真剣で川神弟に恋しなさい!S   作:名枕(ナマクラ)

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ちょっと巻き展開であと一か月くらいで終わらせたいです(希望)


第十六話 「俺の新技が禁じ手認定を受けた件」

 若獅子タッグトーナメントが終わった次の日の夜、川神院の一室にてとある話し合いが行われていた。

 

 集まったのは川神院総代・川神鉄心、最強執事ヒューム・ヘルシング、仁王と呼ばれた天神館館長・鍋島正など、武の世界において名立たる面々であった。

 そんなメンバーがわざわざ集まって話し合う内容とは何なのか。これも当然というべきか、武に関する事であった。

 

 

「それでは、新たな武道四天王をどうするか、話し合うとしようかの」

 

 

 武道四天王────それは優れた武道家に与えられる称号である。四天王の名の通り、四人だけに贈られる称号であり、主に若手に贈られるのだが、つまりはこれからの武道界を牽引するにふさわしいと判断された者がその座を得る事となる。

 当然今までも四天王に収まる人材はいたのだが、それぞれの事情により武神・川神百代以外の三名が引退する事となったため、三つもその座が空いている状態だった。

 実を言えば今回の若獅子タッグトーナメントはこの残りの四天王候補者を探すための大会でもあった。

 

「まずは松永燕。これは確定だろ」

「異議なし。平蜘蛛なしでも弁慶と板垣辰子のペアを一人で攻略する程の腕だ」

「次は剣聖の娘である黛由紀恵。彼女も相応しいじゃろ」

「だな。那須与一のあの射を切り払ったあの一撃。文句なしだな」

「最後は川神十夜で決定だろ。義経と天下五弓の一人のコンビを単身破り、さらに切り札を出した松永とやり合えた強者だ」

「というよりも松永燕の次に名を上げるべき赤子だろう。黛が悪いわけではないが、何故先にあえて違う候補の名を上げた?」

「うーむ、それなんじゃがのぅ……」

 

 ヒュームの指摘に鉄心は言いにくそうに頬をかいてから口を開いた。

 

「実は十夜本人から辞退の申し出をされてしもうた」

「何だって?」

「十夜曰く、『四天王なんて称号に興味はない。それよりも挑戦者に来られて鍛錬の時間が減るのは嫌だ。何より欲しい称号は『最強』である』との事じゃ」

「ますます若獅子たる四天王に相応しいじゃねぇか。それだけに勿体ねぇな」

「下らん。本人の意向など関係なく任命してしまえばいいだろうに」

「じゃが本人が嫌がっているのならば仕方なかろう。無理にさせたとていい役職でもなし」

「ふん、俺としては口の軽い輩の方も気になるがな。そもそも奴が今回の事に気付けるとは思えん。そうは思わんか、鉄心」

 

 そう言って睨んでくるヒュームに対して鉄心は露骨に視線をそらした。

 

「……まあいい。ならば最後の一人は誰にする? 奴の他に相応しい赤子がいるのか?」

「それなら板垣辰子じゃねぇか? まだ粗削りだがその段階でアレだけの力だ」

 

 

 こうして話し合いは続き、夜は更けていった。

 

 

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「俺の新技が禁じ手認定を受けた件」

 

 秘密基地にて集まった風間ファミリーの話題はやはりというべきか、数日前に行われた若獅子タッグトーナメントになるのは当然の帰結であった。

 結果として準優勝を果たした十夜が正体を隠して参加していたことなどいろいろと気になる事は多かったものの、やはり一番気になる所といえば燕との戦いで使った『神々の憑依』に関してであった。

 

「『神憑(カミツキ)』なんて称号を貰ったのにその技使えないってどういう事なのか……」

「何か力を使うたびに記憶がなくなりそうな名前だな」

「やめろ! 縁起でもない!」

「というかなんで禁じ手にされたの? あれだけすごかったのに」

「何か身体に負担が掛かり過ぎるとかって理由らしい」

「はっきり言えば、技としては欠陥モノだな」

「具体的に言えば?」

「筋組織ズタズタ、内臓グシャグシャ、骨バキバキ、血管ブチブチ、その他諸々」

「アカン……!?」

「それでよく生きてるね」

「回復に丸二日もかかってしまった」

「コイツ、普通に化け物だ……!」

「普通内臓潰れたら回復は絶望的だと思うんだけど……」

 

『川神一族人外』説がファミリー内で根付こうとしている事に、残念ながら川神姉弟は気付けなかった。

 

「ま、とりあえずの目標としては基礎能力の向上と新技の改善だな」

「何か松永先輩には負けたのに清々しいよね」

「悔しくとかはねーのか?」

「悔しくない……わけじゃないけど。まあでも戦闘って自分の力が高まるのを感じるのが楽しいんじゃないか」

「それは違うだろ。全力をぶつけ合える相手とのやり合いがいいんじゃないか」

「うーん、川神姉弟の間でもそこの価値観が違うのか……」

「そんなことよりだ」

 

 戦闘民族KAWAKAMIの生態に認識を深めていた面々だったが、ここで百代がみんなが敢えて避けていただろう話題へと切り込んだ。

 

「その燕に公然と口づけされた十夜はどうするんだ?」

「う……」

 

 そうである。川神十夜はあろうことか、納豆小町としても人気のある松永燕に、公衆の面前でキスをされ、さらに告白までされていた。

 気にはなりつつもそこに触れていいものか悩んでいた面々の視線が十夜へと集中し、居心地が悪そうになりつつもその問いに答えるべく十夜は口を開いた。

 

 

「……ほ、保留してもらってます」

 

 

「最低だな!」

「う、うるさいなぁ! 自分の気持ちがわかんないんだよ!!」

「お前松永先輩みたいな美人に告られて断るとか許されざる行為だろ!!」

「なら受けろと?」

「馬鹿野郎!! あんな美人と付き合うとか許せるかよ!!」

「じゃあどうしろと?」

「そりゃお前、それとなく俺様と付き合うように勧めるとかあるだろ」

「殺すぞ……!」

「こえーよ!? ガチのトーンで言うなよ!?」

「関係ない私までヒヤッとした……」

「というかそこまで反応するって事は松永先輩の事好きなんじゃないの?」

「……好き、だと思う。思うけど……」

 

 卓也の指摘に肯定はしたものの、どうも言葉の歯切れが悪かった。それはただ単に好意を肯定するのが恥ずかしかった、というだけではないのは明白だった。

 

「けど? 好きなら問題ないんじゃないの?」

「あっ、もしかして……」

「何か気付いたのかまゆっち?」

「えっと、その……」

「とーやんってさー、確か他に好きな人いたよねー。しかも二人も」

「あっ!」

「そういえば!!」

 

 十夜にはすでに想い人がいた。それも二人も。

 

 一人は榊原小雪。子どものころに出会い、今の十夜を形作るきっかけとなった少女である。

 もう一人は葉桜清楚。川神学園で遠目で見た際に一目見て心奪われた、清楚を体現する少女である。

 

「でも松永先輩が好きだと思うんなら、二人への想いが抑えられたってことじゃ……」

「…………全く、変わりなく。今でも好き、だと思う……」

「つまり三股!?」

「最低ではないか!?」

 

 

 

「そうだよ! 最低だよ!! だから困ってるんじゃないか!!」

 

 

 

 クリスの思わず口から出た非難の言葉に、まさかの全肯定の叫びで返した十夜はそのまま頭を抱えてしまった。

 

「大丈夫。まだ誰とも付き合ってないから三股じゃないぞ」

「確かにそうだ! 勝手に決めつけてしまってすまない」

「でも想いを決めきれてないのは事実なわけで」

「ああ……俺、誰の事が好きなんだ……!?」

 

 そんな物凄く悩む十夜を見ながら、「それ、燕先輩の術中なんだよなぁ」という言葉を大和は内心に留めることにした。

 

「ひとまずお試しで付き合うというのはダメなのか? 燕なら正直に言ったら納得してくれそうだが」

「いや男女の付き合いでお試しでとか相手に失礼すぎるだろ」

「そこは真面目なんだよなぁ」

「初めてというのはとても大事なんだ。それをもらう事になるんだからそれ相応の覚悟を以って決めないと……」

「それ相応の覚悟というと?」

「そりゃ一緒の墓に入る覚悟に決まってるだろ」

「予想以上に重い!?」

 

 言い方はアレだが、要はちゃんと『責任を取って結婚を前提に』ということである。そこの感性は誠実なようであった。

 

「しかし本当に好きなのは誰なのかなんて他の人に聞かれても、そんなの人それぞれだろうしなぁ……」

「なら三人が処女じゃなかったとして、十夜の気持ちは変わらない?」

「しょっ!?」

「ほ、本当に相手の事が好きならばその程度の事で変わるわけないだろう! なあ十夜!」

 

 予想外の京の問いかけに少し動揺するクリスだが、その想いに偽りがないのならばこんなもの、悩むまでもなく即答するはずだ。そう思って十夜へと視線を向けた。

 

 

「…………っ! …………っっ!!」

 

 

 視線の先には、何やら苦悶の表情を浮かべ言葉にならない声を漏らしながら悩みまくっている十夜の姿があった。

 

「いやそこは悩むなよ!?」

「ムム、ここまで悩むってことは、どの好きも本物っぽいね」

「京もそれで納得するのもおかしくないか!?」

 

 クリスの言うことも尤もなのだが、気心知れた相手なら「処女じゃなくなったら女の価値半減以下」などの最低な発言を公言しかねないほどに処女厨な十夜が即答できずにこれほどまでに悩むのだ。十夜の好きという感情に信憑性が増したと言わざるを得ないだろう。

 

「ちなみにあの後松永先輩から何かアプローチ的な事はされたの?」

「それは……」

「燕なら毎日のようにお見舞いとか顔出してるぞ」

「愛されてるではないか」

「いやお見舞いなら他にも来てるし……ファミリー以外だと揚羽さんとか大和田さんとか、あとユキとか……」

「女ばっかじゃねぇか! どうなってんだ!? モテ期なのか!?」

「いや多分これ知り合いが少ないってだけ……」

「あっ……」

「憐みの目を向けるな。他にも来てくれてたから。冬馬先輩とか」

「ガタッ!」

「京、ステイ」

 

 というか養生期間二日でこれだけ来てくれたのはむしろ多い方では? 十夜は訝しんだ。

 

「もう面倒だしいっそファミリーで多数決取ってみっか」

「いや、それで決めるのはちょっと……」

「というわけで十夜は誰と付き合うべきだと思う?」

「聞けよ!?」

「私は榊原小雪を推すよ。初志貫徹、幼馴染は正義」

「俺は燕先輩かな。協力した手前もあるしね」

「清楚先輩ですかね。一目惚れって案外馬鹿にできない気がしますし」

「お前らも律儀に答えんなよ」

「競馬に例えるなら、本命・榊原小雪、対抗・松永先輩、大穴・葉桜先輩ってトコか」

「人の恋路を競馬に例えるな。こちとら真剣(マジ)なんだぞ」

「オッズはどのくらいだ」

「人の恋路で賭けすんな。相手に失礼だろ」

「あ、そこは自分にじゃないのね」

「ちなみにキャップの意見は?」

「もう三人ともに告っちまえばいいんじゃね?」

「どうでもいいからって一番ヤバい答え出してくんなよ!?」

 

 

 こうして彼らの夏の夜は更けていく。

 

 

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 

 ────川神市・松永家────

 

「ただいま~」

「あらオトンおかえり。忙しいんじゃないの?」

「忙しいよ~。今もちょっと一息吐くついでに着替え取りに帰っただけでまた行かないといけないし……でもまあ嬉しい悲鳴ってやつだね」

「頑張り所だよオトン」

 

 若獅子タッグマッチトーナメントは、松永家、特に父・久信に多大な影響を与えていた。

 決勝戦、そしてエキシビジョンマッチにて使用された『平蜘蛛』、そしてそれを作り出した技術者・松永久信という存在が各界から注目され、久信もこの機に家名を広めるべく奔走していた。

 もちろんその平蜘蛛を使っていた燕も注目の的であったが、彼女の場合その話題の方向性は少し違っていた。

 

「そうだ。確か十夜君だっけ? 今度僕にもちゃんと紹介してよ。燕ちゃんが選んだ人なら大丈夫だろうけど父親として息子になるかもしれない男がどんな人なのか知っておきたいし」

「まだ彼氏じゃないから」

「え!? あんな全国規模で燕ちゃんにチューされておきながら彼まだ返事してないの!? 嘘でしょ!?」

「私がいいって言ったの。一応言っとくけど余計な事しないでよ。攻略中なんだから」

「攻略中?」

 

 衆人環視の中で交わしたキスは、少し勢い任せだったところもあるが、十夜攻略のために必要なことだった。

 何せ十夜には付き合ってはいないものの好きな相手が二人もいるのだ。

 多少意識はされているとはいえ燕がそこに参戦するには強引な手段を取るしか方法はなかった。

 あのキスは周囲への牽制・外堀埋めだけでなく十夜自身の意識を明確に変えるための一手であった。

 そして今はその一手で変化した意識を少しずつ確実にこちらへと引っ張っていく段階だ。

 恋愛観は変に真面目な十夜はただ時間が経つだけでも燕を意識し続けるだろうが、それに上乗せするように燕自身忙しい中で毎日のように十夜に顔を見せに行き、印象を植え付けていっているのだ。

 

 その辺りを燕は父に簡単に、けれどきちんと説明する。

 

「なるほどねー……というか燕ちゃん横恋慕だったのね」

「まだ付き合ってたわけじゃないからセーフ」

「でもその十夜君の気の多さに僕ぁ不安になっちゃうね。好きな女の子がすでに二人いるって、ふとした拍子に浮気とかしちゃわない?」

「十夜クンはその辺り誠実だから付き合えたら一途だと思うよ。ただ気持ちが定まってない状態で付き合い始めちゃったら、ちょっとしたケンカとかでそっちにいっちゃうかもしれないからここできっちり気持ちを私に向けないといけないの」

「おぉう、そこまで分析して狙いに行ってるとは、我が娘ながら恐ろしいね……どうやってもその十夜君が尻に敷かれる未来しか見えないよ」

「お互いが幸せなら問題ないでしょ?」

「ごもっとも」

 

 燕の言葉に久信は出て行ってしまった妻がいた頃の生活を思い出す。

 尻に敷かれてはいた……とまでは言わないが、色んな面で妻に頼り切りで劣等感に苛まれた事もあったものの、確かにあの頃は幸せだった。劣等感に駆られて株に手を出した結果借金を背負うことになり妻も出て行ってしまったが、それでも妻がいたあの頃の生活を取り戻すためにここまで頑張ってきたのだ。燕のこの言葉は説得力しかなかった。

 

「それで現状どれくらいでいけそうなの?」

「うーん……正直五分五分かなぁ」

「ええ!? 燕ちゃんの事だからもっと勝率高いんだと思ってたけどそんなもんなの!?」

「今のままいけば多分十中八九攻略できると思うよ。問題はあの二人がどう動くかなんだよね……」

「あの二人?」

 

 そう危惧する燕にもその二人がどう動くのか、正直わからなかった。

 

 

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 

 ────葵紋病院────

 

「うーん……うーん……」

「どうしたユキ? そんなうんうん唸って」

「何か悩み事ですか?」

 

 とある病室の一角、療養している準のもとに冬馬と小雪がお見舞いに来ていたのだが、小雪の様子が普段と比べて何やらおかしかった。

 

「なんかねー、僕変なんだ……」

「変? なんだ体調でも悪いのか?」

「松永先輩が十夜といっしょにいるところを見ると、なんだかもやもやするの」

 

 準は「それは変じゃなくて恋では……」と言うか迷ったが思い留まった。こういうのは他人に言われるより自分でちゃんと気付いた方が本人のためになるだろうという親心からであった。

 

「でもそれを無理にどうにかして十夜が僕をきらいになったりしたらどうしようって」

「いやぁ、あいつがユキを嫌うとかないだろ」

 

 準は確信をもって断言するがそれでも小雪の表情は沈んだままであった。

 なんだったら小雪のためなら全てを捨ててもおかしくないくらいには入れ込んでいるんじゃないかと思うくらいには有り得ないと思うのだが、そんな準の言葉も小雪には届かないようであった。

 

「ユキは十夜君といたいし松永先輩と一緒にいてほしくないけど、十夜君が嫌がる事もしたくない、と……纏めるとこういうことですね」

「うん……僕どうしたらいいのかな……?」

 

 思い悩む小雪に対して冬馬の答えはシンプルなものであった。

 

 

「────ならそうすればいいのでは?」

 

 

「え?」

「そうすればいいって……さすがに簡単すぎないか若?」

「難しく考えなくてもいいんですよ。ユキが一緒にいる事、松永先輩と一緒にいてほしくない事、十夜君が嫌がる事をしない事、これらの行動は決して矛盾するものではありません。十夜君の迷惑にならない程度にユキのしたい事をする。それでいいんです」

 

 冬馬の説明に成程と準は納得した。確かに小雪の抱く感情は複雑ではあるが、それぞれが矛盾するものというわけではない。十夜が燕と一緒にいると嫌な気分になるという点はどうしようもないが、そこさえ我慢できるのであれば、他の小雪の願望は全て成立する。物事は意外とシンプルなのかもしれない。

 

「それでいいのかな……?」

「むしろ十夜君はユキがそこで気持ちを抑え付けて傷つく事の方が嫌がるでしょう」

「だろうな。ユキはユキの思うようにするのがあいつにとっても一番うれしいだろ」

 

 逆に十夜が一番嫌なのが自身が小雪の感情を押し殺させてしまう原因になる事だろうと冬馬も準も察していたが、それを小雪に伝えるのは野暮というのも理解していたのでそれを口にすることはなかった。

 

「僕、この気持ちがなんなのかよくわかんないけど、思うようにやってみるよ!」

「その意気だぜ」

「私たちもできる限りサポートします」

 

 

 こうして小雪は自らの胸の奥にある感情が何なのか知るために行動指針を確かにしたのだった。

 

 

「…………ところで十夜のヤツ、もうピンピンしてるってマジ? まだ療養中の俺以上に重症だったって聞いてたんだが」

「はい。完全回復していましたよ。人体の神秘ですね」

 

 

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 ──九鬼財閥本社ビル──

 

 

「あっ……」

 

 自室にて勉強をしていたら不意に手にしていた筆記用具がボキりと折れた。まただ、と思いながら別の筆記用具を筆箱から取り出す。

 

 ここ数日、何かおかしい。

 

 理由はわからないが、ふとした時に手にしていた物が壊れてしまう。

 筆記用具、食器、ドアノブ、壁や柱まで、何の前触れもなく、まるで急激に途轍もない力が加えられたかのようにひび割れ壊れるのだ。

 どうしてそんなことが起きているのかわからない。まさか心霊現象なのかと突拍子もないことが頭をよぎったりもした。

 強いて共通点を上げるとしたら、その現象が起きるのは私の心がざわついている時だった気がする。

 いや、それは正確じゃない。ここ最近、私の心が落ち着いている時はなかった。

 何をしていても、数日前の、若獅子タッグトーナメントでの、ある場面が脳裏を過ぎるのだ。

 タッグマッチ決勝戦、二人の友人同士による試合、それが終わった直後の、あの光景が。

 その光景を思い出すたびに心がざわつく。言葉にするには難しい、なんとも言い難い、でも不快な感覚が蓄積されていくようだった。

 本当だったら彼のお見舞いにだって行きたかった。でもこのよくわからない感情を抱いたまま会いに行っていいのか……会いに行って、彼と彼女が仲睦まじくしていたらと思うと、どんな顔をすればいいのだろうかと、決心がつかなかった。

 

「……十夜君は燕ちゃんと付き合うのかな……」

 

 ふと自分で口にしたその言葉に、ずきんと胸の辺りが痛んだ気がした。

 

 

 

 また一つ、筆記用具が壊れた。

 

 




『神憑(カミツキ)』の称号は『神々の憑依』を思い付いた頃から考えていた名前です。たぶん「記憶がなくなりそう」云々のネタ元のヴヴヴを見てた辺りで、つまり十年くらい前です。(白目)
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