風の石空の夢   作:さびる

28 / 81
『遠鏡』21~30  
中学の大会、佐為が自由にヒカルの時代で過ごせるようになるまで
(主な登場人物…佐為、ヒカル、導師、三谷、筒井、広瀬、北島、アキラ、あかり、津田、日高、美津子、平八の妻、術師、正夫)



遠鏡28

「まったくヒカルと来たら、私を邪魔者扱いするのですよ。」

佐為は腹立たしそうに言った。

「そりゃ、そなたはさぞ、厄介者の邪魔者であったろうな。わしはヒカル殿に同情するぞ。」

導師は、にべも無く言った。

「導師までもが…。」

佐為が、憮然とすると、導師は続けた。

 

「いつの世も同じではないのか。ヒカル殿がこちらに来たときは、わしたちも随分気をつけている。服装や髪型にも気を配っている。」

「いいですか。私はヒカルの世で、女人に会った。この姿でですよ。その女人は、私を見てにっこりと会釈をしたのですよ。なのにヒカルは、“やばい”というのです。」

 

導師はため息をついた。

「ヒカル殿の時代は、服装は自由だというが、それでも一種の決まりがあるのではないか。

わしが思うにだが…。虎次郎殿が言っていたではないか。佐為の様な格好をする人がいないわけではないが、狩衣姿では、むやみに歩き回らぬものだと。その時から150年が過ぎた世界というのはどのようなものなのか、わしには分からぬよ。しかし単純ではあるまいな。」

そう言ってから付け足した。

 

「佐為。ヒカル殿がここへ来る時の服装を覚えているであろう。あれは特別ではなく、大人も子どもも似たような服を着ているという。その会釈をした女人というのはどのような格好をしていた?」

「あっ。ええと…どうでしたか。覚えてませんが、たしかヒカルの母上と同じような、胴より上はヒカルが着ているようなTシャツと申すもののような。下は裳裾を短くしたような…。よく覚えておりませぬ。」

「まあ、よい。もしもそういうことであれば、佐為のような姿はさぞ目立つであろう。時の石について佐為は喧伝したいのか?」

「滅相も無い。」

「ヒカル殿は時の旅の経験を他人にどう伝えていいかで悩んでおろう。目立つことをすれば石の存在が明るみに出る。それでどうなる? わしにはその先は分からぬ。考えたくもない。」

佐為は頷いた。

「そうですね。時の旅を誰にでも理解させるということは適いませぬな。この平安の御世とはあまりに違う。虎次郎の世界もそうでございました。ヒカルの時代はもっと 違います。

それはこの時代では到底受け入れられませぬな。帝の力が全く及ばぬ政りごとというものを理解せよとは…。」

「佐為。滅相もないことを口にするではない。」

導師は厳しい顔で注意を促した。

 

その時、部屋にぱあっと光が満ちて、ヒカルが現れた。

「やったぜ。百発百中ってとこだな。」

ヒカルはそういって、満足そうに部屋を見回し、導師と佐為に向かい合うように座った。

「もし佐為が俺のところへ来たらまずいから俺がこっちへ行くことに決めたんだ。 佐為って油断ならねえもんな。好き勝手にするから。」

佐為は不本意という顔で言った。

「ヒカルは私が時の旅をすることがそんなに迷惑なのか?」

 

ヒカルはやれやれという顔でいった。

「そうじゃねえよ。でもその格好はまずいんだって。」

「だが神社で出会った女人は、にこやかに挨拶をしたではないか…。」

「そうじゃないって。あの人はね。佐為を宮司さんだと思ったんだ。でなければコスプレしてると思ったかだな。神社の人 は何か儀式をやる時だけ 、佐為みたいな服を着るんだ。でも何かやるときだけだよ。いつもは普通の服着てるんだよ。あの人は佐為 が神社の人だと思って、佐為に挨拶したんだ。目立ったんだよ。その格好が。それにあの後でまたあの女の人に会っちゃって、大変だったんだからな。 佐為のこと聞かれて、言い訳するのに。」

 

しばらく沈黙があった。

「やっぱり迷惑ということか。」

佐為がぽつりと言った。

「 だから違うって言っただろ。そうじゃなくて、俺は嬉しかったんだぞ。佐為が俺の部屋に現れて、一緒に碁を打って。でも今は、まず、準備が必要なんだって。

俺は佐為が着れるような服を何とか探すよ。 それまでちょっと待ってよ。金がないから、そう簡単に手に入らないんだ。」

導師は賛成だというように大きく頷いた。

「何事にも心配りは大切ということだ。注意を怠ってはならぬ。」

 

ヒカルは言った。

「それと、もうひとつ。疑問があるんだよ。俺はいつもこの邸に来れるけど、それはどうしてなんだろう。 もし、佐為が帝の囲碁指南をやっているところに、俺が現れたらどうなる?今日はどうなるのかなと思ったけど、ここにちゃんと行き着いたよ。」

導師はほうという顔をした。

「なるほど、そういえば、そうだ。今まで気にもしなかったが。佐為がいつもヒカル殿の部屋に到着できれば、今回のような騒動にはならなかったわけだ。逆にヒカル殿が、この御世でとんでもない場面に行き合わせる危険もあったわけか。それは、考えても身震いすることだな。どう思う。佐為。」

佐為は、ぽつっと言った。

「この石は、この邸になじんでいるのです。だからそのような心配は無用では…。私は石に響きあって時を旅しているの ですから。

 

 

 

 

 

ヒカルの元に飛ぶというより、その石の元に飛んでいくのでしょう。きっと。」

ヒカルは決心したように言った。

「俺、今決めた。石は俺の部屋に置いておくことにする。そうすれば佐為は俺の部屋に来 るわけだろ。そうすれば誰にも見られずに服を着替えることもできるし。そうすれば、街中を歩くこともできるよ。」

ヒカルのその言葉に佐為はうっとりと続けた。

「そうすれば…。私は、ヒカルの時代の名人に会いに行くこともできる。碁を打つ機会を見つけられる。」

「でも取りあえず、服を何とかしなくちゃ。それまでは、いいか。絶対、未来に来んなよ。」

その言葉で現実に戻された佐為は、少し不機嫌そうな顔になった。

 

導師がとりなすように言った。

「まあまあ、その間、わしたちもすることはある。わしは明日にでも術師のもとへ出向いて、話を聞いてこよう。なぜ、ヒカル殿はこの邸に辿り着くのか。時間を制御する何かがあるのか を。」

「ならば私も。」

佐為が言った。導師は首を横に振った。

 

「佐為。わしはそなたがあまり術師と会うのは好ましいとは思えぬ。術師は優れた人物ではあるが。そなたは仮にも帝に囲碁指南をする身。 そなたは無防備過ぎる。何も疚しいことはないという思いは、わしには分かる。しかし、術師の評判を考えたら、人はどう思うであろう。痛くもない腹を探られることになるぞ。くれぐれも気をつけよ。

わしが術師と会っても、そう勘ぐられることは無い。わしは薬師としての腕を持っているから、いろいろな人物に出会うことが当然と思われている からな。それでもわしは常に注意を怠ることはないぞ。」

 

「ねえ。その術師ってどんな人。」

ヒカルは尋ねた。

「術師は 、密教の秘儀を超えた力を習得した人物と思われているのだ。多くの者は術師が術をあやつり、予言をし、それを可能にする力を持っていると恐れている。と同時にその力を自分だけが使いたいと思っているのだ。まがまがしい術を使うなど。そんなことは無いのに。わしは術師を単に考える人だと思 っている。非常に深くこの世のことを考え続けているのだと。」

「でもさあ。術師は時の石を持ってたんだろ。だったら、何か特別の力を持ってるんじゃないの?」

佐為は尋ねた。

「ヒカルは特別の力というものを信じるのか?」

「どうだろう。特別の力ってさ。才能とかそういうんじゃなくて、魔法とか超能力のことだろ。

俺はたぶん信じないと思うけど。でも時の石の存在は信じてるし。わかんないな。

でも、ただひとつ、呪いとかは、信じられないよ。」

「ヒカル殿はそう思うのか。それを聞いたら、術師は嬉しがるだろう。いつかヒカル殿にも会わせたいが。が今は取りあえず私が間を取り持とう。もともと私が仲介したのだから、責任がある。」

 

ヒカルが帰った後、導師は言った。

「佐為。考えれば時の旅は本当に危険と隣り合わせのものだな。今まで危険は旅自体にあると思ったが。それだけではない。どこに到着するのか、それは本当に偶然なのだろうか。ヒカル殿が帝の御前に現れることがなかったのは本当に、幸運だった。つくづくそう思うぞ。」

 

佐為はきっぱり言った。

「私には確信があります。ヒカルはこの邸以外のどこにも現れませぬ。私にはそういう確信があります。でも、私がヒカルの元へ旅する時は、その場所が石の元かどうか、それには非常に興味があります。」

 

 

翌朝早くに導師は術師の元に赴いた。何も情報は得られないとは分かっていたが、それでも術師の反応を聞きたかった のだ。

術師は、じっと話を聞いていた。

「私は知っていることはすべてお話しました。ですから、この先はもはや推測です。

時の石はこの時代の現実なのです。今が正しい場所。旅するなら、ここから過去に降るか未来に向かうかしかない。

ヒカル殿という御仁が、毎回佐為殿の邸に着くのは。あるいはヒカル殿が毎回佐為殿の邸に行き着くように願って、時の石を使っているのかもしれませぬな。 おそらく最初に使ったその場所に行くように何かの力が働いているのだと、思いますが。安心はできませぬぞ。

とにかく何事にも対処できるように事前に準備しておかれることですな。何事も注意するに越したことはありませぬから。

将来を予測することなど、できませぬ。何も分かりませぬ。そういう石が現にあるのだということ、使える人間がいるのだという事実が分かっているだけです。

 

私はそれより、そのヒカル殿に聞きたい。導師殿。骨を折ってくださいませぬか、“ふあるさわ”について。」

「おそらくヒカル殿は知らぬだろう。でも分かりやすく、説明したら、調べてもらえるかもしれない。ヒカル殿はそのような学問を紐解くには 、あまりにも若すぎる。」

 

術師は頷いた。

「村のものにも分かるような言葉で書きますゆえに。いつかヒカル殿に、それをお渡し願いたい。」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。