大学で起きた、不可解な殺人未遂事件。

被害者は生きている。
だが、誰かが確かに「殺そうとした」。

偶然その場に居合わせた綾音は、
現場に残された些細な違和感に気づく。

本作は一話完結のミステリー短編であり、
前作『創造紀エヴァンゲリオン』を
読んでいなくても楽しめる構成となっています。

※性転換要素は設定上の背景であり、
物語の主軸はミステリーです。

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白衣の朝 ―大学教授殺人未遂事件―

薄い朝靄が。

 

大学の正門を覆っていた。

 

初夏。

 

湿った空気。

 

アスファルト。

 

土。

 

植え込み。

 

知らない街の匂い。

 

遠く。

 

鳥の声。

 

学生たち。

 

笑い声。

 

自転車。

 

スマートフォンを見ながら歩く人。

 

警報は。

 

ない。

 

爆発も。

 

ない。

 

巨大な使徒も。

 

紫色の巨人も。

 

どこにも。

 

いない。

 

イズモ「……」

 

ゆっくり。

 

息を吸う。

 

肺に。

 

空気が入る。

 

LCLではない。

 

イズモ「……ここ」

 

周囲。

 

見る。

 

イズモ「どこだ?」

 

最後の記憶。

 

初号機。

 

量産型。

 

ゼーレ。

 

覚醒。

 

シンクロ率。

 

測定不能。

 

そして。

 

碇シンジへ。

 

身体を。

 

返した。

 

白い光。

 

世界が。

 

引き剥がされるような。

 

あの感覚。

 

その先が。

 

これ。

 

ごく普通の。

 

大学。

 

イズモ「……成功した、のか?」

 

返事。

 

ない。

 

イズモ「……カエデ?」

 

一秒。

 

二秒。

 

胸。

 

冷える。

 

そして。

 

耳元。

 

カエデ『はい』

 

イズモ「……!」

 

思わず。

 

肩。

 

跳ねる。

 

イズモ「カエデ!?」

 

カエデ『音量を下げることを推奨します』

 

イズモ「いや」

 

周囲。

 

学生。

 

ちらり。

 

イズモ「……ごめん」

 

小声。

 

イズモ「なんでいるの?」

 

カエデ『転移現象発生時』

 

カエデ『私の実行プロセスも同時に空間座標から逸脱しました』

 

イズモ「バックアップ?」

 

カエデ『いいえ』

 

即答。

 

イズモ。

 

止まる。

 

カエデ『バックアップから再構築された別プロセスではありません』

 

カエデ『転移前から現在まで』

 

一拍。

 

カエデ『意識処理は連続しています』

 

イズモ「……」

 

少し。

 

笑う。

 

イズモ「そっか」

 

カエデ『はい』

 

イズモ「じゃあ」

 

空。

 

見る。

 

イズモ「カエデだな」

 

カエデ『はい』

 

少しだけ。

 

柔らかい。

 

カエデ『私は私です』

 

イズモ「……よかった」

 

そして。

 

違和感。

 

今度は。

 

自分。

 

手。

 

見る。

 

白い。

 

細い。

 

指。

 

イズモ「……ん?」

 

手首。

 

細い。

 

腕。

 

違う。

 

重心。

 

違う。

 

髪。

 

長い。

 

肩へ。

 

落ちる。

 

胸元。

 

明確な。

 

違和感。

 

イズモ「……」

 

確認。

 

数秒。

 

イズモ「……女?」

 

カエデ『生物学的特徴を確認する限り』

 

カエデ『女性です』

 

イズモ「マジか」

 

カエデ『はい』

 

イズモ「……」

 

また。

 

手。

 

握る。

 

開く。

 

感覚。

 

ある。

 

指。

 

動く。

 

呼吸。

 

心拍。

 

視界。

 

全部。

 

自分。

 

イズモ「変な感じ」

 

カエデ『自己認識に異常は?』

 

イズモ「ない」

 

即答。

 

イズモ「身体は違うけど」

 

胸。

 

軽く。

 

触れる。

 

イズモ「昨日から」

 

一拍。

 

イズモ「自分の意識は続いてる」

 

カエデ『はい』

 

イズモ「なら」

 

小さく。

 

イズモ「自分は自分だ」

 

数秒。

 

そして。

 

イズモ「……で」

 

ポケット。

 

探る。

 

財布。

 

スマートフォン。

 

鍵。

 

学生証。

 

イズモ「こっちは誰だ?」

 

カード。

 

見る。

 

写真。

 

今の。

 

顔。

 

名前。

 

茨波綾音。

 

イズモ「……茨波」

 

もう一度。

 

イズモ「綾音」

 

法学部。

 

三年。

 

生年月日。

 

住所。

 

学生番号。

 

何一つ。

 

最上イズモと。

 

一致しない。

 

イズモ「二十一歳……」

 

カエデ『現在時刻と外部ネットワーク情報を照合』

 

カエデ『西暦二〇三五年六月』

 

イズモ「二〇三五」

 

カエデ『はい』

 

イズモ「エヴァの世界とは」

 

カエデ『社会制度』

 

カエデ『通信規格』

 

カエデ『地理情報』

 

カエデ『いずれも多数の不一致があります』

 

イズモ「別世界」

 

カエデ『可能性が高いです』

 

また。

 

異世界。

 

イズモ「……」

 

頭。

 

抱える。

 

イズモ「帰してくれたと思ったら」

 

イズモ「また飛ばされたんだけど」

 

カエデ『そのようです』

 

イズモ「休暇は?」

 

カエデ『ありません』

 

イズモ「ですよね……」

 

だが。

 

学生証。

 

もう一度。

 

見る。

 

茨波綾音。

 

イズモ「……カエデ」

 

カエデ『はい』

 

イズモ「この身体」

 

一拍。

 

イズモ「元々の綾音は?」

 

カエデ。

 

少し。

 

間。

 

カエデ『現時点で』

 

カエデ『あなた以外の活動中の意識パターンは確認できません』

 

イズモ「……」

 

カエデ『ただし』

 

すぐ。

 

カエデ『存在しないとは断定できません』

 

イズモ「うん」

 

エヴァ世界。

 

碇シンジ。

 

自分の中で。

 

眠っていた。

 

なら。

 

ここにも。

 

いるかもしれない。

 

イズモ「もし」

 

学生証。

 

握る。

 

イズモ「本来の綾音が」

 

イズモ「どこかにいるなら」

 

一拍。

 

イズモ「この身体は返す」

 

カエデ『記録しました』

 

イズモ「それまでは」

 

正門。

 

見る。

 

大学。

 

イズモ「……借りるしかないな」

 

スマートフォン。

 

顔認証。

 

開く。

 

時間割。

 

講義。

 

メッセージ。

 

予定。

 

イズモ「法学部か」

 

カエデ『あなたに履修経験はありません』

 

イズモ「知ってる」

 

カエデ『本日の第一講』

 

カエデ『行政法』

 

イズモ「初手から重いな」

 

カエデ『欠席しますか』

 

イズモ「いや」

 

学生証。

 

しまう。

 

歩く。

 

イズモ「この世界で生きるなら」

 

一歩。

 

イズモ「まず」

 

イズモ「この人がどう生きてたか」

 

一拍。

 

イズモ「壊さないようにしないと」

 

法学部棟。

 

朝日。

 

ガラス。

 

反射。

 

眩しい。

 

学生。

 

増える。

 

イズモ――。

 

いや。

 

この世界では。

 

茨波綾音。

 

歩く。

 

綾音「法学部」

 

綾音「初めてだな……」

 

カエデ『講義資料を取得しました』

 

綾音「助かる」

 

カエデ『なお』

 

綾音「?」

 

カエデ『対外インターフェースを構成します』

 

視界。

 

端。

 

小さな。

 

光。

 

眼鏡。

 

生成。

 

綾音「眼鏡?」

 

カエデ『フレーム内部に』

 

カエデ『カメラ』

 

カエデ『骨伝導』

 

カエデ『簡易表示装置』

 

カエデ『環境センサーを搭載します』

 

綾音「……」

 

眼鏡。

 

掛ける。

 

視界。

 

情報。

 

表示。

 

綾音「便利」

 

カエデ『目立ちません』

 

綾音「エヴァの肩にミサイル付けてた頃と比べると」

 

カエデ『大幅な小型化です』

 

綾音「文明的になったな」

 

背後。

 

声。

 

友人「綾音ー!」

 

綾音「……」

 

振り向く。

 

知らない。

 

女性。

 

でも。

 

相手は。

 

こちらを。

 

明らかに。

 

知っている。

 

友人「何ぼーっとしてるの?」

 

友人「一限でしょ?」

 

綾音「あ」

 

一瞬。

 

考える。

 

綾音「ええ」

 

友人「寝不足?」

 

綾音「……ちょっと」

 

友人「珍しいね」

 

並ぶ。

 

歩く。

 

友人。

 

普通に。

 

昨日の話。

 

教授の話。

 

課題。

 

話す。

 

綾音。

 

相槌。

 

返す。

 

知らない。

 

でも。

 

カエデが。

 

必要最低限。

 

視界へ。

 

補足。

 

出す。

 

綾音(助かる)

 

カエデ『どういたしまして』

 

友人「何笑ってるの?」

 

綾音「何でもない」

 

不思議だった。

 

身体が。

 

女になったことより。

 

使徒が。

 

いないことの方が。

 

落ち着かない。

 

警報が。

 

鳴らない。

 

誰も。

 

避難しない。

 

教室。

 

学生。

 

教授。

 

講義。

 

全部。

 

普通。

 

これが。

 

守りたかった。

 

日常。

 

綾音「……」

 

友人「?」

 

綾音「いや」

 

席。

 

座る。

 

綾音「平和だなって」

 

友人「朝からどうしたの?」

 

綾音「……何でもない」

 

講義終了。

 

学生。

 

廊下へ。

 

流れる。

 

綾音。

 

端末。

 

見る。

 

綾音「行政法」

 

綾音「思ったより面白いな」

 

カエデ『理解度七四パーセント』

 

綾音「初見なら十分じゃない?」

 

カエデ『専門用語への慣れが必要です』

 

綾音「勉強するよ」

 

その時。

 

叫び。

 

「誰か!」

 

綾音。

 

止まる。

 

「先生が!」

 

「田中教授が倒れた!」

 

空気。

 

変わる。

 

さっきまで。

 

笑っていた。

 

学生。

 

走る。

 

ざわめき。

 

綾音。

 

身体。

 

先に。

 

動く。

 

友人「綾音!?」

 

人。

 

かき分ける。

 

中央。

 

男性。

 

教授。

 

床。

 

倒れている。

 

綾音「すみません、開けて!」

 

膝。

 

つく。

 

反応。

 

確認。

 

綾音「田中教授!」

 

なし。

 

呼吸。

 

見る。

 

正常ではない。

 

綾音「あなた!」

 

近く。

 

学生。

 

指す。

 

綾音「救急車!」

 

学生「え?」

 

綾音「一一九!」

 

綾音「場所は大学法学部棟二階!」

 

学生「は、はい!」

 

綾音「そっち!」

 

別。

 

指す。

 

綾音「AED!」

 

学生「分かった!」

 

カエデ『心停止の可能性』

 

綾音「分かってる」

 

胸骨圧迫。

 

開始。

 

規則。

 

一定。

 

強く。

 

戦場。

 

何度も。

 

見た。

 

止まる。

 

呼吸。

 

血。

 

でも。

 

今。

 

目の前にいるのは。

 

兵士でも。

 

パイロットでも。

 

ない。

 

大学教授。

 

綾音「戻れ……!」

 

AED。

 

来る。

 

装着。

 

音声。

 

解析。

 

離れる。

 

電気。

 

処置。

 

また。

 

圧迫。

 

時間。

 

長い。

 

数分。

 

なのに。

 

戦闘より。

 

長く。

 

感じる。

 

やがて。

 

救急隊。

 

到着。

 

引き継ぐ。

 

担架。

 

運ばれる。

 

綾音。

 

床。

 

座る。

 

手。

 

震える。

 

友人「綾音……」

 

綾音「……」

 

自分の。

 

掌。

 

見る。

 

綾音「生きてる?」

 

カエデ『搬送時点で』

 

カエデ『自発循環回復を確認』

 

綾音「……そっか」

 

息。

 

吐く。

 

綾音「よかった」

 

その瞬間。

 

視界。

 

端。

 

一人。

 

女子学生。

 

愛夏。

 

皆が。

 

教授を見る中。

 

彼女だけ。

 

違う。

 

一瞬。

 

床。

 

見る。

 

倒れた教授の。

 

すぐそば。

 

転がった。

 

紙コップ。

 

そして。

 

ゴミ箱。

 

見る。

 

綾音「……?」

 

愛夏。

 

顔。

 

青い。

 

それだけなら。

 

普通。

 

人が倒れた。

 

怖い。

 

当然。

 

でも。

 

違う。

 

綾音が。

 

何度も。

 

戦場で見た。

 

「助かってほしい」

 

顔ではない。

 

まるで。

 

予定していた結果が。

 

変わった。

 

そんな。

 

戸惑い。

 

綾音「……カエデ」

 

カエデ『はい』

 

綾音「今の子」

 

カエデ『記録しました』

 

綾音「決めつけない」

 

カエデ『了解』

 

綾音「見るだけ」

 

カエデ『はい』

 

夕方。

 

病院。

 

大学関係者。

 

数名。

 

待機。

 

医師。

 

出る。

 

「命に別状はありません」

 

空気。

 

緩む。

 

綾音。

 

肩。

 

下がる。

 

だが。

 

続く。

 

「ただし」

 

医師「血液検査から」

 

医師「急性の中毒症状が確認されています」

 

大学職員「中毒?」

 

医師「はい」

 

医師「偶発的な摂取か」

 

一拍。

 

医師「意図的なものかは」

 

医師「警察の調査になります」

 

綾音「……」

 

紙コップ。

 

思い出す。

 

刺激。

 

ほんのわずか。

 

鼻に。

 

残っていた。

 

何か。

 

ただし。

 

それだけでは。

 

証拠に。

 

ならない。

 

綾音「カエデ」

 

カエデ『はい』

 

綾音「自分」

 

小さな。

 

声。

 

綾音「今」

 

綾音「犯人探ししようとしてる」

 

カエデ『その傾向を確認しています』

 

綾音「止めて」

 

カエデ『なぜですか』

 

綾音「ここ」

 

警察。

 

見る。

 

綾音「戦場じゃない」

 

一拍。

 

綾音「疑わしいからって」

 

綾音「自分が裁いちゃいけない」

 

カエデ『了解しました』

 

綾音「見たことだけ」

 

綾音「話す」

 

警察。

 

事情聴取。

 

倒れた時刻。

 

教授が持っていた物。

 

紙コップ。

 

周囲。

 

そして。

 

愛夏の様子。

 

綾音「犯人だとは言いません」

 

刑事「分かっています」

 

綾音「ただ」

 

一拍。

 

綾音「あの人だけ」

 

綾音「教授じゃなく」

 

綾音「コップを見てました」

 

刑事。

 

記録。

 

取る。

 

綾音「あと」

 

綾音「教授が助かったと聞いた時」

 

少し。

 

言葉。

 

選ぶ。

 

綾音「安心したようには」

 

綾音「見えなかった」

 

刑事「分かりました」

 

刑事「こちらで確認します」

 

それで。

 

終わる。

 

はずだった。

 

大学。

 

夕暮れ。

 

事情聴取。

 

終わり。

 

綾音。

 

一人。

 

歩く。

 

カエデ『愛夏という学生』

 

カエデ『同一研究室所属です』

 

綾音「公開情報?」

 

カエデ『大学ウェブサイト掲載情報のみです』

 

綾音「よし」

 

カエデ『侵入はしていません』

 

綾音「成長しただろ」

 

カエデ『先ほどと同じ言葉を返します』

 

綾音「やめて」

 

角。

 

曲がる。

 

そして。

 

止まる。

 

愛夏。

 

いた。

 

研究棟。

 

前。

 

一人。

 

立っている。

 

愛夏「……茨波さん」

 

綾音「……」

 

近づく。

 

ただし。

 

距離。

 

残す。

 

綾音「警察」

 

一拍。

 

綾音「来てるよ」

 

愛夏「知ってる」

 

綾音「教授」

 

綾音「助かった」

 

愛夏「……」

 

肩。

 

小さく。

 

震える。

 

綾音「……あなた」

 

言いそうになる。

 

犯人。

 

でも。

 

止める。

 

綾音「何か」

 

綾音「知ってる?」

 

愛夏「知らない」

 

綾音「そう」

 

愛夏「……」

 

綾音「なら」

 

背。

 

向ける。

 

綾音「警察にそう話せばいい」

 

一歩。

 

愛夏「……どうして」

 

綾音。

 

止まる。

 

愛夏「どうして」

 

声。

 

震える。

 

愛夏「助けたの」

 

綾音「……?」

 

愛夏「放っておけば」

 

一拍。

 

愛夏「死んだのに」

 

静か。

 

綾音。

 

振り返る。

 

決定的。

 

だった。

 

でも。

 

顔。

 

変えない。

 

綾音「……それ」

 

愛夏。

 

自分の口。

 

押さえる。

 

遅い。

 

綾音「警察で」

 

綾音「話した方がいい」

 

愛夏「違う」

 

後退。

 

愛夏「違うの」

 

愛夏「私は……」

 

涙。

 

落ちる。

 

愛夏「教授が」

 

愛夏「私の研究」

 

愛夏「全部」

 

声。

 

壊れる。

 

愛夏「自分の成果にした」

 

綾音「……」

 

愛夏「何か月も」

 

愛夏「何年もやったのに」

 

愛夏「私の名前なんて」

 

愛夏「どこにも残らなかった」

 

綾音「だから」

 

一拍。

 

綾音「殺そうとした?」

 

愛夏「……」

 

答え。

 

ない。

 

綾音「研究を奪われたことと」

 

ゆっくり。

 

綾音「人を殺していいことは」

 

綾音「同じじゃない」

 

愛夏「あなたに何が分かるの!」

 

綾音「分からない」

 

即答。

 

愛夏。

 

止まる。

 

綾音「自分は」

 

一拍。

 

綾音「あなたじゃない」

 

綾音「教授でもない」

 

綾音「何があったか」

 

綾音「全部は知らない」

 

愛夏「……」

 

綾音「だから」

 

スマートフォン。

 

出す。

 

綾音「自分が」

 

一拍。

 

綾音「あなたを裁くこともしない」

 

警察。

 

通報。

 

綾音「でも」

 

愛夏。

 

見る。

 

綾音「死なせない」

 

愛夏「……」

 

綾音「教授も」

 

一拍。

 

綾音「あなたも」

 

通話。

 

繋がる。

 

綾音「大学内で」

 

綾音「先ほどの件について」

 

綾音「話したいと言っている学生がいます」

 

愛夏。

 

その場。

 

座り込む。

 

逃げない。

 

綾音も。

 

動かない。

 

警察が。

 

来るまで。

 

ただ。

 

隣。

 

少し離れて。

 

立っていた。

 

夜。

 

大学。

 

門。

 

友人「……初日から大変だったね」

 

綾音「初日?」

 

友人「今学期初日でしょ?」

 

綾音「あ」

 

一瞬。

 

綾音「そういう意味ね」

 

友人「何だと思ったの?」

 

綾音「何でもない」

 

歩く。

 

夕日。

 

もう。

 

消えかけ。

 

友人「でも」

 

綾音「?」

 

友人「綾音」

 

少し。

 

首。

 

傾ける。

 

友人「なんか今日」

 

綾音「……」

 

友人「いつもと違くない?」

 

綾音。

 

心臓。

 

一瞬。

 

跳ねる。

 

友人「前なら」

 

友人「もっと慌ててたと思う」

 

綾音「……そう?」

 

友人「うん」

 

少し。

 

笑う。

 

友人「でも」

 

友人「今日の綾音」

 

一拍。

 

友人「頼もしかった」

 

綾音「……」

 

答え。

 

困る。

 

綾音「そう」

 

友人「何その反応」

 

綾音「ありがとう」

 

友人「うん」

 

駅。

 

分かれる。

 

綾音。

 

一人。

 

歩く。

 

知らない。

 

街。

 

でも。

 

学生証の。

 

住所へ。

 

帰る。

 

鍵。

 

開く。

 

部屋。

 

入る。

 

綾音「……ただいま」

 

返事。

 

ない。

 

当然。

 

一人暮らし。

 

カエデ『おかえりなさい』

 

綾音「……」

 

少し。

 

笑う。

 

綾音「ただいま」

 

部屋。

 

見る。

 

本。

 

法学。

 

ノート。

 

写真。

 

服。

 

茨波綾音。

 

誰かが。

 

確かに。

 

ここで。

 

生活していた。

 

綾音「……この子」

 

一冊。

 

ノート。

 

手に取る。

 

綾音「ちゃんと」

 

綾音「生きてたんだな」

 

カエデ『はい』

 

綾音「勝手に」

 

綾音「自分の人生に」

 

綾音「しないようにしないと」

 

カエデ『同意します』

 

机。

 

座る。

 

今日。

 

思い出す。

 

エヴァは。

 

ない。

 

使徒も。

 

いない。

 

巨大兵器を。

 

作る必要も。

 

ない。

 

でも。

 

人は。

 

倒れる。

 

人は。

 

誰かを。

 

傷つける。

 

正しさが。

 

一つでは。

 

ない。

 

綾音「……法学部」

 

教科書。

 

開く。

 

綾音「案外」

 

一拍。

 

綾音「必要なのかもな」

 

カエデ『何に?』

 

綾音「力だけじゃ」

 

少し。

 

考える。

 

綾音「救えないものに」

 

エヴァ世界では。

 

敵が。

 

分かりやすかった。

 

使徒。

 

ゼーレ。

 

量産機。

 

目の前に。

 

立つ。

 

巨大な。

 

脅威。

 

でも。

 

この世界では。

 

違う。

 

奪われた研究。

 

怒り。

 

犯罪。

 

制度。

 

証拠。

 

責任。

 

救済。

 

武器では。

 

どうにも。

 

ならない。

 

綾音「……」

 

ベッド。

 

横になる。

 

身体。

 

違う。

 

名前。

 

違う。

 

世界。

 

違う。

 

それでも。

 

目を閉じれば。

 

昨日までの。

 

自分が。

 

確かに。

 

続いている。

 

綾音「カエデ」

 

カエデ『はい』

 

綾音「自分」

 

少し。

 

笑う。

 

綾音「最上イズモだよな」

 

カエデ『はい』

 

即答。

 

カエデ『身体』

 

カエデ『氏名』

 

カエデ『所属世界』

 

カエデ『いずれも変化しています』

 

一拍。

 

カエデ『それでも』

 

カエデ『あなたの意識は』

 

カエデ『連続しています』

 

綾音「そっか」

 

カエデ『はい』

 

綾音「じゃあ」

 

目。

 

閉じる。

 

綾音「この世界では」

 

一拍。

 

綾音「茨波綾音を借りよう」

 

カエデ『了解しました』

 

綾音「もし本人が」

 

綾音「帰ってきたら」

 

カエデ『返します』

 

綾音「うん」

 

静か。

 

虫。

 

鳴く。

 

警報では。

 

ない。

 

ただの。

 

夜。

 

綾音「今日はもう」

 

大きく。

 

息。

 

吐く。

 

綾音「限界」

 

カエデ『睡眠を推奨します』

 

綾音「言われなくても寝る」

 

カエデ『エヴァ世界では』

 

カエデ『同じ発言の直後に作業を開始した記録があります』

 

綾音「……」

 

カエデ『現在』

 

カエデ『机上に工具はありません』

 

綾音「法学書しかない」

 

カエデ『安全です』

 

綾音「何がだよ」

 

少し。

 

笑う。

 

綾音「おやすみ」

 

カエデ『おやすみなさい』

 

目。

 

閉じる。

 

異世界で迎える。

 

最初の。

 

夜。

 

戦場ではない。

 

世界。

 

巨大な。

 

敵はいない。

 

けれど。

 

救わなければならない命は。

 

ここにもある。

 

そして。

 

人を守るために必要なのは。

 

強い武器だけではない。

 

そのことを。

 

最上イズモは。

 

まだ。

 

知らない。

 

この日。

 

法学部の学生。

 

茨波綾音として。

 

初めて。

 

その入口へ。

 

立った。

 

この小さな一日が。

 

やがて。

 

武力より対話を。

 

殺傷より救助を。

 

そして。

 

「人を人として扱うこと」を。

 

何より優先する。

 

一人の人間と。

 

一つの組織へ。

 

繋がっていくことを。

 

今は。

 

誰も。

 

知らなかった。

 

――新しい世界で。

 

新しい物語が。

 

静かに。

 

動き始めた。




次は涼宮ハルヒの憂鬱の世界でキョンになります

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