俺が切島のスネに靴を当てた翌日。
今日からは通常授業が始まり、午前中は必修科目である。午後からヒーロー基礎学といったふうにカリキュラムが組まれている。
余談ではあるが俺は文系だ。数学や物理は建物等に打撃を与える際に地頭の良さが出ると過去に言われたことがあるが、肌に合わないのだから仕方ない。
何にせよ、一流のヒーローが通常授業も教える必要があるのかは疑問が残るが…まぁ、雄英高校の特権というやつだろうな。
昼は大食堂でクックヒーロー・ランチラッシュが作る食事が安価で食べれる。コレには麗日もニッコニコである。
麗日、緑谷、飯田、俺、蛙吹の五人で昼食を食べながら、午後から始まるヒーロー基礎学への予想をあーだこーだと話していた。
「基礎学っていうくらいだから、最初は座学になるんかな?」
「初日に除名賭けたテストするのに座学は保守的すぎるだろ。俺はタイマンでの実践が理想なんだがな」
「ケロ。じゃあ、また神機ちゃんが何かやらかしてくれるのね」
「あ~…」
麗日、あ~…じゃねぇよ。まだやらかしたの1回だけだろうが。
しかし、クラスメイトとこうやって食事をするなんて中学からは考えられないな。あの頃は鍛錬もあったから校舎裏で食ってたもんなぁ。時折、男女二人組が来ては俺に気づいて帰っていくっていうのがあったが…深くは考えないでおこう。
「人の恋路を邪魔すると、馬に蹴られるんだよ」
邪魔してるつもりはねぇよ。
ちなみに、緑谷はヒーロー基礎学の話になってからブツブツと自己分析をしているようだが…。少しは考えまとまったか?
「へぁ!?」
緑谷は俺に声をかけられたと気づくやいなや、ビクリと体を震わせる。お前…俺に声かけられただけで怯えるのやめろ。自業自得だがへこむだろ。
「あ、ゴメン!目付きで普通にビックリしただけだから」
「緑谷君。それはフォローになっていないと思うぞ!」
いや、ホントそうだよ。と、まぁ本当に中身のない会話をしていたが、ここで蛙吹が「ちょっといいかしら」と軽く右手を上げて発言する。
「話が変わってしまうのだけれど…。私、思ったことを何でも言っちゃうの」
それは知ってる。
「麗日ちゃんと神機ちゃんは同じ中学校なのよね?すごく仲が良さそうで羨ましいわ」
「た、確かに…。そういえば、入試の時も一緒にいたよね?」
蛙吹に続き、緑谷も同意する。いやいや、仲がいいから何なんだよ。
「お付き合いとかしてるのかしら?」
「パッ!?ななナナナなんんん!??」
蛙吹の突拍子もない発言に麗日の顔がりんごのように真っ赤になる。両手をブンブンと振り回しながら、連動するように顔も振り回し始める。それを見ている蛙吹は無表情を崩さず、緑谷と飯田に至ってはポカンと口を開けている。
「クッ…クククク。あっはっはっはっは!!」
その動揺の仕方があまりにも可笑しくて大声で笑ってしまう。腹筋を鍛えていてよかったとこんな事で実感させないでくれ。
「なっ!何笑ってんの!!私と神機君に聞いとるんやから、神機君もちょっとは動揺したりとかないの!!?」
真っ赤な顔のまま、大声で抗議をしてくる。いやいや、蛙吹も意地悪な冗談を言うもんだ。
「あー、笑わせてくれてありがとう蛙吹。俺と麗日は付き合ってないよ。中学の時に、コイツの親父さんの職場でバイトをしてたんだ。で、コイツに体術の稽古をつけてた事もあって、お互いに遠慮がないだけだよ。中学校でも同じような噂が流れてた時期があったが、俺にそれを聞きに来たチャラチャラした奴がいてな。一睨みしたらそれ以降は校内で聞くことはなくなったよ」
ついでに俺に必要以上に近づくやつもいなくなったよ。と、付け足しておく。
麗日は両手で顔をパタパタと仰ぎながら何やらブツブツと悪態をついている。蛙吹に至っては俺の顔をジーッと見つめている。なんだ?疑ってるのか?
「ケロ…なんでも無いわ。相変わらず、私の事は梅雨ちゃんとは呼んでくれないのね」
麗日のこともお茶子とは呼んでないだろ?人それぞれのペースがあるんだよ。緑谷も絶対に蛙吹のこと梅雨ちゃんって呼べないタイプだぞ。な?
「え!?え~っと、つっつつつつっすゆ…ちゃん……」
急に振られた緑谷が懸命に呼ぼうとするも、最後には尻すぼみで俯いてしまう。どんだけ女子と会話してこなかったんだお前。ちなみに飯田は「恋人でもないのに名前で呼ぶのは不純ではないか?」と言い、蛙吹くんと呼んでいた。それはそれで頭硬すぎな気もするが、コレが飯田らしさなんだろう。
「わーたーしーが、普通にドアから来た!!」
ランチラッシュのバーガーセット(アジバーガー・ホワイトソースがけ)にて気力十分になった俺は、午後からのヒーロー基礎学へ挑むところである。
そんな中、教室内はオールマイトの登場により湧き上がっていた。…しかし、無駄のない筋肉だ。俺自身も鍛錬を続ければアレだけの筋肉量を得れるのだろうか?
そんな俺の考えはさておき、オールマイトは体を捻ったかと思えばババン!!と、効果音が付きそうな勢いで【BATTLE】と書かれたプレートを見せつける。
「ヒーローの素地を作るため、様々な訓練を行う科目だが…早速今日は戦闘訓練を行うぞ!!あ、あと単位数が最も多いから休んじゃダメだぞ!」
まさかの初回から戦闘訓練と聞いてやる気を隠しきれない生徒や、緊張した顔つきになる奴など様々である。
「それに要望を出していた戦闘服も届いているから、着替えたら順次グラウンド・βに集まるんだ!!」
戦闘服ねぇ………。
グラウンド・βに行くと、様々な戦闘服に身を包んだ面々がいた。しかし、飯田の戦闘服いいな…。なんかわからんが物凄く憧れる…何でだ?こう、胸の内から湧き上がるように「お前が欲しいイイイ!!」って位には羨ましい。
次回の要望への内容を考えていると、後ろから肩をポンポンと叩かれる。振り返ると頬を人差し指で突かれる。
「ブモっ」
「ぷっ!ブモって何よ~!!笑わせんといて~!」
思わず出た声に自分自身で腹立たしく感じながらも、腹を抱えて笑う麗日と、クスクスと笑う蛙吹が立っていた。麗日お前…女性がパツパツスーツはイカンだろ。近接戦闘時に破れたら男と違って大変なことになるぞ…。
「「…エッチ」」
何で俺が悪いみたいになってるんですかねぇ…。普通の意見だろうが。
「神機ちゃんは真っ黒のボディスーツなのね。グローブとブーツも黒で、頭の赤い鉢巻が格好いいわ。腰についてるのは武器かしら?一つは試験の時に見せた技用の物だと分かるのだけど、もう一つは何かしら?布?」
俺がやや凹んでいると、蛙吹がマジマジと俺の戦闘服と武器を吟味しだした。ボディスーツに至っては遮光性の問題である。しかし、黒色と人相が相まってヒーローらしくない。これでマスクまでつけてたらアメコミのダークヒーローのような出で立ちになってしまう。
「コレか?蛙吹の言う通り、スラッシュ用の媒体になる柄だな。出力の調整がしやすくなってて、殺傷と非殺傷が選べる。…おい、そんな顔で見るな。間違っても人殺しなんてしないから。そもそも、厳重にセーフティーがかかってるから、俺がバカみたいに出力あげない限り何も起こらねぇよ。で、この布みたいなやつは…」
「さぁ!戦闘訓練の時間だ!!いいじゃないかみんな、かっこいいぜ!!」
と、話を続けようと思ったが生徒が揃ったようでオールマイトが話しだした。内容を聞いていると、屋内での対人戦闘とのことだ。
敵側とヒーロー側に二人ずつに別れ、敵側は制限時間核を守り切るか捕獲するか。ヒーロー側は捕獲するか核を確保するか…って感じか。シンプルでわかりやすい。
「じゃ、チーム分けしていくぞ!!」
俺はEか。で、相方は…手袋と靴しか見えないんだが…。
「おー!ビカビカ君だね!私、葉隠透!個性は見ての通り『透明』だよ!」
ビカビカ君て…。いや、確かに美しい感じの光り方ではないけどな。丁寧な自己紹介にはちゃんと答えないとな。
「よろしく、葉隠。俺は輝神機。個性は『身体強化』…ってなってる。詳しくはわからないんだ。その副産物なのか、力を込めた部分に対して光が集まるって感じだ。」
「凄いねー!増強型ってだけでも強いのに、光るっていうのが派手でいいよね!」
まぁ、光が漏れてるって事は収束しきれてないからエネルギーの無駄なんだけどな。…どうやら、最初は麗日の所と飯田の所がやり合うみたいだな。麗日は俺以外と対人戦をするのは恐らく初めてだろうが…まぁ、どうとでもなるだろう。
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結論を言うと、麗日・緑谷ペアの勝利で幕を閉じた。
麗日は、最初の爆豪の攻撃を読んで緑谷を庇ったり、飯田と正面戦闘を行おうとしていたが…今回は相手が悪かったな。爆豪は爆破の個性だから狭い道では相性が悪い。だから爆豪を分析している緑谷に任せるしかない。飯田の所に行くも、アイツの速度に麗日がついていけるわけもなく、緑谷との即興必殺技の彗星ホームランで勝利。といった流れだった。
「全然良い所無かった…」
肩をガックリと落とし、完全に落ち込んでいる。相性もあるし仕方がないとはいえ、訓練の成果の一発目がこうだと落ち込むのも分かる。
「まぁ、そこまで気を落とすなよ。初撃を見切れたのは間違いないんだから。成長したところは素直に自分を褒めようぜ」
うん。と、返事を返してくるも表情は暗いまま。どう声をかければいいんだ?
「次はIチームとJチームだ!輝少年、葉隠少女はヴィラン側。切島少年と尾白少年がヒーロー側だ!ヴィラン側はセッティングに向かうように!!」
あー、呼ばれちまったか。…俺はコイツの師匠ではないけど、弟子(みたいな存在)が落ち込んでたり泣いてたりすんのは嫌だからなぁ…
「あー、麗日?」
「…何?」
「俺が他人と手合わせしてるの見たことないだろ?ちゃんと見とけよ。で、称賛の言葉を用意して待ってろ」
珍しい俺の自意識高めな発言にポカンとした顔を見せる。そして、一つ頷いた後に右の拳を出してくる。
「うん。期待しとるよ!」
そして、拳を合わせる。俺はコレが好きなんだよね。一流の武闘家は、拳を合わせた相手の気持が分かる。って、師匠は言ってたけど…全然わかんねーから俺もまだまだなんだろうなぁ。…そもそも、拳を合わせるってこういうことなのか?わからん…。
「輝少年!早く準備してね!」
ゴメンナサイ!すぐ行きます!!
場所は変わって、演習の舞台になるビル内部。俺は葉隠と作戦会議を行っていた。
「で、何か考えはあるの!?」
考えって言っても、向こうはバリバリの格闘タイプだろ?葉隠は何か習い事とかやってた?
「えっ、私普通の女の子だよ?」
いやいや、このご時世女の子でも習い事してたりするんじゃないのか?空手とか合気道とか…ってなると、やっぱり俺が二人を食い止めるしか無いか…。
「じゃあ、不意打ちして上手くいったとき用にコレ渡しとくわ」
俺は額につけていた鉢巻きを渡す。向こうは捕獲用のテープがあるけど、こっちはないからな。無いよりマシだろ。
「ありがとう。で、作戦は!!?」
「作戦?俺が二人を食い止める。コレ意外ないだろ」
「…それ作戦だとしても、脳みそ筋肉だよね?」
お前なぁ…。あぁ…こんな事話してたらもう5分経っちまう…。
核は最上階に設置して、葉隠は戦闘中は隠れていてくれ。最低でも一人は再起不能にしておく。最悪、もう一人は任せるからな。
言いつつも俺が二人を止めれなかった場合は、非戦闘員の葉隠に勝ち目はないんだけどな。
「それじゃ私何も活躍できないじゃん!!何かやらせてよ!」
コイツ…(♯^ω^)。…いや、待てよ?葉隠、お前の体って………
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先にヴィランチームが入ってから5分が経過した。
訓練の舞台となるビルへ足を踏み入れようと、切島と尾白が歩いていた。こちらは5分の間にお互いの個性の説明をしたり、簡単なコンビネーションの確認をしたりとお互いにできる幅を少しでも増やしていた。
そして、ビルへと入った瞬間に目にしたのは、顔を白い布で覆った状態で片目だけを覗かせ、右手を真正面に開いた状態で仁王立ちしている、ボディースーツ男の姿であった。完全に変人である。
「よく来たなヒーロー!俺は光拳の鬼神、ジンキ!!上の核には近寄らせはせんぞ!」
役者と呼ぶにはイマイチな神機の啖呵に、切島と尾白は思い思いの返事を返す。
「え、そういう感じなのお前?」
「二つ名とかつけて結構ノリノリじゃねーか!しかも顔まで隠して…マジでヴィランっぽくてワクワクしてきたぜ!」
流石にツッコミを返すも、それに動じず、むしろ目の奥が冷たく光ったような神機の姿に構えを取る二人。すると、降ろしていた左手をゆっくりと上げ、挑発するようにクイクイと人差し指を曲げる。
「御託はいいからさっさとかかってこいよ。お前等には10分の猶予しかないんだぜ?」
「確かにな。挑発に乗ったみたいで嫌だけど、正々堂々正面から戦ってくれるなら都合がいい!!」
尾白が切島を置いて先行する。切島も遅れて続こうとするが、踏み出す瞬間に眩い閃光がその場を包んだ。
「即興技!透フラッシュ!!」
葉隠の肉体は透明である。体で光の屈折を変えることで、その明るさを倍増させることが可能であった。即興技にしては威力は余りにも絶大である。ましてや不意打ちともなるとなおさらである。
「ぐぁ!?目、目がッ…。」
唐突な閃光に両目を焼かれた尾白は、両腕で頭全体を庇う様に覆う。唐突な光に頭部を守るのは人の本能である。尾白が怯んでいる間に、神機は持ち前の速度で懐へと入ると、ピタリと右の拳を尾白の腹部へと当てる。モニターで見ていた麗日は思った。「あ、アカンやつ」と。
「迂闊すぎるぞ、ヒーロー!」
神機の拳がグローブ越しに一瞬光ったかと思うと、尾白の道着が正面から風を受けたように大きくはためく。遅れて、尾白が弾かれるように大きく後ろへ後ずさるとそのまま膝を付く。たった一発で息は絶え絶えになり、今にもそのまま前へ崩れてしまいそうな様子である。
「尾白!大丈夫か!!?」
切島が声をかけるも、もうそこから動けないといった表情で悔しそうな、または泣きそうにも見える表情を返す。
そんな中、神機は両手を組んで仁王立ちの姿勢である。
「おいおい、ヴィランが正々堂々ヒーローを待ち構えるわけ無いだろ?それに、まだ2分も経ってないぞ?」
演技のように大げさに話す神機だが、その瞳は至って冷静である。常に一挙手一投足、そして、心理状況すらも見逃さないといわんばかりの眼光を片方しか出ていない目から放つ。
切島は感じる。自分を保健室へ連れていき、平謝りしていた神機。クラスで麗日や蛙吹から、からかわれながらも笑う神機。その全てが演技だったのではないかと錯覚するほどの威圧感。今、自分が相対しているのは学友ではなくヴィランと錯覚してしまいそうなほどに恐怖を感じてしまう。
「後はお前だけだ。と、言いたいところだが…俺は容赦なくその尻尾男にも攻撃をする。そいつを庇いながら俺を退けることができるか!?」
尾白にも攻撃をすると聞いて臨戦態勢に入ってた切島へ肉薄する。お互いの距離はお互いの手が届く、射程圏内へと入る。
「おおおおあああぁぁぁ!!!」
先に手を出したのは切島。低く潜り込んできた神機を、自身の感じる恐怖もろとも振り払うかのように、右のボディブロー。しかし、それを難なく左手で流す。そして、流されたことによって体制の崩れた所へ、意趣返しのように右のボディを返す。
ガィン!!と、鉄以上に固いものを殴ったような音が響く。怯まずに左を返してきた切島の拳をバックステップで避けて、軽くステップを踏む。
「靴でダメージを受けてたから、そんなに固くならないと思ってたが…そういう訳でもないんだな。」
自身の拳を眺めながら神機が言う。それに対して、切島は両の拳を合わせて小気味のいい音を出す。
「あったりまえだろ!あの時は完全に油断してたからな!後ろの尾白は絶対にやらせねぇ!」
自分を奮い立たせるように吠える。モニター前にいる生徒一同は、神機の演技に合わせているものだと思っている。しかし、切島は違った。先程の腹部を殴られる刹那に見えた神機の眼光が頭から離れない。
ついこの間まで中学生であった切島は、正直、今すぐにでもギブアップを宣言したい。と、思った。それだけ相手の威圧感がすさまじく感じられた。しかし、念願の雄英合格。そして、初のヒーローになる為の授業でそれだけはしたくなかった。何より、一つ前の緑谷の姿を見ているからこそ、こんなすぐに諦めたくはなかった。
そして、再び神機が構えを取る。厚手のボディースーツのせいなのか、個性を発言しているのかは視認しにくい状態である。
「かかってこい神機!俺は絶対に倒れねぇ!」
「行くぞ切島あああぁぁぁ!!」
再び、お互いの拳が交錯するかに見えた。しかし、神機の隣に影が差す。尾白である。
「さっきの分、返すぞぉ!!」
尻尾での強烈な横なぎ。とっさに右腕でガードする。そして、眼前に迫る切島の右のストレートを首を曲げて紙一重で回避する。硬化した腕が頬を掠め、少し切れる。
ガードした尾白の尻尾を掴み切島へと投げると、切島はしっかりと尾白をキャッチし、再び向かい合う。
「…手加減しすぎたか」
「勘弁してくれ。あんなん鍛えてない奴が食らったら速攻で病院だぞ。今でも昼に食べた物が喉まで来てるんだ…」
「ここからは2対1だ!」
いうや否や、尾白と切島が息を揃えて神機へと駆ける。切島を盾にするように尾白が後方へ。
対して神機は迎え撃つように姿勢を低く構えをとる。引く気はないと物語っているようである。
直線的に1発、2発と拳を振るう切島の攻撃を難なく交わすも、その後ろから切島を飛び越えるように奇襲をかける尾白。上から振り下ろされる尻尾をサイドステップで避けると、回り込むように切島が陣取り、再び左右の連打を重ねてくる。
直撃はないものの、神機は自分の位置が壁際へと押しやられ始めていることに気づいている。切島へカウンターを返しても有効打は薄く。尾白を狙えば切島に庇われ、その後方からリーチを生かした尻尾の牽制が入る。その繰り返しをしていくうちに、神機は角へと追い込まれた。
「やっと追い込んでやったぜ。逃がす気はねぇぞ!」
一呼吸を置いてから、切島が前、尾白が後ろのフォーメーションで再びアタックを仕掛ける。その瞬間、スーツ越しからでも分かるほど神機の全身が発光を始める。
「流石に出力を上げないとジリ貧になるか…」
神機が地面を踏み込んだ刹那、切島は瞬間的に神機を見失う。角に追い込んでいたはずが、一瞬で二人の脇を擦りぬけ背後に立つ。
「ウッソだろおい!!?」
完全に虚を突かれた切島。そして、切島の後ろに居たため神機の踏み込みが見えず、完全に見失っている尾白。その尾白の背後で、腰に挿している剣の柄を握り、抜刀の構え。
「う、後ろなのか!!?」
ワンテンポ遅れて振り向いた尾白の眼前には、柄から伸びる青白い光を放つ剣。そして、変わらずギラつく眼光。尻尾も含め、体の前面を全力で守る。そして、そこに神機の剣技が放たれる。
崩れ落ちる尾白。モニターを見ていた生徒の一部からは小さく悲鳴が上がる。
「せ、先生!!お…尾白君が!!?」
「Shit!!まさか、マジで切ってるのか!!?」
一事騒然となるが、尾白の体からは出血は見られない。オールマイトが無線越しに尾白へと無事なのか声をかける。
「あ、オールマイト。大丈夫です。ただ、体が動かないんです…。」
「ど、どうなっているんだ?いや、だが本人が無事なら…」
そんなやり取りの中、柄を投げ捨て、飛び蹴りを切島へと放ち、壁を背をわせるとその正面に腰を低く落として神機が構える。
「絶対に倒れないことは素晴らしいことだ。戦いは最後まで立ってた奴が勝つ。だが……」
話し終わる前に切島が右を大きく振りかぶる。しかし、その拳が神機に届くよりも早く、無数の連打が切島の全身へと叩き込まれる。
上半身はブレていないのにも関わらず、両手だけが高速で打ち出されており、残像により手が増殖しているかのように見える。急にピタリと連打を止めたかと思うと、切島は糸の切れた人形のように崩れ落ちる。それを、神機が受け止める。
「まぁ、立ってるのは俺なんだけどな」
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「輝少年。見事な立ち回りだったな!!尾白少年を切りつけた時にはヒヤッとしたが、アレはどういうことなんだい?」
葉隠から返してもらった鉢巻を結びながらモニタールームへと戻ると、開口一番オールマイトから質問を投げかけられる。周りは「辻斬りかと思ったぜ」や「人斬り以蔵の生まれ変わりなんじゃ」と言いたい放題である。
「俺の個性は身体強化で通っていますが、正しくは『身体内の波動を操る能力』です。自身に発動することで身体強化。媒体に纏うことで武器への変化。そして、その攻撃は『外傷にも内傷にも変換する』事ができるんです。
あ~、ちょっとむずかしいな…。そうだなぁ…。飯田、ちょっと来てくれないか?
「今から、コレで足を切るけどいいよな?」
と言いながら、何の警戒もなく近寄ってきた飯田の右足のエンジン部分を大きく斬りつける。
「きっ!君というやつは!了承を得てからやりたまえ!!」
いや、もう疲れてるからさっさと説明終わりたくて。で、右足の個性使えるか?
「……な、なんだこれは?左のエンジンは吹かせるが、右足が…。それどころか、右足だけ痺れているような感覚だ…」
あぁ、個性だけを止めるつもりが肉体までちょっと行っちまったか…。すまん。
「ケロ…。じゃあ、神機ちゃんが試験の時に使ったスラッシュタイフーンって技は、外傷を与える能力で使ったってこと?」
そういうこと。
…二種類使えるようになったのは、きっと親父とのあのやり取りが原因なんだろう。
「よし、じゃあ総評を行うから、それが終わったら次のチームを決めるぞ!!」
正直、総評は俺の独断を責める声もあれば「ヴィランらしくて良かったと思います」と笑顔で答える麗日やらもうむちゃくちゃであったが、オールマイトからは「今回の結果に慢心せず、精進を忘れちゃ駄目だぞ!」と合格点をもらえた。むしろ、作戦的にはあれしか無いと思うんだが…。
そして、轟と爆豪のやや殺気の籠もった視線を感じながら「今日の晩飯何にすっかなぁ」ときづいてないふりを決め込むのだった。