これからも投稿は不定期になるかと思われますが気を長く待ってくださる大変ありがたいです。
暗い。
辺り一面黒い世界でただ一人でひたすら歩く。
当てもなくただひたすらに暗闇を進む。
どれほどこの空間を進んだかは分からない。
足取りは覚束ずフラフラしている気がする。
そうやってひたすら歩いていると不意に背後から気配がする。
足を止め振り向くがそこには何も無い。
だが確かに何かの気配を感じる。
得体の知れない感覚に背筋が凍る。
それから離れようと走り出す。
走れば走る程に背後の気配はより強く、より速く迫ってくる。
肺が酸素を求め胸が苦しい。
足が痛みという悲鳴を上げる。
そして足がもつれ暗い地面に倒れる。
体が上手く動かない。
背後に感じる気配はすぐそこまで迫ってきている。
何がきても良いように目を閉じ身構える。
しかし、想像していたような痛みは衝撃は無く、変わりに目蓋越しに目を焼く蒼い光に薄らと目を開く。
そこには蒼い光を放つこちらに背を向けた少女。
冷たく、けれど優しい光に目を細め彼女の背中を見つめ…蒼い光に意識が飲み込まれた。
◇◇◇
…う…うーん…?
後頭部に柔らかい感触を感じながら暗かった意識が徐々に覚醒していく。
朧げながら何か夢を見ていた気がするがそれがどんな物だったかは思い出せない。
夢なんてそんなものかと頭の隅に夢の事については押しやる。
ぼんやりとした視界が徐々に鮮明になっていきまず目に入ったのは白い髪と知らない木造の天井だった。
「…あ、目が覚めた?」
「…妖間か?」
「うん、そうだよ。気を失っちゃったから勝手に家に運んできちゃったけど目が覚めて良かった。一応知り合いに怪我を見てもらったけど擦り傷と打撲と右足を捻ってる以外は大した怪我は無かったから安心して。」
どうやらここは妖間の家で気を失った俺を運んでくれたらしい。
妖間は妖間で俺が目が覚めるまで暇だったのかスマホを弄ってい様子。
…というかこの仰向けで俺が妖間の顔を見上げているというこの位置関係、そして目が覚めた時から感じる後頭部の柔らかい感触と人肌の温もり…これってもしかして!?
急いで体を起こし自分の後頭部にあっただろう物を確認する。
急に体を起こした為小さく悲鳴を上げながら頭がぶつかりそうになったのを妖間は間一髪躱す。
「危ないなぁ」と文句を言っていくるがそれを気にする余裕は無かった。
「ちょ、お、お前!ひ、膝枕って!」
なんと膝枕をされていたのである。
年頃の少年でありあまり女性慣れしていない自分にとって衝撃的な体験であり、しどろもどろな言葉しか出ない。顔が熱くなり今自分の顔は真っ赤になっているだろう事が容易に想像できる。
「ふふふっ、起きるまで暇だったし目を覚ました時に驚かそうと思って膝枕してみたけど予想以上に面白い反応で良かった。どう?私の膝枕気持ち良かった?」
してやったりと小悪魔的な顔を浮かべながらクスクスと笑って膝枕の感想まで聞いてきた。
…大変気持ち良かったとは口が裂けても言えない。
口をパクパクしたままうまく反応を返せないでいると妖間は満足したような様子を見せる。
しばらくして何とか平常心を取り戻し色んな所に意識を向けてみる。
日本屋敷なのか天井や壁は木造で床には畳が敷かれている。勉強スペースであろう小さな机とクッションが部屋の隅に置かれており几帳面なのか綺麗に整理されている。その他にも衣装箪笥や本棚があり、物は少ないが机の上や箪笥の上に可愛らしい小物やぬいぐるみがあり小綺麗な部屋という感想が浮かぶ。
…落ち着いた雰囲気の部屋だったから中々実感が分かっなかったが落ち着いて見ると女の子らしい小物がある為女子の部屋なんだと改めて認識する。女子の部屋などほとんど入ったことはない為、認識するとそれはそれで落ち着かなくなりソワソワしてしまう。
気を紛らわすために気になっていた事を聞いてみることにした。
「…なぁ妖間。俺が見たあの黒い霧みたいな変な生き物、あれって何だったんだ?それにお前のあの姿とか…さ。」
「…そうね。まずそれを説明しないとね。」
妖間は真面目な顔になりまずあの黒い霧のような存在の説明を始めた。
「まず君が見た黒い存在。あれは死者の怨念が集まって一つの個体として存在を持ったもの。君はそれに魅入られて襲われたの。」
「…死者の怨念、か。」
「そう。いわゆる亡霊や妖怪の類、これらを私達は『アヤカシ』って呼んでるわ。アヤカシは種類にもよるけどその多くが生きた人を喰らってその存在を維持している。特に
「見える人って…、やっぱりアイツは普通は見えねぇんもんなのか」
「そうね。力が強いアヤカシとかは自由に見えないようにしたり見えるようにしたりできるけど大抵の力の弱いアヤカシは普通の人には見えないわ。」
…けど俺にはアイツは見えた。今まであんな物を見たことはないのに何故あの時は見えたんだ…?
「なんでアヤカシが急に見えるようになったのか?って顔をしてるね。」
「まぁね。今まであんな物見たこと無いからな。なんでか知ってるのか?」
「そうね。簡単な話逢川くんは元々アヤカシを視る力…霊力を持ってたんだよ。そして襲われる直前までその力が封印されてたから今までは見えなかった。」
元々霊力を持っていた…?封印されていた…?
思わず口から呟く。
妖間はうんと肯定し懐から何かを取り出す。
それは蒼く煌めく俺のお守りだった。
「逢川くんがお守りにしていたこのネックレス。これには霊力を抑える力があるみたいでこれが今まで逢川くんのアヤカシを視たり感じたりする力を封じていたんだと思う。」
「このお守りにそんな力が…」
けどなんであの子は俺にこのお守りを…?
もしかしてあの子は俺に霊力があるのを知ってて俺にくれたのか?
今となっては本人に真意を聞くことができないことに歯がゆさを感じ思わず顔を顰め困惑を表してしまう。
それを感じ取ったのか妖間が口を開く。
「お守りをくれたって女の子がどうしてこれを渡したのかは私には分からないけどこんな貴重な物だもの。きっと逢川君を守る為に渡したんだと思う。だからこれからもこれは大事にしてあげて欲しいな。」
そう言って微笑みながらお守りを俺に手渡してくる。蒼く煌めくそれを受け取りその輝きを目に映す。
俺を守る為…か。
そうかもしれない。きっと今までも俺が気付かない内に俺を守ってくれていたのかもしれない。そう思うとこれをくれたあの女の子への感謝が尽きない。
それを抜きにしてもこれが大切なお守りであることには変わりはない。これからも大切にしていこうと蒼く煌めくそのお守りを握りしめる。
それを見ながら微笑んでいる妖間にもう一つ大事な事を尋ねる。
「なぁ妖間。俺を助けてくれた時のあの姿って…あれってもしかして…」
話を聞いて頭の中に浮かんでいてた一つの可能性。聞いていい事なのか迷ってしまい言い淀んでしまう。
「うん。君が考えている通り私はアヤカシだよ。あれは私のアヤカシとしての姿なの。」
そんな俺を尻目に妖間はあっさりと答える。
「やっぱりそうなのか…そうだよな。じゃなきゃ一瞬でアイツを凍らせた事が説明つかないもんな。」
「私は雪女。雪の精霊で物を凍らせたり冷やしたりするアヤカシなの。こう見えて結構アヤカシとしては強い部類なの。だから普通の人にも姿を見えるようにしたり見えないようにしたりもできるし人に化けることもできるから人間社会にも溶け込めるんだ。」
そういえばさっきも強いアヤカシは普通の人にも見えるようにしたりできるって言ってたな。
それができるという事は妖間は本当に強いアヤカシという事になる。
実際今目の前にいる妖間は普通の女の子って感じしかしないがあの時に見せた姿は本当に只者じゃない雰囲気だった。
おもむろに妖間がこちらの方まで詰め寄って来てこちらの顔を覗き込む。
「私がアヤカシだって知って怖い?」
そう聞いてくる妖間の瞳は真剣で此方に感情を読ませない。
蒼く透き通った瞳。
今自分の手に握りこんでいるお守りと似た色。
その美しさに自然と意識が目に吸い寄せられる。
この目には嘘はつけない。自然とそう思い嘘偽りなく言う。
「正直な所少しだけ怖い…?というかなんというか…自分とは違う存在なんだなと思ってどう接すれば良いか戸惑ってはいる。けど妖間が俺を助けてくれた事は事実だし、あんなのから助けてくれるって事は少なくとも良い奴…なんだと思ってる。だから妖間がアヤカシだからといって態度を変える…つってもまだ知り合ってそんなに経ってないから変えるもへったくれもないけど、なんというか…あーもう上手く言えんけどとにかく妖間は妖間!それ以上でもそれ以下でもないと思ってる!以上!」
嘘偽りなく言おうとしてだんだんと自分が何を言いたいのか分からなくなり途中で目を逸らしてしまう。最後辺りに至っては早口になってしまった。
チラリと横目に妖間の様子を伺うと少し驚いたような顔をしている。
少しの間そんな表情をしていたがおもむろにその顔は微笑みに変わる。
「…そっか。やっぱり君は変わらないね」
「…?何か言ったか?」
「ふふふ、ヒ・ミ・ツ♪」
そう言って人差し指を口に当てながら答える。(ちょっと可愛いなと思った)
どうやら教えてくれるつもりは無いらしい。
不意に時間が気になり時計を見ると時計の針は既に8時を過ぎていた。
流石にこんな遅くまで世話になる訳にもいかないので帰らなければ行けない。
「わりぃ妖間、長居し過ぎたみたいだ。俺帰るわ。」
「あ、そうだね。じゃあ私家まで送って行くよ」
「いや流石に良いよ。夜中に女の子を出歩かせる訳にも行かないし。」
「けど逢川くんここがどこすらかも知らないでしょ?」
そういえばそうだ。さっきまで寝てたからここがどこで家までどのくらい距離があるのかも知らない。
ぐうの音も出させずにいると妖間が「ほらね」と言いたげな顔して傍にあった俺のカバンを持って立ち上がる。
仕方なく立ち上がりカバンを受け取って部屋から出て妖間に着いていく。右足首が少し痛むが歩けないほどではなくなっていた。
途中ダンディなおじさんみたいな人や赤毛の背の高い人とすれ違い「お世話になりました」と挨拶を交わす。
妖間に「今の人達もアヤカシ?」と小さく尋ねると「そうだよ」と返してきた。
「私達は
そんな雑談をしているとすぐに玄関に着いた。
「因みに此処って何町?」
「
「あ、なんだ。俺ん家と同じ地区なのか。じゃあすぐ家まで分かるかも。」
「あ、そうなんだ。逢川くんも水見町なんだ。じゃあ家近いかもね。」
かもな。と返しながら玄関を出て敷地を出る。
そこで気付く。
「あれ?隣り…俺ん家?」
敷地を出てすぐ左手には自分が長年過ごしている家があった。
…そういえば昨日は隣りに新しく引越してきた家族がいた事を思い出す。
俺は特に興味も無かった為挨拶もしていなかったのでどんな人達が来たのか微塵も知らなかった。
隣りに引越してきた家族。
今日入って来た転校生。
考えれば気付く要素は確かにあった。今の今までその可能性に思いたらなかったのが不思議なくらいに。
横に目を向ければ妖間も驚いた表情をしている。どうやら妖間も俺がお隣さんとは知らなかったようだ。
「…あー。送って貰う必要はなかったみたいだ。」
「…あ、あぁそうみたい…だね?お隣さんだとは知らなかったなぁ」
お互いに微妙な空気になる。
…がすぐにおかしくなってどちらからともなく笑い始める。
「…ハハハッ!まさか近所どころかお隣とは思わなかった!」
「ふふふ、そうだね。私もそう思わなかったからなんだかちょっと可笑しいね」
そうしてひとしきり笑いあった。
世の中面白い偶然もあったものだ。
「…はぁー可笑しかった!んじゃ!ありがとな。また明日学校で」
「うん。また明日学校で」
おやすみと言いながら背を向け戻る妖間にこちらもおやすみと返す。
今日1日で自分の知らなかった世界を知ったが、妖間との出会いのお陰でこれからもまぁなんとかなるだろうと思いながら家に帰る。
その胸元では青いネックレスが薄く煌めいていた。