俺を喚んだのは過去の俺   作:鬼柱

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第二十二節 龍神達の乱舞。1/5

 

 

 

 

 時は少し遡り。

 酒呑童子が宝具を発動させ里中を酒へと変えた頃、藤丸立香率いる炭治郎達サーヴァント組は幼い炭治郎と伊之助と合流していた。触れれば即座に溶け酒に変わる酒呑童子の宝具を避ける為に逃げていた彼らは、途中で比較的大きな瓦礫が倒れてきたりして善逸と逸れたところでサーヴァントな炭治郎達と偶々出会ったのだ。

 見た目は己なのと、立香が信頼する人であることでホッとした彼らは近くの山へと避難した。そこには様々な鬼殺隊士達がいて、中には恋柱と霞柱もいた。片方は重症なのか隠に抱えられていたが、鬼殺隊最高戦力の二人がしっかりと逃げていてくれて安心する。一応ひと段落だと息を吐いた立香は、己のサーヴァントの方を向いた。

 

「まずはお疲れ様。酒呑童子の相手、ありがとね」

 

 そう礼を述べられたが、炭治郎はゆるりと頭を振る。

 

「いや礼を言われる程のことをしていない。酒呑童子は倒せてないし、囮だとバレてしまったし、挙げ句の果てには宝具も発動させてしまった。すまない」

「いやいや、少しだけでも引き付けてくれただけで有難いよ。俺も上手く騙せるとは思ってなかったから」

「それって」

「あっいや! 炭治郎を信用してないわけじゃないからね!? ただの可能性として考えてただけで!!」

「いやわかってる。ただ、マスターなんだなって」

「はは、なにそれ」

 

 炭治郎にとっては任務を請け負ったのにしっかりと完遂できなかったことに責任を感じているが、立香の成功できない場合のことを考えていたと言う言葉に少し肩の荷が降りる。いつもならできなかった時点で終わってしまうことが多いので、挽回できるのなら有難い。

 ともかくだ、これからどうしようかと話し合う。

 

「他の人達がいる時点で引くにも引けないし、逃げるにしても俺たちが殿を務めなきゃいけない」

「けどそうしないと殆どの人が死ぬことになるぞ。酒呑童子の思惑はよくわからないが」

「そうだよねぇ……」

 

 ふむと立香は思案する。宝具を発動させるのにはそれなりに魔力がいる。今の酒呑童子の様に里丸ごと呑み込むとなれば、聖杯の魔力を引っ張り出しているに違いない。それだけのことをして宝具を発動させる意味がわからなかった。

 どうして、と思っていると隣にいたサーヴァントの伊之助がガハハハ! と笑い声をあげる。

 

「あの鬼と戦えんなら、かえって好都合だぜ! 子分四号(マスター)! 俺に行かせろ!」

「テメェが行くんなら俺も行くぜ!!」

「テメェは引っ込んでろ! 弱ェんだからな!!」

「はぁん!?!?」

 

 伊之助の言葉に幼い伊之助が便乗するが、言い出した伊之助自身に否定される。自分自身が行くのに、自分が行くなと言われる意味がわからないと詰め寄るが、幼い方の炭治郎に腕を掴まれて元の位置に戻される。振り返って彼を睨みつけるが、へにょりと眉を下げては諭すように声を出した。

 

「い、伊之助落ち着いて。大人の伊之助の言ってることは尤もだ。俺たちは弱い」

「テメェもかよ! なんだよ、ならここでジッとしてろってか!? やだぜ? 俺様は。二つ鬼の時も! その前の主のところでも俺たちは見てるだけだったろ!! 悔しくねぇのかよ!」

「それは……」

 

 猪頭を怒りで揺らしながら叫ぶ伊之助の言葉に炭治郎は言葉を濁す。咄嗟には答えられなかった、その通りだと思ってしまったからだ。悔しくないわけがない、何度だって考えた。このままでいいのか、自分が鬼舞辻を討つんじゃなかったのか、この調子じゃ夢のまた夢だぞ。実力的に敵わないと分かっていても心はそう叫んでいた。

 険悪な雰囲気に立香はまぁまぁと馬を宥めるように掌を向けながら微笑んだ。今、そんなこと言っても仕方ないでしょ。

 

「俺から見ればみんな強いからね! まぁ小さい炭治郎達は自分の身を案じて、特に炭治郎と禰豆子ちゃん。狙われてるんだから」

 

 ね、と笑いかければ、それぞれがあらぬ方向を見ながら頷いた。わかってはいるけど感情が追いついてない感じだ。立香はうーんと頬を人差し指で掻く。

 

「とにかく警戒は怠らないで、酒呑童子が宝具を発動させ終えたら探しに来ると思うから」

「そうやねぇ。警戒はして損はないけど、まぁするのが遅いんとちゃう?」

 

 バッと声がした方を振り返る。はんなりとした声音に誰もが固まり、いつの間にかそこに現れていた酒呑童子に目を見開いた。

 

「ッ!? 離せ!」

「炭治郎!!」

 

 酒呑童子が出現した場所は幼い方の炭治郎の真後ろ。当然そこにいた炭治郎は酒呑童子に捕まり、呼吸の型を繰り出そうとして刀を抜こうとするが酒呑童子に柄を押さえられた。精一杯暴れ、逃れようと踏ん張る。しかしサーヴァントである酒呑童子には全く意味がなく、彼女はただ笑うだけであった。

 

「酒呑童子ッ!!」

「はぁい。んふふ、あんたはんがカルデアのマスターはんやんね? おぼこい顔しとるわぁ、喰べてしまいたいくらい」

「炭治郎を離して」

「あら、聞く耳持たず?」

 

 状況が状況だ、今この瞬間において最優先事項が炭治郎の救出になった今、酒呑童子の言葉を聞く必要は全くない。しかしながら人質を取られている以上、彼女の機嫌も損ねないようにしなくてはならない。

 強気な態度に出てしまったとはいえ、ぐいっと酒呑童子の爪が炭治郎の首に食い込むのを見てしまっては、いかにカルデアのマスターとはいえ見ているだけしかできない。

 

「(酒呑童子から炭治郎を切り離そうとも、距離が開き過ぎてる。此方が動いた瞬間に彼の首は飛んでしまう)」

 

 つまりは詰み。

 酒呑童子にとって炭治郎はおまけ程度にしかならない。彼女の目的は炭治郎が背負う箱の中にいる禰豆子のみ。その兄である炭治郎は結局のところ死んでいても生きていてもどっちでも良いのだ。

 それを立香は理解しているからこそ、下手に動けない。彼には例え、人であってもサーヴァントであっても死なせることができないのだから。彼の性質上、許せる事柄ではない。

 

「離さんよ。離したら、あんたはんらがうちを倒しに来はるんとちゃう? そんな怖いこと、したくないわぁ」

 

 思ってもないことを。

 

「ふふ、堪忍な? うちも仕事や、いくらでも恨んでくれてかまへん。うちかて鬼、そぉいうのは慣れとるんよ?」

 

 つまり別に何とも思わないと、そう言っているのだろう。酒呑童子という鬼は自身に向けられる感情全てを楽しんでいる節がある。唯一嫌っているのがあの源頼光であるけれど、それでさえ自身の楽しみを奪ってくる存在だからというだけしかない。それ以外は彼女にとって愉しいモノなのだ。

 それをよく知っている立香は拳を強く握る。今は駄目だ、彼女が油断したときが勝負。念話で酒呑童子が撤退する瞬間を狙うよう指示しながらも視線はずっと彼女に縫いとめたままだ。その情熱的な視線にんふふと酒呑童子は笑う。

 

「いいわぁ、好きやわぁ。状況からしてあんたはんらの負け、そう決まっとんのに諦めてない。ふふ、悪あがきは好きやよ? 楽しませてくれるさかい。でもそういうことじゃなさそうやねぇ」

 

 でもまぁ。

 

「希望なんて与えんよ。鳴女」

 

 べべんと琵琶の音が鳴った。その音を知っている者は即座に酒呑童子に向かい、その音を知らない者は何事かと目を白黒させる。

 そうして二種類の反応を楽しんだ酒呑童子はにんまりと笑って少し後ろに下がる。そこにはいつの間にか障子が現れており、その向こうは暗い廊下へと繋がっていた。山の中にない光景に立香は無限城の話を思い出し。

 

「半次郎ッ!!」

「手を伸ばせ!!」

 

 いち早く動けていた大人の方の炭治郎と伊之助は捕われている炭治郎に向かって手を伸ばす。

 けれど。

 

「ほな、またね」

 

 それより前に障子の中に彼らは入っていき、パタンと無慈悲に空間が隔てられた。

 

「ぁっ」

 

 誰もが言葉を失っていた。炭治郎と禰豆子はこの特異点での明らかなキーパーソン、それが奪われたということはカルデア側の鬼殺隊側の敗北を意味する。

 けどそれ以上に彼らは。

 

「ぁ゛ぁあっあああああ!!」

 

 障子が閉じられる瞬間に見た、まるで安心させるように微笑んだ炭治郎が脳裏に張り付いて離れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は戻り、無限城。

 

〝ワッツ、何故に炭治郎いんの?? マジでふざけんな? いや何故ってワッツじゃなくてホワイ、とかどうでも良いんですぅ!!〟

 

 どうせこの先言語に不自由することないのでー! そんなことよりも目の前の状況をどうにかしようか、現実逃避してないでさ。

 自分で自分を責めながら、炭治郎と酒呑童子、それから茨木童子を見る。さっきまで彼女は俺と戦うことに執着していたが、酒呑童子が来たことによって頭からふっとんだのか何にも話すことも攻撃することもなく、ニコニコと彼女と話している。いいぞー、そのままでいてくれ。そのうちにどうにか炭治郎を……。

 

〝す、隙がねぇ〜〜!〟

 

 流石大江山の食客。一ミリも隙がない。ただ微笑んで佇んでいるだけの筈なのに、このまま無闇に突っ込んでしまったら俺の首が飛ぶ未来しか見えない。絶対これ一寸でも攻勢に出ようとすれば、死ぬ幻覚が見えるやつだよ。圧倒的強者に出会った弱者みたいな感じだわ。

 まぁ俺は弱いけどね? この二人相手にどうこうできるほど強くねぇけどね? どうにかして炭治郎と禰豆子ちゃんだけは逃がさないと。このまま鬼舞辻に引き渡されて、彼奴が太陽でも死なない身体になってしまえば鬼殺隊は為す術がなくなるし、そもそも炭治郎と禰豆子ちゃんが死ぬところは見たくはない。

 

 ———べべん!

 

 新たな琵琶の音。そして新たな気配と音。

 はっと息を吐き、血の気が引きながらも音がした方向を見る。そこには一人の男性が立っており、お洒落なスーツを着た男は確かに生前に見た彼奴と同じ顔立ちをしていた。

 緩くウェーブがかかった髪に、切れ長の目。瞳は赤く光り、中の瞳孔は縦に割れていた。鬼特有の目をしている其奴はゆらりと酒呑童子と茨木童子を見る。

 

「帰ってきたか」

 

 発せられた声は確かに聞き覚えのある声で、ここまで来ると確信してしまう。彼奴は鬼の首魁である鬼舞辻無惨だ。思わず炭治郎の方を見ると、やはりそうであるのか強い怒りの音と憎悪に溢れる表情にやっぱりと呟いた。

 俺はこう白髪な彼奴しか見てないから、人間の姿形をした鬼舞辻はあんな感じだったらしい。いや元人間だから、元はあの姿なのだろうな。何がどうしてあの白髪になったんだっけ? 思い出せない。

 

「鬼舞辻ッ、無惨……!」

「久しいな、竈門炭治郎」

 

 噛みつく勢いで吠える炭治郎に対して冷静な鬼舞辻無惨はその赤い瞳を細める。カツカツと革靴が床板と打ち合う音を立てながら、鬼舞辻は炭治郎に近づいた。

 

「ご苦労だったな、酒呑童子」

「んふふ、うちにかかればこんなんお茶の子さいさいや。やからね、小僧。小僧の言われた通りちゃぁんと連れてきたさかい、約束は守りぃよ?」

「わかっている。用意してあるから行け」

 

 鬼舞辻の回答を聞いた酒呑童子はそれはもう嬉しそうににんまりと笑って、そりゃええわぁと炭治郎を離した。刀も彼に返して、踵を翻す。漸く拘束から放たれた炭治郎だが、目の前に仇がいる以上逃げ出そうとはしない。そもそも逃げ出しても逃れる事はできないのだが、その場に止まってくれるなら俺にとっては好都合。少しだけだけど守り易くなる。

 

「さぁて、帰って酒盛りと行こか。茨木、帰るで?」

「しかし酒呑! 黄色い人が」

「ええのええの、放っておき。その方がおもろいからね」

〝ッ!?〟

 

 一瞬だけこっちを見た気がした。細められた瞳は確かに愉悦に満ちていて、身体が硬直してしまう。偶然か? ……いや、いやいや酒呑童子に限ってそんな事はない。つまり俺がここにいることを知っている。

 

〝知っていて放置。しかも鬼舞辻にそのことを言わない〟

 

 何を考えているのだろうか。いくら人の身である俺には鬼である彼女の考えなど一生読み取れないだろうけど、それでも気になって仕方なかった。

 琵琶の音がまた鳴り消えていった彼女たちのやり取りを不審に思いながらも、鬼舞辻は炭治郎の方に向き直る。既に体勢を立て直した彼は腰に差していた刀を抜き放ち、鬼舞辻に向けている。一応刀を向けられているのにも関わらず鬼舞辻の表情が変化しないのは、単に彼奴にとって炭治郎は脅威ではないということを指している。実際その通りなので仕方ないけど、彼我の実力差がはっきりしておきながら引けないのは鬼殺隊故か、この状況故か、それとも炭治郎故か。

 はぁと息を吐き意識を切り替える。

 

「何の用だ、鬼舞辻無惨。前に会った時は俺を無視し逃げ出し、剰え自分ではやらずお前の部下に俺を殺すよう命じたくせに! 今更、自ら俺を殺しに来たのか!? 簡単には死なないからな! 必ずお前の頸に一太刀でも浴びさせてやる!!」

 

 炭治郎は怯む事なく吠え続ける。あそこまで感情をあらわにする炭治郎は久しぶりに見た気がする。彼奴、よっぽどのことじゃないと怒らないから、生前では聖人か何かでは? と隊士達に囁かれていたんだよな。俺もそう思ってた。

 そんな炭治郎に鬼舞辻はため息を吐いて、軽蔑の視線を送る。聞こえてくる音は呆れの音だ。

 

「今の貴様では私の頸に刃を届かせることなどできん。貴様が刀を振るった時には私は貴様を殺している。それだけの力の差があるのだ、何故わからん?」

「わかってはいる! 俺は弱い!! お前に負けるだろう。けど、理解(それ)感情(これ)とは別だ! 俺はお前を倒すと決めた!」

「はぁ……理解できん。これだから異常者は。もう良い、妹を渡せ。そうしたならば殺さないでおいてやる」

「ッ!! 渡すわけがないだろうッ!!!!」

 

 そりゃそうだ、禰豆子ちゃんは炭治郎の命より大事なもの。渡せば命だけは取らないでおいてやるなんて脅し文句、こと炭治郎にだけは効かない。

 ある程度そう返事をすることを理解していたのだろうか、顔を歪めただけで鬼舞辻は炭治郎を殺す事はしなかった。

 

「そもそも何故禰豆子を狙う!! 確かに禰豆子は可愛いがお前にとっては有象無象の一人だろう! 俺の家族を奪っておきながら!! 禰豆子を鬼にしておきながら! また俺から奪うのか!!」

「……理由を知りたいか?」

「あぁ」

 

 俺も知りたい。

 炭治郎が目を離さず頷いたのを確認した鬼舞辻は琵琶の音と共に現れた椅子に腰掛けて、肘をついた。まるでリラックスした状態のラスボスに困惑する炭治郎だが、それでも構えは解かない。

 ゆっくりと瞬きをした鬼舞辻はまたもやため息を吐く。

 

「良いだろう、説明してやる。面倒だがな、お前にもう逃げ場はない。最後ぐらい話をするのも一興だろう」

 

 そう言い、鬼舞辻は語り始める。

 

「私には鬼舞辻無惨としての記憶が二つある」

 

 ……?

 

 …………ん?

 

 …………………………は?

 

 

 

 

 




「しゅ、酒呑〜! 何故、なにゆえ黄色い人を置いて来たのだ〜! どうせなら一緒に酒盛りをして踊り狂ってから殺し合いをだなぁ〜!」
「あらまぁ茨木、そぉんなに黄色い人気に入ったん? 一応千代女殺しはった男やよ?」
「そんなことどうでも良いのだ! 吾は楽しく面白いことがしたい! 黄色い人とは、ほら、吾と色合いが似ておるだろう? きっと彼奴との戦いは楽しい! 楽しかった!」
「ふーん、うちとの酒盛りは楽しくないん? もう茨木にとってはうちなんてあの子みたいにどうでも良くなったんやね? しくしく、悲しいわぁ」
「そ、そんなことない! 吾にとっては酒呑が一番だ! それが変わることは決してない! ほ、ほんとだからな!? あぁ! 泣くな酒呑ー!!」
「ふふ、茨木はほんまに素直やなぁ。ばぁ、嘘泣きや」
「しゅ、酒呑〜!」
「んふふ、鬼は悲しまへんって何べんも言うたやろ? ちゃぁんと覚えときや?」
「しゅて〜ん!」

本誌終わったー!ワニ先生ー!!お疲れ様でしたー!!!(遅い)
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