仕方がないか。とにかく手遅れになる前に広場に向かう。ヴィランのせいで誰かを失うなんて事がまた起こったなら、俺はヒーローじゃない別の何かになってしまうだろう。
個性を足へと流し、地面を駆ける。
少しでも速く、少しでも最短距離を。なんとなくだが、嫌な予感がする。
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「そんな…相澤先生が…」
水難ゾーンを蛙吹さんと峰田君で乗り越えた僕達は勘違いしていたんだ。きっと役に立てる。僕らだって誰かを救えるって。でも、そんな僕達をあざ笑うかのように敵は強大だった。
脳みそがむき出しの改人『脳無』。相澤先生の腕を小枝のようにへし折り、顔面を容赦なく地面に叩きつける姿は正しく悪魔のようだった。
「緑谷、駄目だ…。俺達に出来ることなんてなんにもねぇよ…。」
必死に叫びたいのを我慢するように、両手で口元を抑え、絞り出すように話す峰田くん。僕も今すぐに逃げだしたいくらいだ。そんな中、蛙吹さんだけは真っ直ぐに見据えている。
「…神機ちゃんならどうするのかしら。」
「えっ!?」
冷静な彼女らしくない判断。戦力差は歴然で、どう考えても立ち向かうべきではない。そんな中でも、静かに、決意を固めるように話す。表情からは読み取れないが、体は小刻みに震えている。
「バカか!アレみただろ!プロのヒーローでもどうにもならないんだぞ!俺達みたいな子供が立ち向かう相手じゃないんだよ!」
「じゃあ、相澤先生はどうなってもいいの?プロのヒーローだからって、見捨ててもいいのかしら?」
「で…でもよぉ」
会話をしている間にも、時間は流れている。
いつの間にか霧のヴィランも合流して何やら話しているが、手の男『死柄木弔』と呼ばれた男が霧のヴィラン『黒霧』から生徒が1名逃げたと伝えられるや否や、驚きの言葉を発する。
「黒霧お前…ワープじゃなかったら殺してたぞ。今回はゲームオーバーか。神機とか言う餓鬼の為に予定してたよりも人数も集めたっていうのに。そのせいで雑魚達の割り振りも雑になっちまった。上手く回らなかったな。帰ろっか…」
死柄木弔の発言に合点がいく。僕達の水害ゾーンに、明らかに適していないヴィランも数名混ざっていた。どうやら、イレギュラーがあった為の補充で手違いがあったみたいだ。それでも、8割型は水辺に適したヴィランだったから恐らく輝君の所だけ強い個性を回したのだろう。…でも、なんで輝君の事を知っているんだ?
「…神機ちゃん、昨日あそこに居る手のヴィランと戦ったのよ。私もそこに居合わせたの。その話は今はいいとして、帰るって聞こえたわね」
驚きの情報が蛙吹さんからもたらされるも、今はそれ以上に現状をどうするかだ。
正直、帰ってもらえるならありがたいけど…ここまでの騒動を起こして、本当にこのまま真っ直ぐ帰るのだろうか?
ゾクリと背筋を何かが這った。背中を向けている手の男、死柄木弔と目があった気がした。
「折角だし、あの神機と一緒にいた女の子だけでも殺して帰るか」
嘘だろう?いつの間に正面に…駄目だ、反応が遅すぎた!蛙吹さんが…『崩される』!!
「テメェ!何しようとしてんだぁ!!」
怒号が聞こえた。物凄い風圧が起き、砂埃が舞い、目を瞑る。次に目を開けた時には、死柄木と正面から対峙する人影があった。
細くも引き締まった逞しい背中は努力の継続を表し、体のあちらこちらにある傷は日々の鍛錬の厳しさを語り、上下する肩と上気した体はどれだけ急いできたのか示すには十分すぎた。
僕達を守るように構えを取る、その姿は紛れもなくヒーロー。漆黒のボディスーツを上半身だけ脱ぎ、腰に巻き付けた輝神機が怒りの形相で口を開く。
「昨日ぶりだなぁ…。わざわざ会いに来てくれたのか?手だらけ」
「死柄木弔だ。お前に直接用はなかったが…昨日のお礼くらいは返させて貰おうか。脳無、殺せ」
死柄木が大きく輝君から距離を取ったと同時に、脳無が目にも留まらぬ速さで輝君の前に立つ。流石の輝君も体を一瞬ピクリと動かす。その瞬間に、物凄い風圧が襲いかかってくる。
脳無の連打。力任せに巨漢から振り下ろされる拳は、間違いなく一瞬で人の命を刈り取ることが出来る威力だ。しかし、個性を発動した輝君が正面から受け流していく。避けるのでは無く反らしていく。素人の僕が見ても分かる、明らかに戦うための技術で力の差をカバーしている。オールマイトの様な力を力でねじ伏せる動きではなく、力に対し水の様に流れる手の動きで全てを受けてしまう。
「お、おいおい!マジかよ輝!!お前勝てるんじゃねぇのか!!?」
峰田君が歓喜の声を上げる。気持ちはわかる。まさに絶体絶命だった。隣で友達の命が終わる瞬間、正義の味方が颯爽と現れて、圧倒的な強者の攻撃を凌いでいる。無傷で。希望を見るのは当然だ。ただ、僕も蛙吹さんも気づいている。輝君は流せるから受けているんではなくて『僕達が居るから受けざるを得ない』んだ。
「神機ちゃん…っ!」
「ぐぅ…心配すんな。ッ、俺が全員守ってやる。峰田も泣くんじゃねぇ」
強がりだ。蛙吹さんも気づいている。
この短時間で明らかに手で受けきれなくなっている。人体の硬い部分である肘や肩を使って上手く衝撃を誤魔化しているけど、受けるたびに足が地面にめり込んでいる。時間の問題だ…。
「僕は…僕だって皆を笑顔で守れるヒーローに…ッ!」
拳に力を込める。見ているだけなんてヒーローじゃない!僕の目指しているヒーローは、こんな時こそ戦わなくちゃ!!
「緑谷、手を出すな。…蛙吹…今から、俺も、打ち合う。その間に……全力で逃げろ。」
「…神機ちゃんはどうするの?」
「俺は…ッグ、奥の手があるから大丈夫だ。」
息も絶え絶えになりながらも笑顔を作る。そんなわけない、もうきっと限界のはずだ。肌色だった腕や肩は打撃を防いだために青黒く変色し、滝のような汗を流して、それでも戦っている。本当に僕達だけ逃げてもいいのか?
「…わかったわ。峰田ちゃん、緑谷ちゃん。私にしっかり捕まってて。水の中なら追ってこれないはずだから。」
「あ、蛙吹さん!本当にいいの!?輝君を助けるために、僕達もなにかするべきなんじゃないの!?」
僕の発言に対し普段は表情の変わらない彼女の表情が変わった。気がした。
怒っているような、今にも泣き出しそうな、色々な感情がまぜこぜになったような、普段の彼女からは想像もできない雰囲気だった。
「緑谷ちゃん。今、私達がする事は、神機ちゃんの思いを無駄にしないこと。それに、私達がいたら尚更戦いにくいわ」
そう言うと、ゆっくりと神機君の背中に目線を向ける。
「神機ちゃん。負けないわよね?」
「当たり前だろ?………ッッ!!オオオォォォ!!」
一層、腰を低く落とす。切島君へ打ち込んだ連打の構えだと一瞬でわかった。その瞬間に体が水中へと引っ張られていく。
「輝君!!」
最後に見た彼の姿は、まるで自分の命を燃やすかのような全力の連打でヴィランと互角に打ち合う後ろ姿だった。
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限界だ。どう考えても限界だ。
今連打が打てているのは限界を超えて、色んな脳内物質が出てるからだ。正直、腕も痛すぎて痛みを感じないっていう矛盾が生まれている。そもそも、互角に打ち合えているのも後の事を考えずエンジンベタ踏みで個性を使ってるからだ。お陰で体中が悲鳴を上げている。
足が地面に埋まったおかげで踏ん張れてはいるが、全力全開の俺の連打に平然とついて来るこいつはどうなってるんだ?いや、あいつの一発に対して三発で相殺だから全然採算が合ってない。
段々と意識が遠のいていく、それでも連打をやめないのは後ろに守るべき者が居るからだ。もう逃げ切れたのか、まだ居るのか、もう確認する余裕すらない。それでも、やめるわけにはいかない。終わるわけにはいかない!!
「…一瞬だけでもッ!ウラァァァ!!!」
最後の最後、火事場のなんとやらでヴィランの両腕を弾く。その瞬間に、左腰に納刀しているビームソードを構える。こいつにシャイニングフィンガーなんて狙おうものなら、俺が掴まれて砕かれる。なら、セーフティーを無理やりぶち抜いたコイツで叩き切るしかない!!
足を地面から引き抜いて、ヴィランの懐めがけて飛び込む。しかし、脳無のリカバリーが早い。すでに俺に向けて両の拳で殴りかかってくる。
死の予感で世界がゆっくりと流れる。背中が冷たくなり、目の前に拳が迫ってくる。その拳に向けて、全力で出力を上げた必殺技を叫ぶ。
「スラッシュ…ハリケーン!!」
高速の回転、リミッターを外したがゆえの灼熱の暴風が脳無の両腕を焼き尽くし、消滅させる。脳無は理解が出来なかったのか、自分の無くなった両腕の見つめ、表情からは伺えないが、一瞬あっけにとられたように感じる。
そして、限界を迎える体と武器にムチを打つ。この一撃で決まらなかったら俺の負けだ。だが、すでに射程距離に入った!
「Vの字切り!!」
真っ直ぐ直線に脳無に飛び込み、左肩から左足の付け根へ切り下ろし、その勢いのまますれ違いざまに右足の付け根から右肩へ向かい切り上げ。脳無の体は右肩、右足、左肩、左足と付け根の部分から切り飛ばされ、地面へ崩れ落ちる。それと同時に、ビームソードの媒体である柄が耐えきれずに爆発する。俺の両掌を焼き、部品で出血するが…もう関係ない。俺も崩れ落ちる。限界だ…1ミリも動かねぇ…。
「オイオイ、脳無に勝つのか。だが、そいつは対オールマイト用の兵器だ。ショック吸収に超再生持ちだ。お前の頑張りも無駄に…何だ?どうした脳無」
死柄木が目を見開く先には、ダルマ状態になった脳無がクネクネと動いている。体が再生する気配がないのだ。
そう、俺の個性は一般的な身体強化と内部を壊す個性破壊・肉体麻痺の二種類がある。以前の授業で尾白に使ったのは出力を抑えた『制圧用』だ。今回は違う。嘘偽り無く言えば『人を殺す為』の個性使用だ。まぁ、どう見ても人間だし生きてるからノーカンだろ。
「糞が!ここまで俺の邪魔をして、生きて帰れると思うなよ!!」
動けない俺に死柄木が迫る。…思い残すことは数え切れないほどある。親の仇にも会ってないし、師匠にも挨拶ができてない。でも、友達を守れたのは我ながら上出来だった。
覚悟を決めて目を閉じる。
「……?」
しかし、待てど暮らせど自分の体に何かが起きているわけじゃない。
それどころか周りが騒がしい。目を開けると、知っている四人の後ろ姿があった。
「神機君。もう十分、頑張ったよ。だから、今は休んで。」
「ケロケロ、戻ってきてゴメンナサイ。でも、今度は私達が守る番。」
「蛙吹さん、麗日さん、峰田くん。あの手に触れるのだけは絶対に避けよう。後は、霧のヴィランからも目を離さずに、お互いにお互いをカバーするように、死角を作らないように!」
「俺は嫌だって言ったのに!!嫌だって言ったのにぃ!!」
緑谷、麗日、蛙吹、峰田が俺を守るように立っていた。
「馬鹿野郎!!何のために俺が一人で食い止めたと思ってるんだ!!」
「バカは自分やろ!!一人だけで戦って、勝手に満足して!!神機君に何かあって、それで助かっても、私達は嬉しくない!!」
普段はニコニコしている麗日の怒声に驚く。
「神機ちゃん…受験の時も、昨日も、そして今さっきも…私は助けられてばかり。でも、ボロボロになった神機ちゃんを見て、逃げた後思い出して、もう嫌だって思った。絶対に後悔するって思った。戦う事は好きじゃないわ。でも、神機ちゃんの隣りにいる為に強くならないといけないのなら…私は戦うわ。えぇ、戦ってみせる。だから、緑谷ちゃん達に我儘を言ってお願いしたの。」
蛙吹も続くように決意を語る。まてまて、何二人で盛り上がってるんだ!緑谷!今からでもいいから二人を止めろ!
「輝君。バスの中で話してくれた個性のコツ。あのお陰で、個性を使っても怪我をしなかったんだ。大丈夫。無理はしないし、倒しに行きもしない。時間を稼ぐこと、相澤先生を回収する事に集中するから。だから、今は皆で守らせてほしい。ここで立ち向かわなかったら、僕は憧れのヒーローになんて一生なれない!!」
「おい輝!生きて帰れたらオイラの言うこと絶対一つは聞けよ!約束だからな!!」
「前向きに検討して善処する。」
「絶対聞かないやつじゃね―か!!」
こいつは…目の前の障害がまだ解決もしてないのに呑気なやつだ。正直、なんと言おうと今の俺はただのお荷物で、コイツ等の行動を止めることも出来ない。なら言うことはこれしか無い。
「すまん。悪いけど、俺を守ってくれ。」
俺の言葉に蛙吹は頷き、麗日は気合を入れるかのように、自身の顔を両手でパチンと叩く。
「ケロケロ。もちろんよ。」
「絶対に、敗けへん!」
「皆で力を合わせれば何とかできるはず!」
「もうどうなっても知らないからな!!」
そして、頼りなくも力強い緑谷とヤケクソの峰田。
この4人とヴィランとの第二回戦が始まろうとしていた。
なんで神機が体張って逃してくれたのに帰ってきてるの?
と、思った方居るでしょう。でも、ここで同級生放って逃げるやつがヒーローになれます?っていう解釈です。
麗日は神機がぶっ倒れた時点で周りの制止を振り切って階段を駆け下りてきています。
とうとう麗日が戦うのか。