たけしとよつばが出会うおはなし

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たけし知らない人多いと思うので。
たけし:ようわからんことばっか言ってるやつ
エージ:普通のやつ
ゴン蔵:口悪いやつ


よつばとたけし!

「たけしはあれ知ってる?」

「あ〜あれな。まあこんくらいあればブルゾンだな」

「今晩やる夏祭りのことね」

 

 登校中の小学生が散見される早朝の通学路。

 ペッタンコの一九分けヘアー、でかい鼻の穴、とめどない青ヒゲ、そして短パンタンクトップの筋肉モリモリ健康優良児のリーダー的存在ことたけし、とその同級生のエージ。

 彼らはいつも通り、他愛ない話をしながら登校していた。

 

「あー……月火金でやってるやつかー」

「いや今晩だって。オレ行くつもりだけどたけしも一緒に来る?」

「やぶさかではあるさー」

「やぶさかではあるんだ……」

 

 いつも通りの朝である。

 

 ○

 

「とーちゃん! きょうはもしかしたらおまつりがあるかもしれない……」

「んー? あ、そういやそうだったなあ」

 

 トースターでパンを焼き、卵を温めたフライパンに落とし、じーじーじゅーじゅーと食欲を誘う音を響かせる早朝のキッチン。

 四つ葉のクローバーのごとく4つに結んだ緑髪、くりっとした大きな目、まだまだちっちゃいけれど溢れんばかりの元気が伺える健康優良児こと小岩井よつば、とその父親のとーちゃん。

 彼女らはいつも通り、他愛のない話をしながらゆったりしていた。

 

「よつばはそこでいっぱいたべるにちがいない!」

「前に祭りでは3つまでって言っただろ」

「やぶさかではない……」

「やぶさかではないのか」

 

 いつも通りの朝である。

 

 ○

 

「祭りと言えばオレだろ」

「ゴンちゃん、おばさんに怒られてお小遣いなくなったからなんも出来ないじゃん」

「エージ、お前喧嘩売ってんのか?」

 

 アフロ、繋がり眉毛、鼻の下に着けちょび髭、そして筋肉モリモリの健康優良児のボス的存在ことゴン蔵、とその幼馴染のエージ。

 

「ゴン蔵は100Wみたいなところあるからな」

「ああ!? 200Wは優に超えてるに決まってんだろ!」

「はは、わけのわからんことを」

「ボスパンチ!」

 

 たけしに向かって繰り出されるボスパンチは2Hzの速さを誇る代物であった。

 しかし、たけしの思考速度は正にインパルス。目の前に迫る暴威を500ペソの伝達速度により、軽々とはたき落とす。

 

「ゴンちゃん! すぐそうやって手出すの駄目だって!」

「フンっ……まあいい。祭りがオレを呼んでんだ。帰らせてもらうぜ」

「ゴン蔵……」

 

 もうここには用はないと、それを背中で語っているつもりのゴン蔵が教室から出ていく。

 

「こら! どこ行くの! 今から授業でしょ!」

「祭りがオレを呼んでるんだ! 止めないでくれ先生!」

 

 かおり先生に止められるゴン蔵であった。

 

 ・

 ・

 ・

 

「ついにオレの時間がやってきたな」

 

 時間は進み、放課後。

 彼らの臨む祭りは夕方から始まるので、それまでに少し時間を持て余す。

 

「一旦家帰ってからまた集まろっか」

「エージはそういう気持ちかー、俺は大体こんな感じかなあ」

 

 そう言って腕に力こぶを作るたけし。

 つまりは今から遊んでそのままお祭りに行く所存である。ということ、なのかはわからない。

 

「うーん、でもいまお金持ってないから家取りに帰らないと。ゴンちゃんもおばさん説得しに行くでしょ?」

「ああ、あのババアに怒りの鉄槌を下してやる」

「全部ゴンちゃんの自業自得なのにめっちゃ逆ギレするじゃん」

「おぉ!?」

「まあ待て、ゴン蔵」

 

 エージを睨みに睨み睨み尽くしてなお睨むゴン蔵の肩に手を掛けたたけしは、首を振って一言。

 

「もう…………な! あの、あれくらい……あの〜まあ、な! あ〜…………だろ!」

「は?」

「そういうときくらいあるさ」

 

 わけわからん死ね、と吐き捨て帰途へ付くゴン蔵を追い掛けるエージ。

 

「あっ、たけし! また後で!」

「ああ、まかせろ。着いたら電話する」

 

 そんなこんなで彼らは祭りを楽しみに待つのであった。

 

 ○

 

「えなはいくのか?」

「うん。みうらちゃんと一緒に行くつもり、お父さんとお母さんが付き添いで。よつばちゃんも夏祭り行くの?」

 

 いつものように隣の綾瀬家におじゃましているよつば。

 小学校から帰宅し、手洗いうがいをする綾瀬恵那に今日の予定を聞いていた。

 

「うん! とーちゃんがみっつまでかってくれる!」

「凄い、大盤振る舞いだね!」

 

 ニコニコとニコニコし合うニコニコ2人組。

 

「やきそばとなーもろこしとなーかきごおりとなーたこやきとなーばびーかすてらーとなーやきそばとなーたこやきとなー……やきそばとなーもろこし!」

 

 ニコニコ1号はすでに容量がオーバーしている。

 夢を見るのは自由だ。しかし度を過ぎた希望は絶望の未来を加速させるぞ。

 

「ガラガラガラガラゴロゴロ──!」

 

 ニコニコ2号は口腔をウォーターでゆすいでいる。

 えなちゃん偉い! 今回の登場人物の中ではわりと年齢上の方なだけある! 

 

「っぺ! ──あはは、よつばちゃんそんなに食べられるの?」

「んー? ふーかはいっぱいたべるからなーみならうべき」

 

 事実無根である。

 

 ・

 ・

 ・

 

「終わったぞよつば」

 

 色とりどりの花が描かれた浴衣を着飾るは、小岩井よつば。

 以前に買っていた浴衣で少し大きかったのだが、今ではぴったしでとてもかわいらしい。

 

「おぉー……」

「あんま弄るなよ。崩れるから」

 

 ひらひらとしたのが物珍しいからかくるくるとぱたぱたと動き回るよつば。浴衣に咲きほころぶ花模様のように満面の笑みを浮かべる。

 

「まんぞく!」

「それは良かった」

 

 釣られてとーちゃんも笑う。

 

「んじゃ、ちょうどいいし行くか」

「うん!」

 

 そして、浴衣にはやはり下駄。

 楽しげに音を立てながら歩くよつば。

 

「よつば、お祭りの約束覚えてるか?」

「みっつまでやぶさかでない!」

「そうだ。あと絶対にとーちゃんから離れるなよ。絶対にだ」

「うん!」

「離れたらお化けに連れて行かれるんだからな」

「うん!」

 

 返事だけはいいからな……。と、思いつつ意気揚々と祭りへ出向く親子であった。

 

 ○

 

「いや、おかしいでしょ」

「ん?」

 

 花火やら屋台やらなんやらでごった返す人の中、たけしゴン蔵エージの3人組は何事もなく揃った。

 集う彼らのその様、まさに祭りの申し子。着られるのではなく、着こなす。それはカリスマインスタグラマー顔負けのお祭りスタイル。

 

「ん? じゃないよ! むしろこっちが、ん? だよ!」

 

 エージ、浴衣。

 

「死ね」

 

 ゴン蔵、浴衣。

 

「着付けに手こずりまくったさー」

 

 たけし、帯。

 

「帯じゃん。帯だけじゃん。帯で股間隠してるだけじゃん!」

「いやぁ〜照れるさ〜!」

「だろうね」

 

 出来れば近寄りたくない。

 

「しかもなんかもうお面着けてるし」

「地球戦隊おじひんがー1話目に出てくる怪人のやつ」

「知らねえよ」

 

 ──余談だが、たけしは小学1年生にして既にご立派でダンディなものを持っている。あとギャランドゥ凄い。

 

 それはそれとして。

 

「花火まで夜店回ろっか」

「金魚の救い手たるこのオレがいるからにはまず金魚すくいからだろ」

「まずはお腹を満たしたさがあるやもしれんな」

 

 まあ適当に。と、ガヤガヤざわざわもさもさと祭りで賑わう雑踏へと足を踏み入れるのであった。

 

 ○

 

「いっぱいだ!」

「こりゃまたすごいな」

 

 空も暗くなってきた頃、よつばととーちゃんはお祭りに参戦した。

 当然、花火を見に来た人たちがあっちゃこっちゃいるわけで、この中に足を踏み入れるのは少し億劫である。

 

「みんなくいしんぼーだなー……」

 

 人ごみの中、手に持った焼きそばやらたこやきやらなんかようわからんものが刺さった串やらを器用に食べる者もいる。

 

「そうだな。俺らもなんか食うか」

「はー……そんなにたべたいか? しかたないなーとーちゃんは」

 

 やれやれポーズをするよつばに苦笑しながら、この蒸し暑くだけど楽しげなお祭りへと足を踏み入れるのであった。

 

 ○

 

「ふいー、やっと抜けられた」

「アホみたいにいやがるな人間共が」

「これはもはやお祭りと言っても過言じゃないさー」

 

 雑踏に紛れ込んだのは良いものの、牛歩の歩みでろくに出店を見回れない。

 少し進んだところで人ごみからすぐに抜けだし、広まった場所で足を落ち着ける。

 

「うーん……うちら小さいから1人ならぱぱーっといけるかもしんないけど、3人集まってとなると動けないね」

「めんどくせぇな。誰か飯買ってきてここで花火待とうぜ」

「でも1人で動いて迷子なったら危なくない?」

 

 この雪崩のごとき人の波に飲み込まれたら迷子になるのは確実ではある。

 

「たけしの顔ならいけるだろ。行ってこいや」

 

 意味不明だが、わからんでもない。

 

「んー? まあそういう気配がないこともないかもしれ……ん!?」

「どうしたのたけし。いきなりおっきい声出して」

 

 唐突に立ち上がり辺りを見回しまくるたけし。

 エージとゴン蔵もそうするが、確認できるのは楽しげにあるいは気だるげに歩く人だけ。

 

「どうしたー!? あれか!? なんだこれわ、もしかして、おぉおぉおお!? そういうあれだなっ!! いまいくぞーっ!」

 

 どういう気分だーっ! と、叫びながら走り抜けていくたけし。

 残された2人はその後ろ姿をぽかーんと見ている。しかし、すぐに気を取り直して。

 

「いやいやいや! 追いかけようゴンちゃん!」

「飯買いにいったんだろ。ほっときゃ帰ってくるって」

「明らかご飯買いに行く勢いじゃなかったでしょ!」

 

 そう言って、めんどくさそうにするゴン蔵の手を引きながらたけしが爆走した方向へと向かうのであった。

 

 ○

 

「まじか……いやこんなかでこれは駄目だろ……」

 

 とーちゃんはつぶやく。

 周りには人の群れ。

 しかし──

 

「よつばー! よつば! あの、すみません5歳くらいの4つに髪の毛くくった女の子見ませんでした?」

 

 ──近くにはよつばの姿なし。

 

「よつばー! ……戻るか? ──いや無理か……」

 

 

 先程まで手は繋いでいた。声もしていた。しかし、今はいない。

 いつからよつばがいなくなったのかそれすらもわからず、絶望的である。

 

「うーん……迷子センター行くのが最善か」

 

 この人にまみれた状況下で、特定の人物を探すのは困難だ。

 ゆえに、それしかないと考えてどうにかこうにか迷子センターへ向かうとーちゃんであった。

 

 ここでとーちゃんの出番終わりです。

 

 ○

 

「あれ?」

 

 人ごみに弾き出され、少し列から離れた所によつばはいた。

 しかし、先程まで手を繋いでいたとーちゃんはいない。

 

「とーちゃん?」

 

 声をかけても返事はない。

 

「とーちゃん!」

 

 いない。

 

『離れたらお化けに連れて行かれるんだからな』

 

「う……ぅぁああ! あー! あ〜〜〜〜!! うああああん!!」

 

 少女はひとり。

 

 ○

 

「──!」

 

「ここらへんかーっ! ご近所さん的フィーリングがみなぎりまくりだぞーっ! 」

 

 少年は走る。

 

 ○

 

「──!」

 

「こいわいよつばです! こいわいよつばです!」

 

 少女は泣く。

 

 ○

 

「──す! ──です!」

 

「ここか!? 近い、近すぎるぞーっ!」

 

 そして──

 

 ○

 

「──お祭りかーっ! ──お祭りなのかー!」

 

「ひっく……! こいわい、ひっく、よつば……」

 

 そして──

 

 ○

 

「──ああああっ! ──うああああん!」

 

「どこだー! リーダー的センサービンビン物語だぞーっ!」

 

 そして──

 

 ○

 

「──もう目と鼻の先だろーっ!」

 

「こいわい……よ、つば、です……」

 

 そして──

 

 ○

 

「もうそろそろなのかーっ!? これは間違いないだろぉ!」

 

「……ひっく……よつば……」

 

 そして──

 

 ○

 

「100m切ったぞーっ!」

 

「あああああああ!」

 

 はよしろ。

 

 ○

 

 そして──

 

「ここづぁ!!」

「ぎゃあー! おばけー!」

 

 ──2人は出会った。

 

 

 

 

 

 

「お化け!? どこだ! こんな大勢の前で良い度胸だ! 野郎、漫才で勝負か──っ!」

「ぎゃああああああ!」

 

 たけしはお化けというか化け物。

 

「なにやってんだあいつら」

「さあ?」

 

 追い付いたゴン蔵とエージはそう思うのであった。

 

 ○

 

「オレはたけすぃ。リーダー的存在だ」

「オレはゴン蔵。ボス的存在だ」

「オレはエージ。えーっとまあうんよろしくね」

 

 上2人による怒涛の畳み掛け、エージも乗ろうとしたが特に何も思い付かなかった。

 

「こいわいよつばです! 6さい!」

 

 5歳である。

 

「6歳かー……ズッ友的なあれだな」

「同い年じゃん。小学校どこ?」

「…………ジャンボはおおきい!」

「ぜってえ6歳じゃねえだろ。タメには見えねえよ」

 

 確かによつばは5歳だが、ゴン蔵はともかくたけしも6歳には見えない。

 

「まあそれはともかく、よつばちゃん1人なの? 誰かと一緒に来たりしてないの?」

「んー? うーん……あっ! とーちゃんときた!」

「ツーマンセルかー」

 

 もしや。と、3人は顔を見合わせる。

 

「迷子だね」

「迷子だな」

「ソリストなのか」

 

 考えは同じだった。

 

 ・

 ・

 ・

 

「りーだーとはいかなるものか?」

「ん? 知らんのか? 握手したら多分わかるだろ」

「はくしゅ!」

 

 たけしとよつばの拍手が、祭りの騒がしさにも負けず劣らず響き渡る中。

 

「うーんどうする?」

「下手に動かんほうが良いだろ。待ってりゃ何かしら動きはあるだろうし」

 

 明らか迷子のよつばをどうするかで相談する2人。

 

「リーダー拍手!」

「あははははははははは!」

「うるせえぞ! アホ2人!」

「ぼす……いかりくるってる」

「ゴン蔵はそういうところあるからな」

「殺す」

 

 話が進まない。

 

「まあ、ともかくどうする?」

「そうだな……お祭りだし迷子センター的存在がありまくるはずだから、ひとまずそこへ行こう」

「あー……」

 

 ゴン蔵はアホみたいに流れ行く人々に視界を向けうなだれる。

 

「ゆこう」

「めんどくせぇ」

「小次郎*1

「ゆこう」

「ゆこう」

 

 そういうことになった。

 

 ○

 

「ふーかはなーいっぱいたべるからなー」

「へぇーそうなの?」

 

 事実無根である。

 

 はぐれないようたけしとエージがよつばと手を繋ぎ、ゴン蔵が前に立ち先導して迷子センターへと向っている。

 先程と変わらず、周りには祭りを楽しむ人たちでいっぱいで中々進めない。

 

「ほんとクソほどいやがるな」

「まあ過半数くらいはフェスティバルだからな。仕方ないさ」

「ふぇすてぇばる?」

「ああ、そうさ、フェスティバルだ。よつばに説明するには2時間くらい必要になる」

「はてなきたびじ……」

「簡単に言うと祭りというやつさ」

 

 2秒。

 

「なるほどなー」

「小さい子がたけしといたら教育に良くなさそう」

「アホだからな──っと、あれは……」

 

 先導するゴン蔵が目にしたのは、この人ごみの中なのになぜかぽっかりと空いた夜店。

 そして、そこにいたのは──

 

「社長!」

「ん? たけしくん達じゃないか!」

 

 たけし達の同級生である社長だった。

 

「どうした、社長も迷子的なノリか?」

「いや、見るからに囚われのデブだろ」

「いや、見るからに夜店の店主だよ」

 

 社長が開いていたのはくじ引き。

 祭りといえばくじ引き──みたいなところがあるはずなのに客足は途絶えていた。

 

「みんなもやっていくかい?」

「高えよ、なんだよ1回9万て。アホか」

 

 あまりにも高すぎて誰も近寄らないだけであった。

 あとなぜか社長の夜店の前の地面だけ大理石。

 

「友達のよしみで、1回だけタダでいいよ」

「やったー!」

「よつばも引きまくるか?」

「ひく!」

「ああ、君もどうぞ」

 

 前に置かれた箱から紙を取っていく4人。

 引いた紙をペラっと開いてみるとそこに書かれていたのは。

 

「外れ」

「ゴミ」

「トリコロール」

「うし」

 

 まさかの超難問。

 

「外れはボクのパパが手掛けるテーマパークの半永久パスポートだね」

「おお! どこのテーマパーク?」

「ポッポ遊園地だよ」

「うわ、あれ社長のとこのだったんだ……」

 

 世界一の遊園地である。

 

「ゴミはこれ」

「おいこれオレが社長の誕生日にあげたやつじゃねえか」

 

 カーテン掛けるときに使うS字のあれ。

 

「だっていらないって言ったのに置いていったし、捨てるのも忍びないから……」

「だからってゴミはないだろ」

 

 ゴミそのもの。

 

「トリコロールはこのカタログにある超高級最強電動自転車。後日発送するよ」

「お母さんが嬉ションすること山の如しさー」

「いいなー」

 

 嬉ションはしないが喜ぶことには違いないだろう。

 

「最後の牛はこれだ」

 

 社長が取り出してきたのは、おっきい瓶に入ったしっろい液。

 

「ぎゅうにゅうやさん!」

「ああ、そうさ牛乳だよ。家で飼ってる最高級の乳牛から絞った最高峰の牛乳なんだ」

「いいなー」

「これは美味しいよ。毎朝飲んでるボクが保証する」

 

 これも後日発送させてもらうよ、とかなんとかそんな感じで。

 

「じゃまた学校で」

「ばいばーい」

 

 たけし達はまた迷子センターへ向かった。

 

 

 

「いや、9万でこれはねえわ」

 

 手元に残るカーテン掛けるS字のあれを見てそう思うゴン蔵であった。

 

 ・

 ・

 ・

 

 そして──

 

「焼きそば買ってきたさー!」

「これビーフンだね」

「うまい!」

 

「たこ焼きもあるぞー!」

「明石焼きじゃねえか」

「うまい!」

 

「金魚すくいの王と呼んでくれ」

「これグッピーじゃない?」

「クレヨンとクーピーとクレパスくらいの違いさ」

 

「わたがしー!」

「うわっ、これパチパチするお菓子だ」

「こんなでかいパチパチするやつ初めて見たわ」

 

「かき氷シロップかけ放題!」

「大根おろしってオチだろ」

「大根おろしってオチだった」

 

「たかぬき!」

「S字のあれとかえらくピンポイントな型抜きだな」

「いやただのSだと思う」

 

 たけし達はこれでもかというくらい楽しみに楽しみまくるテンション。

 

 とーちゃんはこれでもかというくらい心配に心配しまくる現状。

 

 安心してくれとーちゃん、いま向かってる。

 

「リーダー輪投げ!」

「すごい! 全部おっちゃんに掛かった!」

「いらないなー!」

「店主に掛かったんだから景品全部よこせよ」

 

 多分。

 

 ○

 

 迷子センターへの道すがら、様々な夜店を体験しまったよつばとたけし一行。

 もうそろそろか、というところでまたも彼らの見知った顔があった。

 

「へるスィー様!」

「おぉ〜! たけし、エージと……ゴン蔵……? じゃないか! っともう一人、健康的な子がいるようじゃな」

「こいわいよつばです!」

 

 健康の神へるスィー。

 足元まで及ぶロン毛、それを結ぶ鼻ロン毛、顔はまんまたけしの一見化け物にしか見えないへるスィー様である。

 

「何してんのー?」

「見ればわかるじゃろ。夜店じゃよ夜店」

 

 たけし達は見上げて夜店の名前を確認すると、そこには──

 

「へるスィーくじ?」

「怪しすぎんだろ。てか、くじ引き被んのかよ」

 

 まさかのくじ引き被り。

 

「祭りだからくじ引きしとけ的なあれだよ」

「あさはかだなー」

「まあもっとみんなに健康的になってもらいたいということでな、ここに店を置かせてもらったんじゃ」

 

 話を続ける浅はかなへるスィー様。

 彼が言うには祭りの時期では、夜店や夜遅くまで遊んだりすることで不摂生な生活が多くなることを危惧して、夜店を構えたということなのだ。

 

「1本やっていくか? 1回34円のところ20円で引かせてやるぞ」

「さっきに比べてやっす! てか元値、中途半端!」

 

 20円やら34円やら9万円やらと。

 咎人の剣かな? 

 

「いわゆるブロック経済ってやつだな」

「つよそう!」

「ああ、あの積乱雲の40倍はあるさ」

「つえー!」

 

 へるスィー様から差し出された筒──神社でおみくじ引くときの六角形の筒状のあれ──からゴン蔵とエージが棒を引き抜く。

 

「ただの棒だった」

「それは"へ"じゃな」

「へ!?」

「こっから選ぶといい」

 

 奥から出してきたのはアカスリアスとポトリスエットと枝豆だった。

 

「いらない……」

「まあそう言うな。ゴン蔵の方は──」

「なんか先っぽ黒いぞ」

「"ヘル"じゃ」

 

 いや、ヘルて……と呟くゴン蔵を尻目にへるスィー様が奥から取り出してきたのは、運動用のジャージ。

 

「んん……おっ、おお……なんか普通で反応しづれえわ」

「胸の所にわしの顔が刻まれとる」

「いらねえよ!」

 

 無残にも叩きつけられたジャージを見て、悲しそうにするよつば。

 

「ぼすはおこってばっかだなー」

「ゴン蔵にも1つくらいは、良い所がないこともないような気がせんこともない……まあ、気長に見よう」

「おォン!?」

「たけし、よつば、お前らも引くか?」

「引きまくるさー」

「ひく!」

 

 差し出された筒をガンつけるたけしと、それ真似るよつば。

 

「こういうのは最初が肝心さ。既にここでゴン蔵と100ヘルペスほど差が付いてる」

「ひゃくへるめす……!」

「そして、耳を澄ませてくじの声を聴くんだ。そうすると聴こえてくるはずさ!」

「みみをすませば……!」

 

 その時、たけしとよつばに電撃走る。

 

「リーダーくじびき!」

「あちょー!」

「アホかこいつら」

 

 2人が高らかに掲げたくじの先っぽは──

 

 ──たけし、赤。

 ──よつば、緑。

 

「ひゃあ〜これは当たりまくりだろぉ〜! もうその気配が溢れんばかりに漏れ出してるさー!」

「あたり!? よつばあたり!?」

「たけしは"へるスィー"で、よつばは"へるス"じゃな」

「もうちょい名前捻れや」

 

 たけしとよつばはうきうきでへるスィー様の言葉を待つ。

 

「たけしは大当たりじゃ。よつばは当たりじゃな」

「おおーすごいじゃん、良かったね2人とも」

「で、なんだよ大当たりって」

「へるスィー体操第7じゃ」

「ゴミだな」

 

 へるスィー様の顔がデカデカと書かれたCDを受け取るたけし。

 

「わし監修の体操じゃ。第18まである」

「ウチCD再生する機械持ってないさー」

「安心しろ。他の当たりくじにへるスィー体操専用CDプレーヤーがある。それ以外でしか再生出来ないから当たりが出るまで引くといいぞ」

「めっちゃ悪質じゃん!」

「1から18まで集めたら完全版も付いてくるぞ」

 

 マジか〜と落ち込むたけしだが、気を取り直してよつばの当たりは何かとへるスィー様に聞く。

 

「あの有名サッカー選手がCMしているお腹ぶるぶるぶる腹筋ムキムキマシーンじゃ」

「くりすちあーの──」

「そうそれじゃ」

「ここに来て1番の当たりじゃん」

 

 ぶるぶる震えるそれを持ってぶるぶる震えるよつば。

 

「すごい! これはふーかのためにつくられたにちがいない……!」

「さっきから出てくるそのふーかって人は社長みたいな感じなのかな」

「そういうところもある……」

 

 よつばの脳内に想起されるのは風香のぐにぐにの太もも。

 しかし、ぶるぶると震えるこれによってあの太ももがなくなるのは少し悲しいかもしれない。と、ぶるぶると震えながら思い悩むよつばにある知らせが届く。

 

『20時から花火大会を始めます。20時から花火大会を始めます。混雑が予想されますのでゆっくりと、お気を付けて行動するようお願いいたします』

 

「おっ、花火始まるようじゃな。お前らも気を付けて動くようにな。怪我だけはするんじゃないぞ」

「あーうん。そうなんだけど……」

「どうした? なんか困ったことでもあるのか?」

 

 たけし達はよつばを見て困り顔を浮かべ、事情を説明する。

 そう、よつばは迷子。今もなお、父親がよつばを探しているに違いないのだ。

 

「まあ、そうじゃな。花火よりまず迷子センターに行くのが1番じゃ」

「よつばのとーちゃんも心配してるだろうしな」

「急がなきゃね」

「とーちゃんはさびしがりやだからなー」

 

 へるスィー様に別れを告げ、迷子センターへ向かうたけし達。

 

 

 

「社長のくじ引きに比べたらゴミしかなかったな」

「それは言っちゃだめだよ」

 

 ○

 

「あー花火始まっちゃったね」

「人多すぎんだろ」

 

 迷子センターへ向かった彼らだが、やはり先程の注意喚起の通りに花火を見ようとする観客でごった返しており、なかなか前へ進めないのであった。

 

「とーちゃん……」

 

 花火が上がってるにも関わらず、よつばは不安と寂しさからか表情を曇らせる。

 それを見たゴン蔵とエージは顔を合わせ、お互いにうなずく。

 

「ぱぱーっとくぐり抜けて、先にオレたちが迷子センター行って伝えてくるよ!」

「ふんっ、オレ様が使いっぱしりになってやるんだ。感謝しろよよつば」

 

 見るからに落ち込んで目線は足元に落としているよつばの髪をぐちゃぐちゃにする。撫でると言うには力強く、だけどそのパワフルさが頭にほんのりとした温かさを残す。

 ボサボサになった髪の毛を大きく揺らして、顔を上げたよつばの目の前には、既に2人はいなかった。

 

「ゴン蔵、良い所ありまくりだろ?」

「うん!」

 

 目尻に浮かんだ涙は途切れて、笑顔が帰ってくる。

 

「よつば、そのまま上を見ろ」

「?」

 

 見上げたその先には──

 

「わー! すげー! かっこいい!」

 

 ──空一面に咲き誇る、極彩色の花。

 

 よつばは空に釘付けとなる。だって、これまで見たことのない凄いものがあったから。

 耳朶を叩き、体を芯から震わせ、目まぐるしく表情を変える()()は、よつばにとって夢のようで、だけど紛れもなく現実で、矛盾したその2つがぐるぐると渦巻いてよくわからなくなったけど。

 それでもこの空いっぱいに広がるこれは何よりも凄いものなんだ、と心の底からそう思えた。

 

 ──だけど、

 

 たけしは空を見ない。だって、目の前に()()と遜色なくかけがえの無い美しいものがあったから。

 真っ黒のキャンバスを彩る()()を見上げる少女の笑顔を、さんさんと輝くようなまばゆい笑顔を、自分が見てしまったことに申し訳ないと少女の父へ罪悪感が湧くけど。

 それでもこの少女の顔いっぱいに広がるこれは何よりも美しいものなんだ、と心の底からそう思えた。

 

 ○

 

「花火終わったなあ」

「なんかよくわかんなかった……」

「あー偏差値146くらいは必要だったかもなー……」

 

 花火が終わり、少しばかり人だかりも減って歩きやすくなり迷子センターへの道も開ける。

 

「そろそろ着くだろ。あと1kmの5分の2くらいさー」

「とーちゃん……」

 

 花火が上がってた頃と打って変わってどんどん沈み込むよつば。

 流石に長時間離れすぎたのだろう。このくらいの小さな子供なら、こういう慣れぬ場で少しの間でも親に会わずにいたら自ずとそうなる。

 

 よつばの足取りは重く、下を向きとぼとぼと歩く。

 それを見て、少し微笑むたけしは。

 

「そうだよつばの父ちゃんの話をしようか」

 

 よつばの方へ向き直って少ししゃがんで顔を合わせる。

 

「とーちゃんのはなし?」

「そうだ。よつばの父ちゃんの話だ」

 

 とーちゃんという言葉を聞いて、俯いた顔を少し上げるよつば。

 

「そうだなーとーちゃんはなー……かみのけがながいなー」

「いわゆるカリスマスタイリストというやつだな」

「あー……そんなかんじなー。あとなー……こんにゃくやしてる」

「ロン毛でこんにゃくかー。バイリンガル的な気配がするな」

「そう! ばりりがーる! あとはなー……うーん、いっぱいありすぎる! まったくとーちゃんは!」

「200万パワーと言ったところか」

「そう!」

 

 それでなーあとはなー、と楽しそうにとーちゃんのことを話すよつば。

 たけしは、それを見て何かを思い出すように、我慢するかのように、目を伏せる。

 

 そして、よつばへ問いかける。

 

「とーちゃんは優しいか?」

「やきそばにたまごのっけてくれる!」

 

『……』

『産後3日にして開脚前転だと!?』

 

「とーちゃんは強いか?」

「ぱんつまん……てごわい!」

 

『おとー!』

『トカチェフ!?』

 

「とーちゃんは怖いか?」

「おこったらおにのところにつれていかれる……」

 

『おとーちゃ!』

『イナバウアー!?』

 

「とーちゃんは凄いか?」

「すごい! なんでもできる!」

 

『とっつあん』

『3世!?』

 

「とーちゃんは好きか?」

「うん! だいすき!」

 

「──そうか、なら……」

 

『父ちゃん!』

『たけし!』

 

「それなら、よつばはずっと笑顔でいてやってくれ」

 

「よつばが笑ってさえいてくれば、多分、いや絶対に──」

 

 目を閉じれば、今でも思い出せる。

 でも今はそれに浸っている場合じゃない。

 前を向いて少女にカッコいいところを見せなくちゃいけない。

 だから目を開けて、言葉を紡ぐ。

 

「──とーちゃんは、無敵だ」

「むてき?」

「ああ、無敵だ。よつばのその笑顔があれば、とーちゃんはいつまでも無敵でいられるんだ」

 

 うーん? と首を傾げるよつば。

 だけどもすぐに。

 

「うん! わかった!」

 

 気持ちの良い大きな返事、顔いっぱいに広がる笑顔。

 それは、まるで。

 

「よぉし! そうだ! その笑顔だ! だがまだまだだ、それじゃ俺のリーダースマイルには勝てないぞ!」

「りーだーすまいる!?」

「こうやるんだ! リーダースマイル!」

「おぉ!」

「よつばも一緒に! リーダースマイル!」

「りーだーすまいる!」

 

 太陽のようで。

 

 ○

 

「よかったの? たけし」

「ああ、親子どんぶり水抜きさー」

「そっか、でもまあよつばちゃんお父さんと会えてよかったね」

 

 祭りが終わり、帰途へつくたけし達。

 その傍らによつばはいない。

 

「迷子届けたんだしよぉ。言ったらなんか買ってくれそうだったのになあ」

「卑しいね」

「なんか今日お前口悪くね?」

 

「まあいつか、また」

 

 見上げたら夜空。花は既に散って、残るは黒だけ。

 だけど明日になれば陽はまた昇って朝になり、また夜になり、そして、また陽は昇る。

 

「会えると良いな」

 

 ──そう、太陽は何度でも、少年の前に現れるのだ。

 

 

 

 

 

 

「あっ、そういえば電話ってなんなの? なんか学校で別れる前に電話するやらなんやら言ってたけど」

「ああ、これさ」

「糸電話じゃん!」

「こうやってこれを耳に当ててな。片っぽうを口に当てて喋ると声が聞こえる」

「なんなら糸電話なくても聞こえるよ」

「今朝、製造されたばかりの最新機種さ」

「アホが」

 

 糸電話の回の風香かわいい。

*1
たけしの飼い犬。ゴン蔵は小次郎が大好きだけど、小次郎は別にそうでもない




「よつば! 大丈夫だっ──うわあああああああああ!」
「わゃああああああああああーっ!」

たけしがよつば連れてきたときのとーちゃんの反応こんな感じだと思います。
たけしはなんかようわからんけど相手が叫んでるので叫ぶと思います。

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