神域と呼ばれる特殊な海域の調査資料をここに公開する。

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「千年竜がいるなら煌黒龍がいてもいいじゃない」という思いつきで書いた一発ネタです。

独自設定が多分に含まれています。ご注意ください。



とある王立海域調査隊の航海日誌

 

 

 昨年、人類未踏の海域である《神域》の調査・探索が世界政府直下の諜報機関によって行われた。

 これは、調査任務から生還した諜報部員によって発見され、聖地マリージョアまで持ち運ばれた一編の日誌である。

 発見当初は執筆からかなりの年数が経っていたのか損傷や劣化が激しく、とても手にとって読むことができるような状態ではなかったという。しかし多くの考古学者や科学班の協力の元、先日復元作業が終了し、現在は聖地マリージョアにて厳重に保管されている。

 今回は原本の複製の掲載許可を政府から特例で得ることができたため、全文をここに掲載する。

 なお、文中には意図的に黒く塗りつぶされているとも取れる部分が散見されるが、その真意は定かではない。

 以下が、その内容である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ▽

 

 

 

 

 

 

 

 

【航行前日】

 

 今回我々は、以前から国内外で様々な噂や憶測が飛び交う、特殊な海域の調査を行うことになった。

 その海域では、通常ではありえない程の異常気象が発生しており、近海を航行する船が遭難・座礁・沈没する事故が相次いでいる。また、事故の後にそのまま行方不明となる船も数多くあることから、いつからか神の棲む領域──《神域》と呼ばれ畏れられるようになった。

 我が国が神域への渡航を禁止してからもなお他国の船の海難事故が後を絶たず、その事故の物証から巷ではガスの引火や火山弾の命中など様々な原因が推測されているが、正確な事故原因は不明となっており、真相は定かではない。

 その危険要素の多さから国による調査は全くと言っていいほど進んでおらず、正式な情報の発表もされていないため、人々の間ではぼんやりとした噂と黒い不安だけが広まっている。

 未だ生還者がいないこと、そして周辺諸国からの要請もあり、ついに王立海域調査隊である我々に白羽の矢が立ったのだ。

 この日誌は、その調査記録を██████王国へと報告するものである。

 

 

 

 

【航行一日目】

 

 我々調査隊員の表情は暗い。しかし、それは当然のことだろう。

 未だに神域から生還したものはいない。

 ほとんどの場合、漂着する船そのものが原形をとどめておらず、乗組員がいた形跡も見当たらないのだ。稀に欠損した部位が木片とともに流れ着く程度である。仮に漂着した船が原形をとどめていたとしても、そこに生命の気配はなく、目を背けたくなるような惨状が広がっていることは想像に難くない。

 それ故に、神域が領海と隣接している我が国では、漁業や貿易といった諸外国との交易を生業とする者、そして我々海域調査隊のような者が海へ出る際には、前日に遺書を(したた)め覚悟を決めて仕事へ臨む。だが、この任務を告げられてからの隊員達はみな、自ら死地へと向かうかのような悲壮な決意を瞳に宿している。

 中には努めて明るく振る舞う者もいるが、遠目に見ても、それが空元気だと分かるほどに痛々しいものだ。

 そもそも遺書を記すという行為は、万が一にでも神域へと流されてしまうという()()に備えるためのものであり、それにより「必ず生きて帰る」という強い意志を持つことにも繋がるので王国民も割り切ることができている。しかし今回は、任務とはいえ()()神域へと航行しているのだ。

 恐らく、船内を覆うこの重苦しい雰囲気を取り除くことは不可能だろう。

 先日、私は日誌に「我々に白羽の矢が立った」と記したが、この言葉は言い得て妙だと自虐する。

 今の我々は、正しく"生け贄を求める神に選ばれ差し出された犠牲者"のようだ。

 この調査を終えるまでに、私達の心が晴れ渡る時は来るのだろうか。

 

 

 

 

【航行二日目】

 

 神域の近海には、我が国の領土を含む大小様々な島が点在している。そこへ漂着する船の残骸があることは今までに記載した通りだ。

 しかし、調査指令と共に伝えられた非公開の事実──おそらくは、王国上層部のみにもたらされているだろう極秘の情報──の中には、不可解な点があった。それは、流れ着く船の残骸が普通ではないという事だ。

 王国周辺の島に流れ着いた船の残骸は、凄まじい炎により焼け爛れているものもあれば、凍り付いてひび割れているもの、雷に打たれたように炭化しているものと、どれもが異常という他ない状態で発見されるらしい。

 このような現象は、一つの海域で発生するものとしては、自然現象としても人為的なものとしても明らかに不自然である。

 中には通常の難破船のように嵐にさらされのか、木材の芯まで腐っているものも流れ着くが、発見例は驚くほどに少ないようだ。

 これは、神域では我々の想像を絶する天災が常に発生していることを裏付けており、今回の任務の過酷さを物語っている。

 幸いにも周辺諸国の被害は我が国ほど多くはない。しかし、現状のまま他国籍船の被害が増え続ければ、いずれは連合国による調査隊が編成され、我が国の領海を侵し、争いが起こるだろう。

 近年、連合国はその勢いを増している。あと数年もしない内に、██████王国に匹敵する一大勢力となる可能性が高い。また、民意を無視した階級・奴隷制度、他種族への高い差別意識など、その思想は非常に危ういものがある。

 故に任務の失敗は許されない。

 任務の失敗は我が国の権威の失墜を意味し、奴らの勢力の拡大に繋がりかねないからだ。

 奴らの台頭を防ぐためにも、我々の威信にかけてこの調査を完遂せねばなるまい。

 いよいよ明日、目的地である神域に到達する。

 一体、そこでは何が起きているのか。

 一体、そこには何があるのか。

 その謎に終止符を打ち、王国の力を世に示すのだ。

 

 

 

 

【航行三日目】

 

 神の棲む領域。

 この海域がそう呼ばれている理由を、私は身をもって知った。

 渦巻く雷雲が空の(ことごと)くを覆い隠し、漆黒に塗りつぶされている。気候は常に安定せず、突然嵐になったかと思えば突風とともに無数の竜巻と渦潮が発生し、次の瞬間には激しい吹雪が吹き荒れ海面が凍り付く。時折降り注ぐ炎の雨は海面を蒸発させ、船が爆風に曝される。

 私は目の前に広がる光景を、この世のものだとは思えなかった。

 これは、神話や御伽噺で語られる『冥界』……あの世の光景なのだと。

 ここは死後の世界なのだと。

 ──そう錯覚せざるを得なかった。

 

 

 

 

【航行四日目】

 

 隊員の士気は前日から下がり続けている。

 この状況においては無理もない。

 かくいう私も先日の啖呵とは裏腹に、この光景を前にして心に暗い感情が去来している。

 相変わらず天候は不安定だ。

 嵐で軋む船体の音は死霊の呼び声のようにも聞こえ、まるでこの海域に没した船乗り達が我々を(いざな)っているかのようだ。

 このままでは数日と経たぬうちに、任務の遂行はおろか神域からの脱出さえ敵わなくなるだろう。隊員達の士気を上げる為に、早急に何らかの行動を起こさねばなるまい。

 先ほど進路方向にて、神域の中心部と思われる孤島を確認できた。おそらくはこの島に、周囲一帯の異常気象の原因があると私は推測している。例え原因はなくとも、悪天候にさらされ続ける島の調査を行えば、この海域の謎を解き明かす鍵が見つかるかもしれない。

 島にある何かがこの天災を引き起こしているのか。それとも、島そのものが周囲の環境に影響を与えているのか。

 これらはあくまで推測の域を出ないが、私の長年の勘が警鐘を鳴らしている。

 未だに不安は残る。だが、ここで立ち止まっていては何も解決しない。

 隊員達を激励し、あの孤島へと向かうとしよう。

 

 

 

 

【航行五日目】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【航行█日目】

 

 どうやら日誌は無事だったようだ。厳重に保管した甲斐があったというものだ。

 状況は芳しくないが、我々がこの島に流れ着いてからの記録をここに写そう。

 

 

 ▽ ▽ ▽

 

 

 気がつくと、我々は岸辺に打ち上げられていた。辺りには船のものと思われる木片が無数に流れ着いており、この海域へ足を踏み入れた船の顛末を物語っていた。

 降り注ぐ炎の雨に、竜巻や落雷。そして猛吹雪。通常ではありえない程に目まぐるしく変化する周囲の天候に、調査船が耐えきれなかったようだ。

 海獣や海王類をものともせずに、今までの調査の全てを乗り越えてきたあの船が落とされるとは……。この海域で起こること全てが我々の想定を遥かに超えている。

 隊員達の半数以上も行方が知れず、私と共にこの場にいる者は二十名にも満たない。皆が程度は違えど様々な傷を負っているため、実際に調査を続けられる人数は私も含めて数名だ。

 船を失ったことにより、王国への帰還どころかこの島から脱出する手立てもない。このままでは、我々の任務は失敗したと見なされるだろう。神域に向かった者には救援隊など送られるはずもなく、状況は悪くなる一方だ。

 幸いにも、我々が漂着したこの島は、遭難の直前に観測していたあの孤島で間違いない。

 早速だが、それぞれの応急処置を施した後に、この島の探索をする準備に取り掛かるつもりだ。

 

 

 

 

 どうやらこの島はさほど大きくはないようで、二日程でほとんどの探索を終えることが出来た。

 行動を開始してすぐに、調査船がある程度の形を保ったままこの島に流れ着いたのは幸運だった。船内に残っていた水と食料を確保することができ、怪我の治療を行う環境も整った。その結果、探索を行える人数が増え、想定以上の早さで調査を進めることが出来たのだ。あとは、島の中心に位置する火山を残すのみ。

 この島には草木の一本も生えてはおらず、まったくと言っていいほど生命の息吹は感じられない。

 沿岸部からでも確認できる火山からは、煮えたぎる溶岩がまるで川のように流れ出ている。山頂では絶え間なく噴火が起きており、巻き上がる火山灰で空は黒い雲がのしかかるように重く広がっていた。

 私の推測は正しく、異常気象はこの島から発生しており、突如として起こる猛吹雪の中噴火を続ける火山は幻想的でもあった。

 しばらくの間(ほう)けていたのだが、突然悪魔の咆哮のような音とともに、山頂付近で様々な色に煌めく何かを私の瞳が捉えた。あれは一体──。

 暫しその光景に目を奪われていると、沿岸で作業を行っている者から、日誌を発見したという知らせが届いた。

 損傷が少なければいいのだが……。

 

 

 △ △ △

 

 

【航行█日目】

 

 我々はこれより、中心部に位置する火山をこの異常な天候の原因と断定し、調査を強行する。

 この調査では我々の身が危険にさらされる可能性が高いため、この日誌を厳重に保管しこの地に残す事とする。

 我々の任務失敗という事実、そしてこの調査書に記された内容を根拠として、私は我が国が誇る████・████の行使を含めたあらゆる選択肢を提示する。

 願わくば、この記録が██████王国へともたらされる事を祈る。

 

 

 

 

 

 

 

 

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「……ふむ。つまりこれは、ただの航海日誌ではなく、おれ達が今向かっている《神域》とやらについての資料か」

「はい。なんでも、昨年にCP(サイファーポール)が行った海域調査で、唯一発見された物だとか。今回の任務にあたって、特別に五老星から閲覧の許可が下りたものなので、くれぐれも他言はしないようにお願いします」

 

 部下から渡された資料を片手に話を進めるのは、白髪混じりの髪と髭を蓄えた、精悍な顔つきの男。

 その名をモンキー・D・ガープ。二年前に処刑された海賊王を幾度となく追い詰めた、海軍の英雄である。

 

「フン。それにしても、こうも塗りつぶされている箇所が多いとはな。政府は何を恐れているんだか」

「ちょっとガープさん、言われたそばから内容を零すのはマズいんじゃあないですかね」

「多少の愚痴くらいはいいだろうクザン。この任に就いている者には箝口令を敷いている。他言などはせんだろう」

 

 そんな海軍の英雄に臆することなく話しかけている、クザンと呼ばれたこの男。

 その飄々とした見た目とは裏腹に、海軍本部の中将を務めており、自然(ロギア)系悪魔の実『ヒエヒエの実』の能力者でもある彼は、海軍本部の中でも指折りの実力を持っている。

 

 今、彼ら海軍が誇る実力者たちを乗せた軍艦が向かっているのは、古くから《神域》と呼ばれている特殊な海域だ。

 その異常という他ない気象状況によって今まで人が足を踏み入れた事はなかったのだが、『金獅子のシキ』の投獄、『海賊王ゴールド・ロジャー』の処刑といった事例が相次いだため、ようやく世界政府が本腰を入れて神域の調査に取り組み始めたのだ。

 任務から生還した諜報部員の証言と修復を終えた日誌の内容についての報告を受けた五老星は、先日に起きたオハラの一件もあり、重大な任務として海軍本部に命令を下した。

 ……だが、コング元帥から調査を命じられた当の二人は、この任務をあまり重く捉えてはいないようだ。

 

「まったく、せっかくの休暇中だったいうのに。センゴクめ、仕事を押し付けやがって」

「まあ、センゴクさんは脱獄したシキの件で忙しいんでしょ」

「……シキは用意周到な奴だ。すぐに仕掛けては来んだろうに」

 

 そう言ってガープはため息をつく。

 難攻不落とも呼ばれる大監獄、インペルダウン。凪の帯(カームベルト)に建てられ海底深くまで続き、侵入・脱獄共に不可能と言われ、事実、これまで一度もそれらを許さなかったそこから脱出し、史上初の脱獄者となった金獅子のシキ。

 過去には、かの白ひげやロジャーと幾度も渡り合ってきたのだから、海軍が警戒するのも当然のことだ。

 

「おれとしては、この任務自体、複雑な気持ちがあるんですがね」

「……オハラでの事は、気の毒だったな」

「……いえ、あれが奴の選択なら、おれはその意志を汲みますよ」

「そうか……」

 

 クザンは前回の任務中に、親友であるハグワール・D・サウロ元中将をその手で殺めた。故に、彼が守ろうとした少女のこれからを見届ける義務がある。

 

「さて、神域にはどんな秘密があるのやら」

「案外、噂の古代兵器が眠っているのかもしれませんよ?」

「そうなればおれ達は全滅だな」

「御二方、やめてくださいよ。縁起でもない」

 

 中将二人の掛け合いに副官が戦々恐々とし、甲板は笑いに包まれた。

 そんな彼らを乗せて、軍艦は神域を目指す。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……これは」

 

 その光景に、一行は息を呑む。

 かつては神の棲む領域と畏れられたこの海域。その脅威が容赦なく彼らに襲いかかった。

 

 




初期の映画や空島編のようなロマン溢れる冒険譚が見たい今日この頃。


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