俺を喚んだのは過去の俺 作:鬼柱
「テ、メェ……!!」
なぁにが禰豆子ちゃんを渡せば殺さないでおいてやる、だよ!! 人間としての炭治郎は殺す気満々じゃねぇか! ふざけんな!? 勿論禰豆子ちゃんも渡さないけどね!? というかこれ守り通さないと鬼殺隊側へのダメージがでかい!! つまりSAN値ピンチ!
「何を怒る。それの妹が日を克服する可能性があるのならば、その兄が可能性を持ってないはずがない。貴様の言う通り万が一、何も起きなかったとしよう。けれどまだ血の繋がった兄がいるのだから、私の希望は潰えはしない」
「友人をこれから鬼にしますって聞いて怒らないはずがないだろ」
「ハッ、鬼殺隊になった時点で貴様らに拒否権はない。のうのうと生きていようが死んでいようが私には関係ないが、鬼狩りになった時点で別だ。私の前に現れたのなら、鬼になるか死ぬかのどちらかになるしかないのだからな」
「は?」
「影法師となっても鬼狩りを続ける異常者め、貴様の頭は大丈夫か? 何故私に関わろうとする? 何故竈門炭治郎を庇う? 貴様には関係なかろう、例え竈門炭治郎らが鬼になったとしても貴様と貴様のマスターには関係はない。大人しく見守っていろ、私とてサーヴァントの相手なぞ面倒なことしたくないのでな」
「関係ないわけあるかッ!!!!!」
堪らず叫んでしまった。隣にいた炭治郎が俺の突然の大声に驚き耳を押さえているけど知ったことではない、今は自身の中にある怒りで前しか見えていなかった。
「炭治郎は友達だ!!! 俺に初めてできた友人の一人だ!!! 禰豆子ちゃんはそんな炭治郎の大切な子だッ!! そんな二人が俺とマスターに関係がない!? あるね!! 盛大にあるね!!! 俺が俺である限り、マスターがマスターである限り! 友人を見捨てるなんてこと! 絶対に!! あり得ない!!! 天地がひっくり返ってもなァ!!!」
———雷の呼吸
ドンと一歩を踏み出す。吹き抜けになっているこの無限城を駆け抜けて重力に従いながらも鬼舞辻の首を斬るために速度を上げた。
———漆ノ型
魔力放出で重力でのスピードにブーストをかけて、自身の最高最速で奴の首を。
「(刈るッ!!)」
———火雷神ィッ!!!!!
雷鳴が轟く。俺が足をついた場所から雷が迸り、龍が咆哮をあげて無惨に迫った。振り抜いた刀は確実にかの首を捉えていたというのに。
「あらあらまぁまぁ」
後一歩、もう少し、コンマ何秒で死なないかもしれないけどその首を飛ばしていたと言うのに、防がれたッ!
大きく一歩を踏み出し後方へと下がる。そのとき追撃とばかりに一太刀を浴びせられて、黄色い鮮やかな羽織が血で滲んできていた。避けるのを間に合わなかった腕を押さえて呼吸で止血を試みる。空間が隔てられているからか魔力供給での回復は少し厳しい。ある程度治るけれど、それよりも呼吸での止血の方が早い気がした。
いやそれよりもだ。防がれた事実に鳥肌が立つ。今のは漆ノ型だ、真名を解放していなくとも宝具であるそれを軽々しく防いだ目の前のサーヴァントに戦慄した。
というか現実で初めて見ましたけど、すっごいダイナマイトボディで!! ムチっとした身体に沿うように着ている服はきっと生前には着てなかったものだろうけど、身体のラインがはっきりしているからこそわかる。無駄な筋肉なんて一切ない武士の身体だった。
「私と同じ気配を感じると思い来てみれば……少し荒々しかったですけど、良い太刀筋でしたよ? えぇ、私の反撃を咄嗟に避けたのも称賛に値します」
俺よりも少し高い背丈をした艶やかな黒髪を持ったその美人さんはふふと笑いながらこちらを見ていた。一人の将であるのに一目でわかるこの強さにギリリと歯軋りをしたくなった。考えなくともわかる、この圧倒的不利な状況。酒呑童子を相手していた方がまだマシだったのではないかとも思ってしまう。
彼女の真名は源頼光。知る人ぞ知る、平安時代に名を馳せた妖怪退治のスペシャリストである。
「半分、と言ったところでしょうか? 金時と同じですね。金髪なところも似ていますし、今代の鬼狩りたちは優秀なところが……あら?」
彼女は突然くるりと振り返った。隙があり過ぎるように見える背中、一応敵である俺に容易く見せたその背に誘われて刀を動かしてはならない。その瞬間には俺の胴体は泣き別れしているかもしれないから、彼女の思いつきが終わるまで一歩も動くなよ俺!
「つかぬ事をお聞きしますが、マスター」
「……なんだ」
ぶっきらぼうに応えた鬼舞辻に向かってふふっと笑った彼女は、腰に備えていた刀の鯉口を切った。思わず刀を握る手に力が入る。
「あの方が噂の鳴柱ですか……?」
「あぁ、先程そう名乗っていたな」
あらあらまぁまぁ。
「……成る程、貴方が」
「———ッ!?」
キィイン! と金属が擦り合う音がした。予備動作がなかった! でも防いだ!! 良くやった自分と褒め称えたいところだが、それだけで安心してはいけない。続いて来る剣撃全てに刃を沿わせるけど力の差が凄い。じりじりと木の板に付いている脚が後退していっていることから、源頼光の力が凄まじいことがわかるだろう。
同じ人外狩り、同じような背丈、同じ雷神の系譜。似ているからこそ同じ土俵に立っていると思いがちだが、彼女は凡ゆる武器を操れる天賦の才を持った天才、そして俺は居合しかできない非才。元々の土俵が違うのだ。
つまり何が言いたいのかというと今の状況は俺に不利すぎるってことだ!! というか無限城に落とされた時点でずっと不利!!!
今までで一番重い一撃を刀で受け止めれば、身体が少し宙に浮きそのまま後ろへと飛んでしまう。ただ剣を振っただけで成人男性を飛ばすとか意味わからん! と心の中で嘆きながら、空中で魔力放出をして威力を殺し床に脚を着けて摩擦でも勢いを無くす。
感覚からしてある程度離れてしまった! 追撃が来れば対処のしようがない! と顔を上げれば。
「望月千代女をご存知ですか?」
「!!」
いきなりそんな事を聞かれて動揺し、ピクリと肩を揺らしてしまう。それだけで肯定と受け取ったのだろう源頼光は哀しげに長い睫毛を震わせた。バチリと紫色の雷が舞う。
「ご存知なのですね。やはり貴方に討たれていましたか……あの子はただマスターの役に立ちたいという一心で、私達の中で一番真面目でした。下心なぞ全くない子だったからこそ、私も娘のように思っておりましたのに……あぁ」
はらはらと涙を流す。小さな水滴が柔らかな肌を滑り床に染みを作った。美人の涙だからって油断しては駄目だ、そもそも源頼光はなんでもないことでも涙を流す。あぁくそ、敵でなければ直様に涙を拭きにかかっていたものの。今だってちょっと動揺してしまったからな、女好きという自らの性質に嫌気が差す。直す気なんてさらさらないけど!
「しかしあの子とてサーヴァントです。主人に仕え、命を全うしたのならばしっかりと座に還れたでしょう。えぇだからこそ、貴方様を責めているわけではないのです。ただ母として仇が目の前にいる、というのは存外堪えるものでして」
「源頼光よ、戯言はそこら辺にしておけ」
しくしくと泣く源頼光の言葉を遮った鬼舞辻無惨は眉間に皺を寄せながら彼女をジトリと睨んでいた。赤い瞳を隠しもせずに妖しく輝かせ、自身のサーヴァントに向けて圧を掛ける。
しかしそんなものは慣れているのか、涙を零していた彼女はなんてことない様に鬼舞辻の方へと振り返った。
「
「……はぁ。母よ、そろそろ本題に入ってはどうだ? 私は待ちくたびれた。貴女がいるからこそ、こうして私は我慢しているのだぞ?」
「まぁそれはそれは。成長しましたね、マスター。母は嬉しく思いますよ?」
では息子の頑張りを無碍にしてはいけませんね、と彼女はこちらに振り返ってニコリと笑った。流していた涙はいつの間にかどこにもない。嘘泣きというわけでもないだろうに、どうしてそうコロリと表情を変えることができるのか。俺だって流れ出した涙を直ぐに任意には止められないぞ? そんな器用なことができるのなら、もう少し上手く一生を終えている。
「単刀直入に申します。金時を誑かしたのは貴方ですね?」
………………は?
まるで断定するかのような声音にしっかりと言い訳は許さないと言ってるように感じる瞳、そしてその真剣な態度に彼女は本気なのだと悟る。悟ったところで何ができるわけでもないが、これは選択を誤ればデットエンドな未来がやってくる気がしてきた。リトライなんてあるはずがないクソゲーである。
「どういうことですか」
「どういうことも何もそのままの意味です、知っているはずでしょう? 坂田金時、私の息子です」
いや違うと思う。
そうとも言えずに雷を纏って振るわれて来た刀を受け止める。キインと音が鳴ると同時に、俺たちの魔力が周りの部屋や床を焦がしていく。紫色と黄色の光が絡み合って白となり、無限城を明るく照らした。雷神の化身でもある俺たちは平気だが、他はそうでもなかったみたいで鬼舞辻と炭治郎からは呻き声が聞こえ、心の中で炭治郎にだけにごめんと謝る。
「白を切ろうとしても無駄です。知らないはずがないでしょう? 金時が貴方に興味を持っていたのは知っています。えぇ見ていましたから。あの子は真面目です、マスターである無惨を裏切るはずが無い」
「だからって俺が誑かしたって!?」
普段より細くなっているパスから魔力をどうにか持ってきては目の前の彼女の攻撃を去なす。炭治郎の方へと向かわしてしまっては彼は絶命してしまうので、そこも配慮しながら刀を歯を食いしばりながら振るい続ける。
「えぇえぇ! その通りです! そうでないと説明がつきませんから! マスターを裏切ることはこの母を裏切る事になる、息子がそんなことをするはずがありません! あり得ないのです!」
何言ってんだこいつ。
そんな感想がポツリと頭の中に浮かんだ。相変わらずの攻撃の嵐に自然と身体がついていっているからこそ考える余裕があるというものだ。相手も気を抜いているのだろう、俺から聞き出す前に殺してしまってはいけないと手加減しているのかもしれない。そのままでいてくれ、俺は弱いから貴女が本気を出せばすぐに殺されてしまう。
「確かに俺は坂田金時と会ったし、こっち側についた」
「やはり!!」
途端に上がる威圧と殺気に負けるものかと、けど!! と声を張り上げた。普段から声を出していて良かったと思う、でもないと紫電が鼓膜を震わす中聞き取れなかっただろうから。
「彼奴は!! 金時は!! 貴女を裏切ってなんかいない!!!!」
「は———ッぐぅッ!!」
やっと一太刀、彼女に入れることができた。肩から心臓に向けての一閃、袈裟斬りと呼ばれるものだけど直前で避けられたからかそこまで深い傷ではない。肩を押さえて鬼舞辻の側まで後退すれば、その傷は瞬く間に治り、剰え裂けた服さえも元通りになってしまった。
聖杯か、と心の中でごちては話を続ける為に口を開いた。警戒は解かずに刀を納める。
「金時は裏切ってないよ。自分の意思でこっちにきた。それに彼奴はこう言ってたんだ、“頼光の大将には悪い”って。これってさ裏切る奴の台詞じゃないよね」
「…………」
「彼奴は貴女を裏切ったんじゃない、鬼舞辻無惨を裏切ったんだ。反りが合わない相手をマスターとして仕えれるほど彼はできた人間じゃないぜ」
坂田金時と鬼舞辻無惨は正反対って言って良いほど本質が合わない。善と悪って言ったらわかりやすいけど、サーヴァントに当てはめたらどっちも善属性っぽいから困る。秩序と混沌に分かれるとは思うが。
坂田金時は在り方がまるでヒーローだ。悪を許さず正義を為す、情に熱い正義漢で女子供の為なら命すら惜しまない。
対して鬼舞辻無惨は自身が絶対正義であり、非情の男。自分さえ生きていれば良い、目的を達成するなら女子供さえ殺してみせる。
傍若無人なのはどちらも同じだが、かと言ってどこまでも並行線なのは確かだ。交わらない相手などと居て何が楽しい、苦痛でしかない。彼が鬼舞辻を裏切るのは必然に思えた。
「(まぁそれも召喚するときにバグったからこそなんだけど)」
神性が多くなければ彼は今になっても鬼舞辻に仕えていただろう。あの男をこちら側に引き込めたのは大きい、戦力としては申し分ないというか太鼓判を押すほどだ。
「……ぃぃえ、いいえ、いいえ! そんなはずがない!! そうであっても! もしそうだとしても! 子が親元を勝手に離れるものですか!! 子は! いつまでも親を敬い支え生きて行くものです!! ならば母である私を置いて行くはずがない!!」
何言ってんだこいつ(本日二回目)
「えぇですからやはり貴方が誑かしたのでしょう。金時と同じく雷神の系譜であり、金髪……しかし所詮誘蛾灯に誘われる羽虫でしかなかったということでしょうか」
何でそうなるのさ?
思考がちょっとぶっ飛んでないか? バーサーカーってみんなこうなの? 伊之助でももう少し意思疎通できるぞ? バーサーカーだけど。
哀しげに伏せた睫毛を源頼光は何もなかったかのように押し上げて、睨んできていた。雰囲気がガラリと変わった。脚に力を入れ、刀を握り込む。いつでも対応できるぞという構えを取れば、彼女はにこりと笑った。
「あらあらまぁまぁ。こんなところに羽虫が一匹。えぇ、えぇ、衛生的に良くありませんから私が塵芥にしてみせましょう」
———宝具限定開放
「私が本気を出せば無限城がどうなるかわかりません。故に真名は伏せますが、精々簡単に死なないでくださいね」
紫電が舞い踊る。
「来たれぃ! 我が四天王達よ!!」
頼光さんの宝具かっこいいんだよなぁ好き。あと胸が盛大に揺r((