IS〔インフィニット・ストラトス〕 〜買われた少女の物語〜 作:アリヤ
「織斑先生。これがクラス対抗戦で起きた一件を纏めた報告書です」
「山田先生ありがとう」
「いえ、私もその報告書を詳しく読んでいないのですが、一体何が起こったのですか?」
「私も解らん。解る事と言えば、正体不明のISがアリーナに近付いてきていることが自爆する前に反応があったことくらいだ」
織斑千冬は先ほど起きた一件について検証が終えたのを聴いて、山田真耶に資料を持ってくるようにと頼んでもらっていた。
千冬は自爆と言っていたが、実際そうではないという事を千冬も真耶も解っていた。何かによってISの機体が溶けた形跡があり、暴発して溶けたわけではないという事は状況から見て把握していた。幾つかの言い方があると解りにくいこともあり、原因が解るまでは正体不明のISが自爆したという言い方で統一するように教師の間で決め、資料を読んでいない千冬は今もそのような言い方をしていた。
千冬は真耶から資料を渡してもらい、内容を確認する。数分後、全部目を通した千冬は資料を真耶に返した。
「……そういう事か。まったく、あいつがタイミングを計ったのか?」
「……どんなことが書かれてあったのですか?」
「正体不明のISが自爆したのかということは判明した。タイミングが重なってあのようなことになったと言っていいだろう」
「タイミングが重なったというのはどういう……?」
「正体不明のISの機体が溶けていたのは、本来春十に当たるはずだった銃弾が原因だ。その銃弾には機体を溶かすような細工が施されていたようで、もし正体不明のISが来なければ鋼螺に当たり、春十も亡くなっていただろう。実際、鋼螺にもほんの一部だけ機体が溶けていた部分があったという報告は既に受けている」
「っていうことは、その銃弾を放った人間は織斑君を暗殺しようとしていたということですか!?」
「そういうことになるな。このことは私から織斑に伝えておく。想像していた事態より遥に超えていたようだからな」
千冬や真耶が想定していたのは正体不明のISを破壊するために用意されたものだと最初は考えていた。しかし、銃弾が落ちていた方向は丁度正体不明のISと春十のISである鋼螺が一直線上にあり、そのことからして正体不明のISを狙ったわけではなくて鋼螺を狙った可能性の方が高いと、報告書には書かれてあった。
そして、機体を溶かす液体は人間も溶かすことが可能だということも報告書には書かれてあった。それらのことからして銃弾が春十を狙っていた可能性が高く、それを防ぐかのように正体不明のISが乱入してきたように思えた。
「……織斑先生は何も思わないのですが?」
「なんのことだ?」
「弟が暗殺されようとしたのですよ!! なのに、いつも通りの表情でいられるのって私にはおかしいと思うのですが……」
「そのことか。どちらかといえば、今の私は怒りというよりも内心安心している気持ちの方が強い」
「暗殺が未遂で済んだからですか?」
「だろうな」
春十が生きているだけで、千冬にとっては怒りよりも安堵する気持ちの方が強かった。今まで千冬は――いや織斑の家族は過去に何人もの人間を行方不明となっていたからだ。
最初は両親。突然姿をくらまし、子供だけを残して居なくなってしまい、捨てられた。このことについて千冬は、最初両親を恨んだことも過去にあったが、現在では普通に生活することはできているため、さほど気にしなくなった。
次に行方不明となったのは妹の織斑マドカ。春十よりも年下で一番の年下であったが、突如居なくなってしまった。もちろんこれはニュースになるほどであったが結局進展せず、何処にいるか今でも解らない。
そして三人目は春十の双子の兄である織斑一夏。第2回モンド・グロッソの時に春十と共に誘拐され、春十はドイツからの情報により救出することが出来た。しかし一夏の情報は何一つ出ず、マドカと同じように何処にいるか今でも解らない。
これらの事から、千冬は春十まで失いたくないという気持ちが強かった。しかも行方不明ならまだ生きている可能性があるのに、暗殺なんかされたら千冬の心が持つかどうかも解らなかった。今でもマドカと一夏を行方不明になっていて心が弱くなっているのに、追い打ちをかけるようなものだった。だからこそ千冬は怒りという気持ちが余りなく、安心した気持ちの方が強かった。
「だが、まだ解決したわけではないから、気をつけなければならないのだが」
「そうですね。次にどんなふうに仕掛けてくるのか」
「多分、向こうも想定外だったのだろう。もし外れていたとしても、爆発しないように施されていただろうと考えられる。しかし、思わぬ介入が入ったことによって正体は知られていないが、周知に知らしめることとなった。迂闊に暗殺することは難しいだろう」
「このままで終わるような気がしませんからね」
「何も起こらないと良いが……という事にはならないだろうな」
一体これから先何が起こるのだろうかと思いながらも、千冬と真耶は出来るだけ被害を弱めるように努力し、生徒が安全に生活できるようにしようと思うのだった――
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『それで、状況としては最悪だと』
「申し訳ございません。まさか、あそこで篠ノ之束がISを使って妨害してくるとは……」
IS学園からなんとか拠点へと戻ってきた一夏は、すぐにイリア・ヴェロフに連絡し、失敗したことを結果報告することにした。
一夏にとって、束の妨害は想定していなかったことだった。見ていたとしても様子を確認するだけだと考え、妨害してきたとしてもハッキングなどをして中止させるなどをしてくるなどと思っていたが、まさかISを使ってまで妨害してくるとは想定していなかった。
束のおかげでIS学園側はセキュリティなどを厳しくなるだろうから潜入する事すら難しくなり、行動し難い状況になっていた。束の介入は想定外であり、ヴェロフからの無茶な命令であったが、失敗したのは一夏である。失敗を良い成果にするためにも、いち早くヴェロフからの命令を確認したかったのだ。
『まぁ、無茶な命令をしているのは分かっていたのだけどな。しかし、あんな派手に暗殺しようとしていたことが気づかれてしまったのは私も想定外だ』
「……それで、次の命令はどうすれば?」
『しばらくは待機としか言いようがないな。本来なら確実に暗殺をする命令をしたいところであったが、あんなことになってしまったからな。F5268には悪いが状況が余りにも悪い』
「っ……わかりました」
待機と命令された時、一夏は思わず何も持ってなかった左手を強く握りしめていた。無茶だと解っていたのに春十を暗殺するチャンスを一度失い、束の介入があったからというのもあるが次の暗殺のタイミングが悪くなってしまった。そのことが余りにも悔しくて、思わず自分を恨んでしまうほどだった。
『あーそうだ。一つ言い忘れていたことがある』
「……言い忘れた事ですか?」
『あぁ、本来次に命令するはずだった内容に、二名ほどF5268と共に織斑春十の暗殺をするつもりだった。すでにその手配をしてしまったおかげで、後に引き返せなくなってしまった』
「どういうことですか?」
『その二名にはIS学園に通う生徒として潜入してもらう予定だったのだが、IS学園に転入する手続きをすでに終えてしまった。二人には命令内容を織斑春十の情報収集という名目に変更してもらうようにすでに伝えてあるが、F5268と共に作戦を考える様に伝えてある』
「はぁ、その二人とは……?」
『F5268とはかなりの知り合いのはずだ。私の戦力の中でもF5268と同様に一桁の順位を争う人物といえば、分かるだろう?』
「……私の知り合いの中には三人もいるのですが? それに、そんなに織斑春十に対しての戦力を入れてもよろしいのでしょうか?」
『そのうちの二人だ。戦力についてもここ最近なにか大きな事を任せることもないのでな。とにかく、先ほど日本に着いたことの連絡がきたから、そろそろそちらに着くころだと思うが……』
ヴェロフが一夏にそう伝えたその直後、突如インターホンが鳴り響き、その音は電話越しでも僅かに聞こえてくるほどだった。
『どうやら来たようだな。詳しい命令内容についてはその二人から聞いてくれ』
「了解しました」
『それと、一応次の命令は既に決まってある。時期は様子を見て伝えるが、それまでは待機しておくように。F5268は勝手に行動する人間ではないと知っているが、念のため忠告しておく。以上だ』
その言葉を最後に通話が切れ、一夏はすぐに玄関へと向かう。待機と言われたことに納得しているわけではないが、ヴェロフの命令は絶対であり、従わなければならない。しかし、春十を暗殺する機会は沢山あるのだから待機と言われた時に悔しがったが、命令だから仕方ないと思って納得するくらいで済んだ。
「結局、誰が来ることになっているのだか……」
とにかく今は外で待たせている仲間の事を今は考えることにした一夏は玄関に着き、すぐさまドアを開いて二人の仲間を中に招き入れるのだった――
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「あ~あ~ さすがに場所までは見つけられなかったか」
ISの開発者――篠ノ之束は彼女が所持している移動式のラボ、『吾輩は猫である〜名前はまだない〜』にある大きな画面にある少女の画像を表示させていた。
先ほどまで束はIS学園に現れた画面の少女の拠点を上空から探していたが途中で見失い、それから探し回ったけども結局見つかることはなかった。
「それにしても、今まで何も情報がなかったというのに、姿を現すとはね……」
その少女――織斑一夏が女体化した彼女を、束はずっと探していた。
正体不明のISをアリーナに突撃させたのも、一夏が予想していた通り束であり、一夏の目的を阻止するために、わざわざ織斑春十の前に間に合わせる様に投入させた。阻止したことによって一夏が焦り、慌てて拠点としている場所に戻る事を望んでいたが、周囲を気にしながら逃げていたことは束にも解り、結局見失う結果となった。
「ようやく手掛かりを見つけたよ。でもまさか、
そう、束はずっと一夏の手掛かりを探し回っていた。一夏が第2回モンド・グロッソの時に誘拐されたという情報が束に届くのが遅く、届いたときにはすでに一夏の行方が解らなくなっていた。この時の束は同じく誘拐された春十が救出され、一夏が行方不明になったことで春十を憎んだが、それが八つ当たりだという事は解っていた。
束が春十をそこまで興味を持たないのは、ISの価値観が大きく違ったからだ。束がISを作った理由としては宇宙進出が目的で作成したが、春十としては兵器としてのISだと考えていた。春十は束と同じで天才という事もあって、過去には束のIS開発の手伝いをすることもあったが、次第に意見が大きく食い違い、少しずつ春十に興味がなくなってしまった。その変わりなのか解らないが、一夏と会うたびに一夏を可愛がり、一夏に会いに行くためにわざわざ家まで行ったこともあった。
「……イリア・ヴェロフ。武器商人、暗殺、護衛――多種多様な仕事をしている組織――通称、
イリア・ヴェロフの事を束は詳しく知っている。幼馴染だったという事もあり、束がISの開発を始めた時にはかなりの関係者だった。途中から束と千冬の近くから居なくなったので、一夏と春十はイリア・ヴェロフとの面識は一度もなく、一夏がヴェロフに買われた時まで知らなかったくらいだ。ヴェロフが束や千冬と幼馴染だったことを一夏は今でも知らず、買われた一夏からもヴェロフの過去の事を聞くことは一度もなかった。
また、世界が
「しばらくはIS学園を監視しておいた方が良いかな? 暗殺が一度失敗しただけで、諦めるわけがないだろうし」
暗殺するのは時間を置いて実行することになると思うが、監視などでIS学園の近くに居る事になるのは間違いないだろうと思った束は、IS学園周辺の街を中心に捜索することにした。どんな手で来るかなんてさすがの束でも解らないことであるが、対策を練ることくらいは今からでも出来る。最善の対策を今からしておこうと束は考え、すぐに行動することにした。
「いっくん……いやいっちゃん、待っててね。絶対に救って見せるからね!!」
理想世界(ユートピア)……もしかしたら名前変えるかも。