俺を喚んだのは過去の俺   作:鬼柱

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第二十二節 龍神達の乱舞。5/5

 

 

 

 炭治郎が何かしようとしているのはわかっていた。視界の端に確かに捉えていた彼はいつの間にかどこかへ消えていたから。一瞬焦ったけれど、鬼舞辻が攻撃を仕掛けてそれを躱している彼を見つけて安堵して、それから何をしようとしているのかを考える。目の前の雷神から来る攻撃の嵐を対処しながら炭治郎を気にかける、なんてこと難しいったらありゃしないができないことはない。

 

「(手加減してくれてるのが幸いだな)」

 

 身体に受けた傷によって霊基に入った罅は当然すぐには回復しなかった。寧ろ回復よりも攻撃に魔力と呼吸を使っているから、回復よりも逆に進行していっている。核には届いていないのと、手負いだからと源頼光が手加減してくれてるのが幸いしてこうして動けている。まぁかと言ってずっとこのままっていうわけにもいかない。

 

「(どうにかして見切りを付けて逃げたいんだけどそうもいかないのが)なッ!」

 

 刀を振り上げる。雷鳴と共に弾かれた剣は直様軌道を変えて俺を斬りつけようとして来るが、反応できない速度ではないのでそれも防ぐ。しかし刀剣が纏っていた魔力によって微かな切り傷ができた。俺は金時じゃないので雷神系の攻撃が無効とかそんなものはない。じわじわと増えていく傷に舌打ちを零す。

 さっきからこういうのの繰り返しだ。良い加減うざったく感じて来るけど、宝具でさえ本気ではなかった彼女を俺が押し切れるわけがない。寧ろ少しずつ押されてきていた。

 

「あらあらまぁまぁ」

 

 くすりと頼光公が笑う。人を小馬鹿にしたような笑いだ。勿論そう思っているのだろう、何せ聞こえてくる音と表情が一致している。彼女にとって俺は羽虫だ。ブンブンと顔の周りを飛び回る目障りな羽虫。彼女からしてみればうざい虫であるけれど、それ以上に飛び回るだけで何もできない弱者だと思われている。無力な、大きな存在を煩わせる事しかできない小さな存在。

 

「もう諦めてはどうですか? 貴方は私に敵わない。わかっていたでしょう? 非力な者は強き者に塵芥に還される、それが必然。えぇ貴方には苦しんで貰わないといけませんが、かと言ってか弱き者を一方的に玩ぶのには興味ありません」

 

 じゃぁなんで手加減なんて、とは口に出さない。それを言えば即座に本気を出されて殺されるのは目に見えていた。

 でもまぁ実際彼女の言う通りだ。俺は弱い。他の英霊達に比べれば、なんで俺がって思うほど偉業を成して得ないただの鬼殺隊員だった男だ。なんかの手違いで、勘違いで俺を雷神として神聖視した村人達の戯れで座に昇華されてしまったサーヴァントである。きっと偉人達からすれば、俺なんて英霊でもなんでもないのだろう。普通の魔術師に喚ばれていれば無銘で使えない奴と殺されてたかもしれない。

 

「(でも)」

 

 だからって。

 

「ハッ、誰が」

 

 諦めるのだけはしちゃいけないモノだ、それだけは俺の根幹に関わる。諦めたら試合終了なんて言うけれどほんとその通りなんだなってこの身体になってからは常々思ってたよ。

 だって諦めた時点で俺は、俺でなくなる。じぃちゃんの教えはいつだって正しい。

 

「諦めるもんかよ」

 

 そうニヒルに笑ってみせて、魔力を放出させる。ぶわりと魔力放出による余波と雷鳴が辺りを焦がすけれど、それを脚に集めて思いっきり息を吐いた。小出ししてちゃ駄目だ。相手が舐めてくれているときに思いっきり行って、それで駄目なら次の一手を考える。それでも無理だったら? そりゃそのときに考えるさ。

 

「この魔力量ッ! 貴方まさかッ!!」

 

 頼光公が驚いたように叫ぶけど、はいはい! 気付くのが遅いってーな!

 これが全身全霊! 俺の宝具!

 

 

 

 ———『雷の呼吸 漆ノ型 火雷神(ただひとつのことをきわめぬくもの)』ッ!!!

 

 

 

 鬼に与したアンタにはちぃとばかり、痛いかもな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 無限城は外界とは隔たれた空間だ。空間を弄り、そこにないはずなのに新しい世界を作り出すのは現在の技術では到底不可能。つまり魔術師に言わせてみせれば、魔法だと断言できる程の偉業なのだが、それを血鬼術で成し得た当の鬼はジトリと冷や汗を流しながら目の前の光景を見ながら琵琶を鳴らし続けていた。

 先ほども言った通りここは異空間であり、無限城の建築者である鳴女がいなければ外へと繋がる扉は現れもしない。あの無惨ですら鳴女が本気になれば新しい空間を作り出し閉じ込めることができるほどの強力な血鬼術だ。まぁそんなもの数秒と保たないだろうが。

 

 ———ギュァ゛アア゛アア゛アッ!!

 

 龍が咆哮する。鳴女とは似ても似つかない女のサーヴァントに向かって牙を剥き出しにして突き進む。雷鳴と龍の鳴き声が折り重なって無限城に響き、地震かと勘違いさせるほど揺れる。たまに雷龍から飛び出た小さな雷が木造建築である無限城を焼いていくけれど、鳴女はそんなものは気にならなかった。後で直せば良いことである。

 べべんべべべんといつも鳴らす速度よりも速く琵琶を鳴らす。主人である鬼舞辻無惨は気づいてないのかとちらりと盗み見れば、彼は敵である一人の少年をずっと見ていた。その場から一歩も動いてないが、鳴女の目でも追いかけるのがやっとな速度で攻撃を繰り出しているのを見て、彼女はため息を吐きたくなった。

 何も敵は目の前の二人だけではないのだが、主人は気付いていないようで。仕方ない此方で対処するしかないと鳴女はより一層琵琶の線を弾いた。

 

「あは」

「ッ!!」

 

 突如後ろから聞こえた声に鳴女は振り返る。しっかりと手入れされた黒髪が曲線を描いて舞う。彼女がそうして後方を見ても誰もいなかった。幻聴か? いや、生まれて……鬼になってこの方一度もそんなものは聞いたことも感じたこともない。空間を把握できる鳴女だからこそ、何処かに何かがいるというのもわかっている。しかし姿は見えなかった。

 撥を強く握り、無表情ながらも冷や汗をかいてもう一度前をむき直せば、首筋にヒヤリとしたものが当てがわれる。カチャリと金属が擦れる音がした。

 一体何がッ。

 

「おっと動くんじゃねぇぞ? 少しでも動けば、その頸貰い受ける。嘘じゃねぇからな? これお前らを殺せるようできてるから」

 

 息を飲んだ。それの意味は鬼殺隊士が持っている日輪刀と同じ効力を発揮するということであり、きっと素材が一緒なのだろう。鳴女ら鬼はその素材の在処を突き止められてはいないが、その効力は知っている。突きつけられた突然の死の可能性に彼女は、息を吐くのも忘れてしまう。

 

「い、つから」

「いつからそこにってか? いつからだろうなァ? 何処にでもいて何処にでもいないのが俺らアサシンだからさぁ、答えると思う?」

 

 アサシンというのが鳴女にはわからなかったが、声からして男だろうそいつの言葉は嘘を言っているようには聞こえなかった。声音はどこか馬鹿にしているようにも感じられるが、不思議と彼の言うことは本当のことだと確信できる。

 

「まぁそんなわけでぇ、暫く大人しくしてて欲しいんだわ。お前さんの血鬼術とやらは厄介だからなぁ、未来の仲間をこれ以上邪魔して欲しくないもので」

 

 まぁ一番はマスターの命令だから、なんだけどさ。

 そう呟く男の言葉に鳴女は前髪で隠れている眉をひっそりと顰めた。マスター、そう言ったのか? この後ろにいる男は。もしそうならば彼はサーヴァントという目の前で鬼殺隊士や、それの猛攻を受けている女と同じ存在ということになる。つまりは鳴女に勝てる相手ではない、ということになる。柱ならば会ったことはないが、それ相手ならいくらでもやりようはある。所詮は生身の人間、近づけさせず何処かへ落とせばいい。

 けど、後ろにいるこいつは……そんなことをした瞬間に己の頸を掻っ切るだろう。そうなれば鳴女の命はない。それは困る、鳴女はどうにか死んでしまうのだけは死守しないといけない。彼女が死んでしまえば、当然彼女の力で成り立っていた無限城は消え去り、外に全員放り出されてしまう。サーヴァントや鬼殺隊士は万々歳かも知れないが、鬼側にとってはそうでもない。ましてや時間的に外は朝を迎えて日が昇っているので太陽に焼かれて死んでしまうし、鳴女自身どこに放り出してしまうかわからない。となると、この男の指示に従うしかない。

 

「さぁて鳴女さんとやら」

「!」

 

 名前を!

 

「何で名前知ってんのかって言うのは野暮だぜ。俺は闇の侠客、それぐらいは朝飯前だ」

 

 そーっと男が鳴女のすぐ側に近寄る。黒いカーテンの隙間から見える男の顔は鼻先しか認識できなかったが、それでもすぐ側に敵がいるというのを認識させられて、鳴女の息が浅くなる。ヒ、と男は嘲笑う。

 

「ちょぉっとお願いがあるんだけどさぁ」

 

 もちろん、聞いてくれるよな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雷龍が咆哮を上げる。走り回っていた炭治郎は思わずそちらを見てしまうが、その少し気が緩んだ瞬間を狙って無惨が攻撃を仕掛ける。スン、鼻を吸った彼は予想できたので、それを斬り付けて身体を捻る。すぐ側で怪物が口を開けて木々を食い散らかしたが、炭治郎には擦りもしなかった。その事に息を吐き、もう一度走り出す。

 いつの間にか琵琶の音が聞こえなくなっている。先程までその琵琶の音と無惨の攻撃が入り乱れていたというのに、今は無惨しかいない。大分とはいかずとも楽にはなったが、油断できるものでもないし。

 

「(だからと言って、状況が変わったわけじゃない!!)」

 

 比較的足場が安定した程度であり、琵琶の音という合図がない無惨の攻撃は読み難い。必死に鼻を動かし、隙の糸を探すしかないのだから。

 

「(やれ! やるんだ! 竈門炭治郎! セイバーさんが攻撃を仕掛けた! あの攻撃が止む、直後ならあの女性も隙があるはず! きっと見える!! だからッ)」

 

 だから———ッ!!

 

「スゥウウウウウッ」

 

 ———玖ノ型 水流飛沫・乱!

 

 動かしている脚はそのままに、呼吸もそのままに、刀だけを翻して正面からやってきた肉塊に覚悟を決めて本能の赴くまま、身体を動かしただがむしゃらに刀を滑らした。

 

 ———拾ノ型・改!

 

「ぅ、ぁあ゛ぁああアアアア!!」

 

 ———生生流転(せいせいるてん)・龍舞ッ!!

 

 刹那、一体の水龍の咆哮が無限城に響いた。本当の姿ではないだろうそれは雷龍と共鳴するかの様にに鳴き続け、炭治郎の動きに合わせて無惨の血鬼術を蹴散らしていく。

 

「ッァ゛ア!(痛い痛い痛い!! 無理矢理動かしてるからかわかんないけど!! 痛い!)」

 

 振るう度に刀が重くなる。刀が重くなる度に歩法が乱れそうになる。愚直な拾ノ型と、鋭敏な玖ノ型。本来相反するモノを掛け合わせているのだから、その反動は大きい。

 グッと奥歯を噛み締めて全身に走る痛みに耐える。正直止めてしまいたいぐらい痛い。もう良いじゃないか、充分頑張った。そう奥の奥にある本音はそう叫んでいる……けど!

 

「(ここで止めたら全部終わりだ!!)」

 

 何もかも。十三歳の冬から歩んできた全てが命を散らした瞬間に終わってしまうのだから、例え激痛が走ろうとも、骨が折れようとも、刀が振るえなくなろうとも、歩みを止めるわけにはいかない。竈門炭治郎は決して屈することはないのだから……だから。

 

「(せめてっ!)」

 

 もし終わるのだとしてもこの後だ。これを出し終えた後、炭治郎は動けなくなるだろう。しかし刃を届かせれたならば、倒せることができたならば、それは鬼殺隊にとってもカルデアにとっても大きな一歩。その一歩を、己の命で補えたならば、きっと。

 スンと鼻を動かす。怒り、焦り、覚悟、鬼特有の嫌な匂いと、雷の匂い。様々な匂いが入り乱れる中にあった小さな糸。緩んでいたそれが張り詰めようとしているのが炭治郎には見えた。

 

「(隙の系だッ!)」

 

 それは確実に源頼光に繋がっていて、近くにいた雷龍を従えた彼が相手の肩から胸を斬り裂きながら過ぎ去っていって、彼女が血を吐き出しながらも刀身を振り上げたときだった。まだ円形を描いていた糸が一本の線になって炭治郎の刀を誘導し始めたのは。

 今を逃せばもう隙は生まれない。そう本能的に理解した炭治郎は今までしていた呼吸法を変え、刀を握り締める。一回だけ、無我夢中だったがしたのを記憶に残っている。もう何ヶ月も経ってしまったが、水の呼吸からヒノカミ神楽に転ずる方法をまだ身体はきちんと覚えていた。

 

 

 ———ヒノカミ神楽

 

 

 ゴォオオオという大気が震える様な呼吸音が水龍だった生生流転を生まれ変わらせ始める。水の化身だった彼はいつの間にか焔を身に纏って辺りを一等照らしては、雄叫びを上げた。

 

 

 ———炎舞

 

 

 その焔の輝きによって気がついた頼光は炭治郎の方を驚いた様に見やり、そして迎え撃つ為に体勢を変えるが、もう遅い。

 床板を壊しながら最後の一歩を踏み出す。

 

「なっ!?」

 

 瞬きのうちに頼光の懐に入り込んだ炭治郎は相手が持っていた刀を弾き、そして頸を目掛けて日輪刀を思いっきり振り上げた!

 

 

 ———一閃!!!

 

 

 鮮やかな紅色の焔の中にバチリバチリと稲穂色の稲妻が迸れば、赤黒い雨が辺りに降り注ぎ始めた。

 

 

 

 

 

 

 




円舞と炎舞……ややこし!

本当は四分構成だったんですけど、こっちの方がキリが良いので五分に。

次は19ですかね。
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