IS〔インフィニット・ストラトス〕 〜買われた少女の物語〜 作:アリヤ
――時は数週間前に遡る。
「……どういうつもりよ? どうして、こんなことを生みの親に対して向けるの!?」
フランス、デュノア社――ISを制作しているフランスの会社であるが、ある一室でとんでもないことが行われていた。
壁に寄りかかりながら地面に座って怯えている女性と、拳銃を向けている高校生くらいの女の子。どうしてこのような光景になっているのかというのも疑問であるが、それ以上に疑問なのは髪や顔が似ているという点だ。
怯えている女性はクラリス・デュノア――デュノア社社長であるラザール・デュノアの妻であり、現在クラリス拳銃を向けているシルヴェーヌ・デュノアの母親でもある。要するに、実の娘が母親に向けて拳銃を突き刺している状態だった。
「……生みの親? 昔、あなたに対して尊敬していたこともあるけど、今は違うわ。あんたはフランスの害でしかないし、唯の邪魔な存在よ」
「生みの親に対してよくそんなことを言えるわね!! 私の身に何かがあったらすぐに駆けつけて捕らえることもできるのよ」
クラリスは社長の妻であり、なにかあったらすぐに連絡が飛ぶようにボディーガードを呼ぶことが出来るスイッチをいつも手に持っている。自分の身が危険だと思ったクラリスはそのスイッチを押して助けを求めようとした。
だが、その助けを求めてスイッチを押している光景を見ていたシルヴェールは、思わず笑みを零していた。その奇妙な笑みにクラリスは自分の娘でありながらも気味が悪く思えた。
「な、なによ……何がおかしいというの!?」
「言っておくけど、そのスイッチを押したところで誰も助けには来ないわ。この命令を下しているのはあなたが嫌っているあの男よ。要するに、あなたはフランス全体から見捨てられたという事を指しているのよ」
「あなたもあいつの手に落ちたというの!! あんな男の為に協力しているなんて、堕ちたものね」
「堕ちたのはあなたよ。男というだけで何も知ろうとしないし、フランスを救ってくれたのはあの男よ? それを未だに認めていないあなたなんか見捨てられて当然よ」
クラリスはISが女性しか使えないという事で偉くなっている女尊男卑の影響を受けている一人だった。男性は自分の道具としか思ってなく、フランスを救ってくれた男性が居なくてもフランスは持ち直せたと思い込んでいる一人だった。
元々フランスはIS開発に置いて、他国では第三世代まで開発が進んでいるというのにもかかわらず、第二世代までしか作ることが出来ないでいた。それを救ってくれたのがある男性で、おかげで他国を追い抜くほどのスピードで成長していった。それを認めていないのが女尊男卑の影響を受けた女性たちで、その中心に居たのがクラリス・デュノアだった。
余談だが、娘であるシルヴェーヌもクラリスが原因で最初は女尊男卑の影響を受けたが、ある事がきっかけによって改心することになった。その改心することになったきっかけについては今は語らないが、いつか語るとしよう。
「くっ、だけど、あのままあの男に頼ってはいずれフランスは崩壊するわ。絶対にね!!」
「そんな戯言なんかどうでもいい。というか、銃を構えながら遺言聞いているのが馬鹿らしくなったから、さっさと死んでね。お母さん」
刹那、シルヴェーヌは生みの親だというのにもかかわらず、躊躇なく拳銃の引き金を引いた。確実に殺すように銃弾が入っている数だけ銃を放ち、その時の表情は無表情だった。悲しむことも怒ることもせず、母親だというのに何か思う事は一つもなかった。
何発も放ったことによってクラリスの服から真っ赤な血の色が染まり始め、動くような気配はなかった。見た限り動けなくなったことを肉眼で確認すると、邪魔だった母親をようやく殺せたことにホッと一息を吐いて、拳銃を片付けてこの部屋を後にしようとした。
「……うわ、派手に銃を撃ったね」
「だれ……ってこの声はシャルロットね。脅かさないでよ」
「ごめんごめん、気付かれないように動いていくことに慣れちゃったからさ」
シルヴェーヌの近くでさっきから声が聞こえてきたが、その本人がシルヴェーヌの近くに突然と現れる。どうやらクラリスとシルヴェーヌが居た位置から丁度死角となっていた部屋の隅に隠れていたようで、そのことにすら気づかなかったシルヴェーヌは自分の警戒心がまだ足りてないなと思った。
そしてその声の張本人――シャルロット・デュノアはシルヴェーヌが殺したクラリスの近くまでより、靴で押しながらまだ生きていないか確認する。
「それで、なんでここにずっといたのよ?」
「今日は元々非番だったし、別に気付かれなければここに居ても良いってヴェロフに言われたから。シルヴェーヌがあの女を殺す様子を僕は見届けたかったし」
「……殺人をしようとしている光景を見届けるって、物騒な事を言っていることに気付いているの? まぁ、私が言えたことじゃないけども」
紛争地帯ならばまだ理解できなくはないが、ここはフランスだ。先進国の一国であるこの国で、高校生くらいの女の子二人がそんな会話をしていること自体、余りにも物騒な事だし、それ以前に彼女たちはデュノア社社長の娘たちだ。シャルロットの場合、ラザールと愛人の間にできた子ではあるが、それだとしても社長の娘達がこんな人殺しを簡単にしていること自体がおかしな光景だった。
「……あ、そうだ。シルヴェーヌに伝えることがあったんだ」
「伝える事? もしかして明日のIS学園への転入について?」
「そうだね。前に言われた通り僕たちはIS学園に転入するんだけど、織斑春十の暗殺は中止だってさ」
「中止? どういうこと?」
シャルロットから言われたことに理解できなかった。元々シャルロットとシルヴェーヌの二人は、もし一夏が暗殺するのを失敗した時にIS学園へと転入し、一夏と共に春十の暗殺を行う予定だった。しかし暗殺をすることを中止となると、何のためにIS学園に転入するのか解らなかった。
「どうやら、篠ノ之束が暗殺の計画を邪魔したらしくてね。おかげで春十を暗殺しようとしたことが大きく知れ渡ることになったらしい。本来なら僕たちの転入を中止する予定だったけど、すでに手続きが終了しちゃったらしく……」
「それじゃあ、私たちは何のためにIS学園に行くのよ?」
「一応、春十の事についてと、IS学園の情報収集をするようにという事らしい。暗殺できないから、一夏も待機という命令がされたようだからね。とりあえず学生ライフを満喫してこいと言ってたよ」
正直デュノア姉妹にとっては簡単すぎる命令だった。久しぶりに聞いたような言葉でもあり、シルヴェーヌにとっては正直やる気がなかった。
手続きが終了したから仕方ないとはいえ、情報収集という休暇を貰ったようなものだからだ。デュノア姉妹はイリア・ヴェロフの部下であり、今回に限らず何度も人を殺めてきた。長期の休暇を頂いたことはありがたいが、逆にそれは何かすることが無くなると同じで、のんびりと生活しているIS学園に通う事すらあまり好んでなかった。
しかしそれだとしても与えられた命令は遂行する――だからシルヴェーヌはシャルロットに命令の詳細について確認することにする。
「近況報告とかはどうするの? 毎度連絡取っていたら怪しまれるでしょうし……」
「それについては最低でも一ヶ月ペースで外出届をだして、一夏が居る拠点場所に行って一夏に報告しろという事らしい。ちなみに最低でも一ヶ月というのは、ずっと一ヶ月で報告するわけではなく、不定期に一夏のところに向かって報告しろという事らしい。外出理由もその度に理由を変える様にとは言っていたけど」
「要するに、なるべく怪しまれないようにという事でしょ? とにかく、当分の間はのんびりできると思って良いのね?」
「そういうことになるね」
「とりあえず了解したわ。とにかくずっとここに居るのも嫌だからここから出ましょ? 死んでいるとはいえ、こいつと一緒に部屋に居るだけで虫唾が走るから」
シャルロットとシルヴェーヌの二人はクラリスの死体があるこの部屋にずっといるのもどうかと思ったので、クラリスの死体をそのまま放置して部屋を後にした――
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「それでは転入生を紹介します!!」
1組の教室は副担任の山田麻耶から突然言われた転入生ということに、一部を除いて騒ぎ始めた。
ついこの前2組に転入生が来たという話で盛り上がり、それからまだ一ヶ月程度しか経過していないのに、またしても転入生が来るという事に大半が驚いていた。続けざまに転入生が来るようなものではないし、転入生が来ることの方が珍しいくらいだ。IS学園というISの為にある学校だからなのかもしれないが、それだとしても一ヶ月で転入生が来る頻度ではないだろう。
しかし、そんな転入生という事に驚いていない人物が数人ほどいた、そのうちの一人である織斑春十は転入生が来るという事すら気にせずに、ここ最近ずっと気になっていたことについて考えていた。
(……教師陣は何も言わなかったが、クラス対抗戦のあれはやはり俺を狙った攻撃だろう。無人機のISが来なければ、確実に殺されていた。しかも、どこが暗殺を仕掛けたのかという情報が全く入らないって、どういうことだ?)
そう、クラス対抗戦の時、春十は自分が殺されそうになったことを知っていた。寸前まで無人機がなく、割り込むような形で暗殺を阻止したのだから、目の前の目撃者である春十から見れば殺されそうになったとすぐに分かっていた。
別に暗殺されそうになったことに怖がっているわけではない。織斑千冬の弟であり、さらには天才児とも言われている春十を欲しがる国は多い。そのため、一々怯えていたらきりがないことであり、過去にも似たようなことは良くあった。
しかし暗殺というよりも、どちらかと言えば織斑春十がどういう人物なのかという事が多くて監視していたようなものであり、今回みたいに大がかりに暗殺をしようと企んだのは今までいなかった。別にそれだけならばさほど気にすることでもないが、いつもなら暗殺や監視してきた国や組織はすぐに割り出せる事が出来る春十にとって、何一つ情報が手に入らなかったことの方が気になっていた。
そんなことが出来る人物は春十の中では篠ノ之束しかいないが、今回の場合、篠ノ之束は春十を守った方だと解っていた。無人機のISを作れる人物なんてISの発案者である束くらいだし、両方とも束の仕業ならばただの自作自演で、わざわざする必要すらない。だからこそ、暗殺を仕掛けた組織は絶対にまた狙ってくるだろうし、なにより春十自身が今までにない以上に危険だと思っていた。
(……そしてもう一つ気になる事と言えば、束の行動が解らない。束とは意見が食い違って仲が悪いほどであり、俺を守るためにわざわざ無人機のISを使ったとは考えられない。そのことを考えれば、束は絶対に俺を暗殺した組織を知っている)
正直、クラス対抗戦での束の行動は春十でも解らなかった。一番考えられるとしたら、春十を暗殺しようとした組織と何らかの関わりがあるということであり、そもそも人間に興味を持たない束がある組織を気にすること自体が春十にとって驚きだった。絶対に何かある――そう踏んでいる春十であるが、その情報を束本人から聞くことが出来ないのが辛かった。それほどまでに束と春十は仲が悪く、一夏が誘拐される以前は一夏を介して話していたくらいで、誘拐されてからは一度も会話したことすらなかった。
言ってしまえば、情報が何一つつかめず、どこかの組織に狙われていると知っている状況だった。いつ狙われるか分からないこの状況であり、おかげでいつも警戒心を強くしていた。
「それでは、入ってきてください!!」
(っと、今は考えているよりも授業に集中するか……って、転入生が来るのか?)
真耶の言葉が聞こえて、授業に集中しようとしたが、春十はようやく転入生が来るという事を知った。それを知った直後に教室のドアが開き、IS学園の制服を着た二人の女子生徒が入ってきた。
「ね、ねぇ、あの二人って――」
「ゆ、夢じゃないんだよね……」
二人の生徒を見て生徒たちはさらに騒ぎ始めた。その間に真耶は黒板に転入生の名前を書いていき、教卓の近くで立ち止まったと同時に名前を書き終えて生徒たちの方へと振り向いた。
「はい、それでは自己紹介をお願いします」
「シャルロット・デュノアです。よろしくお願いします」
「シルヴェーヌ・デュノアよ。よろしくね」
その二人の名前を聞いた瞬間、先ほどまで騒いでいた声が一気に静かとなる。そして数秒後、先ほど騒いでいたよりもはるかに大きく騒ぎ始めた。
「キャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーデュノア姉妹よっ!!」
「あ、あのデュノア姉妹がどうしてIS学園に!?」
「デュノア姉妹が目の前にいるなんて、夢を見ているみたいだわ!!」
「しかも同じクラス!! さらにいえば千冬様が担任で春十君とも同じクラスなんて!!」
女子っていつもこんなに騒ぐものなのか。と、春十は思いつつも教卓の近くにいるデュノア姉妹を見ていた。
シャルロット・デュノアとシルヴェーヌ・デュノア――その名前を知らないものはこの世の中ほとんどいないだろう。フランスにあるデュノア社の娘たちであり、ハリウッド女優かのようにフランスの有名人だ。
デュノア姉妹が有名人になったのかといえば、フランスで行われたタッグでのIS対戦だった。二人はまだ代表候補生という扱いだが、そのコンビネーションはフランスのIS代表コンビを打ち負かしてしまったくらいだ。相手に隙を与えないほどの攻撃を繰り返し、無傷で勝利したというのはフランス内では有名な事で、デュノア姉妹のタッグに勝てる相手はほとんどいないと言われるほどだった。
その後、その情報は世界中へと広がり、あっという間に世界中で有名となった。ちなみに個人戦に関してもフランスの代表に勝てるほどではないが、代表候補生になるほどの実績は残しているくらいだった。
「静かにしろっ!!」
生徒が騒いでいたのを、千冬が一喝して生徒全員を黙らせた。生徒が黙ったのを確認すると、千冬は真耶に話を続けるように言う。
「それでは山田先生」
「あっ、はい。それではお二人は、空いている席が二つあると思いますので、どちらでもいいですから座ってください」
「解りました」
デュノア姉妹はすぐに空いている席を見つけ、それぞれの席に移動した。
そして二人が座ったことを確認すると、SHRにて連絡事項などを説明して千冬と真耶の二人は教室を後にし、生徒達はデュノア姉妹のところへと一気に集まった。
「ねぇねぇ、どうして転入してきたの!?」
「好きなものとかなにかある? 教えてほしいのだけど!!」
「あぁ、フランスの美少女姉妹がIS学園に来るなんて……」
「神様、ありがとうございます!!」
そんな様子を見ていたデュノア姉妹は思わず苦笑いをしてしまう。正直こうなることは転入してくる以前から何となく察していたが、想像以上に質問攻めをされて思わず戸惑ってしまうほどだ。二人はとりあえず一人ずつ質問するようにと言って、一人ずつ受け答えすることにした。
さまざまな声が聞こえている中、春十はそんな様子を見ずにさっさと教室を後にする、最初の授業はISを使った授業な為、急いで出ないと間に合わないからだ。多分今日はデュノア姉妹の質問攻めで遅れてくるだろう生徒もいるだろうが、そんなことどうでもよい春十は更衣室へと向かうのだった。
しかし、春十が教室が出て行く様子を、デュノア姉妹は質問されながらも密かに見ていた。本来、暗殺するためだった対象であり、一夏を貶めたと過言でもない人物。暗殺の対象は消えたとしても、春十の事を調べる必要があり、その命令を遂行するつもりでいた。
そんな春十の様子を見ていながらも、とりあえず今はこの質問攻めをしている生徒達をどうにかしようとデュノア姉妹は思うのだった――
次回は多分、そのまま授業かと。デュノア姉妹のコンビネーション見せるために。