IS〔インフィニット・ストラトス〕 〜買われた少女の物語〜   作:アリヤ

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第十六話

「うっ……ここは?」

「ようやく目覚めたようね」

 

 ラウラ・ボーデヴィッヒが目を覚ますと、一度だけ来たことがある家の天井が見えた。そこにはラウラが尊敬している人物、エルマ・ベルクこと織斑一夏だった――

 

「お、お姉さま? 私は一体……」

「……意識が失って記憶が欠落しているようね。どうして意識を失ったか思い出せない?」

「……っ!? そうか、私は確かっ!!」

 

 ラウラが何かを思い出したかのような顔を見て、どうやら目覚めたばかりで何があったか思い出せないでいただけと一夏は判断した。思い出したと考えた一夏は、ラウラが思い出したであろうことについて疑問が出るだろうと考え、ラウラが質問する前に答えることにした。

 

「ラウラの機体――シュヴァルツェア・レーゲンに、Valkyrie Trace System――通称VTシステムが仕込まれていた」

「……やはりか。意識を失う直前に、VTシステムの名前らしきものが見えた気がしたんだ」

「ラウラも気づいていたのね。とりあえずその後のことを言うと、私が突入して、零落白夜改でシールドエネルギーを0にすることでVTシステムの暴走を止めさせた。織斑春十に、私の顔を見せることになってしまったけど……」

「すまない!! 私のせいで――」

 

 ラウラは折角一夏が暗殺するチャンスを更に失ってしまったことに、自分の責任だと悔やんでしまった。ラウラがIS学園に来た理由は、シルヴェーヌとシャルロットのデュノア姉妹と一夏がいるからという理由もあるが、一夏が安全に春十を暗殺出来るように環境を整えるためだった筈なのに、結果的に一夏の行動範囲を縮めてしまう結果となってしまった。ラウラが転入しなければこんなことにならなかった筈であり、うまく暗殺できていたかもしれないと考えるだけで胸が苦しくなった。

 しかし、一夏は特に気にしているわけでもなく、ラウラの言葉を遮るかのように、微笑みという作り笑いを浮かべながら答えた。

 

「ラウラのせいではないわ。前回の篠ノ之束が影響を与えたわけでもないし、今回は運が悪かっただけ。私が暗殺する事は、難しくなったけどもね……」

「しかし、私が転入してこなければこんなことにはっ!!」

「それは結果論よ。それに、ヴェロフ様は篠ノ之束の一件で、織斑春十の暗殺を諦めていた節がありそうだからね。だからこそ私とラウラに任務が与えられ、IS学園に無理を言って、ラウラを二週間ほどドイツに帰国させることを認めて貰ったのだから――」

「それは私とお姉さまに別任務を与えられたと?」

「えぇ。それも、表面上はドイツ軍の任務として――」

 

 表面上ということは、公になってもいい任務だと、ラウラは察した。ドイツ軍の任務ということで、表面上ドイツ軍として所属している元帥の一夏ことエルマ・ベルクと少佐のラウラ・ボーデヴィッヒの二人が召集されたのだろう。

 しかし、元帥のエルマ・ベルクが召集されるという時点で、既に不穏な気配をラウラは感じていた。エルマ・ベルクという人物は、世間的に言えば突然ドイツ軍の元帥として名前を挙げることになり、ドイツ軍でも謎多き人物とされている。ドイツ軍の公式イベントなどに参加することはなく、将官の人間ですら素性を知られていないくらいだ。今回の学年別対抗戦の国賓として参加したこと事態がドイツ軍にとって驚きなことで、今回ドイツからの国賓はエルマこと一夏のみだった。そんなドイツ軍で謎多き元帥に召集が掛かる時点で、表面上という意味がラウラにとって察してしまうくらいだった。

 

「……それで任務というのは?」

「ヨーロッパにある亡国機業(ファントム・タスク)本部の壊滅。ちなみに私たちはこれに参加するわけではないわ」

「なら、私たちには何の任務が?」

「……そのまえに、ラウラは亡国機業(ファントム・タスク)についてどこまで知っているか、確認していいかしら?」

 

 任務内容を言う前に、一夏はラウラに亡国機業(ファントム・タスク)について、どこまで知っているか確認を取りたかった。今回の任務について、かなり細かく説明する必要がラウラにあるからこそ、知っている範囲を先に教えて貰おうと思ったのだ。

 ラウラはなぜそのような質問をしてきたのか解らなかったが、とりあえず自分が知っている範囲で答えることにした――

 

亡国機業(ファントム・タスク)は、確か様々な国からISを盗んでいる集団だろ? そして、イリヤ・ヴェロフが作ったISコアを狙っている犯罪組織だと」

「そうね。だからヴェロフ様に関わりがあるドイツやフランスが狙われていることが多いと」

「中でも要注意としているのはスコールを率いる部隊だったか? そのあたりまでしか把握していないが……」

「……いや、正直スコールの名前まで知っていると思わなかったわ」

「そのことだが、単にイリヤ・ヴェロフが普通に呟いて聴いただけだが?」

「ヴェロフ様……極秘情報呟くような組織の長が居ますか普通……」

 

 情報入手理由があまりにも酷すぎて、一夏は思わず頭が痛くなりそうだった。イリヤ・ヴェロフに拾われてから、彼の性格などをある程度知るようになったが、非道なことは普通にするくせ、自分から極秘情報を漏らしたり、他人を気にかけたりするという、イリヤ・ヴェロフを長く知っている人間ですら、彼の行動は理解不能と言われるくらいだ。

 結果的に言えば、ラウラに教える手間が多少省けたと思えば良いのかもしれないが、それで納得しろと言われたら無理があるだろう。なぜイリヤ・ヴェロフが組織の長をしているのか、一夏は解らなくなってきた。

 しかし、今はイリヤ・ヴェロフのことを考えでもって意味がない――そう思った一夏は意識を切り替えて、ラウラに説明を始めた。

 

「とにかく、今は亡国機業(ファントム・タスク)について説明するけど、ラウラが言ったとおり、スコールが率いる部隊が一番危険とされている。しかしスコールの部隊は、他の部隊に比べて評価が良いがために、亡国機業(ファントム・タスク)の本部にいることは少なかったりするわ」

「要するに、評価が良すぎて周りに嫌われているということか」

「そういうこと。亡国機業(ファントム・タスク)は、さっきから本部と言っている通り、世界中に支部を持っている。その中で一番評価が高いのはスコールが所属している支部ということは、なんとなく解るよね?」

「話を聴く限りには……」

「そこで、私たちは亡国機業(ファントム・タスク)を完全に潰すためにその支部も襲撃しなければならない。正直、本部よりも苦戦した戦いになるから、クイーンと言われている三人内の一人であるラウラと、自覚無いけどヴェロフ様のお気に入りと言われている私が呼ばれたわけ」

「なるほど、私とお姉さまが呼ばれたから、表面上はドイツとしての任務になっているのか」

 

 どういう経緯で任命されたのかとラウラは思ったが、一夏から一通り聴いて納得していた。しかし、ラウラが最後に言った内容だけ少し違っていたので、一夏は訂正することにした。

 

「逆よ。表面上はドイツとしての

任務にしたかったから、私とラウラの二人だけになったという方が正しいわ」

「そうか。それで、その任務に参加する人員は私とお姉さまだけではないだろう? 他には誰がいる?」

「……どの道、話さないといけないから、部隊編成について話しておくわ。多分、驚くことになるだろうけど」

 

 一夏が言っていることが解らなかったラウラは、一夏の歯切れが悪かった。数年前までは淡々と他人を考えずに伝えた筈なのに、歯切れが悪いのは逆に違和感があった。しかし、次第に感情が戻りつつあると思うと、ラウラは嬉しく思ったが、このあとラウラにとって最悪なことを伝えられるとは知る由もなかった――

 

「まず、総合指揮官はラウラにやってもらうわ」

「お姉さまは?」

「私は自由行動してもよいと言われたけど、基本的にラウラの指揮で動くつもりだから。それで副指揮官だけど……」

「……そんなに言いにくいことなのか?」

「……いや、なんでもない」

 

 流石に気になってしまったラウラは、思わず一夏に問いかけてしまうが、それよりも何故か胸騒ぎがしてしまうことかに気になった。

 何か嫌な予感がする――ラウラはそう思うが、次に一夏からつたえられたことを聴いて、嫌な予感は更に酷くなった――

 

「……副指揮官、クラリッサ・ハルフォーフ大尉」

「おいまさか、それってっ!?」

 

 流石のラウラも、一夏の反応や先ほどからしていた嫌な予感がどのようなものか察しがついてしまった。ラウラにとって何よりも阻止したかったことで、できれば違って欲しいと祈るほどに――

 しかし、そのラウラの願いは見事に打ち砕かれる――

 

「……参加メンバー、シュヴァルツェ・ハーゼ部隊全員――以上よ」

 

 最後に一夏が放った言葉は、ラウラにとって鈍器で殴られたような感覚になった。クラリッサ・ハルフォーフの名前が出てきた辺りから、シュヴァルツェ・ハーゼである可能性が一番に考えられ、ラウラにとってシュヴァルツェ・ハーゼであって欲しくなかった。

 

「シュヴァルツェ・ハーゼが選ばれた理由は、ラウラが一番解っているわね」

「……他の薬物投与された人間と違い、私とクラリッサの指示には従うから――」

「そう――普通ならば廃人になるか、頭が狂って殺すことしか考えなくなる。だから指示ができ、機会人形になったシュヴァルツェ・ハーゼは他と違って特別扱いをされている」

「……どうして――」

「ラウラ? 何か言った――」

 

 一夏はラウラが小声で何かを言っているような気がして、何か聴きたいことがあるのか問いかけようとしたが、最後まで言い切れる事はなかった。なぜなら、ラウラがベッドから立ち上がり、一夏の襟首を掴み、かなりの怒りを見せていたからだ。

 

「どうして!! イリヤ・ヴェロフはこんな非道なことができるっ!! 折角ここまで上り詰めた意味が解らないではないかっ!!」

「……私に八つ当たりされても困るのだけど。それに、既にこの命令は確定事項だから、ヴェロフ様が命令を変更するまで、覆らないわ」

「お姉さまは何も思わないのか!! 毎日のように非道なことが行われ、何人ものの人間が狂わせられているというのに、何故平然とした顔をしているのですか!!」

「……私はヴェロフ様の駒よ。それ以上でもなければそれ以下でもないし、ヴェロフ様の指示に従うだけ。それ以外のことなんかどうでもよいわ」

「……そこの所は、昔から変わらないのですね、お姉さまは――」

 

 このまま八つ当たりしても意味がないと思ったラウラは、一夏の襟首を掴んでいた両手を放し、ベッドに落ちていくかのようにそのまま座った。そんな様子を見ても、一夏は何も感じすらしないが、ラウラがこのようになるのは想像できていた。しかし、イリヤ・ヴェロフの命令は一夏にとって絶対なため、致し方ないものだと思っていた。

 

「……とにかく、このあと私たちは一度ドイツに戻り、シュヴァルツェ・ハーゼと合流し、ドイツで準備を整え次第に中国へ向かう」

「……なぜ、中国なのですか?」

「一番近いアジトが中国にあるからよ。そこから出撃し、太平洋にある、国に属していない無人島へ向かう。そこに、スコールが率いる部隊が所属している亡国機業(ファントム・タスク)の支部があるわ」

「……解った。今すぐ準備をする」

 

 シュヴァルツェ・ハーゼ部隊の参加を聴いて、ラウラは元気が無くなっていたが、このまま何もしなければシュヴァルツェ・ハーゼに何かさせる可能性だって考えられる。だからこそラウラは一夏の指示に従い、準備に取り掛かることにした。

 

(教官は何も知らなかったし、シュヴァルツェ・ハーゼを守れるのは私しか居ない。私がいる限り、これ以上好き勝手にさせるものかっ!!)

 

 ラウラは準備しながらも、これ以上は阻止するつもりでいるくらいの意気込みで、シュヴァルツェ・ハーゼを守る決意をした。そのためにクイーンと呼ばれる地位になるまでに努力を繰り返したのだから、このままでは何のために努力したのか意味が無くなってしまう。今回の任務については仕方ないが、これ以上シュヴァルツェ・ハーゼを危険な目に合わせるつもりはなかった。

 

「ラウラ、準備はできたかしら?」

「はい。というか、意識を失っている間にお姉さまに連れて来られただけだから、荷物もいうもの自体少なかったですが……」

「そうだったわね。なら、行きましょうか」

 

 一夏は必要な荷物だけを持ち出し、ラウラと共に空港へ向かって行くことにした。

 




一応これにて学園編終了です。

次回からは亡国機業・襲撃編になるのですが、
次の話が第五話でやったepisode of memoriesシリーズのラウラ編なんですよね。

活動報告見た人は察してしまうかもしれないのですけども……まぁ、知りたい方は活動報告をみてください。

それではまた次回。





















さて、次回からがこの物語の真骨頂、殺し合いの始まりだ。
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