俺を喚んだのは過去の俺   作:鬼柱

100 / 135
第二十一節 事実は小説より奇か否か。4/4

 

 

 

 千紫万紅・神便鬼毒。

 

 これが酒呑童子が持つ宝具の名前である。

 平安時代、酒呑童子を退治する為にと持ち出してきたのが神より承りし毒酒、神便鬼毒酒である。酒呑童子は決してこの酒で死にはしなかったが、きっかけになったのには間違いない。確かにこの酒が彼女を殺した。

 己を殺した宝具を使う。人ならば抵抗のあるそれを楽しく、面白おかしく笑いながら使う彼女は正しく鬼。自身の死の原因だったなど関係がない。彼女にとってこれは極上の酒に変わりがなく、最高の玩具と言っても過言ではないだろう。

 彼女の気分次第で極上の酒にも毒酒にも変わるそれは、とぷりとぷりと刀鍛冶の里を覆い尽くさんとする勢いで注がれていく。宝具名を発動した今、それは中身が切れることなく言葉の通りに全てを溶かそうと広がっていた。

 

「ふふ、んふふ」

 

 広がっていく神便鬼毒酒は建物に触れた途端、焼けるような音を出してそれらを溶かしていく。見た目にはただただ建築物が沈んでいるようにしか見えないが、しっかりと地面に建てられていたことから異様な光景だとわかる。

 とぷり、とくとく。酒を注ぐ手を休めない酒呑童子はアハハと嗤った。

 

「逃げや逃げや。さもないとうちがぜぇんぶ酒に変えてしまうさかい」

 

 まぁ。

 

「死にたいんやったら、別やけどなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうしてこうなった。

 抱え込まれながらも顔を覆った俺はため息を吐きたくなったが、グッと堪える。今俺を抱えてる茨木童子は楽しそうなので、そっとしておきたいのだ。いつ動けない俺を狙って不意打ちしてくるかわからない。無駄に此奴の力が強すぎるのがいけない、逃げ出せないんだが。

 いやそれはともかく、眼下に広がる光景から現実逃避したかっただけだ。茨木童子に抱えられて避難した俺は周囲にあった山々の一つの頂上にいた。

 

「(秘境だと思っていたけど、なるほど盆地か。これは見つからないわ)」

 

 周囲を山々に囲まれた場所。入り口は一つしかなく、周りから山の中に何かがあるとはわからない。終始、温泉の湯気で覆われているそこは確かに秘境中の秘境だった。

 にしてもえげつない。

 

「クク、クハハ! 酒呑の宝具で全部酒に変わっていくぞ! 面白い! なぁ黄色い人よ!」

 

 ソウダネー。

 こうして貴方が定期的に此方に話を振るから逃げ出せずにいるんだよ、勘弁してくれ。

 そう心の声は出さずにただコクリと頷く。それだけで嬉しそうに笑う茨木童子に何をどう気に入られたのかがわからない。側から見れば懐かれてるようにも見えるだろう。お前は喰うという発言をしてくれたのにも関わらず、俺が返事する度に顔が明るくなるのはなんなのだろうか。何? 金髪同士仲間意識でも芽生えた? ならその調子で離してくれ、そして逃してくれ。

 現実逃避するようにもう一度里を見てみれば、もうほぼ全ての建築物が溶けて無くなっていた。悲鳴が聞こえないことから鬼殺隊士の犠牲者はいないようだ。途中で鎹鴉達がカァカァ鳴いていたので、きっと逃げるよう早々に支持されたんだろうな。立香の仕業だろうそれに感心しながら、さてと思案する。

 

「(酒呑童子の狙いは禰豆子ちゃんだったはずだ。これじゃ、狙いが里から逃げて居場所なんてわからなくなるはずだけど)」

 

 これを機に逃げ出すというのも手だ。酒呑童子によって更地に変えられてしまうだろう里に留まっている必要はないし、彼女を相手する必要もない。鬼殺隊士達が逃げれてる現状からして、立香や炭治郎達が逃げれてないはずがない。何を考えているのだろう。

 スーッと耳を澄まして音を探る。強化魔術をかければ里中の音を探すことが可能だ。とぷとぷと建物達が酒に溶けていく音と、俺と同じように山に避難している隊士達の嘆くような声が届く。そしてその中に。

 

「(いる、聞こえる。良かった、無事か)」

 

 どうやら立香や炭治郎達、そして善逸は無事らしい。善逸の嘆きの叫び声が聞こえて安心した。いやまぁパスはいつも通りに繋がってるから生きてるのは知ってるけど、声を聞くのと聞かないのでは安心感が違うね。

 ほうと息を吐き、また返事を求めてきた茨木童子に適当に話を合わせてから念話をパスを通じて始める。善逸、と彼の名前を呼べば涙声でクラス名を呼ばれた。

 

〝どこにいんだよ! 俺死ぬかと思ったんだからな! セイバー置いて死ぬつもりないけどさ! あれはない! 本当にない!!〟

 

 どうやら相当参っているようだ。そうだよな、ないよな。下手な攻撃宝具よりも厄介極まりないもんな、あれ。

 

〝山の上に避難してます。善逸こそどこに?〟

 

 何となく方向はわかるけど正確な位置まではわからないので本人にそう確認するけど、当の本人は涙声のままわからないと答えた。駄目じゃん。パスを辿って合流するしかないか。

 

〝セイバー早く帰ってきてぇ、一人じゃ心細いんだよぉ〜〟

 

 ……は? 一人?

 

〝藤丸さんや炭治郎達は? 一緒じゃないのか?〟

〝それが逃げてる途中で逸れちゃってさ〟

 

 何でそんなことに!? でもさっき善逸の近くで炭治郎の声が聞こえた気がしたんだけど気のせいか??

 

〝でも風魔さんと出会って、二人でいる。あっこれじゃ一人って言わないか。でも心細いのには変わりないから! せいばぁ〜〟

 

 炭治郎じゃなくて風魔小太郎かぁー! 声が同じだとややこしいなオイ! よくよく聞いたら炭治郎特有の音してないわ! 早く気づけよ俺! そして立香の音も善逸からそれなりに離れてるわ! 気づけ!

 そんな俺の心情に気づいてない善逸は続きを話し始める。内容は大人な炭治郎、つまりサーヴァントの方の彼らについてだ。

 

〝酒呑童子が来たとき藤丸さんが炭治郎達を行かせたって言ってたけど、俺が聞く限り酒呑童子の近くにいないんだよね。藤丸さんの近くにそれっぽい音があるから多分、同じように避難したんだと思うんだけど〟

 

 最初囮役って聞いてヒヤヒヤしたわなんて呟く善逸の言葉がするりと頭の中を流れていく。頭の中では疑問符がいっぱいだった。

 

「(炭治郎達が囮役……?)」

 

 なるほどつまり、禰豆子ちゃんが狙いだからと俺が告げたからサーヴァントとはいえ同じ存在である彼らを行かせたわけか。その間にどうにかするつもりだったけど、宝具を発動されて避難したと。

 俺にとっては何方も禰豆子ちゃんには変わりないが、相手にとっては生きてる方の禰豆子ちゃん以外はどうでも良いもの。囮役として戦ったとしても、相手は別に律儀に相手する必要はないものだ。なのにトドメを刺すかのように宝具を…………違う。

 

「(違う!! 酒呑童子が宝具を発動させたのは決して面倒になったとか、トドメを刺す為とかそういうのじゃない!!)」

 

 彼女が宝具を発動させたのは炙り出す為(・・・・・)だ!

 サーヴァントが態々囮役を買って出るほどだ、繋がりがあると彼女は見たんだろう。目当てではないサーヴァントを相手にするのは面倒だ。だから相手を倒すのではなく、絶対不可避な宝具を発動させることによってわざと逃げさせる。そうすればそのサーヴァント達はどこに帰るだろうか?

 それは勿論、酒呑童子の宝具から守る為に禰豆子ちゃんや立香の下へと蜻蛉帰り。これを彼女は狙っていたに違いない。

 

「(酒呑童子はアサシンクラス。鬼とはいえ必要最低限の気配遮断スキルは持っているはず! 戦闘系サーヴァントの後を付けるなんてこと、容易いはずだ!!)」

 

 まずい、非常にまずい! 炭治郎達が危ない! 悠々と茨木童子に抱えられてる状況じゃないぞ!! すぐさま霊体化して逃げ出さなくては!

 

「何処へ行くつもりだ? 黄色い人よ」

 

 びくりと身体を揺らす。

 

「焦っているな? 何かまずいことでもあるのか? 吾と戦う以外にやることでも?」

 

 あるに決まってんだろ!

 

「先程から返事は上の空。いくら吾でも堪忍袋の尾が切れるってものだ」

 

 ッ!!

 途轍もなく嫌な予感がして身動ぎをする。突然動き出した俺に驚いて茨木童子が腕の拘束を緩めたところで素早く霊体化した。

 

〝よしっ、これで———〟

 

「鳴女ッ!!!!!」

 

 えっ?

 

 ———べべん!

 

 一歩を踏み出そうとしてその足場が消える。浮遊感と共に見えたのは緑生い茂る木々を隠すように閉まっていく襖のようなもの、そして周りを見れば上下左右どうなっているのかわからないほどの、ごちゃごちゃした和風の建造物。生前の記憶が蘇る。前もこうして落とされた、誘い込まれた。それで、鬼となったアイツを———。

 

〝はっ!? 無限城じゃん!! ここ!!!〟

 

 マジかよ!! どうなってんだ!? いや茨木童子が鳴女の名前を叫んだから多分それで扉が開いたんだと思うけど、何故に無限城!? 最終決戦前にラスボスとエンカウントしたくないんだが!?

 混乱しながらも近くの足場に軽く降り立つ。霊体化しているからか音は出なかったが、代わりに目の前に茨木童子が轟音を立てながら現れる。轟ッと炎が燃え盛った。

 

「クハ、クハハハ!! そこにいるのだろう! 黄色い人よ! ここならば誰も邪魔をしない!! 酒呑の宝具さえ届かん! さぁ、さぁさぁさぁ!!」

 

 ———存分に喰らい合おうぞ!!

 

 そう言っては剣を振り回す茨木童子だが、俺が霊体化している限り攻撃が当たらないのはわかっているのだろうか。決して此方からも攻撃はできないが、相手からのも全て通り抜ける。少し心臓に悪いそれを喰らいながら、どうやって無限城から出ようか考え始めた。

 正直言って不可能と言っていい。無限城は鳴女が血鬼術で作り出した城、破壊も構築も相手の思うがままであり、出入り口は彼女が作り出すしかない。いつかの鼓屋敷のように建物の中に異空間が広がっているわけでもないので、敵にとっては厄介この上ないものだ。

 鬼殺隊がここに来たときは鳴女自身を倒して外に出ることができたが、それをするとなるとまずは目の前の茨木童子を倒さなくてはならない。そして無限城だから他の上弦の鬼とかとエンカウントする場合もある、更には鬼舞辻無惨ともだ……これなんて無理ゲー?

 仕方ない、鳴女を探し出して出入り口を作らせるしかない。方法は脅しになるけど、そう都合良く彼女を見つけられるだろうか。

 

〝やるしかない、よな〟

 

 そう決意を固めているとき、ふと聞き慣れた音がした気がした。

 

「なぁんや茨木、面白いこと一人でして。ふふ、暴れ足りんかったん?」

「酒呑!」

 

 えっ、酒呑童子!?

 思わず声が聞こえた方向を見る。いつの間にか現れた大江山の食客は、茨木童子に親しげに話しかけている。帰って来たのか、ここが無限城だから鬼舞辻のサーヴァントな彼女が来てもおかしくはないが……最っ悪なことが起きてしまった。

 

「違うのだ。黄色い人をここに誘い込んだは良いが霊体化されてしまってな、困っていたところだ」

「黄色い人……あぁ、あのサーヴァント。なら近くにおるんとちゃう? ここを闇雲に逃げ出してもええことないし」

 

 それにと酒呑童子が持ち上げたのは市松模様の羽織を着た子供。箱を背負っていること、そこから息遣いが聞こえてくることから彼女も一緒らしい。一所懸命に威嚇している彼を見ながら、刀は酒呑童子がもう片方の手で持っているのできっと抵抗もできなかったのだと悟る。キッと赫灼の瞳が細められた。

 

「離せッ!!」

「離さへんて。あんたはんには小僧に会うてもらわんとなぁ。でないと、うちがあの里に行った意味がなくなるさかい」

「知らん! 離してくれ!!」

 

 格上を相手にあそこまで怒れるものだ。本来なら首と胴体が泣き別れになっても仕方ないのに、酒呑童子が命令を遂行しているからその一命を取り留めてる。けどそうしてないと恐怖で縮こまってしまうのは目に見えていた。

 グッと吐きたい息を殺して、代わりに頭を抱えた。

 

〝炭治郎捕まっちゃってんじゃん……〟

 

 絶体絶命のピンチなんですけど……!!

 

 

 

 

 

 




祝!(色々含めて)100話!
ここまで来ると終わりが見え……見え??

自粛要請が伸びた今、もう一度書溜めチャレンジに挑戦します。
では一ヶ月後、6月8日に。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。