俺を喚んだのは過去の俺   作:鬼柱

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第二十二節 龍神達の乱舞。4/5

 

 

 

 

「分身した!?」

 

 炭治郎の驚いた声が聞こえた。そりゃ驚くよな、人が増えるんだから。血鬼術でもないそれは確かに彼女の宝具であり、そして仲間の魂を象ったモノである。

 四天王、それはかつて源頼光に仕えた四人の配下達。坂田金時を含めた四人を従え、彼女は京都を妖怪から守っていた。そんな彼らが使っていたとされる武具達を召喚し、更に自身の分身に持たせて攻撃してくる。厄介だ、厄介すぎる宝具だ。

 真名を解放していないからか威力は落ちているのだろうけど、それでもただの人に向けるにはやり過ぎる宝具であるだろう。流石、神代に生きた武人というところか。出自の時期で言えば無惨と同じなんだけどな……なんだこの差、生まれが人間かそうでないかの違いなんだろうか。

 源頼光の一人が弓を構えた。風を纏い放てば真っ直ぐに突っ込んでくるだろう矢に警戒しようとも、その前に別の頼光が迫ってきた。金時のマサカリを振り下ろさんとするそれを避けて余波である雷を自身の魔力放出で相殺。次は炎を纏った刀剣を持った頼光が来るもんだから同じ様に刀剣に雷を這わせて応戦、けど槍を持った別の頼光が来てはそれの対処に追われて、まだ放たれてなかった矢が胴体に迫った。咄嗟に自身の刀を捨てて両腕で弓矢を掴んだけれど、勢いは殺せずに後方にあった柱へと縫い付けられる。胴体を貫通した感触がして迫り上がってきた血反吐を吐いた。

 いやこれ一人で相手できるようなもんじゃないわ。

 

「セイバーさんッ!」

 

 炭治郎の焦った様な声が聞こえた。ダメダメこっち来んなよ、お前はそこでジッとしてろ、自分の心配をしてろ、他人の、それもサーヴァントである俺の心配なんてするもんじゃない。

 バチバチッと魔力を回して腕を強化する。柱に縫い付けた太い矢を返しが付いてるとか考えずに引き抜く。ブチブチと内臓や筋肉の繊維が切れた音がしたけど無視だ無視。大量に溢れ出た血と共に魔力も出ていきそうになるけど、その前に回復へと回して止血を試みる。シィイイ、深く呼吸をすれば何とかなりそうだ。

 それでも血が邪魔で吐いていると、源頼光がこちらに歩いてきているのがわかった。覚えてる限りだと彼女の宝具は四天王の武器と共に分身を作り出し本体と一緒に攻撃するものなはずなんだけど、何故今回はそうじゃないのだろう。まさか真名を解放してないからとかそんな理由? いやいや彼女自身が攻撃するのに真名云々は関係ないだろう……つまり手加減かクソッタレ。

 

「痛いですか? 痛いですよね? それが母が味わった苦痛です、息子を奪われた母の悲しみです。申し訳ありません、羽虫には理解できないと思いますが知って貰わねば気が済みませんので、こうして手加減した次第で」

 

 やっぱり。

 

「私が上鳴を放てば、貴方は塵芥に還るでしょう。何もできず、何も感じず。それは、それだけは許せない。えぇ、えぇ、親と子を引き離す狼藉者にはちゃんとした罰を与えなくてはいけませんから」

 

 そういう彼女の顔は慈悲深い表情をしていたけれど、一切目は笑ってはいなかった。ちぐはぐな考え方は確かにバーサーカー故だろう、だけどそんな身勝手な理由で殺されたくはない。今、殺されてはいけない。

 弓矢を捨て、刀を手元に戻す。腰に据えて前傾姿勢を取れば、怪訝そうにする音が聞こえてきた。目を瞑って深く深く息を吐けば全身に行き渡るのは酸素、そして魔力。脚を中心に魔力強化、全集中の呼吸を重ね掛け、自身の血で濡れた手で刀が滑りそうになるけど、それ以上に握り込む。

 

 

 ———雷の呼吸 壱ノ型

 

 

「今更何をしようというのですか。いくらサーヴァントとはいえその血の量は致命傷、霊基に傷が入っているはず。そんな状態で動けばどうなるかは貴方はわかっているはずでは」

 

 まぁ確かに入ってんな。でもこんな罅なんてあの時に比べれば全然、苦じゃないんだよ。ましてや、玩具を取られて泣く様な子供の癇癪で付いた傷なんて傷の内に入らない。自分を正当化して相手が悪いだなんて決めつけて相手の言葉を受け付けない奴の気持ちなんてこれっぽっちも響かない。

 これなら彼奴の方がもっともっと技に芯があったし、響いたよ。

 

 

 ———霹靂一閃・神速

 

 

「八連」

 

 ドン! と上鳴が鳴った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すごい……っ」

 

 思わずといった様に呟いた。彼にしてはとても小さな声で紡がれた言葉は背負い箱の中にいる妹に届くこともなく、雷鳴へと掻き消されていく。

 眩く辺りが光ったと思えばもう彼の姿はない。軌跡を残して無限城を縦横無尽に駆け巡れば、消えているのは分身した敵のみ。耳には聞き慣れた剣戟の音が聞こえてくるというのに、目から入ってくる情報は全くと言っていいほどない。それほど彼らの剣の捌きは速く残像すら残らないほどで、けれど確かに斬り合っているのだけはわかる。

 

「(彼らが剣を振るう度に鳴る雷鳴が眩しい! それに心臓にまで音が響いてる! まるで彼ら自体が雷みたいだ!)」

 

 強弓で身体を貫かれたのを見た時は気が気でなかった。思わず叫んだクラス名に彼は安心させる様な笑顔をさせてこちらを向いていた。その笑顔に助けに行こうとしていた身体が止まったが、その時の己の判断は正しかったと炭治郎は考える。

 あの中に入っていくなんて無理にも等しい。寧ろ考えるだけで烏滸がましいにも程がある。邪魔にしかならないのに何故助けに行こうだなんて思えたのか、そう考えてはギリッと歯を食いしばる。

 

「(見ていてばかりだ。でもこれが正しい、鬼舞辻の攻撃に対しても何にしても反応できていない。鬼舞辻の威圧に脚が竦んだ俺がいる! そんな俺が戦ってどうする! 邪魔なだけだ!)」

 

 拳に力が入った。

 ここに来た時は最初は自分だけだと思った。だから勝算がないとわかっていても禰豆子を守る為に、生きて帰れないという不安を拭い去る為に精一杯隙を見せずにいたはずなのに。

 これまでの行動を振り返って思う、何もできない己が歯痒い、悔しい、情けない。

 

「(何よりセイバーさんがいたっていうのを知ってほっとした自分が恥ずかしい……!)」

 

 人間として当然の感情だ。自分より強い人間が味方でいてくれる、戦ってくれる、守ってくれる、何もしなくて良い、ただ怯えて震えてるだけで脅威が去るのだから、ほっとするのは至極当然。しかし鬼殺隊に入った時点で、いやその前に竈門炭治郎という人間の時点で他人に頼ってしまったという事実が重くのしかかる。

 禰豆子を守る為には強い他人に頼るのが最善策、それはわかっている。わかってはいる。なら何故頼ったのがいけなかったのか、長男だから? それもあるかも知れない。

 だが。

 

『炭治郎は友達だ!!!』

 

 それ以上に。

 

『禰豆子ちゃんはそんな炭治郎の大切な子だッ!!』

 

 自分の為に怒ってくれた、歯向かってくれた、戦ってくれている彼の。

 

『俺が俺である限り、マスターがマスターである限り!』

 

 足を他でもない、その友人の炭治郎が引っ張っているということに。

 

『友人を見捨てるなんてこと! 絶対に!! あり得ない!!!』

 

 彼のその甘さを享受していることに腹が立って仕方がなかったからだ。

 どうして。

 

「(俺には力が無いんだろう……)」

 

 あの女性を倒す程じゃない、彼をサポートできるほどの力があれば何かできる幅が広がったんじゃないだろうか。こうしてここで震えて、ただ戦いを眺めて、何もできず一丁前にだけ他人を心配して……全く、何様のつもりだろうか。

 でも、それでもできることなんて、何も……。

 

『なんだよ、ならここでジッとしてろってか!? やだぜ? 俺様は』

 

 ふと伊之助の言葉が過ぎった。

 

『二つ鬼の時も! その前の主のところでも俺たちは見てるだけだったろ!! 悔しくねぇのかよ!』

 

 ふんす! と猪頭の鼻から息を吐き出しては被り物をしていてもわかるほどの怒りを態度と匂いに表しながら言った彼の言葉に、結局炭治郎は返すことはできなかった。伊之助同士の喧嘩を立香が仲裁をしてくれて、そこから直ぐに己は捕まってしまった。

 情けない、と思う。あっさりと捕まってしまった。禰豆子が狙われているとわかっていたのに避難できたからって気が緩んでしまった。後ろの気配に全く気がつかなかったなんて長男なのに情け無さすぎる。抵抗しようともまるでわかっていたかの様に先回りされて手を封じられたし、此処に来る時なんか片腕で抱えられて来てしまった。相手は鬼でありサーヴァントだったから仕方なかったとはいえ、自分よりも一回りも小さな女の子にである。

 そうして連れて来られた出口のない摩訶不思議な建造物の中。目の前では鮮烈な戦いが繰り広げられている。

 

「(悔しくないわけがないよ、伊之助)」

 

 心の中で友人にそう返す。刀の柄を握りしめて眉を寄せる。そう炭治郎も悔しくないわけがないのだ。ただあの時は図星だった為に咄嗟に返せなかっただけで、伊之助の言葉には共感しか湧かなかった。

 ヒュゥウウと息を吸う。常に行っている呼吸を更に強くして酸素が行き渡ったのを確認した。禰豆子を置いてはいけない、だから背負ったままどうにかしてあの女性の気を引く。彼女の気さえ逸れれば、一瞬でも油断すればきっとセイバーさんが優位に立てるから。

 

 ———水の呼吸

 

「(彼女がいる場所と俺がいる場所は距離が離れてる! 道筋を探せ! 距離を詰めろ!)」

 

 ———玖ノ型 水流飛沫・乱!

 

 水の呼吸特有の呼吸音と走った際の着地音で鬼舞辻無惨が炭治郎に気付く。視線の先を辿って己のサーヴァントの邪魔をすると理解した無惨は、直様異形である筋肉の塊でしかない怪物を生み出し阻止しようとする。カパリと口を開き、一般隊士では捉えきれない速度で炭治郎を咥えようとするが、匂いで来ることをわかっていた炭治郎は側にある壁を蹴って身体を回転させた。

 

 ———弐ノ型・改! 横水車!!

 

 そのまま呼吸の型で切断した炭治郎はそれを足場に更に速度を上げる。

 

「(考えろ! 考えろ! 考えろ!! 鬼舞辻に気づかれた! 今のは対処できたけど次はどうか分からないってあぁ! もう来た!!)」

 

 壁の側面を走るのだってずっとできることではない。どうしたって重力が身体にのし掛かってくるのだから、少しでも体勢が崩れれば奈落の底に真っ逆さまだ。途中で渡り廊下やら何やらがあるが、そこに辿り着け無ければ死んでしまう。

 次々と襲い来る肉塊を避ける。壁が突き破られて木片が舞う。正直轟音を立てながら部屋が壊れていっているのであの女性に気づかれないかヒヤヒヤしてしまう。彼女らは自身が奏でる雷鳴に掻き消されて気づいてないようなので今のところ安心だが。

 

「(攻撃に予備動作が一切ない! 触手のようなものだとは思うが分裂までするなんて!)」

 

 常中に加えて更に呼吸をしているおかげで無惨の攻撃を躱せてはいるが、それもいつまで持つか分からない。攻撃してきた肉塊から更に新しいものが生えてきたりして対処が難しい。その間鬼舞辻無惨は一切動いてないのだ、自身の勘と鼻と動体視力を頼りに反射的にどうにかするしかない。しかもその上、源頼光がどう動いているのかも確認しなくてはならない。思いの外重労働、止めてしまいたい気分にもなってくるが、此処で止めてさまったら自身は死んでしまうことになる。禰豆子は人に戻らないまま一生を終える。

 

「(それだけは駄目だ! 弱気になるな! 竈門炭治郎!! 楽になろうとするな!! 集中!)」

 

 ———べべん!

 

「ぐぁッ!?」

 

 壁走りから重力に従って渡り廊下へと飛び移ろうとした炭治郎だったが、突然出てきた壁に押し退けられて反対側まで飛んでいく。風圧で押し潰されてしまいそうだが、このままでは本当に壁と壁に挟まれて潰されてしまう。壁にある取手を足掛かりに飛び出してきた壁の上へと躍り出る。

 突然で驚いたが刀は幸い離してはいない。けど驚いて型が止まってしまった。そもそも玖ノ型はそこまで長く続けるようなものでもないが、今の状況に最適な型はこれ以外にない。走り続けて相手の連続攻撃を去なす、そんなもの拾ノ型でしかできない。しかし足場の悪い此処では拾ノ型は不適切だ……いや。

 

「(いや! いや! 拾ノ型だ! あれは刃を振るうほど強くなる! 普通の型じゃあの女性の気を引けないかもしれない!)」

 

 そこまで考えてからまたべべんと琵琶の音が鳴った。また違う壁が飛び出して来るのを視認した炭治郎は強く地を蹴り飛び跳ねる。そのまま横に刃を振るい水面斬りを放った。近くまで迫っていた無惨の血鬼術のようなものを斬り捨てたのを確認してから降り立つが、また琵琶が鳴り今度は走り出そうとした場所にあった襖が開いて炭治郎を呑み込もうとする。

 

「ッ!(陸ノ型!!)」

 

 ———ねじれ渦ッ!!

 

 重力に従って落ちる前に身体を回転させて少しだけ位置をずらす。力強い風圧も発生し、なんとか襖が開いた端の方へと足が届いた。足がずれて落ちそうになるのをもう片方の脚を素早く出すことによって乗り越え、もう一度走り出した炭治郎はどう拾ノ型をやりながら源頼光の元へまで行こうか考える。

 幸い刃を振るう相手には困っていない。炭治郎を止めようと二体の鬼がそれぞれ血鬼術を放ってくるのだから、あとはこの足場の悪い所で拾ノ型をどう放つのか、足場の良い場所なんてどこにも……。

 

「(足場の悪い……?)」

 

 唐突に閃いた。

 

「(足場が悪いなら自分がそれに合わせれば良い、そういう型はある!)」

 

 先程まで使っていた型は足場の悪い場所を縦横無尽に駆け巡れるようにする歩法。刀は一切使わないが、型の一つとして数えられる。つまり玖ノ型、水流飛沫・乱だ。

 

「(融通の効かない拾ノ型に軽やかな歩法の玖ノ型を加える! 普段より威力は落ちるかも知れないけど、これだ!!)」

 

 まさに正反対の性質。安定した足場で突き進みながら刃を振るう拾ノ型と、まるで岩に当たり跳ね上がる流水のように軽やかなステップを持って移動する玖ノ型。それらを合わせれれば今の状況を打開できるかも知れないと炭治郎は考えた。

 しかしそれは新しい型を生み出すぐらいには難しいものであるのは明白、土壇場でしかも戦闘中に生み出せれるものではない。

 

「(ないっけど! やる!! やるったらやる! 俺は長男だ! 竈門家の長子だ!! ならできる!! お前はできるッ!)」

 

 そう心の中で自身を励ましては背負い箱の中にいる禰豆子にごめんなと謝る。今まで以上に揺れるかも知れないとも付け足せば、彼女は呆れた匂いをさせてきた。

 

「むーん」

 

 今更だ、そう言われた気がして。

 炭治郎はそれもそうだなと笑い、刀の柄を握りしめた。

 

 

 

 

 




頑張れ鬼柱頑張れ!!
俺は今までよくやってきた!!俺はできる奴だ!!
そして今日も!!これからも!!ストックが無くとも!!
俺が挫ける事はぜっ………………ぜ、絶対に無い!!(目逸らし)
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