IS〔インフィニット・ストラトス〕 〜買われた少女の物語〜   作:アリヤ

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第十二話

「そろそろ休憩しようか」

 

 シャルロット・デュノアが整備室を後にした丁度その頃、織斑春十と篠ノ之箒の二人はアリーナの使用許可を教師から承認され、アリーナの一つを使ってISの練習を行っていた。

 本日の授業が終えてから今に至るまで、休憩も取らずに練習をしていた。元々春十の練習に付き合う形のはずではあったが、いつの間にか春十が箒に教えるような形になっていた。

 

「なんかすまないな。本当ならば春十の練習に付き合う筈だったのに……」

「別に構わないよ。強くなると言っても、そこまで急ぐ必要はないから」

「私からしてみたら、春十は強いと思うさ。クラス対抗戦の時だって、襲撃がなければ春十が勝っていただろうな」

 

 箒が言ったことは、春十にとって忘れたいことであった。なぜなら、クラス対抗戦で正体不明のISが襲撃してこなければ春十は確実に暗殺されていたからだ。さらに、その正体不明のISを襲撃させた犯人が、箒の姉である篠ノ之束だという可能性が一番高いということが春十にとって気に食わなかった。

 箒とは仲が良いけども、箒の姉である束とは物凄く仲が悪い。ISのコアを作れる春十と束ではあるが、そのISに対する価値観があまりにも違うおかげで、お互いに嫌い始めたのがきっかけだ。その嫌っている束に守られたということが、春十にとって許せないことだった。

 そしてまた、自分があまりにも弱いということがあのクラス対抗戦で身を知らされた。束が守ってもらわなければ殺されていたということは、春十の実力では自分を守ることすら出来ないということだった。1ヶ月くらい前であれば天才だからと言って何でも出来ると思い込んでいたが、セシリア・オルコットや鳳鈴音の対戦の時に、そこまで実力さがないことを知ってしまった。セシリアの時はなんとか勝てた程度であり、鈴の時も春十が押してはいたが、多少春十が強い実力しかないことを実感させられた。これではIS学園の生徒会長である更識楯無にすら勝てないかもしれなかった。

 

「…………」

「は、春十? もしかしてなんか悪いことを言ってしまったか?」

「……大丈夫、なんでもないから」

「な、ならよいが……」

 

 明らかに地雷を踏んでしまったなど箒は察してしまったが、とにかく機嫌を良くしようと頭を回転させる。しかし、咄嗟に思い付く事が少なく、なんとか思い付いた少ない中の一つを話して気分を変えようと試みようとした。

 それが、さらに地雷を踏むとは知らずに――

 

「そ、そういえば、あのラウラ・ボーデヴィッヒが言っていた『あの人』とは、一体誰の事なんだろうな」

「っ!?」

 

 その発言は、今の春十にとって禁句にも等しかった。

 春十を恨んでいる人間は、春十が覚えているだけでも二桁は越えている。IS学園に入学する前、天才だったということもあって、他者に対して見下す癖があった。特に、春十が気に食わないと思った人間に対しては、他人を使っていじめを行っていたくらいで、それは春十の弟であった織斑一夏も対象だった。

 ラウラが転入時に放った言葉は、春十は疑心暗鬼にさせるようなものだった。IS学園に来てからというもの、春十は入学以前に行っていた行為を忘れようと努力していたが、ラウラによって思い出されてしまった。

 ラウラは春十が行っていたことに対して知ってはいるのだろう。そして春十が疑心暗鬼になり始めているのは、ラウラ以外にも自分を恨んでいる人間がIS学園にいるのではないかということ。そして何より、暗殺を仕掛けようとした人物も春十の被害者ではないかと、被害妄想してしまうくらいだった。その被害妄想はあながち間違いではないが――

 とにかく、箒が話してきた内容に春十は気分が悪くさせる内容だった。あえて忘れていたことを箒が思い出させていたおかげで、休憩する気にはなれず、気分を紛らわすためにも特訓の続きをしたかった。

 

「……さて、そろそろ再開しようか」

「ちょっとまて、まだ一分くらいしか休憩してないぞ!!」

「箒が余計なことを思い出させるからだよ」

「そうだな、そのまま自分がやったことを思い出して、おね……あの人に謝れ」

 

 春十と箒の会話に、突如第三者の声が聴こえ、春十と箒の二人はその声が聴こえてきた方向へと振り向く。そこにいたのは、見覚えのないISに乗っていて、先ほど話題に出ていたラウラ・ボーデヴィッヒだった――

 

「……なんのようだ」

「織斑春十――私と戦え」

「……戦う理由は?」

「戦う事に理由が必要か? まぁ、理由を述べるのであれば、あの人を絶望に堕とした天才がどれ程の実力を持っているのか気になるだけだ」

 

 先ほどからラウラが言っている『あの人』というのが誰だか解らないが、ラウラがかなり慕っているのだろう。でなければ、春十をここまで憎み、先ほどからあふれでている程の敵意を表さないだろうから――

 とはいえ、その『あの人』が誰の事を指しているのかが解らない。春十に関わりがある人間であろうと言うことは推測できるが、春十に恨みを持っている人間はかなりいることもあって、誰なのか絞ることが難しい。そして、『あの人』が誰の事を指しているのか気になり、ラウラに質問してみることにした。

 

「さっきから言っている『あの人』とは一体誰の事を指しているの? それに答えなければ戦う気はないよ」

「貴様が知る必要もない。それと、戦うつもりがなかろうと戦わせるように誘導すればいいことだっ!!」

 

 ラウラは右肩に武装されていた大型のレールカノンから春十に向けて放たれた。春十が戦うつもりがないにもかかわらず、そんなことは関係ないかのようにラウラは攻撃をしてきた。

 しかし、あそこまで敵意を向けられたらいつ攻撃を仕掛けてもおかしくないと考えていたこともあり、春十はラウラが攻撃してきたと同時に、春十のIS――鋼螺を展開し、すぐさまラウラからの攻撃を避けた。箒もラウラが現れた辺りから春十から離れて、自分に被害が来ないようにアリーナの隅に逃げていた。

 

「ほう、戦う気になったか?」

「そのつもりではなかったけど、まさか本当に攻撃してくるとは思わなかったからね。ISを持っていない箒に当たったらどうするつもりだった!!」

「貴様が最初から戦う気でいればよかっただ。では往くぞっ!!」

「っ!? 羅閃っ!!」

 

 ラウラは春十に向かって近づき、近接武器にて攻撃を仕掛けようとする。それに対応して春十はラウラと同様に近接武器にて迎え撃とうとしていた――

 

「――そこの生徒!! 一体何をやっている!!」

 

 しかし、聞き覚えのある怒声がアリーナの放送機から響き渡り、ラウラは急停止した。

 あの声が誰だか解っていたラウラは展開していた近接武器を仕舞い、春十に背中を向けた。

 

「……興が冷めた。貴様とは学年別トーナメントで決着をつけてやる」

 

 ラウラは面倒事になる前に、アリーナを後にした。ラウラが居なくなったとほぼ同時に春十も展開していた近接武器を仕舞い、箒がいる方へと振り向いた。

 

「……今日はここまでにしようか。さすがに練習する気分ではなくなってしまったから」

「あ、あぁ、そうだな」

 

 ラウラの乱入によってさすがに練習しようと思う気持ちはなくなり、春十と箒の二人もアリーナを後にすることにした。

 

 

 

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「どうして、こんなところで教鞭なんか!?」

「…………」

 

 ラウラがアリーナを後にして、寮に戻ろうとしていたところ、偶然にも織斑千冬の姿を見つけて話しかけた。しかし、あまり他人には聴かれたくないような内容でもあったため、人気のないところで移動してといいかと千冬に確認し、千冬もラウラが何を話そうとしているのか大体把握できたので、了承してラウラと二人で移動し、ラウラはそこに着いたとたんに千冬に問いかけた。

 しかし、千冬はラウラの問いにすぐに答えず、ラウラの話を詳しく聴こうとした。

 

「こんな極東の地で教鞭したところで意味がありません!! ISをスポーツだと思い込んでいる人たちに教鞭なんてっ……!!」

「ほう」

「もう一度ドイツで教鞭を!! 救われない人たちを救うためにも――」

「いい加減にしろよ、小娘が。たかが15、6歳の貴様にこの世界の何が解るというのか」

 

 ラウラが言ったことを、千冬は一蹴した。千冬からしてしまえば、この世界のことを詳しく知らないくせに、そのようなことを言う資格はないと思っていた。

 千冬が言ったその言葉は、ラウラにとって衝撃的だった。そして理解してしてまった。この人は――この世界のことを全く知っていないということに――

 この世界を救ってくれる人間は千冬だけだとラウラは思っていた。しかしその千冬はイリヤ・ヴェロフが現在何をしているのすら知らないのだと解ってしまった。暗部である更識ですらイリヤ・ヴェロフのことを目につけている事であるのにもかかわらず――

 だからこそラウラは千冬に失望してしまった。ラウラ自身を、そして千冬の弟であった一夏を救ってくれるとずっと思い込んでいたから――

 

「……わかりました。では失礼します」

 

 これ以上千冬と話しても意味がないと理解してしまったラウラは、いち早く千冬の前から離れたいと思い、走ってその場を後にした。

 ある程度離れたところで歩くことにしたが、その近くに腕を組んでシルヴェーヌ・デュノアの姿を見つける。シルヴェーヌはラウラの表情から何があったか察し、思わずため息を吐いた。

 

「……前に言ったでしょ? 期待している人間に裏切られた時のショックは大きくなるって」

「……教官であれば、ドイツとフランスの状況を知っていると思っていた。ドイツで教鞭してくれたら、シュヴァルツェ・ハーゼも昔みたいに戻ってくれると――」

「……そうだったわね。今のシュヴァルツェ・ハーゼはラウラとクラリッサ・ハルフォーフしか正常な人間がいないからね……」

 

 ラウラにとって、シュヴァルツェ・ハーゼを救えるのは千冬だけだと思い込んでいた。今のシュヴァルツェ・ハーゼはラウラとクリラッサの命令は聞いてくれるが、殺すことしか脳がない機械人形と成り果ててしまっていた。機械人形に成り果てる前のラウラの階級は少佐ではあったが、上からの命令には逆らえず、その結果が今のシュヴァルツェ・ハーゼを作ってしまったと何度も後悔している。今では階級をかなり昇級しているが、昇級したところでシュヴァルツェ・ハーゼが変わるわけでもなく、これ以上被害を増やさないための被害防止でしかなかった。

 だからこそ、ラウラは千冬がもう一度教鞭をすることで、ドイツ実情を知ってもらいたかった。ラウラがIS学園に来た目的は、確かに一夏やデュノア姉妹がいることもあったが、千冬にドイツで教鞭してもらうことがなによりの目的だった。その事に、シルヴェーヌは途中で気づいていたが……

 

「とにかく、これ以上変なことは起こさないでよね。ラウラの気持ちは解るけど、いつ見られているのかわからないのが私たちの組織でしょう?」

「わかっている。これ以上余計なことをするつもりはない。おとなしく命令に従うさ……」

「そう、ラウラを殺さなくて済むのであれば問題ないわ。とにかくこれ以上ラウラと一緒に居たら怪しまれるから、先に行くわね」

「そういえば、IS学園ではそうだったな」

「ラウラ……自分が転入早々にやらかしたことを忘れてないよね?」

「忘れるわけがない。自分の意思でやったことだからな」

 

 本当に大丈夫なのかとシルヴェーヌは思っていたが、とにかくラウラと離れるためにその場を後にした。そして、ラウラもシルヴェーヌの姿が見えなくなった辺りで移動し、自分の寮に戻っていくのだった。

 




現在進行形で一番辛い思いをしているのは実はラウラだったりします。
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