「ここ…だな」
「ええ、彼が持っていたGPSの反応はこの建物からです」
時刻は深夜。
草木も眠る丑三つ時。
僕らは県境にある山奥にいた。
「ここから見た限り、人の気配は無いな。見張りすら見当たらない」
暗視機能付き双眼鏡を覗いていたエンデヴァーが投げて寄越す。
「監視カメラの類も見当たりませんね。廃墟に見立てているなら恐ろしいくらい周到ですね」
「でも、見て?室外機が回っとるよ」
「電気が生きてて人がいるのは確定だな。とりあえず、オールマイトの戻りを待ちましょう」
ここ数分建物周りを見ているが、人影はおろか動くものさえない。
赤外線センサーも疑ったのだが、それに類するものは無かった。
ガサッと木々の音が擦れる音に全員が振り返る。
そこにはいつものヒーロースーツと異なる黒を基調とし、闇に紛れる色合いのスーツを纏う見慣れた金髪の偉丈夫が居た。
「やぁ。戻ったよ」
「オールマイト。気配を消しすぎですよ…」
「ふん」
サーとエンデヴァーが各々リアクションを返す。
一瞬だけ後ろを確認して、すぐに双眼鏡に戻したお茶子さんは見習うべき点だな、流石だ。
僕も気付かず衰えていたのか…習うように目を戻す。
後ろで現役ヒーロー達が情報交換を始めた。
「一周グルリと見て回ってきたが、正面口以外に侵入経路は無さそうだ」
「どこかに人が立っていたりしませんでしたか?」
「いや、人っ子一人見なかったね…」
「となると、正面突破しかないか…」
「お前らが潜入しろ。俺はお前らが入った後に正面口を焼く」
一分も漏らされていなかったエンデヴァーの炎。
やる気に乗じてか幾ばくかの火の粉が散った。
「本命は君達だ、緑谷少年、麗日少女」
「彼奴がどれほどの戦力を有しているか分からない以上、戦闘による陽動の危険性は天井知らずだ。出来うる限りの戦闘を避け、フォースカインドに接触するよう行動しろ。ツーマンセルは絶対だ。逃げるにしろ戦うにしろ必ず二人で行動するように。渡してあるSOS発信装置の起動に躊躇いを持つな。目標との接触前に接敵した場合は戦闘も構わんが、遅滞戦闘に努め私が行くまで時間を稼ぐ事。」
「正面口の陽動の効果が少なくなったならば、俺も突入する。無理はせず、必ず新人を助けてやってくれ」
大人組3人の熱い視線が僕らに注がれる。
僕とお茶子さんは一度目を合わせると出来る限りの力強さを持って首を一度縦に振った。
「現在時刻は23時55分」
「陽動開始は5分後とする」
「それでは…」
「突入…開始!!」
エンデヴァーを残して僕らは茂みから飛び出した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
正面口は全てがガラス張り。
柱の影から覗きみれば内部までうっすら見渡せる。
いくつかの袖なしのソファが乱雑に並んでいる。
どうやら、古い病院のようでその待合室のような様相だ。
目を凝らせば、埃が薄絹のように全てに纏い仄かに月光を反射していた。
両開きのガラス張りのスライドドア。
勿論、電源が切れており軽く動かそうにもデッドボルトが効いているようだ。
それを後ろにいる3人にジェスチャーで知らせるとお茶子さんが拳大の石を括り付けた紐を持ってこちらに来る。
それを大きく振り回して、勢いを付けると僕が離れる前に貼り付けたガムテープへと叩き付ける。
カシャン、と頼りない破砕音が小さく鳴るも数秒待っても変化がない。
その変化を待って、再び近寄るといい具合に割れていた。
慎重にガムテープを剥がし、手を差し込んでシリンダーを回す。
後ろに控えたオールマイトとナイトアイにアイコンタクトをとった後に僕とお茶子さんで静かに突入を始める。
お茶子さんは受信機に記された発信源を確認しているが、どうやらここより下の階にいるようだ。
リノリウムが立てる音を最小限に壁沿いを走り、角から顔を覗かせる。
ナイトアイから渡された暗視装置で周囲を確認しながら、下への階段を探した。
幾度目かの角でハンドサイン。
付いてくるお茶子さんに停止を指示する。
人がいた。
二人組だ。
「こうも暗くちゃ何もしようがないよなぁ」
「まぁ、これだけで金が貰えるんだし、普通に働くよりはマシだろう?」
「それはそうだが…」
いずれも爬虫類型の顔立ちをした異形型だ。
最悪、素の個性に付随して熱探知や暗視能力があるかもしれない。
(…デクくん、どうするん…?)
(…もうすぐ時間だ…少し戻って小部屋でやり過ごそう…)
僕はその場で監視し、その間に部屋が開くかの確認をお茶子さんに頼む。
数秒後、戻ってきたお茶子さんに裾を引かれ僕はその場を後にした。
「多分、あの先やね」
「監視を立ててるんだから、その必要があるって事だよね」
「エンデヴァーが動き出したら、きっと外へ向かうから、入れ違いになるよう行けば」
「うん、そうすればやり過ごせる」
左腕に付けたオールマイトモチーフの腕時計。
盤面を確認すれば23時59分。
5
4
3
2
1
0時00分。
轟音と共に建物が大きく揺れた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
Side: Endeavor
0時丁度。
打ち合わせた通りに派手にかます。
両の手より産み出した赫赫と燃える炎。
真正面に陣取り、建物のガラス張り目掛けて放つ。
ガラスの融点を超え、凹凸の目立つ犬走りのタイルさえも赤い泥へと変えた。
突入時の小細工は燃えて散った。
割れた破片も溶けて混じり合う。
「ヒーローエンデヴァーだ!!ここにヴィランが集まっている情報は得ている!!速やかに出頭せよ!!」
小脇に用意していた拡声器を用いて声を張る。
赤々と燃えていた炎は弱火になり、多少の明かり代わりになった。
「チッ。目が焼けて、暗闇が見通せん」
顔を覆う炎も出しているせいか、闇夜が一段と暗く見える。
こういう場面では不都合だな。
ヒュッ
顔を掠めるように何かが飛んできた。
それは白い円錐状の何かのようだった。
「どこから打ってきている…?」
身体を覆うように炎を纏うと次弾は体に当たる前に灰になった。
「それずっこくねー!?俺の
ゾロゾロと建物の中から出て来る。
いずれも侵入者対策として置かれていた人員のようだ。
「ハハ、お前は討ち取れねーからボーナス無しだな!」
「て言うか、エンデヴァーが来るとか聞いてねーよ。なんだよ、好き勝手して遊んで暮らせるって聞いてたのに、これじゃあ話が違くねえか!!」
「何にせよ、勝てば良いのよ!好き勝手生きるにはよぉ!!」
俺を円心に扇状に広がるヴィラン共。
その横幅を徐々に広げ、俺を左右に挟む形で対峙したいらしい。
「時間は稼ぐが、こんな雑魚共だ。倒してしまっても構わんだろうな…」
今一度両手に炎を纏わせ、ヴィラン共に対峙する。
右に20、左に20、正面に10。
よく集めたものだ。
「来い、道を踏み外したバカ共。拳と炎で説教してやる」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
Side:Allmight
「始まったようだな」
「ですね」
入ったすぐ側の小部屋に潜んでいた私たちは外の状況を確認した後に、扉の鍵を掛ける。
「どうやら下のようだし、大穴開けて突入してやろう」
「ここは四方が壁ですし、構造上、他の部屋への影響は無いでしょう。私は天井に退避していますので、思う存分お願いします」
「任された!!」
張り詰めた二の腕に更に力を込めて、拳とヒーロースーツを軋ませる。
「DETORIT SMAAAAAAAASH!!!!」
振り下ろした拳はそのまま床を突き抜け、小部屋の床全てを階下へと叩き落とした。
「ぐぇ…っ!?」
瓦礫となった元床達が降り注ぎ、階下にいた何者かの声が上がる。
グチャリ、と肝が冷える滑りの有る水のような音に最悪を想像した。
「ま、不味い!?例えヴィランでも殺してしまっていては事だぞ!?」
私は慌てて飛び降りるとそこは白一色の広い部屋だった。
病院の一室にしては広すぎるのでこの場を使い始めてから手を入れたのだろう。
それよりも声の主は大丈夫だろうか!
私は瓦礫を払い除け、傷病者の有無を確認する。
しかし、想像していた赤い赤い血の池はそこにはなく、鼻に付く濁り腐った泥水のような何かがあるだけだった。
「オールマイト!怪我人はこちらで治療します!」
すぐさま私の後を追ってきたサーも同じく慌てている。
事情を説明しようと振り返ろうとした瞬間。
視界の端で何かが動いたのを感じた。
視線を戻すとそこには私に覆い被さろうとする泥水が…。
皆さん、一月強ぶりです。
アニメが始まったり、原作で大きな動きがあったりでこの一月は中々に濃かったですね…。
エタったかご心配していた方、申し訳ございません。
リアルが忙しく書くのに集中出来なかったのも有りますが、どのように展開しようか迷っていたのが一番な理由になりますね…。
さて、今回のお話はフォースカインド氏の救出を目的として行動しますが、幾人かのオリジナルモブヴィランが発生しております。
あまり、センスが無いので早いうちに退場させます。
と言うか、できるだけ出したくなかったのですが、展開上致し方なく登場させます。
ご理解ください。
次回の更新につきましては時間が出来次第書いて、書きあがり次第投稿したいと思いますので、気長にお待ちいただければと思います。
今後も緑谷夫妻をよろしくお願いします。