風の石空の夢   作:さびる

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『千早』51~60
ヒカル…秀策について知る。若獅子戦でアキラと対戦。プロ試験へ。
(主な登場人物…佐為、ヒカル、和谷、伊角、フク、平八、平八妻、筒井、本田、村上、アキラ、導師、門脇、桑原、道玄坂碁会所マスター、河合、市川、緒方、岸本、尹先生、洪秀英のおじさん)


千早56

7月も半ばとなり、学校は夏休みとなった。

と同時にプロ試験の予選が始まった。

予選は30歳までの規定どおり、色々な人が受けに来ていた。

ヒカルは深呼吸をした。

心の準備は出来てるぜ。いつもどおりに打つ。

でも和谷が言っていた門脇って人はいなかったみたいだな。

 

プロ予選の最終日。

その日は森下研究会だった。

ヒカルは和谷とばったり玄関で顔を合わせた

「進藤。どうした?」

「俺は何とか通った。」

「やっぱりな。ほかの奴らは?」

「飯島さんは通ったけど。」

 

ヒカルと和谷は最終日まで残っていた院生仲間の様子を見に予選会場へ向かった。

フクも奈瀬も何とか予選を突破していた。

ヒカルは嬉しそうに笑った。

「良かった。受かって。」

「よかったな。本戦ではお互いライバルになるけどな。」

和谷の当たり前で何気ない一言に、ヒカルは少しドキッとした。

考えてみれば、予選だって、相手を蹴落とす戦いだった。

俺はフクと奈瀬とも対局して負かせたから本戦に上がれた。

あの時はみんな通ればいいとか思ってなかった。

仲間が残ったといって喜んでばかり入られないのだ。

 

研究会でヒカルが予選を勝ち上がったこと聞くと、森下は言った。

「和谷も進藤も二人ともがんばれ。」

 

白川は感慨深くヒカルを見た。

私の予感は的中だろうか。進藤君が今プロ試験に向かっている。

碁を覚えてからまだ二年にも満たないのに。

私はすばらしいものを見ているのか。

 

「進藤君、一局打とうか。君の勢いと意気込みをもらいたいからね。」

ヒカルは嬉しそうに頷いた。

 

予選を突破したことを佐為に告げると、佐為は言った。

「ヒカル。また碁会所へ行きましょう。

碁会所にも強い人がいるものですよ。棋院の対局場。

あの人はもう来ないでしょうかね。」

あの若い男との一局が佐為にはことのほか楽しかったのだ。

 

「棋院の対局場は俺はやだよ。」

佐為は言った。

「そうですか。でも名人の碁会所は強い人が少ない気がしますよ。塔矢アキラのほかは。

いるかもしれませんけど、なかなか強い人に行き当たらない。」

 

棋院もだけど、塔矢名人の碁会所もやだぜ。

今は塔矢の奴と顔を合わせたくない。あいつと会うのはプロ試験に通ってからだ。

ヒカルは言った。

「この前、母さんと渋谷に行ったとき、碁会所を見かけたんだよ。

そこに行ってみたらどうかなあ。」

ヒカルは続けた。

「でもさ。碁会所行ってまで佐為と打ちたくないからな。

別々に行って別々に出る。

知らん顔してくれよ。佐為と比べられたくないから。」

 

佐為はくすっと笑った。

構いませんよ。碁会所を出るまで、ヒカルとは口を利かなければいいんでしょ。

私と張り合ってるのですかね。ヒカルは。

百年早いですよ。いや千年ですかね。

 

夏休みだったので、ヒカルは朝から佐為と渋谷に向かった。

先に佐為が好きなコーヒーショップで腹ごしらえをした。

券があるから、ラーメン2人分よりは安いもんな。

ええと、この坂の途中にあったた筈だけど。

ヒカルはビルを見上げた。

「ここだ。」

 

約束どおりヒカルが先に入った。

佐為が少しドアの前でうろうろして時間をずらしていると、二人連れが入っていった。

佐為もその後に続いた。

 

二人連れの一人がヒカルを見て驚いたように声をかけた。

「あれ、進藤じゃないか。ここによく来るのか?一人か?」

「あ、うん。ううん。あー、えーと。ここは初めて。伊角さんも一緒なの?」

「ああ、時々あちこちの碁会所に行くんだ。勉強になるからな。」

和谷はそういうと、急にいいことを思いついたように言った。

 

「そうだ。」

和谷は受付の人に言った。

「俺たち、ここにいる人の中で、一番強い人たちと打ちたいんですけど。」

受付をしていたおカミさんは不機嫌そうに言った。

「ナマイキなクチをたたくガキは、わたしゃキライなんだよ。」

しかし横にいた男が言った。

「クチばかりかどうか、打ってみれば分かる。俺が相手しよう。不足は無いと思うぜ。」

和谷は楽しそうに頷いた。

「いいけど、三人揃うまで待ってもらえますか。」

「三人?」

「団体戦です。」

 

和谷は伊角とヒカルの方を振り返って付け足した。

「伊角さんが大将。俺が副将。進藤が三将だ。」

店のマスターが身を乗り出してきた。

「団体戦か。面白そうだ。わたしも混ぜてもらうよ。

君たちが勝ったら、席料はただ。

負けたら店の碁石を全部洗ってもらうよ。どうかい。」

「いいですよ。それで。」

 

和谷のその言葉に受付のおカミさんが言った。

「負けたら碁石を洗った上に、席料もきっちり払ってもらうからね。」

何事かと集まってきた人の中から、声がした。

「ワシもまぜろよ。そいつらに碁石を洗わせてやる。」

店の中ががやがやしている間に、佐為は受付をすることなくちゃっかりギャラリーに加わった。

団体戦とは。これは面白いことになった。

 

お願いしますという声とともに対局は始まった。

ヒカルは少しどきどきしていたが、打ち始めて思った。

この人、じいちゃんより打ちやすいかも。落ち着いて打てば大丈夫。

間もなく、院生たちの三勝で、その戦いは終わった。

ギャラリーがざわついた。

「プロに二子置きで勝ったマスターまで負けた。」

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