ハリポタ世界に悪魔として召喚されたんだがどうすればいい?   作:依瑠iru

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4回目ドラコ

 二度あることは三度ある。では、四度目は?

 体がベッドから落ちる感触で夢から叩き出された。あっやべ、と思ったときには床と激突している。いつもの痛みで召喚されたことを知った。今度は木から石の床に戻り、おれを呼び出したのもホグワーツのローブを着た少年だった。

 

「僕の言うことを聞け、悪魔!」

 

 少年はおれより年下だろうに偉そうだった。仕方がない。年功序列に対するイギリスと日本の文化の違いなのだろう。イギリス文化よく知らんけど。おれが相手より年下だと思われているとしたら、いくら日本人が幼く見えるとはいえショックだが。

 

「あー……まず自己紹介しようぜ」

 

 おれは頭を軽く振って、眠りの残滓を追い払った。状況の把握は大事だ。でなきゃ今が何巻かわからない。

 

「おれは奥峰龍臣。そっちは」

「悪魔に教える名前なんかない」

 

 少年は鼻でせせら笑った。蝋燭に照らされた頬は薄明かりでもわかるほど青白く、金色の髪をオールバックにしている。その見た目や偉そうな態度に当てはまる登場人物にひとりだけ心当たりがあった。おまえ、ドラコ・マルフォイだろ。

 

「偽名は用意してないのか?」

 

 ドラコのネーミングセンスがどんなものか気になるんだが。

 

「そんなもの必要ないだろう」

「みんな用意していたんだけどな。準備悪いんじゃないか?」

 

 ドラコはかちんと来たようだが、挑発に乗って名乗ることはしなかった。残念だ。

 

「僕がいらないと言っているんだ。いいか、僕がおまえを召喚した主人なんだぞ。犬がいちいち飼い主の名前を気にするか? しないだろう」

「犬扱いかよ! ひでえな!」

 

 年功序列以前の話だった。

 ドラコは胸をそらしてふんぞり返った。ロープの胸元についたバッチが、チカッと光って模様を変える。英字だから意味はわからない。明日から身を入れて英語の授業受けよう。

 

「龍臣、命令だ。方法はなんでもいい。ハリー・ポッターに恥をかかせてこい。第二の試練の最中にみんなの前で。もう二度と表を歩けなくなるってほどの」

「試練?」

「三校対抗試合だ。忌々しことにホグワーツの代表にポッターが選ばれたんだ。どんな卑怯な手を使ったのか……。第一の試練をクリアしてしまうし……」

 

 ぶつぶつとドラコは文句を言った。

 今は四巻か。とすると、ローブについているバッチはハリーへのネガティブキャンペーンだろう。

 

「おれはそういう直接相手に何かすることできないから」

「なんだって!? どういうことだ。召喚用の雌鶏の血が足りないとでも言うのか?」

「え!? おれはそんな物で呼び出されてたのか?」

 

 血って確かに闇の魔術っぽいけど。嘘だろ、知りたくなかった。おれ、スプラッタ系苦手なんだよ……。これ以上血の量を増やされても困るので慌てて言う。

 

「いやいや、血が多くったって無理なもんは無理なんだよ。おれは小物だからな。できるのは予言くらいだ」

「予言? くだらないね。そんなのでポッターをどうこうできるとは思えない。なんだよ、せっかく成功したと思ったら、出てきたのは外れか。もういい、帰れ」

 

 マジか。今までのを思うと拍子抜けな展開である。たぶんドラコにとってもそうなんだろうけど。

 

「余計なお世話だろうが、正攻法でハリー・ポッターに勝つ努力をしたらどうだ?」

 

 どうせ人の言うこと聞かないだろうから、そんなことが言えた。おれの言葉で本の展開が変わることはないだろうという安心感だ。

 案の定、ドラコは鼻で笑った。

 

「悪魔が説教かよ」

 

 そしてドラコは手にした本に視線を落とし、呪文を唱え始めた。

 

「あ、待ってくれ!」

「なんだ?」

 

 ドラコは律儀に詠唱をとめた。

 

「帰る前にホグワーツの中を探検したい!」

 

 ほら、せっかくだし。日本にも魔法界を体験できる場所ができたが、なんといってもここは本物だ。それに四回も召喚されて一度もホグワーツを見学してないのはどうかと思う。もったいない。

 

「なんで僕が悪魔の言うことを聞かないといけないんだ」

「えー、ケチ」

「お前が図々しいんだよ! ほら、早く帰れ」

「心が狭いぞ。そんなんだからハリーに遅れをとるんだ。さあさあ、ホグワーツの中を案内するんだ」

 

 だが、ドラコは再び呪文を唱え始めた。おれがブーブー文句を言うせいで集中できないのが丸わかりだった。

 いつもの眠気が襲ってくる。今回はずいぶんとあっけない終わりだな。でも、登場人物と読者の距離を保つにはこれでいい。おれは自分から瞼を閉じた。

 

 

 *

 

 体がベッドから落ちる感触で夢から叩き出された。あっやべ、と思ったときには床と激突している。いいかげん慣れた痛みに顔をしかめながら、おれは召喚者のため息を聞いた。

 

「またおまえかよ」

「おれだって同じこと言いたいさ」

 

 前回から一ヶ月も経っていない。おれの安眠を返してくれ。

 おれは身を起こしてドラコ・マルフォイと向き合った。前より背が伸びて、大人びている。だが、やつれていて覇気がない。前の元気で無駄に偉そうだった頃が懐かしい。

 

「あの後なんど試しても何も出てこなくて、やっと出たと思ったらこれか」

「これとはずいぶんなご挨拶だな」

「実際そうだろ。おまえに何ができるっていうんだ」

「まあ、そうなんだけど。今は六年生になったのか?」

「それがなんだっていうんだ?」

 

 ドラコは不審そうに返した。

 

「ただの好奇心だ」

 

 学年が特定できれば大体の状況がわかる。今のドラコは死喰い人だ。

 

「もう帰れ。おまえに付き合っている暇はない」

「そうつれないこと言うなよ。愚痴くらい聞くぜ。呼ばれて速攻で帰るってのもつまんないからな」

 

 さあさあ自分が今どんな物語に巻き込まれているか聞かせるんだ。わくわくしてきた。せっかく呼び出されたのだから楽しまなきゃ損である。ドラコのやつれっぷりに心配しないわけではなかったが、でもまあ大丈夫だ。だってこいつにはナルシッサとスネイプがついている。

 

「なんでおまえに話さなくちゃいけないんだ」

「おれは愚痴の聞き相手にはいいぜ。呼ばない限りこの世界には来れないからな、絶対に話したことが漏れない。たまっているもん吐き出せば、すっきりするぞ。なんでもかんでも抱え込んでいると、そのうち折れちまう。精神上よくないな」

「おまえに何がわかる? 話したからなんになるっていうんだ」

 

 ドラコはいらついた様子でおれを睨んだ。

 

「さっき言った通りだ。話したからといって状況はよくなるわけじゃないけど、ちょっとはすっきりするかもしれない。それだけだ。――なあ、ドラコはおれに人殺しをさせるために呼び出したんだろ?」

 

 ドラコの顔がこわばった。おれを舐めきっていたドラコが、初めて恐怖をあらわにしていた。

 

「おれに隠し事は無駄だ。だから、ほら、話してみなよ」

 

 自分の有利さを確信して、おれは自信たっぷりに言う。ついでに思わせぶりに微笑んでみせたりする。

 

「僕は……」

 

 ドラコが迷った様子で、口を開いた。おれは黙って先をうながす。何度か口を開け閉めしていたドラコだが、とうとう言った。

 

「……僕は、人殺しなんてできない」

 

 それから堰を切ったように話し始めた。それは本で読んだのと変わらない状況だった。まるで独り舞台を観ているかのようだ。演者が登場人物本人というのだからなんて贅沢なのだろう。

 おれは相槌を打ったり相手の辛さに共感してみせたりした。他に何ができる? 家族を人質にされ殺人を強要されている子供に、おれが何を言えるだろうか。でもドラコは満足したらしい。

 

「くそ、何を話しているんだ僕は」

 

 泣きはらした目を、ドラコは袖で隠すようにぬぐった。

 

「でも話して楽になっただろう? そうだ、せっかく呼び出されたのだから予言でもしとこうか。前回は何もしなかったしな。……辛いことばっかだろうけど家族は無事だよ」

「本当だろうな」

「信じて損はないぞ」

 

 これは見事な独白劇へのほんのお礼だ。

 ドラコは何度も目を擦っていた。目が腫れてしまうぞ。

 

「ああ、くそ、こんなこと……くそ……。なあ、また召喚してもいいだろ? いや、する。僕の話を聞いたんだ。最後まで付き合ってもらう」

「待て。それはダメだ」

 

 やばい、まずい。過ごす時間が長くなるほどおれに何の力もないことがバレやすくなる。あと安眠が減る。

 

「何度も召喚したら怪しまれる。準備だって手間なんだろ? 雌鶏だか雄鶏だかの血を毎度毎度手に入れて、夜中にこそこそして、バレる確率が上がる。やめろ、よせ。そうだ、愚痴の聞き相手ならマートルがいい」

 

 うん、本じゃマートルの役割だった。おれがその立場を取るわけにはいかない。

 

「マートル?」

「ほら、女子トイレにいるゴースト」

「僕に女子トイレに入れと言うのか?」

 

 ドラコは鼻の頭に皺を寄せ、あからさまに不機嫌になった。常識的で健全な反応である。

 

「マートルがいるから誰もそこのトイレ使わないみたいだし、変質者にはならないんじゃないか。……たぶん」

 

 ドラコの眼差しが冷たい! 痛い!

 

「おまえは本当に頼りにならない奴だな。まあ、いい。おまえの言葉、少しくらい覚えてやるよ」

「そりゃどーも」

「そういえば、おまえの名前はなんだったか? 前に聞いたとは思うんだが」

「奥峰龍臣だ」

「龍臣か。龍臣の予言が当たったらホグワーツの探検に招待してやってもいいぞ」

「本当か!? ありがとう!」

 

 というか前回おれが言ったことを覚えて……!? なんて律儀なやつだ。いいやつじゃないか。

 

「喜ぶのはまだ早いぞ。まだ予言が本当になるかわからないんだから」

 

 つんと澄ましてドラコは言った。

 待てよ。予言が当たったかわかるのは最終巻の終盤で、つまりおれが読者として知っていることもほとんどなくなるわけだ。そうなっても召喚されるものなんだろうか? もしも召喚されて、本が終わった後の登場人物の様子を知れるなら、それはとても心踊ることだけれど。作者の頭の中にしかないこと――ひょっとしたら作者すら知らないことをただの一読者が知れるなんて。

 ドラコがおれを帰すための呪文を唱えている。おれは瞼が落ちるのに任せて、心地よい眠気を迎えいれた。まあ、召喚されるかどうかはその時になればわかるだろう。

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