真剣で川神弟に恋しなさい!S   作:名枕(ナマクラ)

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前回の更新から一年弱……またやってしまいました。申し訳ありません。



第九話 「私のオリジナルを探してほしいの」

――川神院・鍛錬場――

 

 

 

 十夜は放課後の鍛錬を終えて一休みしていた。しかしその様子はいつもと少し違っていた。

 

 普段であれば鍛錬後は清々しい表情をしている事が多いのだが、今日の十夜の表情は何かに悩んでいるかのようなしかめっ面であった。

 

「うーん……どうしたものか……」

「どうしたの? そんなに悩んじゃって?」

 

 そんな何かに悩んだ様子の十夜を心配してか、あるいはイジリ甲斐があると思ってか、十夜と共に鍛錬に参加していた燕が声を掛けてきた。

 

「燕先輩……いや、別に大したことは……」

「そんなに悩んで大した事じゃないって言われても説得力ないよ」

「う……」

「何ならこのお姉さんに頼ってもいいんだよん?」

「あ、姉と言われると、ちょっと頼りにくいというか……」

「あれま。まさかお姉ちゃんは頼りにならないと……モモちゃんにチクっちゃってもいい?」

「やめてくださいしんでしまいます」

 

 そんなやりとりをしながらも、十夜は自身の悩みを口にする事にした。

 

 

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 それは、十夜がたまたま学園の中庭で草花の手入れをしている清楚を見つけ、その手伝いをしている時の事だった。

 

「あのね、十夜君にお願いがあるの」

「お願い、ですか……?」

「うん、あのね……私のオリジナルを探してほしいの」

「オリジナル……?」

 

 オリジナルと聞いて十夜は首をかしげる。まるで目の前の清楚が偽物であるかのような言い方に思えて、少し考えてからクローンの元の偉人の事だと思い至る。

 

「義経ちゃんたちと違って私は自分のオリジナルを知らないじゃない。九鬼の人たちからは今は勉学に励めって言われてるけど、本当に向いている分野を集中してやった方が武士道プランを考えるならいいと思うんだ。そのためにも自分のルーツを知った方がいいと思って」

 

 確かに向いている分野があるのであればそれに集中した方が伸びも早いだろう……とは思うものの、十夜としてはそんな事関係なく好きな事をやればいいのではないかと思うのだが、真剣な清楚の雰囲気に黙って話の続きを聞く事にした。

 

「でもマープル達に聞いてもはぐらかされるから自分で調べてみようって思ったんだけど……ちょっと先入観、じゃないけど私の希望とかも混じっちゃって」

 

 清楚がいうには自分は清少納言や紫式部などの文化人タイプの偉人がいいと思っているが故に、他の可能性というのが中々思い浮かばないらしい。

 

「で、でもなんで俺なんです? 頼ってもらえて、嬉しいっすけど、歴史とか詳しくないですし……」

「それは、その……あんまり人に知られたくなくって……ほら、マープル達に禁止されている事を隠れて調べようとしてるから……十夜君なら誰かに言いふらしたりもしないと思うし……」

 

 その言葉に清楚から信用されているいう嬉しさと、ふと「十夜君には言いふらす友達もいないよね」と脳内変換してしまった事と清楚がこんな事言わないだろうという自己嫌悪による二重のダメージを同時に心に食らいながら、何とか±0で表情に出さずに頑張っている十夜に気付く事なく、清楚は言葉を続ける。

 

「それに十夜君って私の知らない事を知ってたりするじゃない? もしかしたら私の今まで知らなかった事からオリジナルに繋がるヒントがあるかもって思って……協力してくれるかな……?」

 

 その少し不安げな清楚の様子を見た十夜の答えは、聞くまでもなかった。

 

 

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「……という訳で、今度二人でオリジナル探しという名目で遊びに行く事になったんですが……」

「なるほどねぇ……大した事じゃないとも言えない辺り、何とも言えないね。反応に困るよ」

 

 とはいえ聞き出したのは自分である以上、十夜の悩みに対してどう返そうかと燕は少し考えて、気付けば次のように口にしていた。

 

「……ねえ十夜クン、清楚の正体教えてあげよっか?」

「え……? 先輩、知ってるんですか?」

「まああくまで私の予想なんだけどね。でも間違いないと思うよ」

 

 ……これは、本来であれば燕にとって誰かに教える必要はない情報である。むしろその正体を知っているという情報を万が一でも誰かに悟られる可能性を考えれば、話すという選択肢はなくなるはずだった。

 

 しかし気付けば燕は十夜に対してそんな提案をしていた。十夜に貸しを一つ作る程度でそこまで利益があるとは言えないにも拘らず、だ。

 

 

 

 ――――何でだろ? 相手が十夜クンだからなのかな……?

 

 

 

 そんな疑問が燕の脳裏に浮かぶが、それよりも今は目の前のイジリ甲斐のある後輩の反応を見る方が先だ。

 

「で、どう? 知りたい?」

 

 そして気になる後輩の反応はというと……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「や、別に」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……ノータイムで否定された。

 

 

 

 

 

「……………………あれ? ここは『知りたいです』って目を輝かせて肯定する場面じゃないの?」

「え? 何で?」

「何でって……だって十夜クン、清楚の正体どう探ろうか悩んでたんでしょ?」

「いや違いますけど」

「え?」

「え?」

 

 ……ここで互いの認識の違いが浮き彫りになった。少なくとも十夜は清楚の正体を探ろうと悩んでいたわけではない、という事を燕は理解した。

 

 というか今の話でそこ以外に悩む箇所があるのだろうかと燕が頭を悩ませているのを察することなく十夜はあっけらかんと持論を口にする。

 

「いやいや、俺が考えた所でわかるわけないじゃないっすか。歴史とか全然わかんないですし」

「えぇ……いや、まあ確かにそうかもしれないけど……じゃあ何に悩んでたの?」

「いや、これってデートじゃね? って舞い上がる自分とそんな自分に対して清楚先輩に申し訳ないという念が……」

「うわぁ……それはちょっとダメだね」

「ダメ!?」

「本当に大した事じゃないし……人に相談することじゃないよね?」

「言えっつったのアンタでしょ!? いやまあ確かに相談することじゃないですけど……」

 

 確かに言えと言ったのは燕自身であるが、内容が内容だけに落胆が態度に出てしまう。

 

 何せ後輩が何を悩んでいるのかと心配してみれば、自分の事ではないとは言え、女子に相談された事自体を悩んでいるわけでなくて、二人でデートに出かける事に浮かれていただけなのだ。当事者でもないのに胸がムカムカしてくる。

 

「それってもしかして鍛錬中も考えてたの?」

「……? 何でです?」

「だって鍛錬始める前と鍛錬終わった今だったら傍目から見て考え事してるってはっきりわかるのに、鍛錬中はそんな素振り全く見えなかったからさ。組手の時だってそれが隙になるのかと思ったけどそんな事全くなかったし」

「いやいや、鍛錬中に考えるわけないじゃないっすか、効率が下がりますし。鍛錬中に余計な事考えるわけないじゃないでしょ」

「それを余計な事って言い切れちゃう辺りスゴイんだけどなぁ……けどそれ、本人……特に女の子の前で言っちゃダメだよ」

「え? 何でです?」

「……そこでそんな反応する辺り、女心ってのがわかってないねぇ……」

 

 自身の言わんとすることをちっとも理解していないこの女心のわかってない、からかい甲斐のある後輩をどうするべきかと、燕は少し考えて、妙案と思えるアイディアが思い浮かんだ。

 

 

 

「そうだ。ねえ十夜クン、私ともデートしよっか」

 

 

 

「………………は? いき、いきなり何言ってんですか!?」

「女心の勉強だよ。という事で、今度七浜の百景島にある美術館で美術展があるんだけど、どうかな? 元々一人で行くのもなんだしどうかなって思って。君はそういうのあんまり興味ないかもだけど」

「いやまあ、美術に関して詳しくはないですけど……別に興味がないわけではないですよ」

「あれま。意外だね、うん、すっごい意外」

「ズバッと言いますね。誘ってきたの燕先輩なのに」

「いやー、君を誘ったのも結構ダメ元でって感じだったし……あんまりそういうのに興味なさそうなイメージだったからね」

「まあ俺自身そう思ってますけどね」

 

 実は十夜は、小雪が意外とそう芸術や美術を見るのが好きなのでそれに付き合う形で何度か美術展に行ったりしている。

 

 小雪もどこがいいとか誰の作品が好きとかというわけでもなく、何かオーラ的なものが出ている品が好きとかそういう感じなので、十夜も同じようにそんな感じで雰囲気を楽しんでいるというだけなので、芸術に興味があるとは言い難いのだが……そこは一先ず置いておこう。

 

「それで、七月最初の日曜に行こうと思ってるんだけど大丈夫?」

「了解っす。予定空けときますねー」

「おお、いい返事だねー。でも期末前だけどいいの?」

「キマツ……知らない子ですね……」

「あ、これはダメなパターンだね」

 

 この十夜の返答に燕はある事を決意するのだが、それはまた別の話……

 

 

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 そして、ついにその日は訪れた。

 

 川神駅での待ち合わせから葉桜清楚のオリジナル探し……もとい、デートは始まった。

 

 最初は無難に映画館で映画を見た。言い分としては映画の内容が清楚の記憶だったり好みに引っかかるかどうかで云々というこじつけに近いもの……というかこじつけだったが、その十夜の言い分に清楚は納得していた。

 

 問題としては、どのジャンルの映画を見るかだった。恋愛映画とかホラー映画とかアニメ映画とか色々と悩んだが、最終的に拳法系のアクションコメディをチョイスする事に。文学少女のイメージの強い清楚にアクション系はどうなのだろうと思ったが、実際に視聴すると清楚自身とても楽しそうであったので安堵した。

 

 昼飯はあえてどこで食べるか事前に決めず街をぶらぶらしながら二人――――主に清楚が気になった店に入ってみたりした。これもオリジナルの云々という言い分で押し切ったのだが、人の良い清楚は納得していた。その直感を信じて入った店の味は大当たり……とは言えなかったが、それよりも先程の映画の話で二人は愉しく盛り上がった。

 

 その後はゲームセンターで遊んだ。以前の携帯ゲーム機で興味を持っているだろうと考えてのチョイスである。格闘ゲームをしてどこまで勝ち抜けるかチャレンジしたり、エアホッケーをして白熱したり、クレーンゲームで一喜一憂したり、二人でプリクラを撮ってみたり……思っていた以上に多くの時間が楽しく流れていった。

 

 最後は以前約束していた久寿餅パフェを食べに行った。十夜の思っていた以上にボリュームがあったが、おいしくペロッといただけた。清楚の食べ方は品があって清楚であった。

 

 そんな楽しい一日だったのだが、ふと何かに気付いたかのように清楚の笑みが収まっていく。

 

「……? どうしました?」

「……十夜君、ちょっといいかな?」

「はい」

「ちょっと気になったんだけどね……今日色々と見て回ったけど、これ私のオリジナル探しと関係あったのかな?」

「…………」

「……どうして目を逸らすのかな?」

 

 清楚の疑念が確信へと変わった瞬間だった。

 

「確かに今日は楽しかったよ。でも今回の目的は私のオリジナルが何かを探すためのものだし、そこが疎かになっちゃうと本末転倒じゃない?」

 

 少し悲しそうに口にする清楚に対して罪悪感を抱くが、しかし今回の行動には十夜としても言い分があるのだ。もちろん清楚とのデートの機会を逃すものかという想いが多分にあったのは否定できない。

 

「……確かに、今回オリジナル探しなのにそれを気にしなかった事は悪かったです。まず謝ります。すんませんでした」

 

 そう言って十夜は頭を下げた。けれどすぐに下げた頭を戻して清楚の目をまっすぐ見つめてこう続けた。

 

 

 

 

「――――でも、俺は別に清楚先輩が誰のクローンだとか気にした事ないです」

 

 

 

 

「…………え?」

「他のクローンの人だって、確かに義経先輩の剣の腕は見事ですし弁慶先輩の力は凄まじいし与一先輩の弓の腕はピカイチです。けど、別にそれはクローンだからなんて理由で片付けていいわけがない。そこに才能があったかどうかは別として、それを身に付けた事はそれぞれが努力してきただけの事。そうでしょ?」

 

 考えた事がない所か、彼らが誰かのクローンである事を忘れていた事もある。実際に清楚の頼み事を聞いた時には忘れていた。

 

 清楚が気にしている誰のクローンであるかという事、そもそも清楚たちが誰かのクローンであるかという事、それらがそこまで重要である事だとは、十夜には到底思えなかった。

 

「清楚先輩が真剣で自分のために自分のオリジナルを知りたいって言うんなら俺は止めませんし、出来る限りは協力します。けど、今の所その理由って武士道プランがどうこうって理由が強いじゃないですか」

 

 清楚が自身のオリジナルを知りたいと思った主な理由としては、その方が武士道プランの役に立つからである。確かに己の大本が本当に文化人なのかというのに不安を抱く事もあるが、現段階ではそちらの方が大きいのも事実である。

 

「武士道プランの成否がどうこうなんてどうでもいいんですよ」

「ど、どうでもいい?」

「極端に言えば、失敗したっていいじゃないですか」

「ええ!? さ、さすがにそれはダメじゃないかな……?」

「何でダメなんです?」

「な、何でって……だって武士道プランには九鬼財閥がいっぱいお金や人手や手間をつぎ込んでるんだよ?」

「いっぱい手間暇かかってたら失敗したらダメなんですか? 失敗を糧にする事はダメな事ですか?」

「そ……それは……でも、だからって出来る事をしなくていいって事にはならないでしょ」

 

 清楚は言葉に詰まる。確かに失敗が総じて悪いというわけではない。その十夜の言い分は正しいと思えた。

 

 だがしかし、失敗してもいいという考えで武士道プランに参加するのは違うとも思った。失敗が悪くないとしても、それは成功を目指して最上を目指さなくてもいいという事にはならないからだ。

 

「まあ、そうですね。じゃあ一回武士道プランの成否は置いときましょう。今日、俺と一緒に遊んで、清楚先輩は楽しかったですか?」

「それは……すごく楽しかったよ。色んな事が新鮮で、初めてだった事も楽しかったし、そうじゃない事もいつもより楽しいくらいだった」

「その『楽しい』って感情、清楚先輩のオリジナルって関係あると思います?」

「それは……どうだろう?」

 

 常識的に考えれば、例え誰のクローンであろうとも、そのオリジナルは過去の英雄であるから、現代の映画やゲームなどが存在しない時代の人物であることは間違いない。

 

 であれば清楚が楽しいと思えた事は過去のオリジナルが関係しているとは言えないだろう。

 

「別にオリジナルを知らなくても楽しめるんすよ。効率性だとか義務感とか、そんなのは二の次でいいと思いますけど。清楚先輩は武士道プランのための道具じゃないんですし」

「で、でも、私たちは、そのために生み出されたわけで……」

「そのために生み出されたらその通りに生きなきゃいけないなんて事ないでしょ。生んで育ててもらったからって、親が子に何してもいいって事は絶対にないっすよ」

 

 そう口にした十夜の脳裏に浮かんでいたのは幼い頃の小雪の姿だった。過去のトラウマがわずかに蘇り思わず手に力が入ってしまう。が、今思い出した所でどうしようもない事は十夜自身も理解しているので、一先ず深く息を吐いて気を落ち着かせた。

 

「…………まあ、その。色々と言いましたけど……『先輩が誰だったのか』じゃなくて『先輩はどうなりたいのか』っていう方が重要だって、俺は思います……はい」

 

 とりあえず言いたい事を言い切った十夜は、水を口にして、改めて清楚の様子を窺う。

 

 清楚はというと、十夜の言葉に思う所があったのか、何かを考えているようで口を開く様子はない。

 

 暫くの間、沈黙が二人の間を支配する。時間にすればさほど長い時間ではないかもしれないが、十夜にとってはとても長く感じられた。

 

 ちょっと色々と勝手な事言いすぎたかな……などと十夜が不安を抱き始めていると、黙っていた清楚が口を開いた。

 

「……正直、まだ自分のオリジナルを知りたいって気持ちがないとは言えない。けど、十夜君の意見を聞いて、確かにそうかもしれないとも思った」

 

 武士道プランの事を考えれば、オリジナルを知る事は必要だと思う。けれど十夜の言った『自分がどうなりたいか』というが大事だというのは確かだろう。

 

 今でも自分のルーツを知りたいのは確かだけれど、しかしそれは武士道プランを抜きにしてもそう思う事なのかと言われると、清楚にはわからないと答えるしかなかった。

 

「オリジナルを知ろうとするのと知らずにいる事、それのどっちが正しいのかわからない。私自身、どうしたいのかも、正直わからない。どうする事が良い事なのか、わからない…………だから、オリジナルを探す前にまずはこの気持ちに整理を付けてみるよ」

「……先輩がそう決めたんなら、それが一番だと思います」

 

 清楚の笑顔を見て、自分なりに役に立てたとホッと一息吐けた十夜も笑みを浮かべ返した。

 

「今日はありがとう。すごく楽しかった。また遊びに行きたいね」

「え……あ、な、なら! 次は先輩のおすすめ巡りをしませんか……!」

「え、私のおすすめ?」

「清楚先輩のおすすめとかなら…………美術館巡り、とかになるのかな?」

「じ、実は私、そういう美術とか芸術とか、あんまりわからなくて……」

「え、あ、そうなんです? な、なら身体動かす系の方が……」

 

 

 

 そうして次の遊びの約束を取り付けながら、残りの時間も楽しく過ごしたのだった。

 

 

 




今回十夜がしたこと

ルーツを探すという名目で女子とデートを行い、肝心の目的に関してやる気がなく、問い詰められたら口八丁で誤魔化して、次のデートの約束も取り付ける。ついでに他の女子ともデートの約束をした。

……あれ? これ野郎として最低なのでは……?
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