天使の様だった君が天使になった話

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天使の様な君

君が居ない夏を、もう何回数えただろう。 天使の様。女性に対する褒め言葉ではよく使われるが、俺はこの言葉が嫌いでたまらない。天使は常に俺の手の届かない所にいて、俺の事を見てくれないからだ。 神なんて者がいるなら、そいつほど悪魔と形容するに相応しい奴はいないだろう。

 

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昼前になろうとしてる。 蝉の大合唱を目覚ましにゆっくりと目を開ける。ベッドから降りて顔を洗い、インスタントのコーヒーを啜る。 スマホのカレンダー機能で今日の予定を確認し、特別今日しなければならないと事など無い事を確認する。

身支度を整え財布と携帯だけを手に取り家を出る。 ドアを開けた瞬間。むせかえるような熱気と共に、君の声を思い出す。 夏は好きだと君は言うと、俺はいつも夏は嫌いだと言った。

高い高い雲より高く。その上に行きたいと言っていた。 鳥より高く。 天使の様に高い所へ、と言っていた。

バイト先に着き、ドアを開けると暴力的な涼しさが体を包む。いつもの様に惰性で働く。 その間も考える事は君の事だ。 君の事を忘れないようにいつも、いつまでも思い続けている。 そうする事が、君への贖罪になると信じているかのように。

 

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「ただいま」

 

声が虚空に響く。 返事が返ってこなくて数年たっても、この習慣は抜けない。 今でも「おかえり」が聞こえるような気がして。

帰りにスーパーで買ってきた食材で軽めの夕飯を作る。 インスタントで三食全て済ませていた事が君にバレた時から、料理を覚えさせられた。 君はその時「いつ私がいなくなってもいいように」と冗談めかして言っていたね。

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朝、目を覚ますと十時を過ぎていた。 いつの間にか、目覚ましを使う習慣は無くなっていた。 君がいつも起こしてくれていたから。

身支度を整え外に出る。 君は休日になると俺を引っ張って当てもなく街に出かけたよね。 いつも金の無い俺を気遣って服もアクセサリーも欲しがらなかったよね。 君は「指輪なんていらない」 って言ってたけど、俺は指輪だけでもって思っていたんだよ。

少しだけ、いつも君を甘やかす。 それだけしか俺には出来なかったよ。

君の事を思い出すのは何回目だろう。 君の声を思い出すのは何回目だろう。 君の居ない家に何回帰っただろう。 君の……、君の……、君の……。

君は天使になった。 俺の手に届かない所に行ってしまった。 俺も天使になれば君に会えるだろうか?

君は最後に言ってたよね「私の事を、どうか忘れて下さい」って。どうしてそんな事を言ったのだろう。

俺も天使になれば分かるかな?


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