IS〔インフィニット・ストラトス〕 〜買われた少女の物語〜 作:アリヤ
「……ようやく主力の一人が登場か。それにしては遅すぎやしないか」
「ふん、こっちも事情というものがあるんだよ」
ラウラは目の前にいるオータムの姿を見つけると、オータムに話しかけていた。
それでもオータム一人しか来なかったことを考えると、亡国機業の作戦が何となく想像できた。オータムを犠牲にして、スコールとMの二人は逃がすという方法だろうが、既に遅すぎることをオータムは気づいていないだろう。このまま伏せたまま殺すのも面白いが、伝えることによって焦られるのも手段だとラウラは考え、オータムに絶望を与えることにした――
「貴様はスコールとMを逃がしたと思っているが、違うことを教えてやる」
「ふん、どうせはったりだろうが!!」
「信じるかどうかは任せるよ。たとえ生き残ってスコールの所へ戻った所で、見える光景は絶望でしかないからな。というか、拠点からの砲撃がいつの間にかなくなっていることに気づかないのか?」
「っ!?」
ラウラに言われてオータムはようやく気づいた。そう――開戦時には砲撃はいつの間にか静かになっているのだ。みた感じ外傷があって使えなくなった訳ではないのに、援護砲撃してくる気配がいつの間にかなかった。
考えられる案として、スコールが砲撃を停止させたと考えられるが、わざわざ砲撃を停止させる理由がオータムは思いつかなかった。そうなると考えられるのは何者かによる襲撃を受けた可能性であるが、襲撃者であるシュヴァルツェ・ハーゼは内部に侵入した気配は今までなかった。シュヴァルツェ・ハーゼによる侵入でないとすれば、一体誰なのか――そう考えた時になって、ようやくシュヴァルツェ・ハーゼの役割が何だったのか、オータムは理解してしまった。
「まさか……あんたらシュヴァルツェ・ハーゼはっ!!」
「今更気づいたか。私を含めてシュヴァルツェ・ハーゼは全て囮だ。ジョーカーを侵入させるためのなっ!!」
ラウラの言葉は、オータムにとって残酷なものだった――
ジョーカー――スコールが一番危惧していた人物であり、現れたら勝ち目がないと言っていた。そのジョーカーが内部に侵入されていたとなれば、確実にスコールの身が危ないとオータムは思った。スコールが危惧するほどの相手であるとしたら、こんなところで戦っている場合でなかった。
しかし、オータムがここに来た理由はシュヴァルツェ・ハーゼの足止めであり、元々勝てないことは知っていた。ここまで一方的な展開になると、亡国機業の人間は誰も想定していなかっただろう。勝機があると思っていたとしても、結局はイリヤ・ヴェロフのクイーンと言われているくらいで、そう簡単に勝たせてもらえるということ自体が間違いだ。もはやオータムに勝機がないというのに、シュヴァルツェ・ハーゼはいつでも殺せる状態だった。
「オータム、貴様にチャンスを与えると言ったらどうする」
「……どういうことだ」
「私たちは攻撃しないから、スコールの所へ行けばいい」
「どういうつもりだ」
「何、生き残れるチャンスを与えるだけだ。最も、行ったところでジョーカーに殺されるだけだが」
「何か裏がありそうな気がするのに、はいそうですかと頷くとでも?」
「本当に他意はない。それに、信じるかは貴様次第だ」
本当にラウラは他意がなく、スコールと共にジョーカーことエルマ・ベルクもとい、織斑一夏に殺されるかオータムに選ばせるだけだった。ラウラにしてみれば殆ど任務が終えたようなもので、ここでオータムを殺そうがスコールを追いかけさせて一夏に殺させようがどちらでも良かった。最も、攻撃してくるならば、即座にオータムを殺すつもりでいたが。
「さて、どうす――ちっ、こんな時にクラリッサから連絡か? シュヴァルツェ・ハーゼ全員はオータムが妙なことをしたら殺せるようにしておけ」
選択肢の答えを問おうとしたその時、ラウラのプライベートチャネルに突然通信があった。連絡主は待機させていたクラリッサで、いい気分だったのに邪魔されたので、思わず舌打ちしつつも繋げた。
オータムはラウラを仕留めるチャンスと考えたが、ラウラがシュヴァルツェ・ハーゼに指示されたことによって、迂闊に動けなくなっていた。
「なんだクラリッサ。今は任務中だぞ」
『解っています。しかし、今すぐ伝えておく必要がありまして……』
「……なんだ?」
戦闘中なのに連絡してくたということは、何かしらの緊急事態が起こったのだろうと思うが、その割にはクラリッサが冷静に話していた。そのことからしてシュヴァルツェ・ハーゼのことではないと想像できるが、何が起こったのだろうかと思い、クラリッサの言葉を待った。
そして、クラリッサが次に言った内容は、衝撃的な出来事だった――
『……フランス国内にある全ての空港及び全ての港にて、爆破事件が発生したという連絡が、ドイツからありました。おそらくテロかと――』
「なっ!? ドイツ軍がフランスに居る間に、テロ事件だとっ!?」
『はい』
あまりにも衝撃的過ぎてラウラは周りのことを気にせずに驚いていた。
フランスと言えば、ドイツ軍が亡国機業本部があるとされている場所に襲撃を行っていた筈だ。まるでそれを予測したかのような爆破事件であり、またこの事件はフランスとドイツの双方に大打撃を受けることが既に予測できた。
フランスは自国内で連続テロ事件が起こったとなれば、他国への信頼を失うようなことであり、しかも鉄道以外の他国移動を一斉に麻痺させられたようなものだった。
ドイツに至っては尚更酷い。ドイツはフランスの許可を得てフランス国内にドイツ軍を入れていたという問題がある。そんな最中に爆破事件が起これば、真っ先に疑われるのがドイツだ。そうなれば、必然とフランスからも批判が起こり、フランス以上に他国からの信頼を失いかねない問題だった。
また、このテロ事件が亡国機業によるものだという可能性は低いという件も、ドイツが一番怪しまれてしまう理由だ。今回爆破が起こった場所は空港や港という、他国に行くための交通手段であり、亡国機業がやったとするならば、逃走経路をわざわざ失うような行為にしかならない。逃走後に妨害行為として仕掛けた場合も考えられるが、ドイツもしくはフランスが他国と連携して、行き先で待ち伏せしている動きをしていている場合が考えられ、亡国機業自身の首を絞めるような行為だ。完全に亡国機業によるものだということは捨てきれないが、ドイツによる仕業と一番に考えられてしまう可能性の方が高かった。
「……クラリッサ、今すぐ情報収集を頼む。何が起こっているのか把握できないから調べてくれ」
『そういうと思って、現在本国に問い合わせています。返答に時間が経ってしまうと思いますが』
「解った。情報が解り次第、私に伝えてくれ」
クラリッサからの情報を聴き終えたラウラは、情報を把握したら連絡してくるように伝えて、プライベートチャネルを切った。それからオータムが居た方に視線を向けると、オータムはクラリッサからのプライベートチャネルに通信がある前と変わらずラウラを睨みながら見ていた。少しでも不振な動きがあれば攻撃するように、シュヴァルツェ・ハーゼへ伝えてあったから、身動き取れずにいて、ラウラを睨むしかなかったのだ。
「どうやら、何かアクシデントが起こったようだな」
「……亡国機業本部があるフランスでな。詳しいことは私も解らないが」
「……本部でだと?」
ラウラから言われたことにオータムは疑問に思えた。何が起こったのか知らないが、ラウラ側からしてアクシデントが発生したということは、亡国機業本部の人間が何かしらの策があったという意味で、そのことがオータムにとって不思議だった。
ラウラたちシュヴァルツェ・ハーゼが襲撃前に、亡国機業本部から援護要請をしていたので、人員が足りないから足止めの為にスコールが率いる自分たちを利用しようとしていたと、亡国機業本部の連中は思っていたのだろうとオータムは考えていたので、ラウラから言われた内容は疑問しかなかった。亡国機業本部の人間は、本部を捨てて逃げるだろうと思っていたから――
「私もよく解らん。だが今は貴様と始末することが最優先なのでな」
「……なら、なぜその情報を私に渡した」
「特に意味はないさ。私は知っている情報を全て伝えた訳でないし、ここで伝えたところで何か行動できる状況でないからな」
「……そうだな。正直、本部の事なんかどうでもいいと思っているくらいだ。というか、私やスコールが本部と仲が悪いことを知っていたのか」
「こんな支部に配属されている辺りからして、それくらい想像できる。さて、無駄話もこれくらいにして、最後に遺言だけでも聴こうか」
フランスの情報を早く知りたいラウラだが、今は目の前の任務を遂行する事が最優先だと考え、オータムとの戯言を切り上げた。
状況的には変化していないが、オータムの目的だった時間稼ぎについては予定通り出来ていた。最も、ジョーカーが内部に侵入されていることからして、成功したかと言えないけども。
というより、ラウラもわざとオータムの時間稼ぎに乗ってあげたようなものであり、ラウラ側シュヴァルツェ・ハーゼはいつでも殺そうと思えば殺せた筈だった。しかしラウラは余裕を見せるかのように、オータムと戯言をしていたようなものだった。クラリッサからの通信をしていた際も、シュヴァルツェ・ハーゼに殺しておけと伝えておけば殺すことができたのだから――
「遺言? はっ、そんなものないよ。元々死ぬ覚悟でここに来ているのだからな!!」
「……そうか。ならば死ね」
ラウラが言った刹那、海の中に潜ませていたモイヒェルメルダーがオータムに向けて放った。しかしオータムは放たれたというのに、その場から動こうとせずにいたが、直撃しようとした直後、瞬時にラウラを守っていたシュヴァルツェ・ハーゼを通り抜けてラウラの目の前に移動していた。
「なっ!?
「とっておきというのは、こういうときのために隠しておくんだよっ!!」
オータムが
オータムが使用するISらアラクネと言い、第二世代型ISで元々はアメリカが開発した専用機を盗んだものだ。手に持っているドリル型よ武器を使い、ラウラの機体であるフェアリュクト・レーゲンを突き刺すように前に出した。
「くっ!!」
「さっきまでの余裕はどうした!!」
「モイヒェルメルダー以外の全部隊っ!!」
オータムは更なる追撃をしようとするが、オータムが無視したシュヴァルツェ・ハーゼによって妨害される。ラウラはシールドエネルギーは減ったけども、今の内に崩れた体勢を戻した。
「……まさか、シールドエネルギーを減らされるとは」
「けっ、そんなに減ってない癖によう言うよ」
「……気が変わった。貴様は私一人で始末する。全部隊待機だ!!」
ラウラの一言で、ラウラを除いたシュヴァルツェ・ハーゼは全員その場から動かなくなった。待機と言っても、自分に危機が迫った場合は独自行動をするようになっているので、乱入者やオータムが攻撃してきたとしても問題なかった。
「……どういうつもりだ?」
「何、貴様にはクイーンの恐ろしさを教えた方が良さそうなのでな。あんな不意打ちで勝てるほど、クイーンは甘くないということを!!」
「そんなの――っ!?」
オータムは否定しようとしたが、直ぐにアラクネの様子がおかしいことに気づいた。
オータムの指示が何一つ反応しなくなったのだ。動かなくなったことから、すぐに原因が解り、ラウラを睨みつけた。
「……AICか」
「残念だが違う。さらに言えば、AICの発展型でもない。
「聴いた限りだとAICの発展型だろっ!!」
「使い方についてはそうだな。たが、AICはPICを参考にしているが、これはこの機体の
「なんだよそれ、勝ち目なんてないじゃないか」
ICの説明を聴かされたオータムは、自分がただの的になっていると気づいた。指示、命令をオータムから受けつけなくなっていて、AICみたいに集中できないようにすれば解放されるわけでもなければ、一方的にラウラから攻撃を受ける大きな的でしかなかった。
「ではさらばだ」
そしてラウラは、オータムに向けてビーム砲を放った――