IS〔インフィニット・ストラトス〕 〜買われた少女の物語〜   作:アリヤ

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第十四話

「はい……わかりました」

『そういうことだから、F3248とF4634に任せるよ。どの道、そちらでは大きく行動する事は不可能なのでね。F5268とF2179には私から話しておくよ』

 

 イリヤ・ヴェロフからの連絡を切ったシルヴェーヌ・デュノアは、先ほどイリヤから聴かされた話しを考え、思わず溜め息を吐いた。

 F4634というのはシルヴェーヌのことを指し、F3248はシャルロット・デュノアのことを指している。自分とシャルロットは待機という命令であったが、問題はF2179――ラウラ・ボーデヴィッヒのことだ。

 ヴェロフはVTシステムの一件が終えた後、VTシステムが発動しようがしなかろうと、ラウラに任務を与えるつもりでいた。VTシステムが仕組まれていたという理由で一度ラウラをドイツに帰国させ、ISを整備している間にF5268である一夏と共に任務を与えるつもりのようだった。

 シルヴェーヌも任務内容を多少だけども聴かされたが、別に問題があるわけではなかった。シルヴェーヌが溜め息を吐きたくなったのは別の事だ。

 

「……これでは、ラウラが可哀想よ」

 

 可哀想だと思いながらも、自分には何も出来ないことに、シルヴェーヌは悔やむしかなかった――

 

 

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「先ほどの意気込みは何処へいった。天才何だろう? 何でも出来るんだろう? なら私を倒すことすら造作もないだろう!!」

「……うるせぇよ。それに、天才だと言われても全て出来るわけではない!!」

 

 試合様子を簡単に言ってしまえば、あまりにも一方的で、春十は防戦一方な戦いをすることしか出来なかった。

 

(……それにしても、なんだこの戦いにくさは。別に織斑春十が私と同等に強いわけでもないのに、なぜこんなに戦いにくい?)

 

 ISの性能や春十の実力、ISテクニックなどを考えたとしても、自分の方が上だということは誰が見たって解るとラウラは思い、実際その通りだった。

 しかし、今までこのような戦いにくさは、ISの性能や相手のISテクニックなことを除いて今までなかった。前者が一夏で、後者がデュノア姉妹のことを指しているが、春十はどちらにも当てはまらなかった。

 とにかく、さっさと試合を終わらせて戦いにくさを調べよう――と考えたラウラは意識を試合に集中することにした。

 

「……少し考え過ぎたか」

 

 考えごとしている間に、ラウラの視線から春十の姿は消えていた。これに関しては想定内のことで、ハイパーセンサーを使えば問題ないと思っていた。

 しかし、ようやくそこでラウラの機体に異変が起こった――

 

(なっ!? ハイパーセンサーが機能停止しているだとっ!?)

 

 元々ラウラはハイパーセンサーを頼りにしない。故にラウラが思っていた戦いにくさ――機体の違和感に気づかなかった。

 基本的ラウラは気配で判断し、機械に頼らないようなタイプだ。ISに乗っている以上は頼らなければならないところもあるが、自分でなんとか出来るようなハイパーセンサーなどのような機能は基本的に使用していなかった。

 偶にはハイパーセンサーを使用して対応使用としたがきっかけで、ようやく気づいたようなものだ。

 また、気配で判断するとしても、ハイパーセンサーの通知はいつもなら聞こえてくるし、多少ではあるが無意識にハイパーセンサーで判断していることもあった。そのことにラウラ本人が気づいていなかったこともあって、春十相手に戦いにくいと思いこんでいた理由だった。

 ハイパーセンサーが使えないとなれば、いつものように気配で対応する必要がある。しかしその間の判断遅れは、数秒も使用してしまっていた――

 

「もらったっ!!」

「くっ!?」

 

 背後からの攻撃――鋼螺の近接武器である鋼閃を間一髪のところで避け、いつもならば気配で簡単に避けられたが、意識を集中せずにハイパーセンサーに頼ったがために気づくのが遅くなった。

 春十からの攻撃を避けたあと、ラウラは反撃を仕掛けようと考えたが、咄嗟の判断で中断し、春十から一旦離れることにした。本当ならばそのまんま反撃したいところではあったが、ハイパーセンサーの故障から考えて、他の機能も何か問題があるかもしれないと思い、状況把握するまで無闇に攻撃する事は控えたかった。

 

(くっ、一体何が起こっているっ!?)

 

 避けたりすることはラウラの意志で操作できるため、最低限度の問題はないと避けている間に把握できたが、他については確認しなければ解らなかった。

 一旦離れたこともあって、まずラウラはレールカノンを春十に向けて放ってみる。真正面からの攻撃なため、春十からしてみれば簡単に避けられる攻撃だが、とりあえずレールカノンの問題は見当たらないことを確認できた。

 

「……ふざけてるのか、お前」

「ふざけてる……だとっ!!」

「さっきまでの攻撃はどうしたんだ。手加減つもりかって聴いているんだよ!!」

 

 春十からしてみれば、急に手加減されているようにしか見えず、ラウラに対して怒りが湧いていた。そんな様子をみて見当違いな考えに思わず滑稽だと思っていたが、何も知らないのに怒られるのは癪だった。

 実はこのとき、春十が話しかけたことによって動きを止めたため、ラウラはActive Inertia Canceller(アクティズ・イナーシャル・キャンセラー)――通称AICを試し、春十の動きを止めてみることを試みたが、意識しているのに春十はラウラに向けて直進してきた。AICは先ほどまで普通に使用できていたのに、使用できなくなっているのは少し想定外だった。

 

(くっ、AICまで使えなくなっているのかっ!?)

 

 それからラウラは、直進して鋼閃を振りかざそうとしている春十に対して、避けることをせずにプラズマ手刀で防いで見せようとするが、プラズマ手刀が発動せず、春十の鋼閃を直撃で受けることになった。ラウラはそのままアリーナの壁に激突しかなりダメージを受けてしまった――

 

 

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「……ラウラの機体がおかしい」

 

 ラウラの違和感にすぐさま気づいた一夏は、一度席を外して人気のないところへ移動する。そこで携帯電話を取り出し、シャルロットに通話することにした。

 

『……どうかしたの?』

 

 コールを数回してようやくシャルロットは通話に出たが、シャルロットも一夏と同様に人気のないところへ移動したからだろうと推測し、特に気にせずに話しかけた。

 

「……ラウラの機体の異変に気づいてる?」

『うん。織斑春十から鋼閃……だっけ? それを避けた辺りから違和感覚えたから』

「そのことはシルヴェーヌには?」

『さっきイリア・ヴェロフから連絡あって席外していてまだ伝えてない。そろそろ戻ってくると思うから、伝えておくね』

「お願いするわ」

 

 通話を切り、一夏は自分が居た席へと戻ることにした。一つの不安を残しながら

 

(……何事も、起こらなければ良いけど)

 

 

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(状況把握はできたが、この状況は不味いな……)

 

 現状使用可能な武器がレールカノンしか無いことを把握したラウラだが、いつレールカノンも使用不可能になるが解らなかった。

 ワイヤーブレードについては試してないが、全て発射出来るとは思えず、現状の中で使用不可能な物も含めると一番使いにくいものだ。幾つ放つことが出来るだけ確認することも考えたが、ワイヤーブレードを使うだけで隙を与えることも考えられ、何よりも春十に機体の異変に気づかれる可能性が高いために使用したくなかった。そのまま試合が中断して春十に心配なんかされると考えると、ラウラにとって侮辱でしかなかったから――

 

(とにかく、レールカノンで何とかするしかないな…… さすがにこれだけだと単調過ぎて読まれるかもしれないが、そこは技術で補うっ!!)

「どうした、まだ手加減するというのか」

「なに、貴様などレールカノンのみで十分だ」

「……ならその余裕をへし折ってやるっ!!」

 

 戦術が決まったラウラはまずレールカノンで一発放った。春十は簡単に避けてラウラが居る方向へ突き進もうとしたが、既にラウラはそこに居なかった。

 

「なっ、居ないだとっ!?」

「遅いっ!!」

「っ!?」

 

 ハイパーセンサーで背後からの警告音が聞こえてきたが、間に合わずにダメージを受けた。

 どうやって背後に回ったと春十は思うが、とにかく背後を振り向いた。しかしまたしてもラウラの姿はなかった。

 

「くっ、どこに――」

「こっちだ」

 

 聞こえてきた方向は上で、上を見上げると既にレールカノンから放たれた後だった。気づいてからでは当然避けられるわけでもなく、またしてもダメージを受け、シールドエネルギーはあと僅かにまで減らされてしまった。

 

「どうした、私の余裕をへし折ってやるのではなかったのか?」

「……お前、瞬時加速(イグニッション・ブースト)が使えたのか?」

瞬時加速(イグニッション・ブースト)か……確かに似ているがそんなもの使った覚えもないが?」

「なっ!? ならどうやって背後にっ!?」

「……特別に教えてやろう。あれはこのシュヴァルツェア・レーゲンに搭載されている瞬時加速(イグニッション・ブースト)の発展した無限加速(エンドレス・ブースト)だ」

「……おいまさか、その気になれば永遠にスピードを出せると言わないよな。そんなことすれば肉体が持たないぞ!!」

「確かに永久的に使用すれば耐えられないだろうな。なら瞬時加速(イグニッション・ブースト)と同様な使用をすればいいだけだろう?」

 

 瞬時加速(イグニッション・ブースト)は他者から見れば相手の姿を無くす程の速さを爆発的に放ち、最高速度は音速と並ぶ程だ。音速を越える戦闘機であれば抵抗を機体が受けるが、ISであれば少し違ってくる。機体がある程度受けられるように設計されているが、全て防ぐことは出来ず、少しだけ生身で受けてしまう。音速を越える機体を作るならば、人を守るために全身を機体で囲んだ全身装甲(フルスキン)にするべきと言われている程に――

 そのため、瞬時加速(イグニッション・ブースト)だとしても連続使用は良くないとされている。それが無限加速(エンドレス・ブースト)になれば、肉体にどのくらいの負担をかけるなんて想像ついた。

 余談だが、無限加速(エンドレス・ブースト)の加速方法は瞬時加速(イグニッション・ブースト)と方法が似ていて、エネルギー圧縮して放出する方法も実は一緒だ。違う点はエネルギー圧縮方法が二種類な点だけで、一つは瞬時加速(イグニッション・ブースト)と同じだが、もう一つの方法が無限加速(エンドレス・ブースト)を使用してる際に起こる抵抗をエネルギー変換しているところだ。それによって半永久的に加速し続けられる用に設計されているわけだ。

 

(それに、無限加速(エンドレス・ブースト)は元々テスト用で搭載された機能だからな。人間が乗る用に作られたわけではないし、そもそもシュヴァルツェア・レーゲンに搭載されているこれは未完成だが……)

 

 肉体が耐えられない代物を普通搭載するかと思うが、瞬時加速(イグニッション・ブースト)と同じように使えば問題なく、危険だろうと利用できる物は何でも利用するということがラウラの考え方だ。

 

「さて、そろそろ終わらせようか。残り一撃――貴様は逃げられるか?」

「くっ、」

 

 刹那、ラウラは無限加速(エンドレス・ブースト)を使用し、春十の視線から姿を消す。

 春十はまた背後に回られたかと思ったが、背後にはラウラの姿はなく、上空と左右もすぐさま見たが、姿は見えなかった。

 

「……やはりな。背後と上空を攻められたら、自然と全方向を確認する。しかし、人間という動物は本来地面に着いて生きているからこそ、下からの攻撃には疎いっ!!」

「なっ!? 下からだとっ!?」

「これで――っ!?」

 

 ラウラがレールカノンを放とうとした刹那、シュヴァルツェア・レーゲンに更なる異変が発生した。

 レールカノンも使用不可能になってしまったのだ。さらに、ISの操作、脱出手段などの全ての操縦が、ラウラの指示に反応しなくなった。これでは降りることも不可能で、この状態で動かすことすら出来なくなっていた。

 

「くそったれがっ!? 遂には全機能いかれたかっ!!」

「……一体何が?」

 

 一方の春十は、何が起こっているのか理解できなかった。突然ラウラが怒鳴り始めるし、いつになってもレールカノンから放たれる事がないために、様子がおかしいということにようやく気づいた。

 考えてみれば途中からラウラの戦い方が変ではあった。最初は全力で挑んできたというのに、突然の手加減をされ、レールカノンしか使ってこなくなった理由がずっと謎だった。

 ラウラの言葉からして、ISがラウラの指示を完全に受け付けなくなったのだろうと思うが、本来ならば自分にそのことを気づかれたくなかったのだろうと、春十は思った。手加減させていると思わせ、気づかれないように試合を続行していたことからして。

 その後、ラウラの画面にはシステムの、コマンドが勝手に表示され、次々に羅列していった。

 

 

System Condition…………Error

 

reload System? [y] or [n]…………y

 

reload System…………Error

 

 

「くっ、リロード失敗したか……」

 

 勝手に表示されていく文字を見ながら、ラウラはどのような原因なのか探っていく。システムのことについて詳しい訳ではないが、英文は読むことが出来るので、状況把握くらいはある程度できた。

 だが、ラウラにとって予想していなかったことが起こる――

 

 

Searching System files.............................!!

 

Start Preparation

 

 

「……なに? 別のシステムが見つかっただと?」

 

 もう一つシステムが組み込まれているなんて聴いていなかったラウラは、そのシステムについて怪しいと感じた。

 そしてその嫌な予感、ラウラの予想通りになる――

 

 

【Valkyrie Trace System】…………boot

 

 

「なっ、ヴァルキ――」

 

 ラウラが驚いて何かを叫ぼうとした刹那、ラウラは突然意識を失った――

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