私は孤独だった。
バス事故で早々に両親を喪ってからというもの、親類の助けもなく孤児院で育った。それでいて「王様になりたい」などと言い続ける私に、友達らしい友達など出来ようはずも無かった。
「なるほど、君は王になりたいのだね?」
ウォズと名乗る胡散臭い男は、そう私に話しかけてきた。
「ああ。過去と未来を超越した、永遠の王になりたい」
私は夢に繰り返し見ていた。王にならないと、やがてこの世界は砕かれ、遠からず滅びるのだと。
「ならばこれを使うといい。『ジオウドライバー』。この本にあるとおり、やがて君が時の王となるとき、これは王のための神器に姿を変えるだろう。その時こそ、私は貴方に永遠の忠誠を誓おう」
「これを、どう使えばいい?」
「『仮面ライダージオウ』となり、ライダーの力を集めるのです。この世界は『仮面ライダーの存在』に支えられているが、それ故に不安定だ。他の19人の仮面ライダーを倒し、その力を得たとき、『仮面ライダーが一人になった』この世界は滅びを免れるでしょう」
「ただひとりの……仮面ライダーに……なる……」
それから私は、他の仮面ライダーを狩る長い旅路に身を投じた。
冒険者がいた。ジャーナリストがいた。篤志家がいた。旅人がいた。探偵も、警官もいた。
様々な仮面ライダーがおり、それぞれがそれぞれの正義のために変身していた。だが、私にはそれ以上の大義、『世界の存続』のためにそれらを討った。
きっと彼らに救われた人々は数多くいて、そういう人々から見れば私は悪の親玉のように見えただろう。それでも、そうするしか無かった。
それらを倒し終えた私は、ウォズに尋ねた。
「なあウォズよ、18人しか居ないようだが?」
「いいえ? 19人目は向こうから勝手に来ますよ。――ほら」
突然、虹色の緞帳が空間に現れ、その中からマゼンタ色の仮面ライダーが姿を現した。
「ほう――何だ、この世界は。さっぱり分からない」
マゼンタの男は首を傾げながら言った。
「彼は仮面ライダーディケイド。どの世界にも姿を現すがどの世界にも属さない仮面ライダーです」
男に代わってウォズが説明する。
「つまり、こいつが最後のライダーか」
「そう言うことになるね……この本の範囲では」
※ ※ ※
ディケイドは、強敵だった。何しろ「他18名の仮面ライダー全てに変身できる」のだ。
私がクウガの力を以て殴れば奴はクウガの肉体で受け止める。私がアギトの刃を以て斬りかかれば奴はアギトの素速さで避ける。私が龍騎の炎を振り撒けば奴は龍騎の盾で凌ぐ。
奪った力で戦う限りにおいて全くの五分と五分。ならば、私自身の力で戦うほか無い。
(世界滅亡の夢が予知夢ならば、私には未来を見る力があるはずだ)
【カメンライド・カブト】【クロックアップ】
【ライダータイム・カブト】【クロックアップ】
カブトの超加速を使ってきたディケイドを、やはりカブトの力で迎え撃ち、いなした。
(眼を凝らせ。未来を視て、それを越えろ)
「フン、千日手か。ならばこうするしかあるまい」
ディケイドは携帯端末のようなものを手に持つと、それを触り始めた。
【クウガ! アギト! 龍騎! ファイズ! ブレイド! 響鬼! カブト! 電王! キバ! 】
【ダブル! オーズ! フォーゼ! ウィザード! 鎧武! ゴースト! エグゼイド! ビルド!】
【ネオ・コンプリートフォーム!!】
ディケイドの身体にありとあらゆるライダーの絵姿が貼りついた様子は、まるで遺影のように見えた。
ライダーたちの最強フォームの力を使うネオ・コンプリートフォームは、私の力を上回っていた。電王ライナーフォームの電車斬りを辛うじて電王の力で避け、キバ・エンペラーフォームの剣をキバのキックで受け、吹き飛ばされた。
「どうやら最強フォームの力は得ていないと見えるな……この世界もこれまでか。破壊する」
ディケイドの宣告に、私に代わってウォズが反論した。
「それはどうかな?」
敗色が濃厚になった瞬間……はっきりと見えた。ファイナルアタックライドを発動し、とどめのキックを叩き込むディケイドの姿が。
(分かった未来なら、変えて見せる!)
【ファイナル・アタック・ライド】
ディケイドがカードを構えた瞬間に、私は対処をした。
【ライダータイム・龍騎】【スチールベント】
私の構えた龍騎の剣が鞭のように延び、ディケイドから必殺技に必要なカードを奪い取った。
「……何!?」
「これで、お前の力を幾ばくか奪った。そして! 今こそ私は王になる! 王になって世界を救う!」
ジオウドライバーが白から金色に変貌し、ボディも銀と赤から黒と金に塗り替えられていく。
【宿命の刻!】
「……変身!」
いつの間にか夜空に星が輝いていた。あれが王の宿命の星であろうか。
【最優! 最悪! 最新! 最凶王! オーマ! ジオウ!!】
地がひび割れ、炎が巻き起こり、私は王としてそこに立っていた。
「逢魔時王……必殺撃」
私は即座に高く舞い上がり、ディケイドに蹴りを入れた。
「だいたい分かった……強いな……ジオウ」
変身を解いたディケイド・門矢士は瀕死の状態だった。
「お前の力、全て貰い受ける」
「それで? 俺の力を奪うってことは、世界を破壊する力も持つってことだが、それでどうやってこの世界を守る?」
世界を破壊する力?
「どういうことだ、ウォズ」
「世界の生死与奪を司る、王に相応しい力ではないかね? 今こそ忠誠を誓おう、我が王よ」
ウォズは顔色一つ変えずに跪いた。
「破壊する力など与えてどうする気だと聞いている!」
「さて? 我が王よ、それは貴方が世界を壊したくないなら、単に使わなければ良いだけのこと。もしこの世界を不出来とするならば、その時こそ世界を壊せば宜しい」
「……まあいいさ。お前が王様になるって言うなら、また次か次の次の『俺』が会いに行くこともあるだろうよ」
門矢士が、ディケイドが、現れた時と同じようにオーロラに包まれて消えていく。
「待て!」
慌ててその腕を掴んで力を奪い取ろうとしたが、その全てを奪えたかどうかは、今以て確信は無い。
※ ※ ※
私が唯一のライダー、『王』になったところで、それを知る者は私自身とウォズしか居ない。そう思っていた。
夢で見た通りの滅びが訪れるまでは。
※ ※ ※
その日、突如現れた巨大機械「ダイマジーン」と歩兵「カッシーン」は、ウォズとよく似た扮装をした連中・「クォーツァー」に率いられて、各地で破壊を行っていた。
「茶番は終わりだ。今こそ、お前を倒し、お前の力を簒奪し、この不出来な世界を舗装し直す」
クォーツァーの首領は言った。その傍らにウォズも居た。元々、クォーツァーから遣わされた工作員だったのだという。
「不出来かどうかは貴様の決めることではない」
「これを見てもそう言えるか?……変身!」
【ライダータイム・バールクス!】
そこに現れたのは、私の知らない新たなライダーであった。
「貴様が何者であろうが、私は王だ! この日この時を預言された、生まれながらの王だ! この世界の出来不出来は、私だけが決める!」
こうして私はバールクスと名乗る仮面ライダーと戦い、特に苦戦することもなく勝った。
だが、如何せん私は一人だった。一人ではダイマジーンとカッシーンによる破壊を止めるには人手が余りに足りなかった。それら全てを止めるまでの間に、粗方の文明都市は破壊され、地上の総人口の半数近くが死んだという。
ある意味において、世界は滅んだのだ。
人々はダイマジーンやカッシーンの現れる場所に居る私の存在を知った。私の現れる処でダイマジーンらが破壊を働くのだと誤解した。
斯くして、人々は私を『最低最悪の魔王』と渾名するようになった。
世界は守られた。しかし、『それまでのような文明文化のある世界』という意味であれば、私は世界を守ることは出来なかった。
私は不出来な王だ。『最低最悪』と呼ばれてもやむを得ないと思った。
それでも私は君臨し続けなければならない。ダイマジーンの残機が、ライダーと戦った怪人の残滓が、或いは人々の反乱軍が襲い来るたび、私はそれを一蹴した。
オーマジオウは最早老いることはない。傷つくこともない。それはオーマジオウのスーツが即座に修復するし、不具合な未来は修正できてしまう。
『オーマジオウの存在』が喪われたら、この世界は崩れ落ちる。そのことを今や私だけが知っているのだから。
※ ※ ※
「我が王よ」
数年か数十年かの治世が過ぎ、ある日、懐かしい声を聞いた。ウォズだった。時が流れたというのに、私と同様にこの男にも老いの気配がない。寧ろ、私の若い頃と何ら変わらないようにすら見えた。
「久しいな。お前はクォーツァーと共に滅んだものと思っていたが」
玉座に腰掛けたまま私は答えた。玉座と言っても、そもそも私に付き従う者は何一人居ないのだが。
「さて。クォーツァー自体滅んだと言っていいものやらどうやら」
跪いてウォズは答えた。
「……何だと?」
「王よ、今や貴方はこの世界ただ一人の王にしてライダーだ。では、この世界でないならば? 貴方はかつて未来を視てそれを変えた。今や他の可能性すら見渡すことが出来るのでは?」
考えたこともなかった。眼前のこの世界の有り様が全てだと思っていたのだから。
想像する。私にはきっと『他のオーマジオウ』を探し、見つけ、交信する力があると想像する。
他の有り得たオーマジオウを想像する。独裁者がいた。征服者がいた。圧政者がいた。革命を起こされ倒れた者がいた。
「……大して私と変わらぬな。負けた私も居たようだが。私である以上、当然か」
「そうでしょうか? では、『王に勝った者』にあって、王に無かったものは何でしょうか」
ああ、そうか。
私は突然気付いた。私は一人だった。私は孤独だった。そして、『ゲイツ』と名乗る革命家には、仲間が居た。
もし私に、あのような仲間が居たならば。クォーツァーやカッシーンと戦う手がもっとあったなら。或いはそれ以前からの友が居たならば。最低最悪の未来ではなく、マシな未来を選び取れたのではないか。
「分かったぞ。ウォズよ、レジスタンスに混ざれ」
「……は?」
「レジスタンスに混ざり、力を与え、それらの信用を得て、それを過去の私の仲間にしろ」
「何と! 王は常に私の想像を超える!」
「そして私を越えろ。これは勅命である!」
※ ※ ※
そして私は想像する。
新たな敵と、新たな友を。
友を得て絶望の未来を越える私自身を。
ついカッとなって書いた。今日中にアップロードできればよいと思った。今は反芻している。
※『載記』:紀伝体の史書で、『正当性のない帝王・国家』の記述を特に本紀や列伝、志などと区別するときに使うジャンル名。ここでは「やがて来るべき王者=友のいるジオウ」を正当とする史観から、オーマジオウ(2068)を覇者とみて『載記』を用いた。
※Q:なんで【アーマータイム】じゃなくて【ライダータイム】やねん
A:オーマジオウ(2068)がアーマータイムしないところから逆算すると、オーマジオウになる前のジオウって別にアーマータイムしなかったんじゃねえかなあ、と妄想してわざとそうしてます。他ライダーのアーマーを纏う描写もしてません